新製品レビュー

ハッセルブラッド X1D-50c(外観・機能編)

中判カメラの概念を崩すコンパクトさが魅力

2016年の衝撃といえば、ハッセルブラッドが世界初のミラーレスの中判デジタルカメラを発表したことだろう。ハッセルブラッドと言えば歴史ある中判カメラメーカーで、カメラ好きであれば誰もが知っているスウェーデンのブランド。フィルム時代では6×6cmのフォーマットで有名だ。デジタルになりCFVシリーズおよびHシリーズをメインに生産している。

そのハッセルブラッドから今回、ミラーレスの中判デジタルカメラが発売された。デザイン、コンセプト、製造共に全て本国のスウェーデンであり、ミラーレスカメラという新しいジャンルに対しても妥協を感じさせないこだわりが感じられる。

今までのVシリーズやHシリーズは中判カメラらしい大きさだったが、今回ミラーレスになったとで驚くほとコンパクトになっている点も魅力だ。旅やスナップ、ポートレートなど気軽に持っていける中判デジタルと言って過言ではないだろう。今回はX1D-50cの外観と機能について見ていこう。

デザイン

外観は惚れ惚れするほど繊細で、デザイン性に優れている。スウェーデンの上品でシンプルなデザインはとても好印象だ。ボディーは金属を中心に作られており、堅牢性にも優れ高級感もある。ボタンやモードダイヤルなども金属で本当によくできている。ボディーカラーはシルバーとブラックがベースになっている。

一方、75周年記念モデルのX1D-50c 4116エディションも用意され、こちらはオールブラックでさらに洗練されている。好みに合わせて選択すると良いだろう。

X1D-50c 4116エディション

サイズは“手のひら”とは言わないが、中判デジタルカメラとは思えないほどコンパクトだ。大きさは150×98×71mmと一般的な35mmフルサイズ一眼レフカメラのサイズで、厚みはミラーレスなので一眼レフカメラの半分くらいの印象と思っていただけると想像つきやすいだろう。

従来のハッセルブラッドH5D(上)との比較

シャッターボタンはH6D同様にオレンジ色になっている。ボタン類は最小限だ。タッチパネル式の液晶モニターとEVFを備えている。シンプルなデザインのおかげで撮影に集中できる点もX1D-50cの魅力だ。

深く大きめのグリップに関しては、筆者にはちょどよい形状だった。ラバー素材が採用され、がっちりとホールドすることが可能。Hシリーズもホールド感には優れていたが、個人的にはX1D-50cの方がホールディング性は上々だ。

ボタン類

撮影に必要な機能は上面右側に集中している。電源ボタン、モードダイヤル、ISO/WB、AF/MF切り替えボタン、シャッターボタンと必要最小限。

モードダイヤルは上から押し込むことでダイヤルをポップアップしたり引っ込めたりできるので、不意にモードダイヤルが動くこともない。

ISO/WBは1度押すとISOの設定、2度押すとホワイトバランスを設定できる。AF/MFも1度押すとAF、もう1度押すとMFに切り替わる。

また、AF/MFボタンを長押しするとAFの測距エリアを選択できるようになる。AFポイントの数は35点となっており、画面の大部分をカバーすることができる。

また、ボディ前後にコマンドダイヤルを備えており、シャッタースピードや絞り値の設定、露出補正などが行える。直感的に操作できる点はさすが、ハッセルブラッドクオリティーと言えるだろう。

背面のボタンもミニマム。撮影に関するボタンはAF-LとAF-Dのみ。あとは再生ボタンやメニューボタンなどシンプルなボタンを5つ搭載し、上から、再生ボタン、ソフトボタン(再生時は削除、撮影時はライブビューでの情報表示の切り替え)、セレクトボタン(再生時は1枚表示から9枚のサムネイル表示の切り替え)、ライブビュー時は100%拡大、ソフトボタン(2つ目)は表示画面によって機能が変わる。

それ以外の操作は基本的にタッチパネルなので、画面のメニューなどをタッチして設定が行え、直感的な操作が可能になっている。

撮像素子

撮像素子はCMOSセンサーで、32.9×43.8mmと35mmフルサイズセンサーに比べて大きい。画素数は5,000万画素で、ピクセルピッチは5.3×5.3μmとなっている。撮像素子はマウントのすぐ近くにあり、その大きさに驚かされるだろう。

感度はISO100〜25600の範囲で1EVずつ設定可能だ。

記録できるファイルフォーマットだが、RAWはハッセルブラッド独自の3FR。JPEGは1/4サイズも同時保存可能だ。画像はより正確な色再現や自然なトーンを実現する「ハッセルブラッド ナチュラルカラー ソリューション」(HNCS)によりカラーマネージメントされている。

AFシステム

AFは、AF/MFボタンを約1秒長押しすると液晶モニター上に4×4mmのAFポイントが表示される。画面をタッチするかコマンドダイヤルを回すことで選択できる。AFはAF-Sのみに対応している。MFで撮影する場合もAF/MFボタンを押しMFに切り替える。

シャッターフィーリング

X1D-50cのシャッター機構は、レンズ交換式デジタルカメラで一般的なフォーカルプレーンシャッターを持たず、レンズ内にシャッターを内蔵したレンズシャッター式を採用している。シャッター速度は60分から1/2,000秒だ。レンズシャッターのため、ほとんど振動がないのでブレにくく解像感も今までになく高い。

筆者は一眼レフカメラのH5D-50c Wi-Fiモデルを愛用しているが、ミラーレスになったことで静かになり、振動が全くなくなった印象。ストロボも全速同調できる点もレンズシャッターの特徴だ。

とにかく振動がほとんどないので、風景撮影などを行う方は、シャッターブレを気にせず撮影できる点もメリットと言えるだろう。

EVF

236万ドット(XGA)のEVFを搭載。見た目は少し小さめだが、覗いてみるとしっかりと被写体を確認できる。高精細でピント位置などもしっかりと認識可能だ。動きものを見てみてもタイムラグなどはほとんど感じることはなかった。ストレスなく撮影できるEVFと言えるだろう。

液晶モニター

液晶モニターは3型のTFTタイプを採用。24bitカラーで92万ドットと高精細だ。先述の通りタッチパネルなので、スマートフォン感覚で直感的操作が行える。反応速度もよく視認性、色の再現性も今までのハッセルブラッドのカメラの中では一番と言えるだろう。

レンズ

現在発売されているレンズは「XCD 3,5/30 MM」、「XCD 3,5/45 MM」、「XCD 3,2/90 MM」の3本。それぞれ35mm判換算で24mm相当、35mm相当、71mm相当となっている。いずれのレンズも作りのクオリティーが高く、同時に中判のレンズとは思えないほどコンパクトな点は評価が高い。

今後の展開として「XCD 3,5/120 MM MACRO」が2017年6月の発売予定だ。加えて、発売時期は未定だが「XCD 35-75mm Zoom」や「XCD 65mm」、「XCD 22mm」なども発売される予定になっている。またアダプターを使うことで従来のHC/HCDレンズも使用できる。

XCD 3,5/45 MM
XCD 3,2/90 MM

通信機能

Wi-Fiに対応。Phocus Mobile(フォーカス モバイル)というアプリを使うことでiPhoneやiPadでライブビューや画像のブラウジング、撮影設定の変更ができる。簡単に繋げられる上、レスポンスも良いのでストレスのないWi-Fi撮影が行える。

端子類

端子カバーを開けるとHDMI-MiniとUSB 3.0 Type-C、イヤフォンとマイク端子がある。USB Type-C経由でPCと繋ぎ、Phocusを使うことでテザー撮影などを行える。

記録メディアスロットとバッテリー室

記録メディアはSDカードのデュアルスロット。

バッテリーは7.2 V/3,200mAhの専用バッテリーを採用している。今回の使用では、半日の撮影でおよそ1本消費する印象だった。

同梱のACアダプター(本体充電)

アップデートで機能が向上

2月15日にファームウェアがアップデートされ、さらに機能がブラッシュアップされている。

フォーカスピーキング機能を搭載したほか、標準搭載のGPSが使用可能になった。また、オートISO使用時の上限設定が可能になり、撮影の幅が広がっている。HCレンズアダプターにも対応し、MFのみではあるが使用可能になった。

また、MF時のフォーカスアシスト機能のズーム倍率が50%と100%で切り替えが可能になっている。そして、マニュアルモード時とその他の露出モードの露出シミュレーションを個別に設定できるようになったのもポイントが高い。大型ストロボを使うスタジオ利用なども念頭に置いたセッテイングと言えるだろう。

その他は細かい機能の改善やバグの修正になる。今後のファームアップにも期待したい。

まとめ

今回、X1D-50cの登場により「中判=大きくヘビー」という概念は一気に崩れた印象だ。絵のクオリティーは今まで通りながら機動力を得たので、これまで持って行きづらかった風景や都市スナップの撮影、旅などでも活躍することは間違いない。

中判ならではのボケ感、解像感や立体感、ダイナミックレンジは独特なものがあり体感した人しか理解できないかもしれない。価格も100万円を超える高価なカメラではあるが、間違いなく結果は裏切らないだろう。次回は実写画像をもとに本機の魅力をご紹介していこう。

上田晃司

(うえだこうじ)1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして世界中の街や風景を撮影している。現在は、カメラ誌やWebに寄稿している。
ブログ:http://www.koji-ueda.com/