新製品レビュー
PENTAX KP(実写編)
実用高感度域で高い画質 シーンアナライズオートの制御も秀逸
2017年3月29日 13:18
「全部入り」などという言葉で表したくなるほど、数多くの機能を小さなボディに凝集したPENTAX KP。機能面ではフラッグシップ機であるPENTAX K-1と遜色ないほど。ある意味、商品構成にヒエラルキーが薄いペンタックスだからこそできた製品であると言える。もちろん良い意味でだ。
実写編では様々な機能を紹介するが、今や地味な機能と言える評価測光、つまり露光制御の確かさが使いやすさのベースとなっていることにも注目だ。
高感度
デジタル一眼レフカメラの高感度化は著しいが、KPではISO819200を実現している。すでに常識であるが、最高感度がいかに高くともそれが滑らかな良い画質であるとは限らない。現実に許容できる画質を出せる感度(実用上の最高感度)はもっと低い。画質は撮影者の好みの部分も大きいものだが、テストとして厳しめに見たとしてもKPは好印象であった。
都市夜景で高感度の全てを試して見たが、ISO102400で十分に実用的な画質となった。A4プリントでは不満のない画質である。高感度のノイズ低減はシャープ感とのバーターとなるため、細かな描写は不得意だが、それを特徴として活かすとモノクロやハイキーでの心情表現などに面白い使い方が期待できる。
こちらは月明かりの海を撮影した。超高感度は暗所にも強いと思われがちだが、実はそうではない。超高感度を謳う多くのカメラが得意なのは、明るいところでの超高感度だ。都市夜景やコンサート会場など、十分に光が当たっているが、昼間より暗い場所で早いシャッターを切ることが得意なのだ。
本来、超高感度に期待することは暗い場所でも明るく綺麗に映ることだ。この点、KPは真面目に仕事をしていると思う。
次の作例はISO51200だが、ノイズは相応に多いものの海面と空の暗い部分でも、トーンがあり樹木のシャープ感も失われていない。星景などより高周波の描写が必要な被写体ではISO12800程度で抑えた方が良いだろう。
ダイナミックレンジ
画素サイズが大きいセンサーの方がダイナミックレンジが広いことは常識であるのだが、それは同じ技術レベルでの話だ。新製品の方が新しい技術を使うので、今や画素サイズだけではダイナミックレンジを推し量ることができなくなりつつある。
また、デジタル一眼レフカメラのどの機種も11段以上のダイナミックレンジを確保してきているので、もはやダイナミックレンジを比較すること自体が無意味かも知れない。
作例は極薄い雲のあ晴れの日、午後ではあるが南の空を向いて撮影している。空もとばず、鉄橋の下の暗部も潰れていない。作例は撮ったままのJPEG画像であるが、RAWデータから処理すると空は青空に暗部ははっきりとディテールを見ることができるようになる。
AF性能
KPのAFは、ファインダー視野に対して十分な広さのあるフォーカスエリアと相まって使いやすいものだ。切り替えはオート、シングル、コンテニュアスの3ポジションと一般的だ。
特別に早いAFであるという印象ではない。これはレンズの性能に負うところも大きいのだが、作例のように小さな被写体の時もしっかりとピントを追いかけてくれる。また-3EVまでの暗いところに対応するのも特徴だ。精度とともに使いやすいAFである。
青空を駆け抜けるラジコングライダーをAF.C(コンテニュアスモード)で連写した。ラジコングライダーといっても、翼幅3mの大きなグライダーで条件が揃うと数百km/hもの驚くべき速度が出る。この時も100km/hを超える速度であったので、距離は少しあるものの、かなりの速度で近づいてくる被写体である。
また、面積が小さいこともAFにとって苦しい条件であるが、ほとんどのショットでピントを外すことはなかった。バッファの関係から1連写で8枚となるが、この連写でも全てでピントがあっていた。
リアル・レゾリューション・システム(RRS)
RRSでは、ごく短時間のうちにセンサーを動かし連写した4枚の画像を合成して、センサーのベイヤー配列による欠点を補正しつつ高い解像力を実現できるシステムだ。短時間とはいえ、4枚のカットを合成するので三脚での撮影が必要だ。
まずはRRSを使用しない通常の撮影。ローパスレスらしい、キリッとした解像感であり、満足できる描写だ。
続いてRRSを使用して、同じ位置から撮影した。液晶モニター全画面で表示すると、よりしゃっきりした感じであることがわかるはずだ。物体の明暗比が大きくなるローカルコントラストが向上し、明瞭感が増しているためだ。
等倍で見ると物体の輪郭がはっきりとしていることがわかる。鉄橋のボルトや画面奥のビルの屋上の手すりなどが見所だ。さらに拡大すると画像がドット絵で構成されているような描写になる。これはRSSの欠点ともいえるが、プリントではインクの滲みに紛れてしまうし、ウェブでは本来必要な解像度にリサイズすることになるので、実用上気になることはない。
被写界深度ブラケット
露光時間と被写界深度は、写真の表現を構成する2大要素である。それゆえ、それぞれの変化が撮影結果に直接結びつくが、それをいくつものパターンに変化させることは、現実の撮影シーンの中では意外と面倒なことである。それを自動でやってしまおうというのがこの機能だ。
露光量(明るさ)を変化せずに被写界深度(絞り値)だけを変化させるのが「被写界深度ブラケット」機能、露光量(明るさ)を変化せずに露光時間(シャッター速度)だけを変化させるのが「モーションブラケット」機能である。
被写界深度ブラケットの設定は簡単だ。露出モードを絞り優先モード(Av)に設定したら、ドライブモード画面の選択に被写界深度ブラケットが表示されるので、それを選べば良い。詳細設定で絞り値の変化量と変化させる順番を選ぶことができる。
作例では、絞りの変化は2段づつ、被写界深度は浅くから深くに変化するようにした。設定したら、最初に撮る絞り値を設定する。作例ではF4とした。
晴れた日の窓辺、グラス越しの雲が気持ち良い。雲の気持ち良さを伝えるためにいくつかの絞り値を試したい。ここではF8が正解なようだ。そうした設定の変化を自動でやってくれる便利機能である。
モーションブラケット
モーションブラケットでは、まず露出モードをシャッター速度優先モード(Tv)に設定すると、ドライブモード画面の選択にモーションブラケットが表示されるので、それを選ぶ。詳細設定で、シャッター速度の変化量と変化させる順番を選ぶ。変化するシャッター速度の中で1番遅い速度に気をつけよう。その速度に合わせて三脚を使うか否か決めると良い。
回転するアトラクションの光跡の変化を狙った。設定は1番遅いシャッターからスタートし、2段ずつ早くなるようにして、3枚を連続して撮るようにした。狙いの通りであったのは、1番遅いシャッター速度であった。
その他のカットのデータも参照してほしいが、絞りと感度が大きく変化していることに注目してほしい。これは暗い環境であるからだが、ISO感度が変化すると画質も変化する場合もある。これは被写界深度ブラケットでも同様だ。
作品
最後にKPと過ごした数日の作品を見ていただきたいと思う。上に紹介した以外にも様々な機能があるので、そうしたものを使う反面、なるべくカメラ任せで撮るように心がけた。その心は、完全お任せのシーンアナライズモードや評価測光の特性を見るためだ。
あるシーンにおける露光量はメーカーのノウハウによる面と、撮影者の好みの双方から評価が決まる。結果を述べれば、簡単なことだ。僕とKPの相性はとても良いようである。ほとんどのシーンで露出補正を必要としなかった。
◇ ◇
ペンタックスといえば「比較明合成」とイメージしてしまうのだが、いかがだろうか。まだ寒い早春の深夜、西に沈むふたご座、しし座、こいぬ座の光跡。都会の空でも星の光跡が撮れるのは比較明合成ならではだ。15秒の露光を80回繰り返し、総計20分間の光跡を得た。
雪景色の富士山を伊豆の小さな湖越しに垣間見る。シーンアナライズモードでカメラ任せだが、しっかりと絞ってパンフォーカスにしてくれた。重めのトーンが好きなので、露出補正を-0.7段としたが、補正なしでも正解の範疇であった。
青空を滑るようにグライダーが行く。ここは雲が少し緩やかに描写されるようにしたいため、絞り優先AEでF4を選択し、青空の深さを出すため-0.7段の補正とした。補正なしではこの色合いにならないが、ホワイトバランスはオートであり、十分にカメラ任せといえる。
逆光の難しいシーンだが、補正なしでとてもバランスのいい露光となった。逆光の桜は華やかだし、空の色合いは暖かな日差しを伝えて心地いい。
逆光で光源も入るシーンはさらに露光量を迷うシーンだが、ホワイトバランスともに申し分ない。特筆すべきはここでF8を選択していることだ。遠景のボケ量は適切で、自分でマニュアルで設定したとしても、間違いなくこの絞り値を選ぶだろう。
半逆光のこのシーンでは、手前の岩に当たった直射光を大事にしたい。直射の強さを感じさせつつ、夕方の空気としたいのだ。そのためには、少しばかり露出をアンダーにするのだが、KPは僕と同じ判断を下した。
木陰で見つけた水槽とこもれび。滑らかな描写のため感度を上げたくなかった。また十分な被写界深度も欲しかったので、シャッター速度優先オートで1/15秒とした。SR(シェイリダクション、手ブレ補正機構)頼みの撮影であるが、シャープな画像が得られた。露出は-1段とし、WBはCTEを使った。CTEはその場で支配的な色に合わせてWBを整えるが、この作例では濃いめの良い仕上がりになった。
まとめ
派手な機能ではないが、KPの根幹をなすともいうべきはシーンアナライズオートである。被写界深度やシャッター速度、ISO感度といった人間が決定すべき表現要素をカメラが判断して行なっている。これが行為としての写真であると言っても過言ではない。あとはシャッターを押すだけだ。
しかし、その結果が撮影者の気持ちに寄り添わなければ、単なるプログラムオートの延長でしかない。結果は作品でまとめたように、まるで自分の考えがカメラに伝わっているかのようだった。
いくつかのシーンで違う点もあったけれど、逆にいえばそのくらいでないと気持ち悪いかもしれない。まこと人の気持ちは面倒なものだが、シーンアナライズオートは多くのデータの集積から冷静に判断しているものだ。表現が自分の思い通りになるのは1つの安心感である。
一方で手ブレ補正など他の機能は売りのポイントとして話しやすいものであるが、表現という本流から見れば副次的なものであると思えてくる。KPは小さいけれど、なんだか哲学的なカメラなのかもしれない。
ともあれ、自分の意思を簡単に実現する小型高機能ボディは、ミラーレスカメラとは違うデジタル一眼レフカメラの小型化の1つの形である。あとは明るい広角レンズの登場を望むばかりだ。
撮影協力:よこはまコスモワールド