特別企画
キヤノンの超望遠軽量ズーム「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」の使い勝手を確かめる
EOS R5超望遠スナップのススメ
2022年1月11日 12:00
2021年のほとんどの期間が緊急事態宣言などの長く厳しいコロナ禍でしたが、秋に解除されてから旅に出なければと10月の終わりに新潟県の沿岸部を中心に3日間の撮影旅行へ行って来ました。今回は「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」と「RF14-35mm F4 L IS USM」の2本に加えて、携行性の良いRF35mm F1.8 MACRO IS STMをチョイス。EOS R5でどのような使い勝手があるのかを確かめていきました。
軽量超望遠をメインに考える機材セット
昨年お伝えしたEOS R5の長距離旅撮影レポートでは新潟県の長岡市から燕市、三条市、新発田市を越えて東側の山形県方面となる村上市を目指した。そこで今回は新潟市の西端から富山県のある西側方面を目指して柏崎市、上越市、糸魚川市をまわるルートを選択。海沿いの道をメインに走ったので、西へ向かっている時に撮影ポイントを見つけたら通り過ぎてからまた引き返したり、その逆を行ったりなど、3日間で約250kmを走ることとなった。
今回の主役はRF100-400mm F5.6-8 IS USM。広い焦点距離域を有しながらも重量は約635g、全長164.7×最大径79.5mmと軽量・コンパクトなつくりが特徴の望遠ズームレンズだ。キヤノンのRFレンズシリーズには、L印の白レンズ「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」が重量約1,370g(三脚座を含めると約1,530g)があるが、同列に比較するものではなく、全く別のキャラクターだと捉えるべきだろう。むしろ全長207.6×最大径93.8mmのコンパクトさに注目したい。ハンドリングの良さがまず期待できる1本だ。
特に小型軽量性に着目しているのはEOS R5自体がコンパクトであることが大きい。長距離の旅撮影では機材重量が撮影結果に大きく影響してくる。今回、本レンズを主役にしたシステムは果たしてどこまでシステム全体の小型軽量化の恩恵を与えてくれるのだろうか。さっそく本レンズの醍醐味に迫っていきたいところだが、今回使用したレンズをはじめに振り返っておきたい。
RF100-400mm F5.6-8 IS USM
望遠端400mmまでカバーする超望遠ズームレンズながら、とても軽量なミラーレス時代ならではの1本。望遠スナップが好きなボクはEOS 5DシリーズにEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを装着してたが、EOS 5D Mark IVとの組み合わせだと、その重量は約2.5kgにもなる。対してEOS R5と本レンズの組み合わせは1.4kgを切る重量。まさにミラーレスの恩恵が肌身で感じられる組み合わせだ。手や腕にかかる負担が軽減されるのはもちろん、移動時の携行も楽になり、温存した体力で集中力が持続するメリットは大きい。
RF14-35mm F4 L IS USM
100-400mmの超望遠ズームの補佐役として抜擢。当初は35mm単焦点と2本での運用を想定していたが、身体で距離を調整できないシーンも考慮して超広角ズームも携えることに。シーンに応じた撮り分けの幅が広がることにも期待した。
EFレンズ時代、ボクはEF16-35mm F2.8Lシリーズがリニューアルする度に買いかえながら使ってきた経験がある。本レンズの開放F値はF4と1段暗くなっているが、ワイド端が14mmと大きくひろがっている。超広角レンズの場合、2mmひろがるだけでも画角は全く違うものになってくるし、重量も540gと軽量なので随時携帯するにも便利。AF動作もスムーズでEOS R5との組み合わせでは手ブレ補正の効きも抜群と、実に魅力的な超広角ズームレンズに仕上がっている。超広角ズームにつきものの周辺光量低下や歪曲といった問題はカメラ側で補正されるため問題はなし。ボクにとってEOS R5のつけっぱなしレンズとなっている。
作例
今回の撮影では一部カットを除いて、ピクチャースタイル:風景、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、レンズ光学補正:周辺光量補正ON、歪曲収差補正ON、で撮影しました。
日本海らしい垂れ込めた雲間から海面へと差し込む強烈な光線が、日没近い時間帯の印象的な世界をグレーとオレンジの2色でつくりあげている。自然界が生み出すこうした瞬間はまさに一期一会。目にできる時間も短いのでレンズ交換がいらないズームレンズでスピーディーに切り取りたい。焦点距離をいくつか変えながら撮影してあとでベストな画角をチョイスするイメージだ。
青空を大きく入れ込んで逆光線下で絞って撮影。正面から太陽光が入り込んでいるが、フレアやゴーストは想像していたよりもずっと少ない。14mmという超広角の画角でもまったく問題は見当たらない。もっと絞り込んだ方が光条が明瞭になったかも、と考える余裕をもたらしてくれるところもポイント。
強い風に吹きつけられて揺れるというよりも、蠢く様がムーミン谷に棲むニョロニョロみたいだ(笑)。前ボケの中、奥で動く姿を捉えるためにISO感度を上げて高速シャッターで被写体を止めた。
今回の旅ではボクにしては珍しく観光地と呼べる場所にも立ち寄っている。撮影場所は糸魚川市の弁天岩。日没近くの岩山に見つけたサギと思えるつがいの2羽が何とも日本的な絵柄を成していた。暗部の岩のトーン再現が見事。豊かな階調が印象的なシーンに立体感を与えている。
国道8号線を走っていると陸上にいきなり現れた中型漁船。実は水産高校の実習船だった。道路の向こう側から300mm望遠で引き寄せて圧縮効果を出すが逆光で影になっている部分も良く解像している。
急に天気が変わり小雨が降った。乗り込んだクルマの窓ガラスについた水滴をクローズアップ。絞りを開放側にして撮影する。フォーカスポイントを調整することで宇宙っぽいイメージに。小型ながらハーフマクロまで撮影できる旨味のあるレンズだ。
大型船が遠くを航行する姿を入れながら夕暮れを強調させるためにホワイトバランスを「曇り」に設定して撮影した。風の強い日だったが軽量になった100-400mmズームなら手持ちでも耐えられる。
西陽の斜光線が駅舎の背景から差し込んでいた。F16まで絞り光条とマンホールの反射が浮かび上がる表現を狙ってみた。
日没後に北へ向かう列車が走ってきた。すかさず残照の明るさに露出を合わせて線路の反射だけが浮かぶようにローキーに仕上げた。
秋から冬にかけて日本海は様々な色味が混ざった独特の色彩を見せる。こうした風景との出会いはいつもとは違う気持ちにさせてくれる。
RF100-400mm F5.6-8 IS USMは望遠端で最大撮影倍率が0.41倍までクローズアップできる。菊の花をクローズアップして望遠マクロとしての描写を見た。
菊祭りの会場にて。佐渡をテーマにしているというその威容をRF14-35mm F4 L IS USMの広角端で収める。14mmとは思えない歪みのない描写と鮮やかな花の色ノリが気持ちいい。もちろん四隅が流れているということもない。
森の中で見つけた小さな植物を木漏れ日を背景にボカしながら撮影。風に揺れ続けていたのでシャッター速度を上げて静止させた。
海沿いに車を走らせていると電柱のような木製の柱が何本も並んでいる不思議な光景に出会った。正面から並列に画面に入れるためにRF14-35mm F4 L IS USMを使用。菊祭りの花壇同様、歪みのない描写だからこそ均整のとれた1枚となった。
実をいうとこのカットでは最初、RF35mm F1.8 MACRO IS STMの接写能力をいかすべく手前の金属パイプにフォーカスをあわせて背景をボカそうとしていた。すると画面奥に歩いている男性がいることに気がつき、すかさず奥に見えるパイプにフォーカスポイントを変えた。奥側に視線が行き右の人物に気がつくという趣向。面白い画面効果になった。
新潟市の西端である越前浜に着いた。昔ながらの漁師小屋をアンダー気味にして半シルエットで表現。画面奥まで均一に見えるところまで絞りこみ形の面白さを狙ってみた。
太陽を入れたダイナミックな表現を試みようとRF14-35mm F4 L IS USMにレンズチェンジ。本レンズも逆光耐性が高い。画面内端に太陽を置いてもビクともしない描写性能は、強い光源があるシーンでも活躍してくれることだろう。
神社の大きな屋根の間から覗く山の上では紅葉が色づいていた。撮影出来るポイントが限定されていて相手が動かない風景の場合は、やはりズームレンズの使い勝手が勝る。加えて軽量なRF100-400mm F5.6-8 IS USMは上向きかつ手持ちの撮影でも集中力を持続できるところが嬉しい。
日没前の光線がガラス戸に反射して美しい陰影をつくりだしていた。1/10秒というスローシャッターになったがEOS R5とRF100-400mm F5.6-8 IS USMは望遠側の焦点距離でもブレ知らず。感度上昇に伴うノイズの発生を招くことなくシャープに光の美しさを描き止めることができた。
木陰から差し込む午後の光線が風に揺れる七五三縄を浮かび上がらせていた。神聖な雰囲気を強く感じたので、その感覚を強調するように光を捉えた。シャドー部の階調もツブレてしまうことなく描き出されている。軽量・コンパクトにふった1本だが、この描写を見るとハンドリングの良さとともにとても優秀なレンズだと感じる。
望遠ズームで焦点距離を変えながら撮影する時は、焦点距離の選択を迷うこと自体も楽しむようにしている。薄暮へと色味が薄れていく夕暮れの雲が浮かぶ中、海沿いの道路をトラックや乗用車が走る様を見ていると、まるで自分が空の上にいるように感じる。
日没10分前の日本海。強烈な逆光の中でもヘッドライトを灯したクルマが行き交う国道を歩く人が浮かび上がる。フレアやゴーストの発生はここでも見られず、印象的な陽の光を捉えることができた。オレンジに染まる海、右手前へかけての青のグラデーションに破綻はいっさい見られない。
いつもこの場所に居るはずのカモメたちが居ないので、漁師さんたちの道具箱を主役に雲の様子を収めた。新潟県に来ると毎年のように訪れている撮影場所のひとつ。今回この旅の締めくくりに選んだ。
RFレンズのラインアップ充実を実感
ボク自身はキヤノンEFシステムを長い間使ってきて、EOS Rの登場とともにEOS Rシステムへ徐々に移行してきた。初期は大口径レンズをメインにシステムをまとめていたが、2020年にEOS R5とEOS R6が登場し、これまでデジタル版のEOS 5系で慣れ親しんだ操作感が蘇るとともに実用的かつ面白いレンズも続々とラインナップに加わり、いよいよEOS Rシリーズが楽しくなってきたと感じていた。
旅撮影では望遠スナップを多く採り入れてることもあり、今回メインにしたRF100-400mm F5.6-8 IS USMには大いに注目していた。もちろんRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMの描写が素晴らしいことは先の旅レポートを通じてお伝えしていたとおりだが、実勢価格36万8,500円(税込)という価格と重量の両面から気軽に持ち出せる1本かというと難しい面があったことも事実。
このLレンズに対して、同9万500円(税込)のRF100-400mm F5.6-8 IS USMは気軽に楽しめる超望遠ズームとして大いに期待していた。その描写性能はお伝えしてきたように素晴らしく、しかも1.4倍と2倍のエクステンダーも使えるため、取り回しの良さとともに3拍子も4拍子も揃ったレンズだった。
白レンズでL印つきのレンズと直接比べるのはナンセンスと思っていたが、素直な感想として倍率高めの超望遠ズームという先入観が払拭されたことも特にご報告しておきたい。使い勝手や性能面の進化はもとより、EOS R5と組み合わせた際の手ブレ補正の効きが非常に高く、手持ち撮影でも全カットでブレ知らずで撮影できた。
F値が若干暗めなところが気になる人も多いかと思うが、カメラ側の高感度描写が良くなってきていることと手ブレ補正の効きの良さによって相当暗いシーンで使っても画質に対するネガティブな気持ちは抱かずに済みそう。
あと気になるだろう点として三脚座を備えていないことが挙げられると思うが、バッテリーグリップをつけていない状態のEOS R5との組み合わせでも重量バランスが良かったことを強調しておきたいと思う。ボクはRF70-200mm F2.8 L IS USMをポートレート撮影で使っているが、RF100-400mm F5.6-8 IS USMが次に導入したいRFレンズの筆頭になった。コロナ禍が収束し海外渡航が自由にできるようになったらぜひとも導入したいと考えている。