特別企画

キヤノンEOS R5とRFレンズシステムで行く新潟路(後編)

EOS R5を自腹購入 仕事で使うつもりで使い勝手を検証

沈む夕陽に狙いをつけていたところ、ウミネコがやって来てポーズをとってくれた。すかさずRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMを構え、500mm側で収める。日没直前の逆光が厳しい条件だったけれども、描写は大満足。もはや逆光なんか気にならない性能は、確かに新次元のものだ。
EOS R5 / RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM(500mm)/ 絞り優先AE(F6.7・1/500秒・+0.5EV)/ ISO 125

前編に引き続き、新潟県内各所をめぐる中で、EOS R5とRFマウントレンズシステムの相性をチェックしていった。前編をまだご覧いただけていない方は、以下よりぜひあわせて見てもらえたら幸いだ。

後編の舞台は鮭のまち・村上

ボクは5年前から新潟県長岡市にある美術系の公立大学へ、非常勤講師として年に2週間ほど通わせてもらっている。つまり2週間だけではあるが新潟県民に交じって生活を送っているわけだ。新潟県やその近辺のエリアには、これまでも何度か雑誌の取材や広告撮影で訪れたことはあったけれども、撮影が終わると東京へとんぼ返りしていたので、ほとんど立ち寄ったという感覚しかなかった。

瀬戸内海で生まれ育ち、学生時代を九州で過ごして来たボクにとっては、地理的な構造や気候環境はもとより、人々の営みや建物の造りにいたるまで、目にする風景がすべて別世界のように新鮮に感じられる日々。大学での授業のために初めて訪れた年から感じていたことだけれども、ちょっとした光線状態の違いさえまでもとても興味深く、目に楽しい日々が続いた。

後編となる今回は、「鮭のまち」として知られる村上市などで撮影した感想を交えながら、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMを含めたRFレンズ群に関するインプレッションをお伝えしていきたい。

出雲崎の夕暮れ、鮭のまち・村上市へ向かう

唐突だけれども、新潟県へ通うようになってからというもの、毎年のように訪れている大好きな撮影場所がある。具体的なポイントはヒミツだけれども、出雲崎から新潟市へと続く日本海沿いの国道402号線沿いに、その場所はある。道沿いには風光明媚な場所がたくさんあるけれども、ボクが興味を持つのは、その秘密のポイントだけだ。

晴天の日の夕暮れ、空の美しいグラデーションがクルマの窓ガラスを染めて映る。100-500mmのレンジが必要となるような条件ではないけれども、ハンドリングの良さもあり、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMはこうしたスナップでも活躍してくれる。

EOS R5 / RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM(100mm)/ 絞り優先AE(F6.7・1/90秒・±0EV)/ ISO 6400

日本海沿岸の夕暮れ。沈む夕陽からの強烈な西陽を浴びて漁師町の数軒の家屋群が家族の集合写真のように美しく浮かび上がる。レンズはRF15-35mm F2.8 L IS USM。広角端での表現も面白いが、自然なパースペクティブで見せるために、望遠端の35mmで切りとった。

EOS R5 / RF15-35mm F2.8 L IS USM(35mm)/ 絞り優先AE(F6.3・1/60秒・-0.7EV)/ ISO 100

出雲崎の海遊広場は地元では有名なデートスポットらしく、カップルや釣り人たちが集まっていた。日没後の海しか見ていないボクはここでは珍客なのだろう(笑)。

EOS R5 / RF15-35mm F2.8 L IS USM(24mm)/ 絞り優先AE(F2.8・1/10秒・±0EV)/ ISO 320

日没後の暗闇が迫る直前、紫色の空に浮かんだ上弦の若い三日月へフォーカス。外灯下のボケはクモだ。ボクは一瞬の光景を切りとることを重視しているので極力三脚は使わない主義。必然的にISO感度をどんどんあげていくことになるのだけれども、とはいえEOS R5の高感度耐性能は特筆ものだと感じる。でもやっぱりノイズの発生はイヤなので、手ブレ補正には、今回も大いに助けられた。

EOS R5 / RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM(500mm)/ 絞り優先AE(F6.7・1/750秒・±0EV)/ ISO 12800

鮭のまちにて

村上駅前のロータリーには古風な櫓がそびえている。観光案内所で行き先の情報収集をしていると突然の驟雨となった。目の前の風景が霞むほどの土砂降りの中を走る人を見ていると、歌川広重の連作「東海道五十三次」にこんな絵を見たことを思いだした。EOS R5とRF15-35mm F2.8 L IS USMの組み合わせだが、雨の間から見える風景の解像感に、新生システムによる確かな手応えを実感した。

EOS R5 / RF15-35mm F2.8 L IS USM(35mm)/ 絞り優先AE(F4・1/640秒・+0.7EV)/ ISO 400

雨上がりの村上市内を歩く。撮影当日は市内のあちこちで古道具などの蚤の市が開催されていた。写真のような建築様式は西日本の山陰地方や近畿地方でも歴史ある田舎町でよく見かけるものだが、日本独特の几帳面さが感じられて「好きだな」と感じる光景がそこかしこにひろがっていた。

EOS R5 / RF15-35mm F2.8 L IS USM(15mm)/ 絞り優先AE(F11・1/1,250秒・±0EV)/ ISO 400

鮭で有名な村上市。訪れた老舗では天井から鮭を吊していた。昔ながらの自然乾燥法は圧巻の光景。10年ほど前になるだろうか。吉永小百合さんが出演するJRのCMを見た時から、ずっと村上は訪れたい場所だったのだ。

EOS R5 / RF15-35mm F2.8 L IS USM(15mm)/ 絞り優先AE(F2.8・1/6秒・±0EV)/ ISO 400

中庭に干してあった鮭が逆光で怪獣のように見えた。ノコギリのような鋭い歯と目に、RF85mm F2 MACRO IS STMの持ち味のひとつである接写性能をいかして寄ってみる。このレンズはAFの駆動にSTMを使用しており、素早いAF制御が得られる。実は風に揺れて鮭が動く状況だったので、息を止めながら苦労して撮影した1枚。1段だけ絞っているが、背景の緑にみられる玉ボケも素晴らしい。

EOS R5 / RF85mm F2 MACRO IS STM / 絞り優先AE(F2.8・1/60秒・+0.3EV)/ ISO 400

ボクはキヤノンの一眼レフカメラEOS 5Dシリーズを愛用してきた。ワイドレンズでは歴代のEF16-35mm F2.8 Lシリーズを使用してきているが、以下のような1枚を得たい場面では、たった1mmの違いでも焦点距離が短いことは大きな利点となる。今回使用したRF15-35mm F2.8 L IS USMは、広角端の15mmが本当に活躍する場面が多かった。もちろん、手ブレ補正の効果も確かな効き目があったことは、何度でも繰り返したくなるほど素晴らしい性能だと感じた。

EOS R5 / RF15-35mm F2.8 L IS USM(15mm)/ 絞り優先AE(F2.8・1/13秒・-0.3EV)/ ISO 400

シャドー部の再現性も素晴らしい描写性能を見せてくれたRF15-35mm F2.8 L IS USM。最短焦点距離は28cmだが、ここまでの超広角ズームレンズとなってくると、どうしても格子状の被写体で若干の歪みが気になってしまう。とはいえ、キヤノン純正のRAW現像ソフトDigital Photo Professional(DPP)を使えば簡単に自動補正できる範囲に収まってくれるので、こうした見方は、ほぼ難癖ともいえる次元になる。これ以上を求めるシーンでは、むしろTSレンズを用いるべきだろう。

EOS R5 / RF15-35mm F2.8 L IS USM(15mm)/ 絞り優先AE(F6.3・1/30秒・±0EV)/ ISO 100

引きがない場所や広がりを表現するためには、繰り返しになるが1mmでも広い画角が欲しい場面が多くなる。EF16-35mm F2.8 Lシリーズと比べて、広角端を1mm広くしたことは、数値以上のメリットを撮影者にもたらしてくれるといえよう。今回の撮影行でも、15mmの画角は大いに有効性が実感された。数ある進化点の中でも最も嬉しいと感じるポイントだ。

西奈彌羽黒神社は小さな神社ではあるけれども、とても心安まる場所だ。境内で撮影していると、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMと組み合わせていたこともあってか、道ゆく人に「大きいカメラですね」と声をかけられた。

写真は裏山の上にある奥の宮へ登る急階段の途中の手水舎でのワンカットだ。紅白の熨斗紙と手ぬぐいの青が、緑の背景に色鮮やかに映える。その美しい配色に目がとまった。

EOS R5 / RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM(100mm)/ 絞り優先AE(F5・1/8秒・+0.3EV)/ ISO 400

階段を登る途中、石段の水溜まりに落ちている黄色い枯れ葉が感情に訴えかけてきた。RF15-35mm F2.8 L IS USMに持ち替えて、最短撮影距離28cmの接写性能をいかして、ぐっとクローズアップ。ファインダー内の像の揺れも手ブレ補正のおかげで安定しているため、フレーミングがしやすいところも本レンズの持ち味だ。

EOS R5 / RF15-35mm F2.8 L IS USM(15mm)/ 絞り優先AE(F4・1/80秒・-0.3EV)/ ISO 400

市内を散策していて見つけた鍛冶屋で、職人だったというご主人に許可をいただき中を撮影させてもらった。壁には昭和30年代半ばの料金表が貼ってある。時代的にはボクが生まれた頃のものだ。なんだか親しみがわいてシャッターを切ってみたが、あらためて考えてみると、これは当時の物価がわかる貴重な資料。過去が今に息づく場所は訴えかけてくるものがたくさんある。

EOS R5 / RF15-35mm F2.8 L IS USM(20mm)/ 絞り優先AE(F2.8・1/8秒・-1.0EV)/ ISO 800

昔、居間として使われていた部屋から仕事場の方を振り返ると、戦後間もない頃から使われてきたという木製の丸椅子。まるで静かに佇んでいる老人のようであった。かつてここに座っていたであろう往時の職人さんの姿などを想像しながらシャッターを切った。

EOS R5 / RF85mm F2 MACRO IS STM / 絞り優先AE(F4・1/125秒・±0EV)/ ISO 1600

RF15-35mm F2.8 L IS USMの15mm側は、繰り返しとはなるが、やはり素晴らしく使い勝手が良い。荒れ狂う海を写し込んでみたが、実にクリアーな描写だ。村上市内の中心部から北へ向かうと、鮭で有名な三面川がある。この川を越えてしばらく行ったところにある岩ケ崎というエリアでは、北からの風が勢い強く海岸に吹きつけていた。岩礁に押し寄せて当たって砕けた海水が波の花となって舞い上がる。穏やかな瀬戸内海を見て育ったボクには、まさに聞き及んでいた荒ぶる日本海の姿を見せつけられたという感じだった。

EOS R5 / RF15-35mm F2.8 L IS USM(15mm)/ 絞り優先AE(F11・1/250秒・+0.7EV)/ ISO100

思いっきり逆光が差し込む条件下で、機材にとってもかなり酷な条件で何度か試してみたが、レンズ面へ入ってくる光軸の入射角度を調整しながら撮影するだけでも、これまでのワイドズームレンズと比べて大きく描写性能が向上していると実感された。

EOS R5 / RF15-35mm F2.8 L IS USM(15mm)/ 絞り優先AE(F6.3・1/500秒・+0.7EV)/ ISO 100

重く垂れ込めた北の空に旅情を感じる。中学生の頃に親戚の住む鳥取県や島根県など山陰地方を旅しながら撮影した時と同じような感覚に陥るのは、新潟県が同じく日本海側に面した地域だからだろうか。

EOS R5 / RF15-35mm F2.8 L IS USM(22mm)/ 絞り優先AE(F11・1/60秒・±0EV)/ ISO 100

冬の日本海らしい夕暮れ時、残照で光るアスファルトをメインに捉えた。暗い部分のディティール再現も素晴らしい。

EOS R5 / RF15-35mm F2.8 L IS USM(15mm)/ 絞り優先AE(F3.5・1/40秒・±0EV)/ ISO 400

RFレンズ用のエクステンダーには、焦点距離を1.4倍または2倍にできるEXTENDER RF1.4×、同2×が用意されている。今回の撮影では1.4倍のエクステンダーをRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMと組み合わせて使用していった。

実を言うと、10年以上前にEFマウント版の1.4×と2×のエクステンダーを所有していたが、どちらも数えるほどしか使用する機会がなかった。というのもAF速度が自身の使い方にマッチしなかったからだった。今回は、そんな記憶を引きずりながらの試用だったが、RFマウント版は如実に技術的な進化が感じられた。こうした製品の泣き所でもあるAF速度はもちろん、合焦範囲にも不足はない。ボクの使い方では不満を覚えることはなかった。

村上から長岡へクルマを走らせる中、妙な鳴き声が聞こえるなと田んぼへ近づいてみると、オオハクチョウたちの群れが見えた。後で知ったことだが、ここは彼らが毎年飛来する有名な土地なのだそうだ。

オオハクチョウたちは、どんどん距離を離していくので500mm側では、少し不足がでてきた。すかさずエクステンダーをかませて、焦点距離を700mm相当に。解像感はもちろん、AFスピードもレンズ単体での使用時と遜色ない印象。撮影結果はご覧のとおりだ。

EOS R5 / RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM + EXTENDER RF1.4x(700mm相当)/ 絞り優先AE(F10・1/1,250秒・+0.3EV)/ ISO 160

列をなして上空を飛んでいくオオハクチョウたちを捉える。正直に白状してしまうと、サーボAFによる追跡撮影機能にお世話になることはほとんどない。撮影をはじめた当初は大きなレンズの取り回しにも苦労があったけれども、慣れてくるとだんだんとコツが掴めてきた。

鳥たちの姿で思いだしたのは航空自衛隊のショーで見たブルーインパルスと古い切手の図案にあるやはり歌川広重画伯の「月に雁」だった。今回の撮影では広重を思わせるシーンに良く出会う(笑)。

EOS R5 / RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM + EXTENDER RF1.4x(700mm)/ 絞り優先AE(F10・1/5,000秒・+0.3EV)/ ISO 1600

まとめ

EFレンズシリーズからの大口径マウントを継承しながらも、全く新しい思想で誕生したEOS Rシステム。その初号機たるEOS Rの発売は2018年10月のこと。筆者も発売直後から導入していたが、やはり5系の操作感に慣れた手は、世評と同じく、いくばくかのストレスを感じていた。

少し5系に関する機材使用歴を振り返ってみると、銀塩フィルム時代を除けば、EOS 5D(2005年10月発売)に遡ることになる。以来、EOS 5D Mark II、EOS 5D Mark III、EOS 5D Mark IVと、ボディが刷新される度に持ち替えてきた。他メーカーを含めて複数のカメラを使い分けているけれども、キヤノンの5系はボクにとって最も使用率の高い、いわばメイン機として長く撮影の苦労をともにしてきた間柄となっていたのだ。

そんな日々を思いながらEOS Rを使用していた折に発表されたEOS R5/R6。まさに待ち望んでいたフィーリングの復活かと、開発が報じられた時から楽しみにしていた。そして今回様々な条件のもとで、使用感を確かめていったが、まさに求めていた操作感が戻ってきたことが実感できた。おそらく全国の、いや全世界のEOS 5ユーザーやファンにとってもそうだったろうと思う。

カメラ使い師としてはあまり器用ではない方だと自認していることもあり、同じメーカーのカメラでも操作性やインターフェースがガラッと変わってしまうと戸惑うことが多く、使い慣れないうちはシャッターチャンスを逃してしまうことが多発していて、悔しい思いをすることが多くあった。

そこへきて待望ともいえるEOS R5を導入。やはり手は慣れ親しんだ操作感を覚えているもので、新しいシステムを積極的に試していく余裕が生まれた。今回はシステムとしての使い勝手を確認したかったこともあり、広角側から超望遠域まで、ひろいレンジで撮影を進めていったが、どのレンズも素晴らしい仕上がりで、つい撮影自体を楽しんでしまっていた。

RFマウントの85mmには、F1.2のレンズが2製品もあるだけに、RF85mm F2 MACRO IS STMは、すこし陰に隠れてしまっている感じは否めない。けれども近接撮影が可能となっていることもあり、スナップでの使い勝手の良さが光る。

一見大ぶりなRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMは、EOS 5DシリーズでEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを使ってきた感覚からすると、むしろ軽くさえ感じられた。縦位置グリップと三脚座は装着した方がむしろバランスは良くなる。RF70-200mmF2.8L IS USMを振り返ってみても、繰り出し式の構造を採用することで全長146mmで重量が1,070gと、70-200mm F2.8クラスのレンズとしては画期的なサイズ感で製品化されている。こうした、これまでの固定観念を打ち破るズームレンズは、小型軽量化という昨今のニーズをしっかりと踏まえた路線になっていて、今後のニュースタンダードをつくっていこうとする意気込みが伝わってくる。今回使ってみた実感としても、予想通りEOS R5との組合せの相性は抜群であった。

フルサイズミラーレスシステムとしては後発となったキヤノン。当初は少々出遅れた感こそあったものの、ココへ来て一気に勢いを急加速している。意欲的な製品のライナップも充実してきたキヤノンのEOS RシステムおよびRFレンズの今後に大きな期待を寄せているのはボクだけではないはずだ。

(はるき)写真家・ビジュアルディレクター。広島市生まれ。九州産業大学芸術学部写真学科卒業。フリーランスでポートレート撮影をメインに雑誌・広告・音楽・映像メディアなどで作品を発表。「第35回・朝日広告賞、グループ入賞&写真表現技術賞」、「PARCO PROMISING PHOTOGRAPHERS #3」、「100 Japanese Photographers」ほか多数受賞。「普通の人びと」「Tokyo Girls♀彼女たちの居場所。」「The Human Portraits 1987-2007」「Automobile Americanos〜Cuba Cuba Cuba〜」「熱い風」「遠い記憶。」「遠い記憶。II」「アンソロジィ」ほか個展多数開催。プリント作品は国内外の美術館へ収蔵。長岡造形大学(NID)視覚デザイン学科非常勤講師、日本写真家協会(JPS)会員。