【緊急連載】新メモリーカードCFexpressを徹底理解する

第4回:CFexpressにまつわる素朴な疑問Q&A

導入に向けた疑問や不安点をプログレードデジタルの大木氏に直撃

「新メモリーカードCFexpressを徹底理解する」と題して、次世代規格のメモリーカードについて掘り下げてきた本連載。第4回⽬では、CFexpressにまつわる素朴な疑問を、連載第1回⽬から3回⽬の執筆者である⼤⽊和彦⽒に聞いていきました。これまでの連載で技術的な特徴はお伝えしてきていますが、実際に使⽤していくにあたっての疑問や不安を解消するのに役⽴てていただけましたら幸いです。(聞き⼿:編集部)

CFexpress導入のメリットをあらためて考える

――XQDやCFastカードでも十分に速いと思うのですが、CFexpressのようにさらに速いカードは本当に必要なのでしょうか?

大木 :必要だと思います。デジタルカメラの進化を支えるために、メモリーカードも相応の進化を遂げなければならないからです。

ここ数年、デジタルカメラは、センサーサイズ、画素数の大型化、連写の高速化、動画の高画質化など、目覚ましく進化を遂げています。これらの進化により、カメラ内で生成されるデータを年々巨大化しています。カードがこの巨大化に対応した進化をしないと、カメラは性能バランスを失い、連写や動画が止まったり、書き込みに時間がかかったり、モタモタ動くデジタル機器になってしまいます。カードがカメラ性能のボトルネックになってしまうのです。

各社カメラの連写時における秒間転送データ量(連載第3回「最新カメラがCFexpressを必要としているワケ」より)

EOS-1D X Mark IIIのモンスタースペックが話題になっていますが、キヤノンは「CFexpressの採用」をその性能向上の一因に挙げています。カードの転送速度が飛躍的な進化を遂げたことを一因として、カメラ性能が飛躍的に進化した一例だと思います。CFexpressはボトルネックになるどころか、これまでのカード性能の制限からカメラを解放し、その撮影性能の進化を支えたのです。その意味では、今後CFexpressがデジタルカメラの進化をどのように生み出していくのかが大変楽しみです。

EOS-1D X Mark III

――XQDとCFexpressカードの両方が使えるカメラはありますが、CFexpressをXQDとしても使えるカードがないのはなぜでしょうか?

大木 :結論からいえば、カード相互の互換性確保は技術的見地から言うと可能だと思います。しかしCFexpress規格のコンセプトやビジネス性などを考えると実現可能性は低いと考えています。

CFexpressもXQDも、同じPCI Expressインターフェースを採用していますが、技術仕様(技術言語)が異なります。CFexpressはNVMe、XQDがXQD独自と、異なった技術言語を使用しているんです。例えれば、英語とフランス語のように異なるということです。CFexpressとXQDの両方としても使えるカードになるということは、カードのCPUであるコントローラーが英語とフランス語の両方を操るバイリンガルにならなければならないということになります。

参考:XQD(左)とCFexpress Type B(右)。サイズは同じ

冒頭で申し上げましたように、技術的にはそうしたカードを作ることは可能だと思います。しかし、カメラ市場向けにのみ専用コントローラーを開発する必要があります。コントローラーの開発には多額の費用がかかりますし、その技術投資を回収をするためには販売価格を高くするか、相当な量を販売しなければなりません。価格の高騰は普及への障害になってしまいますし、PC業界に比較して小さなカメラ市場では販売量を拡大するにも限界があります。

CFexpressの基本的なコンセプトのひとつは、PC市場の汎用技術をイメージング市場に展開することで、カメラもカードも多くのメーカー参入を促し、広く普及を図ることです。その意味では、シンプルな構造でよりコストパフォーマンスの高いCFexpressカードで普及を図ることが、ビジネスとして理にかなっているという背景があります。

ちなみに、プログレードデジタルの考え方をお伝えさせていただくと、CFexpressにのみフォーカスしたカードを開発販売し、CFexpressカードがより多くのカメラやお客様に受け入れられるよう普及を図っていきたいと考えています。

――XQD対応カメラをCFexpressにアップデートした場合でも、CFexpressの速度は発揮されますか?

大木 :カメラでCFexpressの速度を発揮できるかどうかは、カードのコントロール主となるカメラに依存します。カメラの仕様書などをご確認いただきたいと思います。

ニコンZシリーズ、パナソニックLUMIX SシリーズはXQDカードとCFexpressに両対応している

――カメラがCFexpressの性能を活かせないのであれば、CFexpressを買うメリットがないのでは?

大木 :カメラで利用することだけを考えればそういうことになります。

ただし、CFexpressはPCで普及している技術を転用していますので、PCにデータ転送する際に大きなメリットが得られます。現在PCの内蔵記録ストレージはSSDが主流になってきていますが、そうしたSSDもCFexpressと同じ、より高速な読み書きが可能なNVMe仕様のSSDの採用にシフトしてきています。USB Type-C接続(Gen.2など)やThunderbolt 3など、高速なデータ転送に対応したCFexpressカードリーダーを利用すれば、こうした高速な読み書きが可能な内蔵ストレージのメリットを引き出すことができますし、XQDよりも約3倍の速さでPCへのデータ転送というCFexpressの利点を引き出すことができます。

下の表をご覧ください。32GBのRAW+JPEGデータを転送するのに、XQDでは1分37秒かかっていますが、CFexpressは37秒で完了しています。Thunderbolt 3対応リーダーを使えばさらに10秒程度の短縮が可能です。PCへのデータ転送の際にこの速度を一度体験したら、もう二度と元に戻れないのではないでしょうか?

さらにもう1点追加しますと、CFexpressとXQDの市場価格はほぼ同じくらい、もしくはCFexpressの方が安い例もあります。速度に対するコストパフォーマンスで考えれば、CFexpressのメリットはかなり大きいといえるでしょう。

CFexpressへのカメラ側の対応状況の違いはなぜ起こったのか

――各社で動作保証・確認がとれているCFexpressカードは限定的ですが、なぜ各社で対応しているカードや容量にバラツキがあるのでしょうか?

大木 :確かに分かりにくい状況になっています。大きな要因として理由を2つ挙げることができます。

ひとつめの理由は、CFexpress対応カメラと、CFexpressカードも初めての製品を同時に開発していたことによるものです。

パナソニックが昨年11月にLUMIX S1 / S1RでCFexpressへの対応を発表するまでは、CFexpress対応カメラも、CFexpressカードも市場で調達することはできませんでした。そのため、カメラメーカーはカードメーカーからの調達品を受けてカメラの開発を進め、カードメーカーはそれらカメラメーカーからのフィードバックを頼りに最終製品へのチューニングを進めていく必要がありました。

複数のカメラメーカーと複数のカードメーカーがマトリックス表のような相関関係で、全て同時進行に開発を進めていったのです。その結果、ファームウェアの公開やカメラの発売に対応が間に合わないカードが出てしまったといえます。カメラメーカーとカードメーカーの共同作業は、CFexpressカードに限らず常に行われていますので、今後徐々に解決されていくと考えています。

2つめの理由には、カメラ性能により対応CFexpressカードを選ばれる場合があることです。

連載の第2回でも述べましたが、メモリーカードにとってハードルが高いのは動画記録です。特に高精細動画では、継続的に高速で記録し続けなければなりません。したがって、同じCFexpressカードでもRAW動画記録などに適したカードが選択される必要があります。EOS-1D X Mark IIIは、スペック表で5.5KのRAW動画・60Pでの記録に適したカードを明示していますが、これが一例です。

SDカードでいえば、同じSDカードでもU3やV60など4K動画記録などのビデオスペックがあるのはこの理由によるものです。CFexpressカードにもVPG(Video Performance Guarantee)と呼ばれるビデオスペックが検討されていますので、いずれはSDのように、RAW動画に適したカードがVPGによって明確になっていくことになります。

以下の表は2020年3⽉時点での各社が対応を公開している内容をまとめたものです。2020年1⽉の各社カードが登場したばかりの頃から、だいぶ対応確認がひろがってきています。この表を参考にして、ご自分のカメラや使い方に適したカードを選んでいただければと思います。

キヤノン
EOS-1D X Mark III
静止画
キヤノン
EOS-1D X Mark III
(5.5K 60p RAW)
ニコン
Z 7 / Z 6
パナソニック
LUMIX S1R / S1
ProGrade Digital・GOLDシリーズ
120、256、512、1,024GB
×
120、256、512、1,024GB

120、256GB
×
120、256GB
ProGrade Digital・COBALTシリーズ
325GB

325GB

325GB
×
325GB
SanDisk・Extreme Pro
64、128、512GB
○(512GB)
×(64、128GB)

64、128、256、512GB
ソニー
Gシリーズ

128、256、512GB

128、256、512GB

128、256、512GB

128、256、512GB
LEXAR・Professional Cfexpress
128、256GB

128、256GB

128、256GB

128、256GB

――CFexpress規格として製造されているはずなのに、それぞれ違いがあるということですか?

大木 :もちろん、CFexpressという規格の枠組の中でメモリーカードは製造されています。しかしながら、双方ともに規格内とはいえカメラとカードの動作コミュニケーションにズレが生じ、PCでよくいわれるような“相性問題”が起こってしまっています。

その理由のひとつとして、先ほど申し上げた「カメラもカードも発売前の製品であったため」各メーカーの相関関係上、対応が間に合わないケースが生まれてしまったことにあります。

2つめは、これがメインの理由になりますが、CFexpress規格は、もともとPC向けに開発されたインターフェース/プロトコルを適用したメモリーカード規格であるということにあります。

PCの特性上、待ち時間や電力供給、耐熱処理などがカメラよりもかなり広い許容範囲をもっています。カメラは起動時に、PCのように数十秒も待ってもらえませんし、バッテリーも小さいので頻繁な電源のオンオフが必要となります。PCのようにファンを付けることもできません。したがって、CFexpress規格をカメラに適用する際に、より細かな動作仕様が必要になります。

それに伴い、CFexpress規格に適合したカードであっても、カメラできちんと動作するために、カメラメーカー各社の動作仕様に合わせてチューニングする必要があるのです。結果としてカメラの動作仕様とカードの最終チューニングのズレが生じたことにより、同じCFexpress規格カードでも違って見える場合があるといえます。

今回、パナソニックもニコンもキヤノンも、動作確認カードを自社サイトで公開していますが、これはSDカードではなかったことです。これまでお話した背景を理由に、動作確認カードを公開する必要性が高いから、各社とも公開しているのです。

しかしながら、先ほど申し上げたように、これは導入当初の問題で、カメラもカードも市場から調達できるようになっていけば、解決されていく問題といえます。PCでも相性問題は徐々に解消されていきますよね?

――SD UHS-IIカードも当初はトラブルが多かったと聞きます

大木 :SD UHS-II規格のカメラとカードが初めて発売されたときも、今回と同じような“相性問題”があり、とても苦労したのを覚えています。

SD UHS-IIの場合は、SD独自のインターフェースですが、UHS-Iとの切り替え、またUHS-II内にも切り替えがあり、その動作が非常に複雑な仕様となっています。この複雑な仕様のため、カメラとカードのコミュニケーションが時々うまくいかなくなり、UHS-IIカードなのにUHS-Iモードで動くなどの問題がありました。UHS-IIカードも発売からしばらくして、そのような“相性問題”はあまり聞かれなくなりました。カメラメーカーもカードメーカーも市場の製品を自ら入手して事前に対策を講じることができるようになったからです。

CFexpressカードの選び方とは?

――どのCFexpressカードを選ぶべきかは、ユーザーの使い⽅で変わるものでしょうか?

大木 :そうですね。まずは先の対応表を参考にして、自分のカメラに対応したカードを確認してください。その上で、速度や容量や価格などを参考にして、自分の使い方に合わせて選択するのが一般的だと思います。

カードメーカーの立場からいえば、私たちはカメラ性能を最大限に引き出すことを第一の目標として製品開発しておりますので、できれば、連写も動画も最高スペックを引き出せるカードを選択して欲しいと思います。

――リーダーはカードと同じメーカーで揃えるべきですか?

大木 :CFexpressカードリーダーということであれば、どのメーカー製でもCFexpress規格に準じたカードは使えなければなりません。その意味では、動作問題は心配する必要はないと思います。同じメーカーで揃えることのメリットは、開発の際に確実に相互の動作検証はしているはずですので、動作は安定していると考えて良いと思います。

各社のカードリーダー。左上から時計まわりにサンディスク「エクストリーム プロCFexpressカードリーダー」、ソニー「MRW-G1」、プログレードデジタル「USB3.2 Gen2対応 (CFexpress B/SD) ダブルスロット カードリーダー」、同「Thunderbolt 3専用 (CFexpress B)カードリーダー」

――PCIeのNVMe接続といえば発熱量の⾼さを連想しますが、デジタルカメラの⼩さな筐体で放熱⾯に問題はないのでしょうか?

大木 :確かに、PCでPCIe NVMe接続SSDを使用した場合に発熱量の高さが話題になっています。高速性能の飛躍的向上を考えると、発熱量が高いのも仕方がないともいえます。しかし実は、NVMe規格には温度コントロールのコマンドが備えられています。小さく放熱スペースやファンもないカメラには、このコマンドを踏まえてPCよりも厳しい温度コントロールをすることで発熱問題をクリアしています。

温度コントロールの話が出ましたので、カメラとカードの関係だけでなく、カード自体のシステム構造により発熱量が高くなり過ぎない方法論についてお話したいと思います。カメラ内でカードの温度が高くなるのは、カメラがカードを高速動作させるためにパワーをかけるからです。逆に、温度を下げるためにはパワーを下げ速度を下げる必要があります。この場合のパワーとは、“そのカード”が必要とするパワーです。

しかしながら、カードのシステム構造がそもそも高速なデータ処理に対応した設計であれば、相対的に小さいパワーで高速なデータの転送を実現できますし、熱くなりにくく、より長い時間幅で高速転送状態を維持することができます。カメラにとっても、それは消費電力が少なくて済みますし、発熱量の心配も少なく扱いやすいカードだということになります。そのための方法論が、よりシンプルな構造で書き込み速度の速いSLC(シングルレベルセル)メモリーの採用です。現在流通している多くのSSDではTLC(トリプルレベルセル)メモリーの採用が主流となっていますので、多くのCFexpressカードでもTLCメモリーが採用されていると思います。

SLCはカメラにとってもメリットの多いメモリーですが、どうしてもコストが高くなってしまうという面もあります。プログレードデジタルの考え方を一例にあげますと、プロやハイエンドユーザー機器の高度なスペックに対応するためにはSLC採用が最適と考え、COBALTシリーズを発売しています。ちなみにGOLDシリーズはTLCを採用しています。SLC採用の大きな理由は、持続的な高速性能ですが、その特性による省電力と低発熱も大きなメリットです。そのような視点も、CFexpressカード選択肢のひとつに加えていただけたらと思います。

――SLCメモリーとはどのようなメモリーなのでしょうか?

大木 :簡単にご説明します。メモリーカードに使用するフラッシュメモリーには数種類のタイプがあって、ひとつのセルに、2進法1桁(1bit)で記録するSLC、2桁のMLC(マルチレベルセル)、3桁のTLC、最近では4桁のQLC(クワッドレベルセル)まであります。桁数が多くなればなるほど、セル内のデータ量が多く、書き込みが複雑になるので記録は遅くなりますが、スペース効率が上がり、高容量化が可能になります。もちろん容量単価も下がります。

SLCとTLCで比較した下表をご覧ください。SLCはセルにデータがあるか・ないか、というシンプルな方法で「0」、「1」を書き込んでいきますので高速化が可能です。対してTLCは、データがあったとしても7種類の書き方があるので複雑になり、どうしても時間がかかります。読み取りの際に誤読エラーを起こさないように慎重に書き込む必要があるからです。

TLCを採用するカードもキャッシュ部分をSLC化するなどして高速化を図っており、高容量化しやすい特性と合わせて、CFexpressに限らずメモリーカードはTLCが主流になっています。SLC採用のカードは、容量の全エリアがSLCなので、最初から最後までずっと高速という特性を発揮することができます。

――CFexpressは速度⾯の優位性が際⽴つメモリーカードですが、デメリットはあるのでしょうか?

大木 :メモリービジネスに深くかかわってきた経験からすると、カメラに限らずデジタル機器の速度が向上することで、性能面でのデメリットが発生するとは思えません。インターネット、モバイルネットワーク、Wi-Fiでもそうですが、速度が速くなって不便だというコメントは聞いたことがないですよね?

強いてデメリットを挙げるとすれば、価格が高いことや消費電力が大きいことになるでしょうか。

価格面については、XQDと比較して現在の市場価格は同じか安いくらいと述べましたが、最高速である300MB/秒クラスのSD UHS-IIカードと比較しても同じか、むしろ安価な値段となっています。圧倒的な速度差を考えれば、「価格が高い」デメリットは既になくなっていると思います。

消費電力については、カメラ内でのカード記録に使われる電力消費は決して⼤きくはありません。では、どのような部分で消費電力が高いのかというと、センサーや背面モニター、ミラーレスカメラであれば、さらにEVFだと聞いています。EOS-1D X Mark IIIの仕様表によれば、バッテリー撮影可能枚数として、ファインダー撮影約2,850枚、ライブビュー撮影約610枚と記載されています。撮影枚数にして4.6倍の差があることになります。つまり、4.6倍の書き込み枚数よりも、背面モニターを点けっ放しにすることの方が4.6倍もしくはそれ以上の電力を消費する、ということになるわけです。この点で「CFexpressは消費電力が大きい? という疑問」についてもデメリットとはいえないと思います。

さらに言えば、CFexpressの高速な書き込み性能が、消費電力において大きなメリットになる可能性があります。CP+2017で、マイクロンジャパン(当時のレキサー部門)は、SD UHS-II対応のミラーレスカメラで最高速(当時)のSD UHS-IIカードと一般的なSD UHS-Iカードを使用した時のバッテリー消費量を比較し、結果としてSD UHS-Iカードの電力消費量が3倍以上程度多かったと発表していました。

ミラーレスカメラは、撮影後にカードへの書き込みが終わるまで、背面モニターやセンサーの電源が入ったままです。もし書き込みに時間がかかれば、その時間分だけ大きな電力を消費していることになります。CFexpressを採用することでデータの書き込みが速やかに完了し、撮影完了後に間を置かずにスリープモードに入ることができれば、バッテリーの持ち時間はより長くなる可能性があります。

参考までにですが、EOS-1D X Mark II(CFast/CFダブルスロット)は、EOS-1D X Mark IIIと同じバッテリーを使用していますが、仕様表を見るとファインダー撮影枚数が約1,210枚とあります。EOS-1D X Mark IIIは約2,850枚ですから、およそ2.3倍ほど増えていることがわかります。CFexpressの採用だけが理由ではないと思いますが、カメラの省電力化に貢献している可能性があります。

カメラ用メディアのこれから

――SDカードとの共存は可能なのでしょうか?

大木 :2〜3年先に共存できるか? という意味では、現行のSD UHS-IIの後継規格がSD ExpressになればYESですし、CFexpressになればNOということになるでしょう。

SDカードは、現時点において入門機から中堅機までのディファクトスタンダードとなっていますが、SD UHS-IIの後継規格は必ず求められると思います。PCの内蔵SSDの読み書き速度が2〜4GB/秒になり始めているときに、その読み書きスピードが最大でも200〜300MB/秒では遅すぎるからです。

参考:SD UHS-IIとSDexpressの速度差(連載第2回「CFexpress規格の誕生と詳細」より)

連載第1回に、デジタル機器の転送速度の速さは「タイムラグの短さ」と同義であると述べましたが、カードの転送速度がその他のデジタル機器より著しく「タイムラグ」が長かったら、退屈なデバイスとなり使われなくなってしまうリスクがあります。

また、連載第2回でもお伝えしているように、SD協会の提唱する後継規格SD Expressにはいくつかの大きな問題があります。その意味では、Type Bで普及が始まっているCFexpressは、Type Aも含めてSD後継規格の有力候補のひとつになったと考えています。

――全てのカメラはCFexpressを採用することになるのでしょうか?

大木 :この点に関しては、カメラメーカーが決める部分ですね。ユーザーの視点から言えば、メーカーやカメラによってカードの種類が異なるというのは正直不便です。少なくともインターフェースは統一して欲しいと考えています。

インターフェースの統一は、こうしたユーザーメリット以外にもメリットをもたらします。縮小傾向にあるデジタルカメラ市場で統一された規格が採用されることになれば、コントローラーやメモリーチップの汎用性が高まり、より大きなスケールメリットが生まれます。結果的に、メモリーカードの性能は安定し、互換性も高まることでしょう。参入メーカーも増えると思います。そしてなにより、カードの市場価格はより購入しやすい価格帯に落ち着いてくることになるでしょう。

個人的な見解ですが、入門機からプロ用機まで同じインターフェースが利用できれば、カメラメーカーにとっても開発生産性が高まるのではないか、と思っています。

――CFexpressは、カメラのこれからを、どう変えていくとみていますか?

大木 :メモリーカードはカメラの黒子のような存在です。目立つことなくカメラ性能やユーザビリティの向上に貢献していく。本当の意味で「目立たない」ということは、実際に写真や動画を撮影している際に、メモリーカードの存在を忘れてしまうくらいスムーズに動く状態ということです。

CFexpressの登場まで、連写はいつか止まるもの、高精細RAW動画の内部記録はできないもの、でした。それがRAW+JPEG連写でも止まらない、5.5K RAW動画でも内部記録が可能、ということになってくると、本当にカードの存在を忘れてしまう「完ぺきな黒子」になるかもしれません。その時には、デジタルカメラは今からは想像もつかないくらいの進化を遂げているのではないか?と思っています。

モバイルネットワーク業界で「5Gで世界が変わる」とよくいわれていますが、EOS-1D X Mark IIIのスペックを初めて見た時に、CFexpressはイメージング業界の「5G」の役割を果たしていると思いました。今後、各カメラメーカーからどのような信じられない新製品が発売されるのか、本当に楽しみにしています。

参考:5G対応スマートフォン。左がソニー「Xperia 1 II」、右はファーウェイ「HUAWEI Mate 30 Pro 5G」

――Xboxなどのゲームマシンでも記録メディアとして使われる可能性が報じられていますが、これからのリムーバブル記録メディアの主流になる可能性があるということでしょうか?

大木 :CFexpressは、現在市場で発売されているType B以外にも、Type A、4レーンでSSDと同等の速度が出せるType Cが提案されています。速度やサイズの違いでバリエーションがつけられていますので、イメージング市場を超えてリムーバブルメディアとしての活⽤の幅は十分にあります。もしそうなれば、さらに大きなスケールメリットが生まれますね。

CFexpressの規格バリエーション(連載第2回「CFexpress規格の誕生と詳細」より)

連載終了にあたって

新しいメモリーカード規格CFexpressについて、掘り下げてきた当連載ですが、ここで⼀旦の完結となります。連載中もCFexpress対応カードの登場、各社の対応・更新など、CFexpressをめぐって⼤きな動きがありました。

連写⾯での優位性に注⽬が集まりがちなCFexpressですが、その⾼速な読み書きは画像データの記録を快適にし、カメラの動作を軽快にするだけではなく、写真を取り込んで保存し、いちはやく管理と編集体制に移⾏できるなど、ワークフローそのものを変える⼒を有しています。

もちろん動画記録での6K、8Kといった、次世代の記録品質を⽀えていくメディアとしても、多くの期待がかけられています。そうした新しい映像制作時代への⼊り⼝を、CFexpressとEOS-1D X Mark IIIはユーザーに対して開きました。これは、35mm判センサーを搭載したカメラによる映像制作の歩みとして、新しいエポックとなる出来事ではないでしょうか。

⼤げさではなく5.5K 60pのRAW動画であれば、⽤途によってはこの映像からの静⽌画切り出しでも問題ないシーンが出てくることでしょう。それは、静⽌画と動画の垣根が低くなってきていることも⽰しているかのように思われます。

まだまだ対応カメラとカードは多いとは⾔えない状況ではありますが、当連載がユーザーやこれから対応製品の購⼊を検討されている皆様にとって、意義ある記事となっていましたら幸いです。

デジカメ Watch編集部