特別企画

もう自作する必要はない!シグマ14-24mm F2.8専用のリアフィルターを試してみる

今回試用した「Haida Rear Lens ND Filter Kit」。Haidaは海外では知られたフィルター製品のブランドだ。

写真用品のハクバ写真産業から「Haida Rear Lens ND Filter Kit」が発売になった。レンズ前面ではなく、後端に取り付けるタイプのNDフィルターセットで、「SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art SONY Eマウント」専用となっている。

ちなみに聞きなれない「Haida」ブランドだが、海外では多数のラインナップを手がけていることでよく知られてるブランドだ。例えば75mm・100mm・150mm幅の角形フィルター用ホルダーも用意され、いずれもスロットイン、もしくはマグネット式の丸型フィルターを組み合わせる機構を備えている。また各フィルター径対応の星景用フィルターや、可変NDフィルターもある。

「Haida Rear Lens ND Filter Kit」に含まれるNDフィルターのNDとはNeutral-densityの略であり、演色性において中庸で、かつ濃度を持ったフィルターのことである。つまり画像の色合いを変えることなく、レンズに入る光の量を減らすことができる。結果、より絞りを開けてボケを活かしたり、被写体を大きくブレさせて時間を表現することができる。

また動画においても適切な感度とシャッター速度を選ぶために活用されており、現代のデジタルフォト、動画において必須のフィルターであると言える。

パッケージ同梱物。そのまま撮影現場で使えそうなしっかりしたケースに収まっていた。

キットの内容は露出倍数の違う4種のNDフィルター、プラスチックケース、レンズに取り付けるための取り扱い説明書、露出倍数の早見表である。なお外箱は頑丈なボール紙製で蓋はマグネットで開閉できるようになっており、キットを長くきれいに使うために配慮されている。

キットに含まれるNDフィルター。すでに「SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art」に合わせてカットされている。自作リアフィルターでありがちなゼラチンではなく、画質面で有利な光学ガラス製だ。

4種のフィルターは全てガラス製。写真では表面の色が違って見えるが、これはコーティングの反射によるもので、ひと目でフィルターの違いが分かるようになっている。透過した光はあくまでニュートラルで、画像に色合いの変化をきたすものではない。

濃度はそれぞれ0.9、1.2、1.8、3.0となっている。濃度を表記している場合、0.3が絞り1段分に相当するので、それぞれの露出倍数は絞りに換算すると3段、4段、6段、10段となる。

「SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art」のレンズ前部。いわゆる出目金レンズでは前面にフィルターを付けられない。
「SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art」のレンズ後端部。レンズフィルターはここに取り付ける。
キット同梱のNDフィルターを取付後の状態。
樹脂製ピンセットを用意すると良い。

取り付け・取り外しは極めて簡単である。「SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art」のレンズ後端にはフィルターをセットする枠があるので、そこに落とし込み白い指標のついたレバーを時計回りにロックするだけだ。

本フィルターの脱着は、本来指先で行えるものだが指紋をつけないために、樹脂製のピンセットを用意するといい。ことに外すときは樹脂ピンセットを使う方が楽である。

また、「SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art」のフィルター枠はゼラチンやアセテートのシートフィルターを装着することを想定したものであるが、シートフィルターはユーザー自身でカットせねばならず、また高価であること、風で飛ばされやすく傷つきやすいことなど、コスト面においても使い勝手においても光学ガラス製である本フィルターの価値は高い。

フィールドでの交換作業。ブロワーもあった方がよい。

テスト(1)

①NDフィルターなし
α7R III / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art / 18mm / 絞り優先オート(1/40秒・F5.6・-0.7EV) / ISO 100
②ND0.9
α7R III / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art / 18mm / 絞り優先オート(1/3秒・F5.6・±0.0EV) / ISO 100
③ND1.2
α7R III / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art / 18mm / 絞り優先オート(0.6秒・F5.6・±0.0EV) / ISO 100
④ND1.8
α7R III / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art / 18mm / 絞り優先オート(2.0秒・F5.6・±0.0EV) / ISO 100
⑤ND3.0
α7R III / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art / 18mm / 絞り優先オート(25秒・F5.6・±0.0EV) / ISO 100

滝や渓流の撮影は、水の流れを表現する際にNDフィルターの使い方として最も一般的なシーンであろう。長時間露光とすることで水の流れを表現する。時間による変化を狙うので時間表現であるとも言える。そこで滝を題材にNDフィルターの効果をテストする。

絞りはF5.6として、NDフィルターを交換することで露光時間の変化を得た。絞り優先オート、オートホワイトバランス、ISO 100、絞りF5.6が共通データだ。撮ったままのJPEG画像であり補正はしていない。

まず被写体間の色相のばらつきがなく、ニュートラルな色合いでフィルターが色に対して影響を及ぼしていないことがわかる。

次に露出そのものを見るとフィルターが濃くなっていくに従って画像が暗くなってゆくことがわかる。明るさは斬減してゆくので、これはカメラの露出制御によるものだ。一般的にレンズから入る光の量が減る、つまり暗い環境で撮った写真は暗く表現される方が自然であるからだ。デジタルカメラの場合、撮影結果をみながら判断すれば良いので、この特性は問題にはならない。フィルムカメラを使用する際には付属の換算表に従って露光時間を決定するといいだろう。

さて、表現として観察すると②0.3秒の露光でも水の流れが柔らかく表現できている。より柔らかさを求めるなら④2秒もしくは⑤25秒だ。しかしここで、フィルターなしのときの露光時間は1/40秒であるので、F22まで絞れば0.4秒の露光となるので十分に水の流れを柔らかく表現できてフィルターは要らないことになる。

だが、問題は絞り値なのだ。F22では小絞りボケにより解像力が低下する。自然風景には緻密で立体感のある描写が良い。

このテストでF5.6を選択しているのは、一般に最高の解像力が出る絞り値がF5.6だからである。つまりNDフィルターを使うことによって任意のF値と露光時間を選べる幅を広げることができるのだ。

テスト(2)

①フィルターなし
α7R III / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art / 16mm / 絞り優先オート(1/25秒・F8.0・±0.0EV) / ISO 100
②ND1.8
α7R III / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art / 16mm / 絞り優先オート(2.0秒・F8.0・±0.0EV) / ISO 100
③ND3.0
α7R III / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art / 16mm / 絞り優先オート(25秒・F8.0・±0.0EV) / ISO 100

次により引いたシーンで比較した。絞りはF8としてパンフォーカスを狙っている。ここで比較するのは、ND1.8、ND3.0である。

全体を見たときに両者に差は無いように見える。しかし滝壺の水の流れが緩やかな部分に注目すると25秒での描写の方が柔らかく好ましい。これは単純に25秒の方が良いという意味では無い。水の流れ、即ち動体の速度によって好ましく見える露光時間が変わって来るということだ。流れの速い滝の部分のみであれば2秒で十分といえる。

写野に含まれる動体の速度を考えながらフィルター選びをすることが必要であり、キットから複数の濃度を選べることは大事なことだ。

NDフィルターを使用した作品

ND1.8
α7R III / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art / 16mm / 絞り優先オート(25秒・F8.0・+0.3EV) / ISO 100

渓流沿いの小さな花を撮る。ボケを活かすためF4とした。ND1.8を使い露光時間を0.3秒とした。花が風でぶれることを防ぐためと渓流を柔らかく表現するためだ。渓流が柔らかく表現されることで花がより浮き立つ表現となった。

ND3.0
α7R III / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN Art / 14.8mm / 絞り優先オート(25秒・F22・±0.0EV) / ISO 64

海を撮ることは自分のライフワークである。そのため筆者にはNDフィルターは必須のアイテムだ。長時間露光で波が溶けてゆくような表現を求めている。潮騒から離れて静寂な空間があるように見えるからだ。

まとめ

「Haida Rear Lens ND Filter Kit」に同梱された4種類の濃度は一般的なフィールド撮影において過不足のない組み合わせである。

今回ND0.9とND1.2の出番は少なかったが、朝夕や暗い曇りの日などには有用だ。しかし、超広角ズームレンズ専用であることから長時間露光による風景撮影を目的とする場合がほとんどのはずだ。その点からすれば、濃度はもっと濃いものが欲しい。ND4.0やND5.0といったさらに濃い濃度を含んだキットも欲しいところだ。

だが、専用品ということもあり、使い勝手は抜群でシートフィルターのように取り扱いに気を使うことは無用だ。指紋がついてしまってもレンズクリーナで簡単に除去できる。使い勝手が良く使う機会が増えてこそ、価値ある機材なのだ。

それゆえ、NDのみでなく、光害カットやソフトフォーカスなど、様々なフィルターが展開されてゆくことを大いに期待したい。

協力:ハクバ写真産業株式会社

茂手木秀行

茂手木秀行(もてぎひでゆき):1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、マガジンハウス入社。24年間フォトグラファーとして雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」を経て2010年フリーランス。