新製品レビュー

ソニー α7C II

スナップに使いたいコンパクトなフルサイズ機 α7CRとの性能差は?

α7C II + FE 28-60mm F4-5.6

ソニーから10月13日に発売された「α7C II」は、手のひらサイズながら最新の被写体検出機能を有し、α7 IVと同等の約3,300万画素フルサイズセンサーを搭載するミラーレスカメラだ。先代のα7Cから3年の月日を経てイメージセンサー、画像処理エンジン、操作系をフルリニューアルし、コンパクトな高性能機として生まれ変わった。実機を試用する機会を得たので、「α7C II」の特徴や使い心地、画質などについてレビューしていきたい。

α7C IIの位置づけ

現在、ソニーのフルサイズミラーレスカメラは製品の特徴により7つのジャンルに分類されている。α7C IIはその中の「Compact」シリーズに含まれ、2020年10月発売のα7Cの後継機にあたる。

α7Cはエントリーフルサイズ機としてベストセラーになったα7 III(2018年発売)と同等の機能を持たせながら大幅に小型化した兄弟関係にあったが、本機もまたα7 IV(2021年発売)と兄弟関係にあるカメラだ。

ただし、本機はα7 IVにはないAIプロセッシングユニットによる高い被写体検出機能も有している。AF性能では兄を大きく凌駕していると言えるだろう。

他社でライバル関係になりそうなのはキヤノンのEOS R8だろうか。EOS R8もまた先に発売されていた上位モデルEOS R6 Mark IIの高い性能を踏襲しながら小型化を実現したモデルであり、α7C IIと似た境遇にあるカメラだ。

外観

α7C IIの外観は先代のα7Cに比べて、操作面でも大きな改善が図られている。上位機と同じ前ダイヤルの追加やカスタムボタン(C1)の増設、グリップの強化などが主なトピックだ。

操作系の進化のほか、ファインダーやバッテリー、グリップエクステンションへの対応などはα7C IIと同時に発表されたα7CRと全く同じと言って良いため、先日公開したα7CRのレビュー記事を参考にして欲しい。

カラーバリエーションについてもα7CRと同様で、ブラックとシルバーの2色展開となっている。トッププレートの色が異なるだけではあるが、シルバーの方がより軽やかで街に気軽に持ち出したい気持ちになる。

リストストラップでふらっと撮影に出かけたいフルサイズ機だ

なお重量はメモリーカード、バッテリーを含めて約514gであり、α7 IVより約144gも軽量だ。ファインダーが左肩に収められているためボディの形状も凹凸が少なく、バッグへの収まりも抜群だ。

軽快なフルサイズスナップ機として

ここからはα7C IIの最大の特徴でもある「Compact」を活かして、小型レンズと共に街をスナップした作例を中心に本機の描写性能を紹介していきたい。

今回の作例は、特に注釈がなければ、ノイズ軽減やDRO(Dレンジオプティマイザー)、レンズ補正などの設定はデフォルトのままでホワイトバランスもオートで撮影したJPEGだ。クリエイティブルックはST(彩度を+1)の設定としている。

α7C IIに搭載された約3,300万画素の裏面照射型イメージセンサー「Exmor R」は、冒頭でも紹介したとおりα7 IVと同等のものであり、画像処理エンジンも同じ「BIONZ XR」が採用されているため、得られる絵はα7R Vと同等だと思って良いはずだ。約3,300万画素イメージセンサーから得られる画像のサイズは7,008×4,672ピクセルと十分なサイズ感であり、A2プリントにも十分耐えられる。

いつも私が定点観察用に撮影している札幌駅南口をFE 28-60mm F4-5.6で撮影。微細な模様が連続する壁面もしっかり描けている解像感だ
α7C II/FE 28-60mm F4-5.6/28mm/絞り優先AE(1/500秒・F8・±0EV)/ISO 100/WB:オート
約6,100万画素のα7CRと共に使用していたが、画面を拡大しなければ解像感の違いはなかなか分からない
α7C II/FE 28-60mm F4-5.6/28mm/絞り優先AE(1/250秒・F7.1・-0.7EV)/ISO 100/WB:オート

少し気になったのがハイライト側の粘りが今ひとつ足りないと感じるシーンがいくつかあったことだ。特に日中に日陰から明るい方向へ向かって撮る場合には、若干オーバー目の露出になることがあり、それと相まってハイライトがあっさり飛んでしまうことがあった。

同シーンで厳密な比較はしていないがα7CRではこのようなシーンでも上手く処理できており、ハイライトの階調も豊富に残っていたような印象だ。輝度差が大きなシーンでは、露出は気持ちだけアンダー気味に撮りながら様子を見た方が良いかもしれない。

露出補正±0で撮影。難しいシーンだが葉のハイライトの一部が飛んでいる
α7C II/FE 40mm F2.5 G/40mm/絞り優先AE(1/400秒・F2.5・±0EV)/ISO 100/WB:オート
このようなシーンでもシャドウ側を過剰に持ち上げるような結果になることが多かった
α7C II/FE 28-60mm F4-5.6/28mm/絞り優先AE(1/160秒・F6.3・±0EV)/ISO 100/WB:オート

α7C IIで街を撮り歩いた感想としては、FE 28-60mm F4-5.6やFE 40mm F2.5 Gといった200g以下の軽量レンズとの相性が抜群に良いと言うことだ。リストストラップと小型バッグだけでサクサクと撮影できるのがとても心地よい。

もちろん、いざとなれば別売のグリップエクステンションGP-X2を装着して重量級GMレンズを付けても、しっかりと応えてくれるポテンシャルも持っている。

本機にはバリアングルモニターも搭載されているため、小型ボディを活かしてあらゆるアングルから被写体を快適に狙えるのも良い。

水面スレスレまで腕を伸ばして池の映り込みと共に撮影。チルトモニターでは難しい縦構図のローレベル撮影も簡単だ
α7C II/FE 28-60mm F4-5.6/60mm/絞り優先AE(1/125秒・F8・±0EV)/ISO 200/WB:オート

ボディ内手ぶれ補正はα7Cの5段、α7 IVの5.5段を大きく超える5軸7段の強力な補正効果を持つのもポイント。個人的にこれまでのソニー機の5.5段までの手ぶれ補正はあまり効いた感触がなく、手持ちでのスローシャッター撮影は難しかったのだが、本機であれば1秒を超えるスローシャッターも手持ちで撮影しようと思える精度だ。

小さく、光学手ぶれ補正を持たないレンズを使ってもボディ側でこれだけ強力な補正を行ってくれるのは心強い。

スナップ中にたまたま見つけた落ち葉の揺らめきを撮影。当然三脚は持っていないので手持ちスローシャッターにトライした。周辺が僅かにブレているが手持ち2.5秒でこれだけ撮れれば十分だろう。ND16を使用
α7C II/FE 24-70mm F2.8 GM II/24mm/シャッター優先AE(2.5秒・F4.5・±0EV)/ISO 100/WB:オート

手ぶれ補正に関してはα7CRも同じ7段の補正効果を有するが、使い比べてみるとα7CRの方が効いていると感じることが多かったイメージだ。α7CRにはグリップエクステンションGP-X2を装着しており、しっかりグリップできていたことがその要因ではないかと考えている。本機でもGP-X2を装着できるため、できるだけブレのない写真を撮りたいなら利用を検討してみるのが良いだろう。

高感度性能は常用ISO感度がISO 100~51200となっている。夜の街を撮った結果ではISO 6400くらいまでは問題なく十分使えるイメージだが、ISO 12800を超えるとノイズは上手く処理されているものの、シーンによっては細かなディティールが徐々に潰れてくる。

ISO 5000で撮影。シャドウを潰すことなく、壁面の細かなディティールも上手く残せている
α7C II/FE 40mm F2.5 G/40mm/絞り優先AE(1/80秒・F4.5・±0EV)/ISO 5000/WB:オート
暗い路地に咲く花をISO 12800で撮影。ノイズは上手く処理されているものの、このような光線状況の悪いシーンだとディティールや色が抜けているように見える
α7C II/FE 40mm F2.5 G/40mm/絞り優先AE(1/80秒・F3.2・+0.3EV)/ISO 12800/WB:オート

AIプロセッシングユニットによる被写体検出機能とAF

続いて、AIプロセッシングユニットによる被写体検出機能について、様々なシーンで撮影してみた結果を紹介していこう。本機能は同時発表されたα7CRと同等の性能だと考えられる。先日公開のα7CRのレビュー記事にも類似のシーンが多くあるので合わせて参考にして欲しい。

α7C IIが対応する検出対象は、人物、動物、鳥、昆虫、車、列車、飛行機とかなり幅広い。α7Cでは人物と動物しか検出できなかったことを考えると劇的な進化だ。

位相差AF用の測距点は画面のほぼすべてをカバーする最大759点であり、リアルタイムトラッキングで動く被写体を掴み続けることもできるため、被写体がどこにいても画面全域で高精度なAF撮影が可能だ。

AIプロセッシングユニットを搭載したことで人物については骨格レベルで認識を行うため非常に高精度だ。1対1のポートレートならほとんど完璧にピントを掴み続けてくれると考えて良いだろう。次の写真のように画面内に複数の人物がいるシーンでもフォーカスエリアを大まかに指定することで被写体を掴み続けることが可能だ。

よさこいチーム 恵庭紅鴉に協力いただき、練習風景を撮影させてもらった。このくらいの密集度ならかなりの精度で追ってくれる。ただし、激しく動いたり他人と交差することが続くと集団内の認識は難しくなる
α7C II/FE 70-200mm F2.8 GM OSS II/178mm/シャッター優先AE(1/1,000秒・F2.8・+0.3EV)/ISO 320/WB:オート

動物の認識も非常にスムーズで犬、猫はもちろん野生の小動物や馬や牛といった面長の動物も瞳までしっかりと認識してくれた。

FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSにエクステンダーを付け、F9の暗いレンズで撮影したが全く問題なく瞳を認識。普段野生動物の撮影に慣れていなくてもレンズを向ければ簡単に撮影出来る
α7C II/FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS+SEL14TC(x1.4テレコンバーター)/840mm/シャッター優先AE(1/500秒・F9・-0.3EV)/ISO 12800/WB:オート
馬も問題なく瞳まで検出してくれた
α7C II/FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS+SEL14TC(x1.4テレコンバーター)/840mm/絞り優先AE(1/500秒・F9・±0EV)/ISO 500/WB:オート

α7Cにはなかった昆虫認識では、トンボを試したところ、確かに認識はしてくれるのだが、アップにすると胴体や顔の奥にピントが合うシーンが多かった。α7CRでも同様の傾向が見られたので、このあたりはもう少し精度アップを期待したいところだ。

ほとんど気にならないのだが、良く見ると顔と胴体の付け根あたりにピントが来ており若干後ピン気味だ。トンボは多くのシーンでこのような傾向が見られた
α7C II/FE 40mm F2.5 G/40mm/絞り優先AE(1/800秒・F2.5・±0EV)/ISO 100/WB:オート

乗り物として飛行機と列車も試してみた。これらもα7Cにはなかった項目だ。

飛行機は非常に精度が良く、コックピットが見える状態ならそこを狙ってピントを合わせてくれた。以下のように、被写体がかなり小さくなった状態でも半押しだけでトラッキング状態を維持することができる。

離陸から、飛行機が小さくなるまでしばらくトラッキングをし続けたが全く問題なく被写体を掴み続けることができた
α7C II/FE 70-200mm F2.8 GM OSS II/200mm/絞り優先AE(1/4,000秒・F2.8・±0EV)/ISO 100/WB:オート
真下からの飛行機もしっかり認識
α7C II/FE 70-200mm F2.8 GM OSS II/200mm/絞り優先AE(1/2,000秒・F4・±0EV)/ISO 100/WB:オート

α7CRではトラッキング開始直後に上手くいかなかった列車も、α7C IIでは全く問題なく認識できている。列車の先頭部分を一度掴んでしまえば被写体が画面の中を左右に移動しても追い続けられるので非常に便利だ。

ここから連射開始。あとはシャッターを押し続けるだけで先頭部分を掴み続けてくれる
α7C II/FE 70-200mm F2.8 GM OSS II/200mm/シャッター優先AE(1/1,000秒・F4・+0.3EV)/ISO 100/WB:オート
画面の左から右へ迫ってくる被写体にピントを合わせ続けるには高度な技術が必要だったが、被写体認識とトラッキングを組み合わせれば誰でも簡単に撮れてしまう
α7C II/FE 70-200mm F2.8 GM OSS II/200mm/シャッター優先AE(1/1,000秒・F4・+0.3EV)/ISO 100/WB:オート

ただし、被写体検出を使う時はあらかじめ検出対象をセットしておく必要があることに注意だ。EOS R8のように検出対象を自動にすることができないため、切り換えにもたつくと咄嗟のシャッターチャンスを逃してしまうかもしれない。検出対象の切換をスムーズにできるようにボタンやメニューをカスタムしておくのもおすすめだ。

まとめ:正常進化を果たした新世代のコンパクトフルサイズ

以上、α7C IIを実際に使用したインプレッションをお届けした。

先代のα7Cから比べると、α7C IIは「Compact」のコンセプトをしっかり継承しながら、画質、AF、操作性など多くの面で性能が向上している。

個人的に3年前のα7C登場時は、動画を強く訴求していたようなイメージがあったが、α7C IIはよりしっかりと静止画を撮れる方向へ進化してくれたのではないかと感じた(もちろん動画機能も大きく進化しているが)。

例えば、前ダイヤルの追加や強化されたグリップは写真を撮るユーザーにとってはとても嬉しいアップデートであり、対象が増えた被写体認識とトラッキング性能の向上は初~中級者が新たな被写体にチャレンジするハードルを大きく下げてくれるありがたい機能だ。

今まで大きなα7系ボディを使っていたユーザーの乗り換え/サブ機としての利用はもちろんだが、私としては、α6000系のAPS-Cユーザーからのステップアップや、これから写真をしっかりはじめたいエントリーユーザーが使うと、写真がより楽しく感じられる1台になるのではないかと感じた。

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワークショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主宰。ライフワークは写真をより楽しむための情報を発信すること。2021年より北海道に移住して活動中。