新製品レビュー

「α7CR」「α7C II」の動画新機能を紹介

小型ボディに4K 60p、S-Cinetone、イントラ記録など網羅

左からα7C II、α7CR

ソニーがミラーレスカメラの新モデル「α7C II」と「α7CR」を10月13日に発売した。静止画機能に関するレポートは別記事をご覧頂くとして、ここでは動画面の進化を解説する。

シリーズ初号機の「α7C」が登場したのは2020年10月。機種名の「C」はコンパクトのことで、35mmフルサイズ機ながら従来のα7シリーズよりも小型なことで人気となった。

α7Cの直接の後継モデルはα7C IIで、有効画素数が約2,420万画素から約3,300万画素になった。α7CRはその高画素版という位置づけで、約6,100万画素のイメージセンサーを採用する。実勢価格はα7C IIが29万5,900円前後、α7CRが44万9,900円前後だ(いずれも税込)。

α7C IIにキットレンズのFE 28-60mm F4-5.6を装着したところ
α7CR。同じくFE 28-60mm F4-5.6を装着

クロップだが4Kで60pを実現

動画機能はα7C IIとα7CRでほぼ共通となっており、収録フォーマットやカラー関係のモードも同じである。そのため、記事中のスクリーンショットや作例はα7C IIのものを掲載する。

動画モードで録画中の画面

LongGOP形式の最高画質のモードはXAVC HS 4Kで、60p 4:2:2 10bit(200Mbps)となっている。α7CはXAVC S 4Kで30p 4:2:0 8bit(100Mbps)が最高だったので、60pの達成に加えて、色サンプリングと色深度も情報量が増えた。

記録方式のメニュー
記録設定のメニュー(XAVC HS 4K選択時)

ただし、4K 60p記録はフレームがクロップされ、α7C IIはSuper 35mm相当に、α7CRは焦点距離の約1.2倍相当の画角にそれぞれ狭まる点に注意したい。4Kでフルフレームで撮影できるのは30p以下のフレームレートとなる。

30pに対して60pはより滑らかな映像になるので、動画投稿サイトなどでも見かけるようになった。特に動きの速いシーンでは効果的だ。

また60pのキャプチャを24pで記録することで、2.5倍のスロー映像を作り出せるメリットもある(S&Qモードにおいて)。従来機もHDであれば同様のスローは作れたが、本編が4Kだとスロー部分だけ画質が落ちてしまうのが難点だった。

S&Qモードの設定でスローモーションにしたところ
S&Qモードで2.5倍のスローで記録したサンプル。キャプチャは60pなのでSuper 35mmにクロップされている

XAVC HS 4Kの通常撮影のサンプルも掲載する。XAVC HS 4K選択時は、フレームレートは60pと24pのみ選択可能(XAVC S 4Kは30pもある)。XAVC HS 4Kでクロップ無しで撮影するため、下の作例は24pで記録している。夜景のシーンはISO 6400の高感度撮影だが、なかなか綺麗に収録できいる。

XAVC HS 4K 24pのサンプル

イントラ記録にも対応

加えて新モデルでは従来機で不可能だったイントラ記録が可能になった。XAVC HSやXAVC SといったLongGOP形式は容量を削減するためにフレーム間圧縮を使っているが、編集時にマシンへの負荷は高めになる。

イントラ形式を選択したところ

イントラ記録はフレーム間圧縮を行わず、フレーム毎に独立しているのでマシンの負荷が比較的低くなり、編集がしやすい。また情報量も豊富なのでカラーグレーディングや合成といった高度な編集にも向いているフォーマットとなる。

イントラ形式はXAVC S-Iと呼ばれており、4KとHDに対応している。最高画質は60p 4:2:2 10bitでビットレートは600Mbpsにもなる。そのため、XAVC S-Iで記録するにはV90以上のSDXCメモリーカードが必要となる。

イントラ形式では「4:2:2 10bit」の部分は固定となる

なお、4K 60pでクロップされる仕様はイントラ記録でも同様となっている。

人物向きのピクチャープロファイルを搭載

発色や階調を設定するピクチャープロファイルでは、新たに「S-Cinetone」(PP11)が搭載された。同社のプロ向けシネマカメラで採用されていて、人物のスキントーンの表現に優れるモードとなっている。

S-Cinetoneの設定画面。彩度や色相なども調整できる

ソニーによると、他のピクチャープロファイルに対してフィルムや静止画に近い画作りになっているという。人物の動画撮影を想定していて、シネマライクに撮りたいならチェックしたいポイントだ。

なお、α7Cに無かった機能として「美肌効果」が追加された。強さは3段階から選べる。

美肌効果の設定画面

ユーザーLUTに対応

映像をフラットなコントラストで記録しておき、編集時に編集の自由度を高めるLog撮影には引き続き対応している。

Log撮影の機能は前モデルから引き継いでいる

今回新たに、Log撮影時にLUTファイルをカメラに転送しておいて撮影時に仕上がりを確認できる「ユーザーLUT」機能を新搭載した。好きなLUTでの仕上がりを確認しながら撮影できるようになった。

自作のLUTをユーザーLUTで登録したところ

加えて、転送したLUTをピクチャープロファイルとして使う「PPLUT」機能も利用できるようになった。こちらは、撮影時にLUTを適用した状態で記録されるので編集ソフトでLUTを適用する必要が無い。

LUTは公開しているWebサイトで入手したり、DaVinci Resolveなどのソフトで自作すれば画作りの自由度が高まる。今回は自作のブリーチバイパス風のLUTを転送して、その完成形を確認しながら撮影した。

作例は、後からS-Log3のフラットな素材と標準的なビデオガンマのITU709で比較するため、PPLUTは使わずS-Log3で収録して編集ソフトでLUTを適用した。

自作のLUTを適用したサンプル。「S-Log3」は未編集の素材。「ITU709」は参考までに標準的なビデオガンマにしたもの

画作り設定が「クリエイティブルック」に

また画作りの設定機能では「クリエイティブルック」を新搭載した。従来の「クリエイティブスタイル」をリニューアルしたもので、静止画のほかに動画の絵作りにも使える(ピクチャープロファイルとの併用不可)。

クリエイティブルックの設定画面

標準の仕上がりの「ST」をはじめ、人物向きの「PT」やマットな質感の「IN」、透明感のある「SH」など10種類を搭載している。ソニーの最新の絵作りを利用できるようになった。

クリエイティブルックの「IN」で撮影したサンプル。コントラストと彩度が抑えめの描写になる

フォーカスマップを搭載

α7Cに無かったものとしては、「フォーカスマップ」機能も搭載された。ピントの合焦位置をグラフィカルに表示するシステムだ。

後ボケ部分が寒色、前ボケ部分が暖色のドットで表示される。その間のドットの無い部分が合焦位置となる。AF時も使えるが、MF時に便利な機能となっている。

フォーカスマップの表示例

ただし位相差AF対応レンズでのみ使用できる機能なので、マウントアダプター経由でMFレンズを使うといった場合には使用できない。

まとめ

4K 60pや4:2:2 10bit記録、ユーザーLUT機能など、α7Cシリーズが本格的な動画制作に対応してきたといえる2台となる。

とはいえ動画性能だけを考えると、同社フルサイズの小型機ということでは「VLOGCAM ZV-E1」に軍配が上がる。ZV-E1はクロップ無しの4K 60p記録(4:2:2 10bit)に加えて、LongGOP形式のみになるが4K 120pにもアップデートで対応した。さらにズームレバーや高性能マイクの搭載もあるので悩ましいところではある。

ただZV-E1は動画に特化したところがあり、EVFとメカシャッターが非搭載(同調速度が最速で1/30秒)だったり、前ダイヤルの省略も写真撮影では使いづらい。また有効画素数が約1,200万と少なめなのも気になるところ。

その点でα7C IIとα7CRはメカシャッターの搭載や操作系などが”きちんとした写真のカメラ”となっているのがポイントだろう。動画のみならず、静止画もハイクオリティに撮影したい人にはバランスの良いパッケージングと言えそうだ。

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。