新製品レビュー

PENTAX KF

久しぶりに発売されたデジタル一眼レフカメラの新製品

2022年11月に発売されたリコーイメージングの「PENTAX KF」は、APS-Cサイズセンサーを搭載したデジタル一眼レフカメラになります。近年主流となっているミラーレスカメラではなく、「デジタル一眼レフカメラ」です。

現在のところ、APS-Cサイズデジタルカメラとしては本機「PENTAX KF」の上位機種として「PENTAX K-3 Mark III」があります。つまり本機「PENTAX KF」は、エントリーモデルのカメラということになるかと思います。しかし、そのスペックはエントリーというには、あまりにも高度なものがありました。

ペンタックスブランドには、エントリーモデルとして、本機「PENTAX KF」の前に「PENTAX K-70」がありました。実質、「PENTAX KF」は「PENTAX K-70」の後継機ということになりますが、スペックを見比べると驚くほどその内容は同じ。しかし筆者は、「PENTAX K-70」の時点でエントリーモデルのデジタル一眼レフとしてはすでに完成の域に達していると考えています。ですので、今回は比較はそこそこに留め、素直に「PENTAX KF」のスペックを確認していきたいと思います。

また、本稿では独断で本機をエントリークラスと呼んでいますが、ペンタックスは本機をスタンダードクラスと呼んでいます。以下読んでいただければ、そうしたところも理解できるのと思いますので、よろしくお願いします。

外観

まずは、カメラボディのサイズ感から。本機「PENTAX KF」の高さ×幅×厚さ・質量(バッテリーとカード含む)は、約125.5×93×74mm・約625g(本体のみ)となっており、これは質量が「PENTAX K-70」よりわずかに軽い程度で、ほとんど同じ。

同じくエントリークラスのミラーレスカメラと比べると少し大柄になるものの、クイックリターンミラー機構のある一眼レフであることを考えると、構造上十分に小型軽量なカメラと言えると思います。しかも、−10度耐寒動作保証の防塵・防滴構造です。

ちなみに、外観のデザインは、違うところを探すのが難しいほど「PENTAX K-70」に酷似しています。というより、同じと考えてもらって問題がないでしょう。

そして、デジタル一眼「レフ」カメラであるところの肝となるファインダーです。当然ですがミラーレスカメラなどに搭載されている、EVF(エレクトリック・ビュー・ファインダー)などではなくホンモノの光学ファインダーになります。

視野率は約100%、倍率は約0.95倍(FA50mmF1.4・∞)となっており、上位ミラーレスカメラと比べても遜色のない、立派なスペックのファインダーだと言えます。ミラーレスカメラのEVFでこれを達成するのと、一眼レフの光学ファインダーでこのスペックを達成するのは、なにしろ難易度が違います。

とは言っても、倍率は約0.95倍というのはあくまで実測での話。「PENTAX KF」はAPS-Cサイズのデジタルカメラですので、35mm判換算にすると約0.63倍相当となってしまい、実際にファインダーを覗いたイメージは、思ったよりも像が小さく見えます。同じAPS-Cサイズでも、上位機種の「PENTAX K-3 Mark III」は、倍率約1.05倍(FA50mmF1.4・∞)で、35mm判換算ですと約0.7倍相当です。こうしたところは「エントリークラスなのに光学ファインダーで頑張ってる!」と優しく受け止めたいところです。

シャッターボタン周辺です。電源レバーはシャッターボタンと同軸に配置されたタイプで、ここで電源OFFからスチル撮影の電源ON、さらに回して動画撮影の電源ONへと切り換えできます。個人的には、このタイプの電源切り換えは好ましいと感じていますが、勢い余ってスチル撮影のつもりが動画撮影になっていることもあるので、注意が必要です。周辺には「露出補正ボタン」、「グリーンボタン」が配置され、大きく押しやすい「Wi-Fi/Fx2ボタン」から、さらには「モードダイヤル」へと流れるように続くため、ファインダーを覗きながらでもボタン類の配列が分かりやすく、操作性は大変良好です。

シャッターダイヤルまわりは、電源ONでスチル撮影時は緑色に、動画撮影時は赤色に点灯/点滅します。こうした「光ってお知らせ」的な操作性は、フィルム時代から往々にしてペンタックスのカメラに搭載されています。初めは驚きますが、とりあえず光ると何だかカッコイイ気もしますし、暗所でもシャッターボタンの位置が分かりやすく結構便利です。

電源レバーまわりの緑色ランプは、メニューの「インジゲーター」→「ボディライト」で調整可能です。

シャッターボタンのすぐ後ろで目立っている「グリーンボタン」は、ペンタックスのカメラユーザーにとってはお馴染み。モードダイヤルの「プログラム(Pモード)」に設定している状態でも、前ダイヤルを廻せばシャッター速度を変更できる「シャッター速度優先(Tvモード)」になり、後ダイヤルを廻せば絞り値を変更できる「絞り優先(Avモード)」になり、モードが変わった状態からでも「グリーンボタン」を押せばすぐさま「プログラム(Pモード)」に復帰できるという、名付けて「ハイパー操作系」と呼ばれる優れもの。カメラ任せの露出設定と、撮影者の意図を込めた露出設定を、効率よく行き来できます。

これは、ちゃんと前後ダイヤルを備えたカメラだからこそできる操作系で、その意味で、やはり本機「PENTAX KF」はエントリークラスでなく、スタンダードクラスとした方が相応しいのかもしれません。

操作系で特筆すべきところをもうひとつ。背面のボタン類は大きく角ばり、なおかつ十分な高さの稜線があります。これがとても操作しやすい。実際に、筆者が北欧の撮影旅行で使用していた分厚い手袋をはめて試してみましたが、誤操作することはほとんどなく目的のボタンを適切に押すことができました。前モデル「PENTAX K-70」と同じとはいえ、こうした優れた操作性は、上位機種の「PENTAX K-3 Mark III」にもない特徴。さすがフィールド使用のカメラ造りが得意なペンタックスです。

前モデル「PENTAX K-70」と、スペック上で確実に異なっているのが、背面モニターです。バリアングル式の可動モニターという点は同じですが、「PENTAX K-70」では約92.1万ドット(イメージサイズは3.0型)だったところ、本機「PENTAX KF」は約103.7万ドット(イメージサイズは同じく3.0型)へと、いくらか向上しています。本機のサイズは前モデルと同じながら、重さについて約3g微減しているのは、もしかしたらこの背面モニターの変更が原因なのかもしれませんね。

ただし、上位機種の「PENTAX K-3 Mark III」の背面モニターは、イメージサイズ3.2型で、ドット数は約162万ドットですので、向上したとは言っても上位機種ほどの解像度は望めません。それでも、ライブビュー時の画像の見え具合が良くなったのは歓迎したいところ。ハッキリとした前モデルからの進化点です。

メモリーカードスロットは、SDメモリーカード(SDXC、UHS-Iまで対応)のシングルスロット。デュアルスロットでないのは、一眼レフカメラとしては小型軽量であるゆえの、スペースの問題ではないでしょうか。バスインターフェースがUHS-Iまでしか対応していないのは残念なところですが、スピード性能をそれほど求めない風景やスナップ、ポートレート撮影の用途としては特に問題となることは少ないとも言えます。

エントリークラスのカメラらしく(?)、ポップアップ式の内蔵フラッシュを搭載しています。ガイドナンバーは約12で、35mm判換算で28mm相当の画角をカバーします。

バッテリーは小型の充電式リチウムイオンバッテリー「D-LI109」が採用されています。撮影可能枚数は、フラッシュ50%発光時で約400枚、フラッシュ発光なしで約460枚と、どちらかというと低容量なバッテリーなのに健闘しているのは、ミラーレスカメラのEVFとは違い、電力をほとんど必要としない光学式ファインダーを採用する、一眼レフカメラの強味といえるでしょう。

同梱のバッテリー充電器は新しく「D-BC186」になりました。USB Type-Cで接続するタイプでUSB PDに対応しています。

画像処理エンジンと撮像センサー、解像感の話

搭載するイメージセンサーは、有効約2,424万画素のAPS-CサイズCMOSセンサー。画像処理エンジンPRIME MIIとアクセラレーターユニットのコンビネーションによって、優れた階調再現や質感描写を実現する、としています。

これらイメージセンサーと画像処理エンジンは、前モデル「PENTAX K-70」と同じものなのですが、APS-Cサイズのデジタルカメラに搭載されるものとしては定番ともいえる、実績の高いセンサーとエンジンですので、得られる画像の解像感や質感描写に不満を覚えることはないと思います。

PENTAX KF/smc PENTAX-DA 18-55mm F3.5-5.6 AL WR/50mm/(F5.6、1/500秒)/ISO 100/WB:オート

解像感の高さは、本機がローパスフィルターレスであることも一因となっています。ただ、ローパスフィルターを省略すると、解像感は高くすることができますが、被写体によってはモアレが発生することがあり、実際、上の画像でもわずかとはいえモアレの発生が確認できます。

できるだけモアレを除去して撮影したいという場合は、「PENTAX K-3 Mark III」や「PENTAX K-70」にも搭載されている「ローパスセレクター」を使えば、効果的にモアレを抑制して撮影することもできます。

同じ条件で、ローパスセレクター(Type 1)を適用して撮影した画像です。

PENTAX KF/smc PENTAX-DA 18-55mm F3.5-5.6 AL WR/50mm/(F5.6、1/500秒)/ISO 100/WB:オート

ローパスセレクターなしで撮影した画像と比べると、効果的にモアレの発生が抑制されていることが分かります。解像感を低下させるローパスフィルターを省略しながら、状況に応じてモアレの発生具合をコントロールできるのは、ペンタックスのデジタル一眼レフカメラの良いところですね。

常用最高感度はISO 102400です。ISO 12400ではなくISO 102400です。これも前モデル「PENTAX K-70」と同じではありますが、他社製含め、現行のAPS-Cサイズデジタルカメラの中では最高性能です。

PENTAX KF/smc PENTAX-DA 18-55mm F3.5-5.6 AL WR/50mm/(F5.6、1/15秒)/ISO 12800/WB:オート

注目したいのは、常用最高感度の向上に伴って、他の中間域の画質も向上しているところです。ISO 12800で撮影した上の画像を見ても、ちゃんと画像として成立しているから素晴らしい。PC上で拡大でもしない限りは、スマートフォンや小さなプリントで観賞する分にはほとんど問題のない綺麗なレベルを保っていると思います。この優れた高感度性能は、前述のアクセラレーターユニットと画像処理エンジンPRIME MIIとの組み合わせによるもの。暗所での表現の幅を広げてくれる心強い性能と言えます。

新カスタムイメージの話

ペンタックスデジタルカメラの色仕上げ設定といえば「カスタムイメージ」。本機「PENTAX KF」には、前モデル「PENTAX K-70」に搭載されていた13種類のカスタムイメージに加え、3種類の新しいカスタムイメージが追加されています。

「里び(SATOBI)」は、60~70年代のカラー写真の風合いを意識したカスタムイメージで、どこか懐かしさを覚えるような色褪せた表現を楽しめるのが特徴。

カスタムイメージ「里び(SATOBI)」で撮影してみました。彩度が抑えられた独特の色調は確かに懐かしさを覚えさせるような印象です。コントラストも控えめに設定されているようで優しさや落ち着きを表現するのにも向いていそうです。

PENTAX KF/HD PENTAX-DA 55-300mm F4.5-6.3 ED PLM WR RE/78mm/(F11、1/1,600秒)/ISO 3200/WB:マニュアル

もうひとつの「冬野(FUYUNO)」は、ファームウェア「ver.1.10」で追加されたカスタムイメージ。冬の冷たい空気感を表現するための画作りで、春夏秋冬をテーマとした「カスタムイメージ Special Edition」のひとつです。

「カスタムイメージ Special Edition」は特定のLimitedレンズとの組み合わせで有効になります。今回の冬野は「HD PENTAX-FA 31mmF1.8 Limited」および「HD PENTAX-DA 35mm F2.8 Macro Limited」が対象となり、ほかのカスタムイメージとレンズの組み合わせはメーカーのWebサイトに記載されています。

その「冬野(FUYUNO)」で撮影してみました。本来は雪景色などのいかにも冬らしい光景をイメージしてセッティングされたカスタムイメージだと思いますが、それでも凛と引き締まった冬らしい冷たい空気感を表現できていると思います。シャープでハイキーな画作りを特徴としていますので、冬をテーマとしないシーンでも活用できそうです。

PENTAX KF/HD PENTAX-DA 35mm F2.8 Macro Limited/35mm/(F8、1/125秒)/ISO 100/WB:マニュアル

動画の話

「PENTAX KF」で選択できる動画記録サイズは「Full HD(1920x1080)」と「HD(1280x720)」の2種類となっています。

そのうち「Full HD」で選択できるフレームレートは「60i」「50i」「30p」「25p」「24p」の5種類。

今回は、それらのうち「Full HD・30p」でサンプル動画を作成してみました。

その他、作例を交えながら

スタンダードクラスらしく「PENTAX KF」は多機能なカメラなのですが、その多機能さを活かし、エントリー層にも優しいセッティングが「USERモード」に仕込まれています。上の画像は、「USERモード」にデフォルトとして、あらかじめ登録された3つの設定のうち「HDR LANDSCAPE」で撮影したもの。

PENTAX KF/HD PENTAX-DA 55-300mm F4.5-6.3 ED PLM WR RE/78mm/(F6.3、1/1,000秒)/ISO 3200/WB:オート

「USERモード」は撮影意図や被写体に応じて頻繁に使う機能を好みに合わせて登録する機能ですが、「PENTAX KF」には最初からオススメのセッティングが登録されているというわけです。「HDR LANDSCAPE」は明瞭度を強調したHDR機能とカスタムイメージで、風景写真を鮮やかにドラマチックに仕上げてくれます。HDR機能の設定は、エントリーユーザーにはやや難しいかもしれませんが、こうしてオススメの設定をあらかじめ用意してくれているところが、とても親切に感じました。

ファインダー撮影でウミネコの飛翔を追ってみました。最高約6コマ/秒の連写性能と、最新のミラーレスカメラに比べると物足らなさを感じてしまいますが、エントリー/スタンダードクラスのデジタル一眼レフでは立派です。光学ファインダーでの被写体の追いやすさは素晴らしく、いくらいまどきのミラーレスカメラのEVFが進化しているとしても、なかなかかなわないものであることを久しぶりに実感しました。

PENTAX KF/HD PENTAX-DA 55-300mm F4.5-6.3 ED PLM WR RE/300mm/(F9、1/1,600秒)/ISO 3200/WB:オート

一方で、ライブビュー撮影はミラーレスカメラと同じ感覚で行うことができます。バリアングル式の背面モニターを展開し、ローアングルでネコを撮りました。像面位相差AFとコントラストAFの両方を活用したハイブリッドAFなので、素早く高精度なピント合わせが可能。トラッキングも使えるため、一度ピントを合わせたい箇所を決めれば、後は構図に専念できるところも便利です。

PENTAX KF/HD PENTAX-DA 55-300mm F4.5-6.3 ED PLM WR RE/300mm/(F5.6、1/12,000秒)/ISO 400/WB:オート

フィールドカメラとしての定評があるペンタックスのカメラらしく、本機も防塵・防滴構造を採用しています。今回はそれほど過酷な環境での撮影は行っていませんが、アウトドアでの使用ではやはり頼もしさを覚えました。代表的なカスタムイメージである「鮮やか」で撮影すると、独特のリアリティで表現された植物の緑色を楽しむことができます。こうしたところを好ましく感じ、ペンタックスのカメラを使いつづけているという人も多いのではないでしょうか。

PENTAX KF/HD PENTAX-DA 35mm F2.8 Macro Limited/35mm/(F2.8、1/160秒)/ISO 100/WB:オート

小型軽量であることを活かしてスナップ撮影などにも持ち出したくなるカメラです。そんな時は、いまや希少になりつつある、光学式ファインダーの一眼レフカメラであることが、逆にメリットとなるかもしれません。ミラーレスカメラのEVFのように、撮影結果が見えない分、難しいことを考えることなく気軽な気分で被写体にレンズを向けられます。

PENTAX KF/smc PENTAX-DA 18-55mm F3.5-5.6 AL WR/26mm/(F5.6、1/60秒)/ISO 100/WB:オート

まとめ

前モデル「PENTAX K-70」と、ほとんど同じ基本性能のまま名前を変更して登場した本機「PENTAX KF」ですが、その真意はどこにあるのでしょうか?先にも述べていますが、筆者は「PENTAX K-70」の段階で、エントリー/スタンダードクラスのデジタル一眼レフは完成の域に達していたからだと思います。

事実として、クイックリターン機構をもたないミラーレスカメラの進化は、もっか電子シャッターによる連写性能の高速化や、被写体認識AFの高精度化、あるいは動画撮影性能の先進性など、主としてデータ処理性能の向上にほとんどのリソースが割かれています。こうした方向性は、カメラの進化にとって必然ではありますが、必要性を感じていない人もいるでしょう。

そう考えると、たとえわずかな進化しかなくとも、名前を変えながらデジタル一眼レフカメラの「新製品」を出してくれたペンタックスの心意気が、とてもありがたいものに感じられてくるから不思議です。これからもユーザーのためにデジタル一眼レフを造り続けるぞ、といった強い意思すら感じることができます。

とは言っても、希少なモデルのカメラであるということは、今となっては特殊なカメラでもあるということです。「PENTAX KF」のユーザーになるのでしたら、そうした、ある意味特殊なカメラを使っているのだということを意識しながら、写真撮影を楽しんでもらいたいと思います。

【2023年3月7日】カスタムイメージSpecial Editionについて正しい内容に修正しました。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。