赤城耕一の「アカギカメラ」
第60回:一年の終わりに一眼レフ。今年唯一の新機種「PENTAX KF」
2022年12月20日 09:00
リコーイメージングからPENTAX KFが登場しました。2022年では唯一の一眼レフの新製品ではないのかしら。希少なモデルということになります。
おい、これって、PENTAX K-70をちょこちょこっとイジって「新機種」としただけじゃねえのかよ、という悪口はヤメましょう。
同様のケースはリコーイメージングに限らず他メーカーの過去のモデルでも珍しいことではありません。長いこと売られた機種は同じパーツを継続して入手できなくなることもあるそうなので、今回の新機種登場ということになったという経緯もあるらしく。
ミラーレス機全盛時代に登場した新型の“一眼レフ”であると考えれば、賞賛されるべきでありますし、リコーイメージングがこれからも一眼レフをしっかり作りますぜという宣言でもありますね。一眼レフ好きな筆者にとっては見過すことのできないモデルということになります。
「ならお前は一眼レフ好きならニコンD6のレビューをしたのかよ」という意地悪なツッコミをいただきそうですが、はい、D6のレビューはしてません。試写はしましたけど。だって、D6くらいのスーパースペック一眼レフになると、仕事でも私事でも、必然とする理由がないので寄り添えない感じがするわけです。
ワールドカップの試合会場で、キャットウォークから400mmレンズつけて撮るような仕事はこないので、自分の中ではリアリティがないわけです。いや、ものすごい大金持ちなら、使わなくてもD6をコレクションに加えたりするんですかねえ。知らんけど。
で、年末の忙しい最中ですし、大掃除もしてないですし、さっさと話を戻します。大切なんですよ、一般の人と寄り添える価格で新型の一眼レフが登場するということは。
PENTAX KF、そのデザインは一眼レフですから保守的でもあり、フツーですが、グリップ感が良い感じです。リコーイメージングストアやPENTAXクラブハウスでは、ブラック以外にクリスタルブルーとクリスタルホワイトの2色も選べます。特別にカッコええということもありませんが、万人に愛されるんじゃないですかね。ホッとするといいましょうか。ここに還ってきたみたいな感じもします。
最大の特徴は正統派の光学ファインダーを搭載していることでありましょう。言うまでもなく光学ファインダーは一眼レフの肝、生命線、命ともいえる部分であります。
そこいらのミラーレス機のEVFと比べてもらっては困るし、気合いも感じます。ミラーレス機のくせに、ボディの上を尖らせて一眼レフに似せたなんちゃってペンタプリズムとは違うのです。何せホンモノの一眼レフですから。
KFは価格的にはエントリーモデルよりちょい上みたいな位置づけなのでしょう。プリズムは本物のガラスプリズムを採用しております。素晴らしい。ルーフミラーでごまかしたりしておりません。これはPENTAXブランドの一眼レフの矜持というものでありましょう。
しかもですね、視野率は約100%で、倍率も約0.95倍あるわけですね。これだけでファインダーを設計した人と握手したくなりますね。これ、今では当然のような顔をする人いますけど、工場じゃ組み立てが大変で苦労していると思いますよ。フィリピンの方に足を向けて寝てはいけません。
そこまでいうなら古いタクマーレンズとか使用してもピント合うのかよ、とかまたしてもツッコミが入りそうですが、メガネ族の筆者でも、そこそこは追い込むことはできました。視力の良い人なら全く気にならないのでは。ファインダースクリーンともども性能は悪くないと思います。
もちろんPENTAX K-3 Mark IIIには及ばないかもしれませんが、APS-C一眼レフのファインダー性能で攻めてきているのは良いと思います。ただ、KFの場合は電子接点のないレンズの場合は、AEが使えません。K-3 Mark IIIでは、瞬間絞り込み測光が使えたので便利でしたが、KFでお古のレンズ遊びをしようとする場合は注意する必要があります。例によって、Mモードに設定してグリーンボタンを押して適正な露出を導くという方法もありますけれど。
ペンタ部にはポップアップ式のストロボも内蔵されています。K-3 Mark IIIにはない仕様です。ええ、そんなに馬鹿にしたものではありません。もしかすると極限の撮影条件で最後に勝利するのはストロボ内蔵機かもしれませんぜ。
センサーはAPS-CサイズのCMOSで有効約2,424万画素。手ブレ補正ユニットを利用したローパスセレクター機能も搭載しているので、解像力至上主義の方は、ローパスなしの状態で撮りましょう。
画像処理エンジンは「PRIME MII・アクセラレーターユニット」でありますね。最高ISO感度はISO 102400です。ISO 6400ですら設定するのに躊躇してしまうビビリのジジイには、未知の感度でありますが、高感度に強いのはいいことです。余裕を感じますね。
ペンタックス一眼レフではもはや当然仕様の「SR(Shake Reduction)」も搭載されてますので三脚嫌いのあなたにもぴったりです。効果は4.5段とやや慎ましい印象はありますが、ホールディングに長けた一眼レフ使いには十分ですね。でも過信してはいけませんぜ。
いや、何としても三脚を使わないと許せないあなたのためには超解像技術「リアル・レゾリューション・システム」を駆使して超解像力の風景写真を制作、所属の写真クラブの仲間を驚かせてやることも可能です。
重量は684g(バッテリー、SDカードを含む)ですから軽量です。もうこれだけで嬉しいです。K-3 Mark IIIは820g(バッテリー、SDカードを含む)ありますから、小さい広角単焦点レンズを装着してコートのポケットに忍ばせ、街頭に切り込んでゆきたいあなたのためにもKFは適しているでしょう。
実際の使い心地はどうでしょうか。意外と言っては失礼ですが、動作のレスポンスはかなり良いですね。もともと、ペンタックスのボディ内モーターを使用するAFの場合、フルスロットル、フルブレーキを行うスポーツカーのような動きをします。レンズの動作音はしますが、仕事をしているぜという気持ちが伝わりますね。
ライブビューのAFは像面位相差+コントラストAFのハイブリッドだそうです。これってコントラストAFのみのK-3 Mark IIIよりも優れているのかもしれません。面倒なのでAF速度比べとかはしておりませんが、不満は少ないですね。一眼レフ好きの皆さんの一部には、本機をライブビューに切り替えて使用するのは許せない方がいらっしゃるかもしれませんが、撮影条件によって、光学ファインダーとライブビューを適宜使い分けるのが現代写真術だと筆者は考えています。
つまり、アイピースを覗くことができないようなローアングルとかハイアングルでは、ライブビューに切り替えて効率よく撮影しましょうということであります。また、広角〜標準あたりまでの焦点距離の大口径レンズを絞り開放で積極的に使いたいような場合は、ライブビューに切り替え、撮像面のAFに任せた方が、フォーカスの歩留まりは確実によくなります。しかも顔認識AFも使うことができますからポートレートに適しています。
少し大袈裟かもしれませんが、PENTAX KFは一眼レフとミラーレスのハイブリッドカメラとして考えてもいいんじゃないかと思います。一眼レフはミラーレスになれるけど、ミラーレスは一眼レフになることはできません。こういうところにもPENTAX KFの存在意義があると考えていいわけです。
筆者はプライベートでは普段からフィルム一眼レフを使用しておりますので、KFは時代遅れだとか、古いことをやっているぜ的な違和感を抱くことはありません。
むしろ万能性を強調した多機能ミラーレスカメラなどと比較すると、そのシンプルさは実際の撮影では好ましく感じられるほどであります。年寄りは物覚えが悪いものですから、操作設定に迷うことがないのは嬉しいですね。
サードパーティ製のKマウントレンズも最近では製造されておらず悲しいのですが、中古市場では、一部の特殊なものを除けば今も廉価に入手可能です。あたりまえですが、ダイレクトな装着感を楽しむことができます。もちろんM42マウントまで手を広げれば、無限と思えるほどの膨大な種類のレンズを使うことができます。
もうひとつ、KFは限定されたレンズを使用すれば「冬野(FUYUNO)」というカスタムイメージを使用できます。冬の冷たい空気感を表現する色彩と、シャープでハイキーな画作りが特徴とのこと。冬野が使えるレンズは、Limitedレンズの「HD PENTAX-FA 31mmF1.8 Limited」「HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited」だけです。筆者の所有レンズは全て対象外でした。昔なら暴れたところですが、年寄りは嫌われるようなことをしてはいけないと最近考えているので、やめておきます。
リコーイメージングは、こうした新しいカスタムイメージを「交換レンズを新規にご購入いただいた方へのサービス」と考えているようです。となれば、古いKマウントレンズばかりをつけて悦に入るような筆者は相手にしないということなのでしょう。正しい、ご商売の方向性です。
あまりにも渋い被写体では違いがわかりづらいかなと思いまして、紅葉を写してみました。ノーマルはナチュラルなんですが、それでもド派手に見えてしまいますね。どちらがいいかはお好み次第。ただ、使用できるレンズが限られます。
今回お借りしたレンズに対応したものがあったので「冬野(FUYUNO)」も試してみましたが、彩度を抑え気味にしたことが品格を向上させているかのようです。ただし、筆者は自然風景花鳥風月情緒系は得意ではないので、どうにも使いこなすことができませんでした。お役に立てず申し訳ありません。
2022年の「アカギカメラ」はこれにて終了でございます。本年もご愛読ありがとうございました。また新年にお会いしましょう。読者のみなさま、良いお年をお迎えください。