新製品レビュー
富士フイルム XF23mmF1.4 R LM WR
新旧35mm相当F1.4を徹底比較 新モデルの実力を探る
2021年10月25日 00:00
富士フイルムがミラーレスをメインとする「Xシステム」を初めて市場に投入したのは2012年2月。初号モデルはカメラが「X-Pro1」、交換レンズは「XF35mmF1.4 R」など数本であった。その後の展開は目を見張るものがあり、カメラ・交換レンズとも現在多くのモデルをラインナップし、人気と実力を兼ね備えたブランドに成長した。そのXシステムの交換レンズだが、光学技術の進化などから初期に投入されたモデルのなかには、そろそろリニューアルを考えてよいものも存在する。今回ピックアップする「XF23mmF1.4 R LM WR」も2013年10月に発売された「XF23mmF1.4 R」の進化系となるモデルである。
新旧モデルの外観を比較
新旧2つのモデルを比較すると、まず大きさ重さの違いを嫌が上でも知ることになるだろう。旧モデルは鏡筒が短くちょっとファットな印象であるのに対し、新モデルは長くスマートな感じ。数字で見ると最大径72×全長63mmから最大径67×全長77.8mmへと変更。質量については300gから375gへと増加している。
いずれも大きく変わった光学系の影響によるものと思われるが、コンパクトなボディのカメラが占めるXシリーズでは、ちょっと見逃すことのできない部分かもしれない。
前玉の表情も違っている。やはり光学系の違いからだが、旧モデルが緩やかな凸面であるのに対し、新モデルは平面。全くの個人的な好みから言えば見た目のかっこよさなど前玉が凸面のほうが雰囲気に思えるが、光学系の進化を考えれば致し方ないところと言える。
鏡筒側面に目を移すと、このところリリースされた絞りリングを備える他のXFレンズと同様、絞りリングのAポジションロックボタンが目を引く。これはAポジションに絞りリングをセットした際、同ポジションから不用意に外れてしまったり、反対に間違ってAポジションにセットされてしまうことを抑止するもの。操作性の向上に一役買っている。
そしてもうひとつの違いが、被写界深度に関する指標等とフォーカスリングのスライド機構が無くなったことだろう。
旧レンズではフォーカスリングをカメラ側にスライドさせるとマニュアルフォーカスへと切り替わり、同時に被写界深度の状況が把握できるようになっていた。新レンズは指標もスライド機構も省略され、極一般的なフォーカスリングの仕様となっている。
どれくらいのユーザーがこの機能を活用していたかは分からないが、ピントを被写界深度に頼ることもあるスナップ撮影などでは重宝するので継承してもよかったのでは、と思えてしまう。もっとも新レンズは「WR」の名称が付くように防塵防滴構造としているため、可動部分を少しでも抑え鏡筒内へのホコリや水滴等の侵入を防ぐための措置なのかもしれない。
AFの駆動をリニアモーターとしたところも本レンズのトピックだ。シャッターボタンの半押しとともにフォーカスエリアと重なった被写体に間髪おかず合焦する。しかもまったくの無音だ。旧モデルも決して遅いということはなく、また駆動音も静かだったので、ストレスを感じることはほとんどなかったが、それよりもさらに向上している。
前述のように旧モデルの場合はフォーカスリングのスライドでMFにし、被写界深度目盛りでピント位置をあらかじめ調整しておけば、ピントを合わせる時間が必要ないためスナップ撮影に有利となる。が、新モデルの場合はこのAF動作の高速化によりそのような手間は必要ないほど。むしろピント精度は被写界深度に頼る目測よりもAFのほうが遥かに正確であることは言うまでもない。
新旧モデルを条件別に比較
注目の写りだが、やはり新しいレンズは圧倒的。元々、Xシステム交換レンズの魅力のひとつに、クラスや価格に関わらず、いずれも高い描写特性を持つことが挙げられるが、これは新モデルでも同じ。希望小売価格ベースでみても旧モデルは税込13万6,400円であるのに対して新モデルでは税込13万4,200円とほぼ同じ。レンズ構成枚数が格段に増えてコストも上昇しているはずだが、富士フイルムの良心を感じさせられる部分だ。
順光
順光で絞って撮ると両モデルの違いは分からない。先鋭度およびコントラストが高く、画面四隅までしっかりと結像している。ディストーションや色のにじみなども見当たらず、両者高い描写特性であることが分かる。中央部および周辺部ともに比較画像は等倍で切り出している。
遠景
絞りF2.8から1段ステップで絞りF8まで撮影している。画面周辺部を見ると、絞りF2.8の解像感は旧レンズに比べて新レンズの方が高く感じられる。
絞りF4の場合も同様。絞りF5.6になると旧レンズも新レンズ並みにしっかり結像している。中央部および周辺部ともに比較画像は等倍で切り出している。
フリー作例
絞りは開放から2段絞ったF2.8で撮影している。全体にシャープネス、コントラストとも高い写りである。ディストーションも見受けられず、直線基調の構造物等の撮影でも安心して使用できるレンズである。
合焦部分のピントのキレはたいへんよく、加えてスッキリとしたクリアな写りだ。絞りはF2.8であるが、周辺減光もこの絞り値になるとまったく気にならないレベルまで解消される。色の滲みもよく抑えられている。
絞りF5.6まで絞ると解像感はさらに増す。ピントは画面下部の船首周辺に置かれたロープに合わせているが、高い解像感ゆえディテールは鮮明でしかもリアル感あるものとなっている。
35mmの画角はスナップ撮影などでは特に扱いやすいレンズのひとつ。標準レンズよりも適度に広い画角で被写体全てを画面に写し込むことも容易。諦めていたようなシーンも積極的にカメラを向けることができる。常用レンズとしても活用できそうだ。
ぐっと絞り込むと深い被写界深度を得やすいのも実焦点距離23mmの魅力。写真は絞りF11で撮影したものだが、カメラに近い一部の部分はボケているもののその他の部分はしっかりピントが合いシャープネスの高い写真となっている。
町歩きの途中で見かけたサイドカータイプの自転車。珍しく思いカメラを向けた。地面すれすれの低い位置から被写体を狙ったが、長い鏡筒のおかげでしっかりと左手でもカメラをホールドすることができた。
絞りは開放F1.4。被写体にぐっと寄って撮影していることもあり、大きなボケが得られた。ボケ味は広角レンズのものとしては柔らかい部類に入り好感の持てるもの。積極的に絞りを開いて撮ってみるのもありそうだ。
こちらも絞り開放で、ほぼ最短撮影距離での撮影。わずかに芯の残るボケ味ながらボケ同士は柔らかく溶け合っており悪くない印象。ピントの合った部分のシャープネスも上々だ。
まとめ
旧モデルである「XF23mmF1.4 R」の写りは今の目で見ても繊細かつシャープだが、今回「XF23mmF1.4 R LM WR」と撮り比べてみたことで、凄まじい光学技術の進化は実感させられることになった。富士フイルムでは本レンズとXF18mmF1.4 R LM WR、XF33mmF1.4 R LM WRの3本を以って、Xシステムの新たなスタンダードを築くレンズとして位置づけている。
これまで絞り開放での解像感などは旧モデルでも悪くないように思っていたが、新モデルの写りを見てしまうとやはり古臭さを感じずにはいられない。さらに最短撮影距離は旧モデルが28cmであったところ、新モデルでは19cmに短縮されており、表現の幅が一段と広がったことも見逃せない部分となっている。
新しい「XF23mmF1.4 R LM WR」は、隙のない優れた写りの楽しめるレンズに仕上がっている。少しだけ大きく重くなった鏡筒はちょっと残念なところではあるけれど、より高い写りのためのトレードオフと考えれば納得できるものである。この画角が好みであれば、Xシリーズミラーレスの卓越した絵づくりとともにぜひ本レンズの描写を存分に味わってほしい。