新製品レビュー

RICOH GR IIIx

写真がデザイン的になる40mm。GR IIIとの役割分担も紹介

長く焦点距離に28mm相当のレンズを採用してきたGRシリーズに、新たな視座となる焦点距離40mm相当のレンズ(35mm判換算値。実焦点距離は26.1mm)を採用した「RICOH GR IIIx」が登場しました。GR IIIと操作性が変わらない安心感と速写性も心強く、日頃はスナップ撮影が前提としても、皆さんはどんなふうに使って何を撮っているのかなぁ、と思いながら私自身も日々使っています。そんな中GR IIIxで撮影した写真を並べてみて気がついたことが2つありました。今回はそうした“気づき”を中心に、私がふだんどのようにGR IIIxを使っているのかを紹介していきたいと思います。

気づきポイントその1:写真がデザイン的になる

まず一つ目の気づきポイントは、“写真がデザイン的になる”ということでした。言うなれば余分なものをそぎ落とし、大胆に切り取る楽しさです。

どういうことかというと、周囲の漠然とした曖昧さが回避され具体的な画面構成になるというわけです。これは28mmの広角レンズを搭載するGR IIIのようにアングルの変化やパースペクティブ効果を堪能できる画角とは異なり、きちんと正対を意識するようになるということでもあります。特に直線が画面に入り込む時は、かなりそうした画面の構成を意識して撮影しています。

RICOH GR IIIx / 40mm / プログラムAE(F2.8・1/25秒・-1.0EV) / ISO 1250 / WB太陽光 / ポジフィルム調
RICOH GR IIIx / 40mm / プログラムAE(F2.8・1/125秒・-0.7EV) / ISO 200 / WB太陽光 / レトロ

気づきポイントその2:その場の空気感を切り取りやすい

二つ目のポイントは、被写体との間にほどよい距離が保てること。これはスナップ撮影をしていて感じたことですが、被写体と対峙した際に“呆然と立ちつくす”位の距離を置いて客観的に捉え、3~4mくらい離れたところから近寄りすぎず、かつ包囲するように、その場の空気感を取り入れて切り取るのが心地良いという感覚です。

RICOH GR IIIx / 40mm / プログラムAE(F11・1/80秒・+2.0EV) / ISO 200 / WB太陽光 / スタンダード
RICOH GR IIIx / 40mm / プログラムAE(F11・1/25秒・+1.3EV) / ISO 250 / WB昼白色蛍光灯 / クロスプロセス

デザイン的な切り取り方に楽しさがある

GR IIIxではクロップモードに71mm相当の画角が新たに加わりました(GR IIIと同じく50mm相当の選択も可能です)。この機能を使うことで、なかなか近づくことができない場所であったり、焦点距離が足りない被写体にもアプローチできるありがたみを感じています。

風景やスナップでGR IIIxを用いて遠景を切り取る際にはバランス感覚が特に必要です。やはり焦点距離が40mm相当になった分、遠近感よりも圧縮効果が加わって画面が平面的になりますから、ここでもデザイン的になる要素が強くなります。個人的にはこの機能を使っている時は構図を縦にすることが多くなります。

RICOH GR IIIx / 40mm(クロップ71mm) / プログラムAE(F8・1/2,500秒・-0.7EV) / ISO 200 / WB太陽光 / HDR調

被写体との距離を保てる一方で、クロップモードを用いると被写体に近づいて細部を具体的に撮影することも可能になります。特にGR IIIxではポートレートやマクロモードを使って花を撮りたくなります。ミラーレスカメラや一眼レフカメラのように重たいズームレンズや大口径の単焦点レンズを持ち歩く必要がないだけでも撮影は捗り、カメラが小さいからモデルさんへの威圧感がないのは嬉しいですね。

大胆な切取りをしてみた。話しかけながら近づくことができるのでモデルさんの緊張もほぐれる。
RICOH GR IIIx / 40mm(クロップ71mm) / プログラムAE(F2.8・1/25秒・±0EV) / ISO 2500 / WB太陽光 / ソフトモノトーン

テーブルフォトでもクロップモードが活躍

私はテーブルフォトもよく撮影していますが、実は40mmで撮影するよりもクロップモードを用いて50mm相当を使うことの方が多いんです。きっとお皿より周辺にあまり興味がなく、お料理だけを写してることが多いから。くいしんぼうなだけですが(笑)。

クロップ50mmはGR III、GR IIIxどちらのカメラでも利用することができます。
RICOH GR IIIx / 40mm(クロップ50mmマクロモード) / プログラムAE(F3.5・1/15秒・±0EV) / ISO 1600 / WB太陽光 / スタンダード

テーブルフォトの場合、セッティング・レイアウトされた状態で奥行きを出し、背景のボケを活かす撮影であればGR IIIxでの撮影に魅力を感じます。俯瞰撮影でも周辺が歪曲せず使いやすいですし、このあたりは表現方法の違いで撮りやすさが変わるでしょう。

GR IIIとの使い分けは?

新しく愛機に加わったGR IIIx。ではこれまで活躍してくれていたGR IIIとはどのように使い分けていけばいいのでしょうか。ここからは、こばやしかをる流の使い分け術を紹介していきます。

といっても私の場合、使い分けるというよりもむしろ被写体に対して「寄るか、引くか」という距離のとり方が、撮影時の機材選択の基準になってきます。先日、広々とした海を前に撮影をしていて、日々目にする被写体・生活環境によって人それぞれに使いやすさや焦点距離に対する直観性が違うのではないかと感じました。

長年慣れ親しんだ画角に対する使いやすさはあるにしても、私は下町育ちの路地好き。奥行きを活かしながら周囲を取り込んだその場の臨場感を大切にしたい。加えて、性質上モノを凝視するように見入ってしまう。そして「広角は寄って撮る」がしみついているので扱いやすいのは28mm相当のGR III、ということになってきます。

しかし、日常の中で撮影していて漠然としてしまう、ぶらっと散歩に出てみる時に何をどう切り取るのかを悩んでいるなら、素直にGR IIIxがいいと思います。必然的に被写体を真っ直ぐに見つめられるようになりますし、レンズの歪曲収差も少ないので全体のバランスが取りやすく、画面の切り取りという面でも慣れるはず。

広すぎず狭すぎず、GRⅢxなら風景撮影にも相応しい。
RICOH GR IIIx / 40mm / プログラムAE(F3.5・1/160秒・-1.7EV) / ISO 200 / WB太陽光 / ポジフィルム調

使い分けるとすれば、マクロモードの最短撮影距離とボケ量がキーポイントになってきます。GR III(最短撮影距離:6~12cm)なら思い切り近寄って背景を取り込んだダイナミックな構図がいいですし、花やポートレートなどワーキングディスタンスをとった撮影ではGR IIIx(最短撮影距離:12~24cm)の方が被写体との親和性も高くなります。

GR IIIxではクロップ71mmとマクロモードで中望遠レンズのように大きなボケを得ることができる。
RICOH GR IIIx / 40mm(クロップ71mmマクロモード) / プログラムAE(F2.8・1/50秒・+0.3EV) / ISO 200 / WBマルチパターンオート / スタンダード

「どちらか一方を。」と言われたら悩むので両方持ち歩くことが多いですが、大胆に踏み込んでパースを活かし、ダイナミックに撮りたい時はやはりGR IIIの出番です。被写体が具体的ならばGR IIIxを。この使い分けは、意図せず自分自身の中にあるように思います。やはり「寄るか、引くか」という被写体との距離のとり方がポイントになっています。

GR IIIもファームアップで同等の機能に強化

さいごに、今回GR IIIxで新たに加わった機能であるプログラムラインの「深度優先(深い)」についても見ていきたいと思います。この機能は、絞り込んだ状態を維持して被写界深度を深くし、フォーカスモードのスナップと組み合わせることでパンフォーカスでの撮影が行えるというもの。フィルムの頃からGRシリーズでスナップ撮影を楽しまれていた方には嬉しい機能ですね。スナップだけでなく風景でも大いに活躍しますし、近接撮影時には「優先開放」か「深度優先(深い)」のどちらかを選ぶことでピント合焦面から背景のどこまでを写し込むのか、という意思的表現にもつながります。

GR IIIxでは、このほか画像再生時の編集機能が加わり、飛躍的に使い勝手が良くなりました。私が一番活用している「RAW現像」は、濃度調整やホワイトバランスの変更、イメージコントロールのパラメーター微調整、広角らしい周辺減光をあえて加えるなど、撮影後にPCの前に座る時間をとらずともイメージを作り込める編集機能です。

GR IIIxの背面モニターは3.0型ですから、細かな調整をするには画面の小ささもあって不便だと感じている人もいるようですが、カメラでしか表現できない色があるならば、やはりカメラ内でのRAW現像が最適です。

特にイメージコントロール「クロスプロセス」は色や風合いなど仕上がりを見ながらカメラ内RAW現像で仕上げている。
RICOH GR IIIx / 40mm / プログラムAE(F4・1/200秒・+0.3EV) / ISO 200 / WBマルチパターンオート / クロスプロセス

RAW現像後に設定が解除されて撮影時の状態に戻ってしまうこともなく、一度現像した設定が保持された状態で継続的な作業もできるので、ひとつの写真からホワイトバランスだけを変更していくなど、何パターンもイメージを作り出す楽しみができました。

この他にもトリミング機能には従来機で慣れ親しんだ人も多いだろうアスペクト比4:3が加わり、また撮影時の斜め画面を0.1度ずつ修正できる角度修正機能も加わるなど、手厚いフォローアップがなされています。

ここで触れた機能はGR IIIにもファームウェアのアップデートで提供されました(バージョンは1.50。10月1日に公開されました)。GR IIIxで充実した数々の機能をGR IIIユーザーも使えるというのは、私にとっても朗報。ファームウェアによる機能強化は昨今では当たり前のようになっていますが、新モデルだけでなく、従来の機種でも盛り込める機能はしっかりとフォローしてくれる、というのもGRシリーズならではの伝統ですね。

日常スナップにも相応しく、被写体が具体的になり撮影シーンの幅広さを感じるGR IIIx。益々身軽になって旅も日常もフットワーク軽く出かけたいものです。

写真家。東京都北区出身:デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。撮影・講師業の他、デザイン制作・企画、プロデュース、ディレクションまでをフィールドとするクリエイターであり、写真・カメラ雑誌、Web等への執筆・寄稿なども行っている。『RICOH GR III PERFECT GUIDE』(インプレス)寄稿。NY国際写真賞 IPA2021 プロフェッショナル ファインアート部門 入選。