新製品レビュー
FUJIFILM XF18mmF1.4 R LM WRファーストレビュー
繊細で線の細い描写 日常にとりいれやすい画角も魅力に
2021年4月16日 00:00
富士フイルムからXシリーズ用交換レンズ「XF18mmF1.4 R WR」が5月27日に登場する。2020年10月15日にライブ配信された「X Summit OMIYA 2020」で予告されていた製品で、画質を最優先にした設計で開発が進められていることが報じられていた。その実力はどれほどのものであるのか、さっそくフィールドに連れ出してチェックしていった。
絶妙な画角としての27mm
具体的に描写性能を確認する前に、本レンズが採用する18mmという焦点距離について考えてみたい。本レンズはAPS-Cセンサーを採用するXシリーズとの組み合わせだと35mm判換算で27mm相当の画角となる。この画角はたいへん絶妙な設定で、現行の標準ズームレンズの多くがカバーする広角端の焦点距離24mmよりも狭く、スナップご用達となる35mmよりも広い画角となっている。このことから、万能な画角と捉えることもできるわけだ。
35mm判フルサイズフォーマットの単焦点広角レンズといえば28mmが一般的。とはいえ近年は28mm F1.4を採用する例はあまり多くないのでは、と思っていたのだが、この記事を書くにあたって調べていったところ、ニコンやシグマ、カール・ツァイスにライカ、中華系レンズに至るまで、思っていたよりもずっと幅広いメーカーがラインアップに加えており、認識をあらためさせられることとなった。ちなみに富士フイルムは同じ焦点距離の「XF18mmF2 R」をラインアップしているが、パンケーキスタイルのこの1本は、X-Pro1と同時発売されたもので、時期的には2012年の製品となる。
この間Xシリーズは世代を重ね、ラインアップを大きく拡充してきた。センサーおよび画像処理プロセッサーは4世代目に刷新されている。パンケーキタイプの薄型レンズと本レンズとでは同じ焦点距離でもだいぶ役割が異なると想像される。気になるポイントは、操作性やハンドリング、センサーとの相性など。各ポイントについて、X-T4との組み合わせで確認していった。
重厚感あるデザインながら軽量なつくり
本レンズのデザインはこれまで富士フイルムがラインアップしてきている単焦点レンズ同様に質実剛健なカチッとした作りとなっている。X-T4やX-Pro3とのデザイン的なマッチングもとてもいい。金属外装の触感は適度な重量感があり、高級レンズの風合いが存分に感じられる。
仕上げやデザインの良さは十分。次に気になるのがボディと組み合わせた時のハンドリングだが、370gとF1.4クラスのレンズとして考えても非常に軽量な1本であるため、携行性も良い。軽量なXシリーズとの相性は非常によく、ネックストラップでぶら下げながら撮影を進めていったが、一日中撮影しても首への負担はとても小さいと感じた。
デザインと操作性
レンズ鏡筒には単焦点レンズらしい幅広のピントリングとXFレンズの特徴でもある絞りリングが配置されている。手ブレ補正機構は搭載されていないため鏡筒にスイッチ類はほとんど見られず、とてもすっきりした作り。ピントリングの動きは重さと滑らかさのバランスのとれた感触だ。絞りリングはF1.4からF16まで記載があり、回転させた時のクリックは3分の1段づつ刻まれている。F2、F2.8、F4など、一段ごとに大きなクリック感があるのでブラインド操作でも分かりやすくなっている。ただ試用した製品は筆者個人の感覚だとクリック感が全体的に軽めな印象。もう少しハッキリとした感触が欲しいと感じた。
絞りリングにはGFレンズに採用されているAポジションロック機能を搭載。XF10-24mmF4 R OIS WR以降の絞りリングを備えるXFレンズシリーズではおなじみとなった機構だ。他にAポジションロックを備えるXマウントレンズにはXF27mmF2.8 R WRがある。この流れを見ていくと、単焦点レンズまたはF値が一定のズームレンズには以降も採用されるだろうことが想像される。
ちなみにAポジションにすると基本的には絞りがオート状態になり、露出コントロールとしてはプログラムオートかシャッタースピード優先モードになるわけだが、メニューから設定を変更するとAポジション時にF値コントロールをコマンドダイヤルで行うことができるようになるため、他社カメラと同じ操作方法にすることができる。
ちなみに筆者のAポジションロックに対する感想だが、レンズ交換の際に地味に重宝している。XFレンズはピントリングの幅も広く、絞りリングもあるためレンズ周りに回転するパーツが多い。そのためレンズ交換の際にくるくると空転してしまうことがあるのだ。その点、絞りリングがロックされているとしっかりと鏡筒を掴めるため、ガシッと握ってしっかりとレンズ交換ができるというわけだ。
本レンズにはプラスチック製の花形フードが付属する。付け外しの際のカッチっと感もしっかりあって良い。ただしこれまでのXF単焦点レンズと同じく脱落防止のロック機構は備えていない。10万円を超える価格帯を考えると、高級な製品という位置づけとなる製品なだけに、ロック機構は備えていてほしいというのが正直なところだ。ただし高級感という意味では「XF16mmF1.4 R WR」「XF23mmF1.4 R」と同じように金属製の角型レンズフードも別途販売されるので、そちらを活用するというのもアリだろう。
残念ながら本記事の試用期間中にはフードが間に合わなかったので使用感をお伝えすることはできないけれども、イメージとしてはXF35mmF1.4 Rが近いだろうか。あくまでも想像だが、製品写真を見る限りシャープな印象のかっこいいフードに仕上がっていると思う。これはX-Proシリーズのようなスタイリッシュなカメラを使用しているユーザーは必見だろう。
本レンズと近い焦点距離のF1.4レンズを並べてみた。左からXF16mmF1.4 R WR(最大径73.4mm、長さ73.0mm、重さ375g、フィルター67mm)、XF18mmF1.4 R WR(最大径68.8mm、長さ75.6mm、重さ370g、フィルター62mm)、XF23mmF1.4 R(最大径72.0mm、長さ63.0mm、重さ300g、フィルター62mm)の順だ。
こうして比較してみると、XF16mmとXF18mmはほぼ同じサイズ感でXF23mmが少しだけ小さく軽いことがわかる。これは焦点距離の違いに加えてXF23mmだけが防塵防滴に対応していない仕様であることも理由のひとつだと言えるだろう。なお、写真からも分かる通りXF16mmとXF23mmにあるフォーカスクラッチ機構はXF18mmでは省略されている。個人的には防塵防滴への配慮という点からいっても可動部分はなるべく少ないほうが安心できるので、XF18mmのシンプルな仕様には好感が持てる。
上記3本をX-T4に装着した際に感じた大きな違いのひとつに、AF-Cモード使用時におけるAFの食いつき具合があげられる。XF16mmもXF23mmも特筆するほどAFが遅いというわけではないが、AF-Cではピントに多少のふらつきがあったり、フォーカスレンズ駆動時に発生する振動が手に伝わってくるが、XF18mmではそうした現象が皆無といっていい感触だった。これはリニアモーター採用によるところが大きい部分。フォーカスブリージングにも配慮した設計になっているようで、ムービー撮影ではスチル以上の違いを感じられることだろう。
線が細く立体感のある写り
満開の桜とお寺。解像力は文句なしだ。解像感が高く感じられるレンズであっても、線が太くゴリゴリした感じの描写となるレンズも世の中には存在するが、本レンズでは非常に高い立体感と、線の細い描写が得られる。このカットではF8まで絞り込んでいるが、F11まで絞った時であってもシャープさの中にどことなく柔らかさが感じられる描写が素敵だと感じる。
しだれ桜を下からグッとあおって撮影した。背景には太陽を配置しながら明るく爽やかな春の印象を強調するため、プラスで2EVの露出補正を行っている。
極端に明るい背景で前ボケを配置し、さらに線の細い描写も求めるという、色収差が目立ちやすい撮影条件だが、本レンズは画面周辺部に至るまで色収差はほとんど見られない。
逆光耐性については特別強いとは言えない。現代レンズとしてみれば「並」といったところ。太陽のような強い光源を画面に入れるとゴーストやフレアーが発生するので、木の枝や花などで少し太陽を隠すなど一般的な逆光対策が必要だ。このシーンでも画面左側にゴーストの発生が確認できる。
シダレヤナギを背景に咲き始めの桜をクローズアップ気味に撮影した。太陽の光条を出すことに加えて、背景のヤナギまで見せたいと考えたため、F16まで絞っている。回折現象により解像感は落ちているものの、点像復元処理が効いているため、それほど悪い状態ではない。
ちなみに桜の枝は身長よりも遥かに高い位置にあったため、バリアングルモニターをいかして手持ちによるハイアングル撮影で捉えている。カメラとレンズを合わせても重量が1kg以下であるため苦もなく撮影できた。
自然なボケ感が得られる
カメラを地面にベタ置きして、超ローアングルのポジションからクリスマスローズを撮影した。背景とした林は美しい丸ボケとなり、実にきらびやかな1枚となった。絞りは開放のF1.4としているが、周辺部の口径食や光量落ちは平均的な印象。レンズのサイズを考えると、よく抑えこまれていると評価すべきだろう。ボケの輪郭も太くなく、丸ボケが重なりあってもうるさくはなっていない。
上野・不忍池弁天堂の絵馬。開放F1.4での撮影だが、ピント面の解像は極めて優秀で、塗面の質感まで見て取れるほどの立体感がある。またF1.4ほどの大口径ともなってくると、ピント前後からのボケ方がすごい。隣にかけられた絵馬ですらプライバシーを気にして書かれている名前を隠す必要がないくらい大きくボケている。後ろボケも二線ボケなどもなくスムーズで自然なボケ味が癖になる。前ボケは後ボケに比べると輪郭がやや強く感じられるものの、気になるほどのレベルではない。
林の奥から差し込む光に照らされたアセビ。開放のF1.4での撮影だが解像感とボケ感のバランスがとても美しい。また逆光とマイナス補正によるところも大いにあるが、周辺光量落ちによるスポット効果も出ていて、光の際立つ1枚となった。
ただしこうしたローキー気味の絵柄ではボケの内側に、いわゆる玉ねぎボケのざらざらした感じが見られるようだ。
警戒しつつも筆者の前をトトト……、と歩いていくヒドリガモ。35mm判換算27mm相当の画角で、かつ被写体とも2mほど距離があるため、F1.4で撮影しても背景が大きくボケることはなく、適度という言葉がちょうど合うような自然なボケ具合となった。不規則に動き回る被写体であるため、AFはAF-Cにセット。これまでいくつかのXFレンズ製品にみられたような、ピント面がふわふわ前後するウォブリングの発生はなく、安定した画面で撮影を続けることができた。
枝先の桜の花に近づきつつ、背景の桜の木が認識できるようにF5まで絞り込んでみた。絞ってもボケの輪郭はそれほど強くならず、背景もうるさくなっていない印象だ。開放F値のとろけるようなボケの背景から、絞り込んだ時のパンフォーカス気味の背景まで、絞り全域で自然な背景が描き出せるのは、作り出せる絵柄のバリエーションが豊富になるので非常に心強い。
最短撮影距離でも甘くならない
散り桜が漂う水瓶の中をのんびりと泳ぐ色違いのメダカを最短撮影距離付近で撮影した。本レンズの最短撮影距離は20cmで、最大撮影倍率は0.15倍(35mm判換算0.23倍)だ。数値上のスペックでは特別近接撮影に強いレンズとはならない。
確かに数値面でのインパクトは薄いけれども、ストレスなく被写体に近寄れる点こそ大きな魅力だと感じた。このシーンでは被写界深度を得るためにF5.6まで絞り込んでいるが、最短撮影距離の開放F値であっても画質劣化はほとんど見られない。
XF16mmF1.4 R WR、XF18mmF1.4 R LM WR、XF23mmF1.4 Rをそれぞれ最短撮影距離で撮り比べてみた。被写体はツバキの花。
結論を先に示すと、近接能力に関しては、やはりXF16mmの0.21倍(35mm判換算0.32倍)が圧倒的な存在感を放っていた。XF23mmの0.1倍(35mm判換算0.15倍)はこうして比較してしまうとかなり控えめに見えてしまうが、とはいえF1.4のためボケはとても大きく、広角レンズに期待するようなクローズアップ感は十分に出せていると感じる。
XF16mmに対して本レンズの近接撮影性能は一歩及ばないところがあるものの、それでも十分な能力がある。最短撮影距離が長めの製品が多い富士フイルムのレンズ群の中では、かなり頑張っている印象だ。
まとめ
ボカしてよし、絞ってよし、近づいてもよし、と三拍子揃った本レンズ。さらにリニアモーター採用によりAF速度やスムーズなフォーカス制御にも優れるなど、今あらためて18mmの焦点距離を登場させた意味が十分に理解できる性能を示してくれた。
さらに言うと、ムービー対応も抜群だし、雨の日だって気にならない防塵防滴耐低温に配慮した設計だ。それでいて持ち歩いてもじゃまになりにくいサイズ感と軽量さも併せ持つ。35mm判換算で27mmという、極端なレンズ効果を感じさせないナチュラルな広角感も扱いやすさのポイントだ。
単焦点レンズが使いこなせるか不安で、ついついズームレンズを使っているという方にもこの扱いやすさはオススメできる。逆輸入的な話になってしまうが、いま一般的にもっとも慣れ親しまれているカメラでもあるスマートフォンで、35mm判換算26〜28mm相当となる画角が採用されていることからも、取り入れやすい焦点距離でもあるだろう。ランチを美味しく見せようとカメラアングルや光にこだわってみたり、ペットの可愛さを引き出すために床と同化するんじゃないかというくらいローアングルで狙ってみたりと、常日頃から撮りまくり、鍛え上げられたその画角感を存分に発揮できるレンズがXF18mmF1.4 R LM WRだと考えると、すごく撮れる気がしてはこないだろうか。
とまあ冗談はさておき、富士フイルムの充実した単焦点レンズのラインアップの中でも不動の人気を誇る「XF35mmF1.4 R」と、35mm判換算27mm相当となる本レンズは撮影画角に変化をつけるという点でも非常に相性の良いコンビとして活躍してくれることだろう。さらに35mm判換算137mm相当となる「XF90mmF2 R LM WR」を加えてトリオを結成する、というのも、なんだか少し前の単焦点レンズにおける鉄板ラインアップを想わせる組み合わせで、あらためて撮影の楽しみを広げてくれそうだ。
もちろん、カメラにつけっぱなしにしてお気軽スナップを楽しむのにもいいだろうし、適度な広角感と柔らかいボケ味をいかしてポートレートで活躍してもらうのもいい。雨の日のきらきらクローズアップだって狙えるのだから、まさに万能な単焦点レンズの新しい選択肢となってくれることだろう。