新製品レビュー

Nikon NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

硬軟あわせもった描写 第2世代Zの新しい瞳AFの実力も検証

CP+2021 ONLINEが開催される中、ニコンの第2世代Zシリーズユーザーに、嬉しいニュースが飛び込んできました。そう、ファームウェアの大幅アップデートの提供が始まったのです。すでに手にしている人も、いまZシリーズを検討している人にとっても、気になるだろう進化した瞳AFの効力とはいかほどのものなのか。一足先にこの最新ファームウェアを適用したZ 7IIを携えて、NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sの検証撮影を実施してきました。この黄金コンビがもたらす実力を、掘り下げてお伝えしていきたいと思います。

50mm F1.2にあわせてZ 7IIを導入したワケ(前編)

さて早速インプレッションを! といきたいところですが、Z 6を愛用している僕が、なぜ今回Z 6IIではなくZ 7IIを導入したのか、というところからお伝えしなくてはなりませんね。

Zシリーズについては、実は製品が正式に発表される少し前に、その存在を知りました。その時同じくニコンのミラーレスカメラ「Nikon 1」シリーズの流れを見ていた事もあり、第1世代のカメラを導入することに半信半疑であったことは確かです。メインで使っていたD850やFマウントのレンズは、性能面のほか、デザイン面にみられる完成度も高く、非常に満足していましたので、急いでZシリーズを導入する必要性を感じていなかったのです。

もちろんスペックから第1世代ZシリーズがD750およびD850に代わる機種であることは想像できていたのですが、仕事で使うにはレンズが揃っていないこともありましたし、不慣れな機材を投入することに、警戒感があったことも確かでした。

しかし、幸いにもZシリーズと真剣に向きあう機会が訪れました。そこで僕は、Z 6をメインで使っていく事を想定して、ポートレートで必要な機能や設定を網羅的に試していきました。例えば、ファンクションボタンの割り当てを撮影シーンごとにガンガン変更したり、といったように、Z 6を最も「心地よく」使える設定を探していきました。それは試行錯誤の連続でしたが、カメラが自分の体の一部になっていく過程でもありました。その甲斐もあってか、Z 6のクセやポイントもだいぶ理解できたように思います。新しく機材を導入した時は、僕も読者の皆さんとスタート地点は同じです。このように徹底して試行錯誤を繰り返すことは、とても遠回りな作業ではありますが、カメラへの理解が深まりますので、オススメです。どこをどのように変えればいいのかを把握していると、とっさにカメラの設定を変えなければいけない瞬間でも、撮影をスムーズに進めることができます。

新たに導入したZ 7II。NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sとパワーバッテリーグリップを装着

ところでZ 6を徹底試用している時に、ほぼ同じタイミングでZ 7も試用させてもらっていました。基本的な操作性自体はZ 6と全く同じでしたが、当初は連写可能枚数が圧倒的に少なく、撮影中にバッファがすぐ一杯になってしまい、次の撮影タイミングに入れるまでのタイムラグに悩まされました。

今後はZが主流になると感じていましたし、Z 7の高解像な画質は、D850を中心に機材セッティングをしていた僕のスタイルにとって、とても魅力的でしたが、どうしてもそのレスポンスは頭のどこかでひっかかっていました。そこで出した結論が、Z 6とD850を併用していくスタイルでした。ふだんの撮影仕事も含めて、雑誌などの撮影で更に経験値を高めながら高画素を必要とする案件ではD850を使用する、という「両輪スタイル」です。これならば業務に支障なく両シリーズを使っていけると考えたのが、2018年にZ 6を導入した背景でした。

Z 7IIに装着した状態。Zマウント版F2.8通しの24-70mmよりも大きいですが、筆者はパワーバッテリーグリップを装着してバランスをとっています

50mm F1.2にあわせてZ 7IIを導入したワケ(後編)

そうこうする中で、Zシリーズ用のレンズラインアップも拡充がだいぶ進みました。ポートレートの仕事でも使う機会の多い70-200mm F2.8もZマウント用が登場。これを追いかけるようにしてZ 7II・Z 6IIが発表になりました。両輪スタイルによる2年間におよぶ実地テストを経て、僕自身のZシリーズに対する不信感も完全にクリアしたタイミングということもありましたので、第2世代となったことを機に、Zシリーズのみでシステムを組むことを考えました。

そこでZ 7IIを徹底的に実践試用させてもらったところ、今までのバッファ詰まりやレスポンスといった懸念点が完全に払拭されているではありませんか。満を持してZ 7II導入に舵を切ったのですが、あらためて今回NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sの検証撮影をする中で正しい選択だったと感じています。当然Z 6IIも同様に進化していますが、絵作りは第1世代とほぼ同等ですから、高画素描写を必要としないシーンなどでは今後もZ 6に活用してもらいながら、Z 7IIをベースに撮影を組み立てていこうと考えています。

ちなみに今回の撮影ではパワーバッテリーグリップを装着しています。第2世代Zシリーズは連写枚数やAF性能などが大幅にパワーアップしていて、ポートレート撮影で大きな力を発揮してくれています。そして、この専用バッテリーグリップもまた、ポートレート撮影をする人にとって欠かすことのできないアクセサリーに進化しているのです。

何よりもNIKKOR Z 50mm f/1.2 SはNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sをも超えるサイズです。振り回すにせよ、バランスをとるにせよ、このバッテリーグリップがあるのとないのとでは取り回しやすさそのものが変わってくるほどです。ただ第1世代で発売されたバッテリーグリップはZ 7II・Z 6IIに装着できますが、今回発売のバッテリーグリップ(MB-N11)は第1世代のZ 7やZ 6には残念ながら装着できませんので、第1世代機ユーザーは注意が必要です。

標準レンズながら中望遠のボケ味をもつレンズ

ポートレート撮影にとって受難の状況が続いていることもあり、なかなか進化した瞳AFの性能を実感いただくのは難しい状況が続いています。先にCP+2021 ONLINEのNikon公式チャンネルからもインプレッションをお伝えしていましたが、ご覧いただけましたでしょうか。配信中でお伝えした内容と一部重複する部分もあると思いますが、改めて瞳AFのインプレッションを交えながら、本レンズの魅力について見ていきたいと思います。

ではさっそく1枚目から。快晴の空の下、絞りを開放のF1.2にして撮影しています。前ボケと後ボケの繋がりが感じられるように、斜めに柵が入るように構図を整えました。モデルとの距離は約3m弱で、ウエストアップでフレーミングしています。画面左の橋や奥のビルがとても滑らかなボケで表現されています。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / マニュアル露出(F1.2・1/5,000秒) / ISO 64

場所を橋の近くに移動して撮影しました。距離のある橋のボケも崩れることなく美しさを保っています。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / マニュアル露出(F1.4・1/3,200秒) / ISO 64

場所を移して背景的には美しくない雑木林で逆光を狙っています。焦点距離50mmという、いわゆる標準レンズと分類される製品ですが、その実、中望遠に迫るボケを表現できます。見た目に煩い場所での引きであってもボケ量の力でモデルの存在感を引き立ててくれます。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / マニュアル露出(F1.2・1/1,600秒) / ISO 100

ススキを背景に、作画がバストアップになる距離まで寄ってみました。背景にしている枯れ色のススキは、髪の毛と同系色になっていますが、背景との分離感は抜群です。また半逆光の光線状態ということもあり、髪の毛のエッジにフリンジが発生しやすい状況ですが、よく色収差が抑えられています。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / マニュアル露出(F1.2・1/1,600秒) / ISO 100

同じバストアップで作画。グリーンを背景に斜光で狙っています。斜光では顔に光が当たりやすく、状況によっては影が汚くかかってしまう場合があるので、光に背を向けるように体の振りを変えてもらって、光の当たり方を調整すると良いでしょう。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / マニュアル露出(F1.2・1/800秒) / ISO 100

輝度差が激しい場合、一般的に色収差がとても出やすくなってきます。色ズレとも言われ、パープルフリンジなどがハイライトのフチに発生します。しかし、本レンズはそうした収差がよく補正されているので、イジワルな条件を重ねたにもかかわらず、そういった現象はほぼ認めることができませんでした。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / マニュアル露出(F1.2・1/250秒) / ISO 200

グッと寄っています。F1.2ともなると、ピント面は驚異的な薄さになってきます。ピント位置は手前側の瞳に置いていますが、向かって右側の目は大きくボケています。絞りのコントロールというと、光量の調節とする説明が一般的ですが、本レンズのように明るいレンズを使う時には、ぜひ被写界深度のコントロールという視点を採り入れみてほしいと思います。ポイントは、「どこまでハッキリ見せたいのか」ということ。前出のCP+2021 ONLINEの配信映像でも絞りと被写界深度について、実践的な撮影を例にお話していますので、ぜひあわせて参考にしてみてください。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / マニュアル露出(F1.2・1/640秒) / ISO 100

進化した瞳AFの力

2月25日に正式リリースされたファームウェアで、Z 7II・Z 6IIの瞳検出性能が向上しました。本機能が利用できるAFモードは、オートエリアAF(人物)と、ワイドエリアAF(L-人物)です。

といっても、どれくらい強化されたのかは中々わかりづらいところ。そこで、モデルにゆっくりと歩み寄ってきてもらい、画面内でどれくらいの大きさになった時に瞳を検出するのかを動画で記録しました。

初代Zシリーズと比べた感覚だと、第2世代機では矢印カーソルの表示のほうが、画面の瞳より大きいくらいの距離感で検出してくれます。検出精度は確実に向上していますし、AFエリアパターンも拡大。ポートレートでの使い勝手の幅は確実にひろがっています。

開放から使える強み

夕方の順光に近い光を活かして、輝度差の大きい状況で、あえて背景を暗く落とした表現にチャレンジしてみました。露出判断が難しい場所ではありますが、シャドー部にかけてのトーンも豊かです。周辺情報を入れ込みながら奥行き感を表現できる本レンズの焦点距離のメリットを、最大限引き出すようにしています。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / 絞り優先AE(F1.2・1/3,200秒・±0EV) / ISO 100

一瞬のはにかんだ表情も、瞳AFと質の高いEVFによってモデルを集中して捉えることができます。実はコレ、OVFが苦手なシーンです。モデルが暗く、見えづらくなってしまうんですね。その点Zシリーズはファインダーのつくりの良さもあって、ファインダーを覗きながらの把握がしやすいと感じています。さて、ここで注目して欲しいのは何といっても髪の毛。光の当たる部分のエッジも実に自然な再現となっています。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / マニュアル露出(F1.2・1/4,000秒) / ISO 100

F1.2の大口径ということもあるのでしょうか。絞り開放だと四隅にごくわずかな周辺減光が認められます。が、ポートレートではかえって作画に効果的な場合が多いのです。ここでは全身を入れてフレーミングしていますが、自然にモデルへ視線が誘い込まれます。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / 絞り優先AE(F1.3・1/5,000秒) / ISO 100

軟かさを感じさせる描写もポイント。

現代レンズらしい超高性能ぶりが最大のウリですが、カリカリした描写かというとそんなこともなく、ピント面のシャープさと質感表現のバランスが絶妙で、上品に表現されます。実は軟らかな描写もお手のものなのです。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / マニュアル露出(F1.2・1/5,000秒) / ISO 100
Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / マニュアル露出(F1.2・1/2,500秒) / ISO 100

沈み込む夕日を様々な角度で画面に入れながら撮影しています。本レンズは定番のナノクリスタルコートに加えて、最新のコーティング技術であるアルネオコートも採用されています。その効果もあって、逆光でのコントラスト低下はかなり抑えられています。さらに言うと、強い光源を画面内に入れても破綻しにくいので撮影シーンでの自由度がかなり広がります。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / 絞り優先AE(F1.2・1/4,000秒・±0EV) / ISO 100
Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / 絞り優先AE(F1.6・1/2,500秒・±0EV) / ISO 125

F1.2ならではのポイント

薄暗くなってきました。正直大柄なレンズですし、重さもあります。ですが、絞りF1.2という明るさと、ボディー内手ブレ補正の効果もあって、感度を大きくあげなくても撮影を進められます。特に高画素機ですと高感度側はノイズの荒れが早めに現れますから、大きなアドバンテージポイントです。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / 絞り優先AE(F1.2・1/320秒・±0EV) / ISO 400
Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / 絞り優先AE(F1.2・1/160秒・±0EV) / ISO 800

夕暮れでもモデルとコミニュケーションをとりながら撮り歩き撮影も容易にこなせます。大きさゆえのホールディングには工夫も必要ですが、レンズ持ち前の明るさで、ストロボなどを使用することなく、周囲に溶け込みながら撮影できるのが大きなメリットです。また、ボケ量が大きいので背景処理もしやすく、モデルとのコミニュケーションに集中できます。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / 絞り優先AE(F1.2・1/640秒・+1.0EV) / ISO 400

今回の撮影も終盤です。スナップからキメの絵作りまでこの1本で撮りこめてしまう懐の深さがあるレンズです。その場に溶け込んだ撮影手法はモデルのリラックスした表情を狙うのにも欠かせません。

Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / 絞り優先AE(F1.2・1/160秒・+1.0EV) / ISO 400
Z 7II / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / 絞り優先AE(F1.2・1/320秒・+0.7EV) / ISO 400

まとめ

Zシステムへの信頼が確信に変わった頃に開発が報じられた本レンズ。NIKKOR Z 58mm f/0.95 S NoctやNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sの使用感から、AFの効くF1.2の50mmには、数値上からだけでも大きな期待を寄せていました。

そうして、あつらえたように登場した第2世代のZボディ。どちらも予約開始早々に注文していました。とはいえどちらも思い切って買うにしては高価な製品であることは確かです。ここで必ず出てくるのが「NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sはどうか? どうするか?」という悩みですね。機材の選び方で僕のところに舞い込んでくる質問の多くも、この選択を尋ねるものです。

でもよく考えてみてください。どちらかひとつにしないといけないってわけじゃないですし、標準レンズはおそらく最も使いやすい焦点距離のひとつです。もちろん金額も大きく違いますから、最初の1本とするにしても、買い足しあるいは買い換えとするにしても、大きな悩みになることでしょう。で! 僕がアドバイスをしているのは、あえてどちらかと言われたら50mm F1.8をおススメするというもの。既に50mm F1.8が手元にある人なら買い足しをおススメしています。

理由は単純。50mm F1.8自体、解像感も含めて折り紙つきの性能だからです。F1.8にしては高額なレンズだという意見も耳にしますが、描写力を考えますと、かなりコスパの高いレンズだと、僕は評価しています。

大口径F1.2でありながら、このサイズ感でAFに対応するレンズは、他社を含めても数えるほどしかありません。「高性能レンズを本気でつくるとなると、どうしても巨大化は避けられない」とは設計に携わった方の弁ですが、とはいえ、やはり大きいものは大きい。そういった意味でもF1.8の50mmは、サイズ・価格ともに程よいバランスのレンズだと思うワケです。

もちろん、50mm F1.2は作品撮りを狙うならこれ以上ないってくらいの描写を見せてくれます。でもスナップなどのように、やや絞って撮影するシチュエーションなら、むしろF1.8のコンパクトさが大きな武器になってきます。それは標準レンズだからこその使い分けでもあると思います。

なら、50mm F1.2は急いで買うべきレンズではないのか? そう思う方もいらっしゃることでしょう。でも別の言い方をするならば、それは「いつかは50mm F1.2」を標語に出来るレンズでもあるということです。最高峰の高みにあるレンズだからこそ、そうした期待を胸にした表現ができるということも、また事実なのだと思うのです。

ただこれは余談ですが、ちらっとファインダーを覗かせてあげたりすると、特にポートレート撮影をしている方は、ほとんどすぐにこのレンズを手元に置かれているみたいです(笑)。

モデル:辻りりさ(ILY)

河野英喜

こうのひでき:島根県浜田市出身。中学の頃に友人の持つカメラに強く惹かれカメラを手にして独自にポートレートを習得する。人物撮影のジャンルでは媒体を問わず幅広く活躍している。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。

https://www.konohideki.com