新製品レビュー

Nikon D780(実写編)

新世代を感じる画質のキレ 軽快な撮影性能の一眼レフ

ニコンD780は一眼レフカメラでありながら、ミラーレス機であるZ 6の撮像センサーと映像エンジンを持っていて、まるでハイブリッド一眼レフ機という成り立ちを持つカメラだ。他社ではEOS 90DとEOS M6 Mark IIの関係性と近似している。

実写前に簡単な動作チェックをしただけでもD780は快適なライブビュー(LV)性能と一眼レフカメラが持つ軽快なレスポンスを実感でき、実際のフィールドではストレスフリーな撮影が楽しめそうだという予感があった。

デザインについてもセンサーを持つ本体部・グリップ部・EVF部と、それぞれが独立したデザインになっていて、それらをモジュール的に組み合わせたような意匠が特徴的なZシリーズに対して、ひと目で「ニコンの一眼レフ」と分かるイメージのD780に安心感を覚える人もいるだろう。

先にお伝えした外観編につづき、実写でのインプレッションをお伝えしていこう。

本記事では開発中のベータ機を使用しています(編集部)。

解像性能

2,450万画素なので、例えば4,575万画素のD850やZ 7のように「こんなに写ってるの?!」というような驚きや、約1億200万画素のGFX100のようなため息が出るような解像性能はないけれど、組み合わせたレンズ(AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR)が良いことと、Z 6と同じ世代の画作りになったことで、キレが良くクリアで解像「感」の高い描写。

特に中景のショットでは約2,400万画素というのが俄には信じられないくらいにキレが良く、D750とは画像設計の世代が変わったことを強く実感させられる。

ニコンD780 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 24mm / 絞り優先AE(F8.0・1/500秒・+0.3EV) / ISO 200

遠景では画面下の手すりの再現が画面中心より左まで滲んだり破綻したりせず分離出来ていることが分かる。レタッチを考慮すると全体的に少々シャープに過ぎる気もするけれど、これはこれで気持ちの良い描写。約2,400万画素機ではトップクラスの解像感があるように思う。

ニコンD780 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 70mm / 絞り優先AE(F8.0・1/160秒・+1.0EV) / ISO 200

高感度:比較

常用ISO感度はZ 6と同じくISO 100〜ISO 51200。デフォルト設定でのカメラJPEG画像をチェックする限りでは、ISO 12800まではそれほど画質低下を気にせず使うことができそう。厳しく評価してもISO 1600でタイルの目地がNRで潰れること無く再現出来ていて、細部再現性が高く素晴らしい。筆者的には、解像感にもある程度コダワリたいシーンであってもISO 3200なら許容範囲内。ISO 6400でも「苦渋の選択」という気持ちにはならないように感じた。

ニコンD780 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 70mm、以下のサムネイルは部分拡大
ISO 400
ISO 800
ISO 1600
ISO 3200
ISO 6400
ISO 12800
ISO 25600
ISO 51200

高感度:作例

ISO 12800で撮影した作例ではハイライトからシャドーまで安定した階調再現性とシャープネスが維持されていて、彩度も十分なので「無理している感」がない。拡大観察してみても、例えばカラーノイズでレンガが斑に再現されている、ということもなくGoodだ。流石は汎用性の高い2,400万画素クラスの最新フルサイズ機だ。

ニコンD780 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 70mm / シャッター優先AE(F2.8・1/250秒・+0.3EV) / ISO 12800

ピクチャーコントロール「モノクローム」と高感度の組み合わせについてもチェックしてみた。ISO 9000でもNRによってエッジの甘さが目立つこともなく、シャープネスも上々。ノイズが良い具合に粒状性となって雰囲気の良い再現になっている。この実力なら、モノクロ設定時は高感度ノイズ低減設定を「弱」にしても良いかもしれない。

ニコンD780 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 70mm / 絞り優先AE(F4.0・1/160秒・-0.7EV) / ISO 9000

自由作例

ガラス越しでもAFは迷うことが無く、高いピント精度で応えてくれた。ミラーレス機は像面位相差というAF測距・制御の特性(像面位相差AFを搭載せずコントラストAFのみで動作するミラーレス機もある)で、大きなピンぼけに対して位相を検知できるデフォーカス検知量の割合が一眼レフカメラのAFセンサーよりも少ないので、こうしたシーンで快適に撮影しようと思うと少しの工夫が必要だけど、一眼レフカメラなら簡単に撮れる。

AE制御についても筆者の撮り方にあっているのか傾向が分かりやすく精度も良いので扱いやすい。高性能だけど傾向の分からないAEだと“ここ一番”では迷いが生じるが、D780なら安心して撮影出来そうだ。

ニコンD780 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 56mm / プログラムAE(F2.8・1/125秒・±0EV) / ISO 100

メッキ部分とボディーカラーを印象的にしたかったのでピクチャーコントロールを「ヴィヴィッド」に。とても雰囲気良く捉えることが出来た。コントラストが立ち気味のヴィヴィッドを選択したのできっと潰れているだろうと思っていたタイヤのトレッドパターンがギリギリで再現出来ていることには驚かされた。しかもアクティブD-ライティング(ADL:ハイライト部の白とびを抑え、暗部の黒つぶれを軽減する効果がある)はOFFだというのに、このラティチュードの広さには恐れ入る。

ニコンD780 / AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED / 絞り優先AE(F1.4・1/4,000秒・-1.0EV) / ISO 200

萎れた花を印象的にするためにクリエイティブピクチャーコントロール「メランコリック」を選択してみた。シャープネスが抑えらていることと、マゼンダっぽい色調でレトロな印象もあり雰囲気良く表現できた。いわゆるクリエイティブフィルター系の画作りにはインパクト重視で破綻気味のものもあるけれど、クリエイティブピクチャーコントロールは真面目でしっかりとした画作りだ。

ニコンD780 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 60mm / 絞り優先AE(F5.6・1/125秒・-0.7EV) / ISO 200

夕景をより印象的にするのに個人的に気に入っているクリエイティブピクチャーコントロール「ポップ」。単純に彩度を上げると少し濁ったような表現になることもあるけれど、ポップだとクリアな印象でヌケ感の良さとを維持したまま、ギリギリ誇張されていないと感じる彩度で本来の色味を際立たせてくれるのが良いところ。ヴィヴィッドよりもシャドー側のコントラストが寝ているので扱いやすい印象がある。

ニコンD780 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 24mm / 絞り優先AE(F8.0・1/200秒・+0.7EV) / ISO 200

AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDの描写に感化されて、実写作例というより筆者の好みを全開にして撮った1枚。ローキーに撮影してみるとピクチャーコントロールをカスタマイズしなくても艶のある黒の表現で、なかなか美しい。

D780の位相差AFは、絞り開放でもピント精度が高い。作例の紹介は無いが周辺エリアでAFしたカットでもD850並の合焦精度だった。解像感の高いレンズと画作りで以前よりもピント精度に厳しくなった昨今において「個体差かも知れない」という注釈は付くけれど、特に調整しなくてもフォーカスエリアによらず位相差AFの精度に信頼感が持てたというのは、ミドルクラスの一眼レフカメラでは珍しいように思う。

ニコンD780 / AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED / 絞り優先AE(F1.4・1/1,600秒・-0.7EV) / ISO 200

まとめ

D780の光学ファインダーには新規製作されたペンタプリズムが採用されている。じゃ、ほとんど光学ファインダーで撮影したのか? と言われると否だった。

これは筆者がメガネ着用者であることも少なからず影響しているように思う。D850はメガネ着用でも積極的にファインダーを覗きたいと思うカメラだったのだけど、D780は接眼目当ての厚みの分だけD850よりも僅かにアイポイントが接眼レンズから離れてしまうことが影響して、周辺部がケラレて見えてしまい、快適性でやや劣る。D780はLV性能がとても快適なのでだんだんとLV撮影の頻度が上がっていき、結局4:6くらいの割合でLV撮影の頻度が高かった。一眼レフカメラのレスポンスについて語ったことは何だったのか? という有様だが、LVの快適性が勝った結果であると温かい目で理解していただければ幸いです。

ちなみにファインダーへの不満はもうひとつあって、それはフォーカスポイント照明の明るさ。D850よりも明るくてフォーカスポイントの視認性が上がっているのは良いけれど、室内くらいの明るさ(EV5を下回るシーンを含む)になってくると照明の赤い光がファインダースクリーン全体に広がって見え、周囲が暗くなるにつれてAF時に視認性を損うことが気になった。もちろん気にならないという人も居ると思うけれど、筆者はとても気になった。

※編集部注※
上記現象についてニコンに確認したところ、以下のような回答を得ました。

◇   ◇   ◇


D780では、被写体の明るさの状況によらず、AFエリア等を明瞭に視認できるようD750同等を目標に表示の明るさを調整しております。D850では照明を落としてスクリーン面が光ってしまう現象を抑えていましたが、そのぶん表示の視認性が落ちてしまい、お客様より「見えない」「照明を明るく」との改善要望をいただいたためD780ではD750同等の仕様に致しました。

好印象だったのは画質と快適な撮影性能。Z 6をはじめとして、ミラーレス機よりもスリープからの復帰が速く、LVやEVFの表示を「待つ」ことなく思い通りに撮影できることはとても気持ちが良い。

筆者は、スナップ撮影中は基本的にカメラをグリップした状態で移動する。なので最低でも2時間程度はカメラを握り続けることになるのだけど、その運用ではD780のグリップはD850よりも疲労感が少なく、AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRや、AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDなどの重量級レンズと組み合わせても手首や腕に大きな負担を感じることは無く、印象が良かった。

D850との重量差は約150gだけれど、長時間持ち続けると無視できない負担の差となるようだ。もちろん最も気軽に使えて普段使いならコレ! と思ったのは約200g軽いZ 6。やはり軽いことは正義だ。

画質性能については組み合わせたレンズが良かったことの影響が多大なのだけれど、3,000万画素以下の一眼レフカメラでトップクラスの画質性能を持っている、という感触がある。加えて背面モニターの表示クオリティが高く撮影後に表示される画像が大変美しいことも、まるで写真が上手くなったかのように思えて気持ち良い。

スケジュールの都合で真剣に動体撮影するチャンスを作れなかったことは残念だったが、スナップシーンでチェックしただけでもD750よりAFが迷わず、D850と併用しても「なんか違う」とネガティブな印象を抱かなかったことは明記しておきたい。

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。