新製品レビュー

Nikon D780(外観と機能)

一眼レフにZシリーズの機能を凝縮 D850との外観比較も

AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDを装着した状態のD780

昨日ニコンから新型FXフォーマットの一眼レフカメラ「D780」が発表された。ネーミングから分かる通り2014年10月発売のD750の進化版となる。

スペックの詳細などについては既報のとおりのため割愛するが、D780の成り立ちを簡単に表現するなら、フルサイズミラーレス機であるZ 6のセンサーと映像エンジン(像面位相差AFを持つ有効24.5MP CMOSセンサーとEXPEED 6の組み合わせ)を詰め込んだ一眼レフカメラ、ということになりそうだ。

本記事では開発中のベータ機を使用しています(編集部)。

一眼レフカメラの特徴を整理

一眼レフ、つまり光学ファインダーを持つカメラの特徴として挙げられるのは、リアルタイムに被写体を確認でき動体撮影時の被写体をファインダーに捉え続けることが容易である、ということ。

また、光学ファインダーを用いた撮影時はライブビュー(LV)の表示という処理の大きな仕事を映像エンジンがしないのでバッテリー消費が少ない。一眼レフカメラではカタログ上の撮影可能枚数(CIPA基準)が1,000ショットを楽に超えるカメラも多い。本機もCIPA基準で2,000コマを超えるスペックを持っている。CIPA基準では内蔵ストロボを持つカメラと内蔵ストロボを持たないカメラで評価方法が若干異なり、内蔵ストロボを持たないD780では内蔵ストロボを発光させないで良い分成績が伸びている、という裏話はあるけれど、それでも並のミラーレス機の倍以上のバッテリーライフがあるのは魅力のひとつだろう。

一眼レフカメラの特徴でもうひとつ忘れてはならないのが、起動時間やスリープからの復帰時間の短さ。電源ONやスリープ復帰から1秒以内に撮影可能となるミラーレス機はまだ存在せず、「一眼レフカメラはシャッターチャンスに強い」などと言われる所以となっている。

D780の気になる特徴をピックアップ

D780は上記の通り一眼レフならではの特徴を持ち、さらにZ 6で既に高い実力を知らしめた画質性能とLV性能を兼ね備えている。プレスリリースをチェックして筆者が気になったポイントについて少し言及したい。

[ポイント1]AFについて

D780の位相差AF性能は、フラッグシップモデルD5のアルゴリズムをD780に最適化して搭載されたことがアナウンスされている。

D780のAFシステムについて話を聞いてみたところ、AFモジュールそのものはD750から引き継ぎでAF専用エンジンは装備されていない。D5などと比べて測距点数(D5等→153点/D780→51点)が少ないことでAF演算量に余裕が出来、さらに演算性能の高いEXPEED 6の処理能力によってAF専用エンジンを持たなくてもD5相当のアルゴリズムが搭載可能になった、ということのようだ。

1月9日追記:記事初出時に「D780の位相差AF性能はD5と同等レベル」と記載していましたが、正しくは「D5のアルゴリズムを(51点AFであるD780に)最適化して搭載し、オートエリアAFの被写体検出性能を高めた」ものだったため、上記部分を修正しました。

LV中のAF性能はZ 6と同等。もちろんミラーレス専用設計のZレンズが持つAF性能と比べるとレンズそのものが持つAF性能で差があるので、レンズシステムを含めた総合力では専用システムのZシリーズにアドバンテージがあると想像されるが、基本的には同じものが動作しているので、画面の縦横それぞれが約90%を誇る像面位相差AFのエリアカバレッジや瞳AFの快適性を一眼レフカメラでも楽しめるのは嬉しいところ。

LV画面
OVFの表示

[ポイント2]AEについて

測光センサーにD5やD850と同じ180KピクセルRGBセンサーが採用されている。測光限界がEV -3対応(D750はEV 0まで)なのでNDフィルターやテレコンとの相性はもちろん、ファインダー撮影時の顔認識AFの精度などシーン認識能力の向上にも効きそうだ。

外観:D780

各部

撮像センサー部分。ミラーレスカメラに慣れていると新鮮に感じる奥まった位置に鎮座している。ミラーボックスの内面反射防止の処理は植毛タイプで素晴らしい。

右側面には記録メディアスロット(SDカード・ダブルスロット仕様)が配されている。

左側面には端子が集中。上からマイク、ヘッドホン、リモコン、USB(Type-C)、HDMI(Type C)となっている。USB端子からの充電にも対応(給電は非対応)している。

背面モニターはチルト操作に対応。パネルもタッチパネルとなっている。

外観:D850との比較

D850と比べると一回り小さいので、D850を普段持ち歩くには大きすぎると感じている人には許容範囲に収まるサイズかもしれない。なお、10ピンターミナルやシンクロターミナルは装備されていない。

ボタン類のレイアウトは右手が担当する部分に関してはほぼ同じ。LVセレクターの位置とサブセレクターの有無など多少の差異がある。背面左側ボタンのイルミネーターは採用されていない。ファインダー接眼部は丸窓ではなく角窓となっている。

左がD780、右がD850

左肩にはレリーズモードダイヤルと同軸にモードダイヤルが配置されている。ロックの位置はD750と同じくボディ手前側。D850ユーザーは慣れるまで一瞬迷ってしまいそうだ。

D780では内蔵ストロボが廃されたことでファインダー周りがシャープな意匠となっており、D850の面影を感じさせる。一方、シャッターボタン周りはZシリーズを思わせるデザイン。一眼レフカメラとミラーレスカメラのハイブリッドモデルであることを意識しているのかもしれない。

使用感(操作感)

グリップ部は、ニコン製品に共通する高い剛性感が伝わってくる安心感のある握り心地。ラバーの素材感も上質、というかお値段相応の握り心地がある。これなら大柄なレンズと組み合わせてもしっかりとグリップ出来そうだ。

サイズ感は手の大きな筆者でも小指が余らず、かと言って大きすぎる事もない。大三元ズームや大口径単焦点レンズと組み合わせてもバランスが崩れない丁度良いサイズだろう。グリップの指掛かりも良く少ない力でホールドできそうだ。

ボタンの押下感はD850と比べて僅かに不明瞭。特にシャッターボタン周りの3つのボタンは慣れるまではブラインド操作が少し難しいかもしれない。

前後ダイヤルはD850と同様にラバーが巻かれ、手の状態(手袋や乾燥肌など)に依らず操作感はとても良い。やはりこうでなくては。

レリーズ感はD850よりも低音成分が強く、実務的な音質で少しだけ手に衝撃が伝わる印象。比較対象として非常に上質で触感の良いD850を持ち出したことが不適当であることについては自覚している。

LV中の撮影感はほぼほぼミラーレス機の快適性が実現されている。AFは高速かつスムースで、レリーズから露光までのラグも非常に小さい。試みにZ 6とのレリーズ感を比べてみたら非常に僅かな差だけどD780にワンテンポのラグがあった。メカシャッターのみの挙動かと思い電子先幕シャッターの設定をON/OFFしてみたが、設定に依らずこの印象は変わらなかった。

まとめ

実写前に簡単に動作チェックしてみただけでも軽快感やハンドリングの良さを感じられた。それはサイズや重量など物理的な事実だけではなく握り心地の良さやレスポンスなど肌に触れることで実感できる部分。LV性能の快適性はミラーレス機同等で、OVF撮影時は一眼レフのレスポンスがあることは痛快で気持ちが良く、撮影スタイルに依らず反応が良く快適。人間、「快適さ」にはあっという間に慣れてしまうが「不快さ」に対してはナカナカ慣れないものなので、「様子見がてら、軽く触れてみよう」などという中途半端な気持ちでD780に触れてしまうのはいささか危険である。

ということで、従来からの一眼レフカメラユーザーの人たちにも、ミラーレス機で写真を始めて一眼レフカメラが気になっている人たちにも訴求力のあるカメラという感触を得た。それは、これまでニコンの一眼レフカメラが苦手としていたLV中のAF性能が快適と感じるレベルにまで一足飛びの進歩を果たしたことの影響が大きく、さらに一眼レフカメラの撮影感とレスポンスを両立出来ているからだ。

咄嗟のシーンやバッテリーライフという実務的な側面から一眼レフカメラが望ましいけれど、ミラーレスの利便性も捨てがたいと感じている人には理想的な解となるカメラなのかも知れない。

次回は実写編として、気になる画質面についてお伝えしたい。

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。