新製品レビュー

EOS 9000D(実写編)

バリアングル液晶とデュアルピクセルCMOS AFの組み合わせも使いやすい

「45点オールクロスAFセンサー」や「デュアルピクセルCMOSセンサー」など、入門機に分類されるキヤノンのデジタル一眼レフカメラとしては、驚きのAF性能を身に着けて登場したEOS 9000D。ラインナップ上ではEOS 8000Dの後継機であると同時に、EOS Kiss X9iの兄弟機にあたることは、前回の外観・機能編で紹介した通り。

実写編となる今回は、デジタルカメラの要ともえる画質を確認するとともに、前述のAF性能をはじめとしたスペックの強化が、カメラとしての基礎体力を実際のところどこまで押し上げているかを見ていきたい。

新製品レビュー:EOS 9000D(外観・機能編)~上級者のサブ機にも嬉しい操作系 一歩上行くエントリー
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/newproduct/1049359.html

ダイナミックレンジ

作例は、薄曇りに浮かぶ朝日と川面の風景を撮影したものであるが、最も輝度の高い太陽と、陰になった暗部の陸地や船の対比に注意してもらいたい。太陽は中心部こそ白トビを起こしているが、決して不自然でなく階調を保ちながら周辺へと移行している。

一方、陰の部分は黒ツブレを起こすことなく、暗部の中で被写体のわずかなディテールを描き分けている。薄い雲に覆われた空の表情も、微妙なコントラストを表現しており秀逸だ。

EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS STM / 1/320秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 35mm

同程度の画素数の35mmフルサイズセンサーに比べれば、画素ピッチが狭くなるため、その分、ダイナミックレンジも狭くなりがちなAPS-Cサイズセンサーではあるものの、撮像センサー自体、また、画像処理エンジンの性能進化に伴って、作品撮りにも対応できる十分なダイナミックレンジを有しているといってよいだろう。

こうした表現力の高さは、コンパクトデジタルカメラやスマートフォンとは決定的に異なる、デジタル一眼レフカメラのアドバンテージのひとつとなっている。

高感度

ダイナミックレンジの性能と同様、高感度特性についてもデジタルカメラの性能進化は著しいものがある。当然、EOS 9000Dの高感度特性も最新のデジタル一眼レフとして相応しい性能を有していると断言してよいだろう。

下の作例は、黄昏の残照がわずかに残る時間帯にISO1600で撮影したものであるが、ビル群の質感や空の薄明りの表現などに、違和感を覚えることはまったくない。多少の輝度ノイズは見られるが、色ノイズの発生はほとんど見られず、この程度の高ISO感度であれば完全に実用の範囲内だといってよい。

EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS STM / 1/8秒 / F5 / -1EV / ISO1600 / 絞り優先AE / 42mm

さらに感度を上げ、ISO12800で撮影した画像が下のものである。ISO1600時に比べれば質感の消失が顕著であることは否めないものの、それでも色ノイズの発生はほとんど見られず、2L程度の小サイズプリントなど使用範囲を限定すれば十分に利用可能な画質が維持されている。

EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS STM / 1/50秒 / F8 / +1EV / ISO12800 / 絞り優先AE / 19mm

同じく、最高感度のISO25600でも、使用条件に注意すれば問題なく綺麗な写真としてWebサイトなどにアップすることも可能だと思う。ただし、階調とノイズのバランスが最も優れている(=最も画質が良い)のは、あくまで基準感度となるISO100であるので、いくら高感度特性が優れているといっても、そこには注意を払うべきだ。

AF性能

EOS 9000Dはファインダー撮影専用に45点オールクロスAFセンサーを搭載しており、これが大きな特長の1つとなっている。一昔前の上級機をも凌ぐ、非常に高いAFスペックをもった入門機というわけである。

被写体の条件が縦でも横でも正確に測距できるクロスセンサーが、高密度かつ広範囲に存在しているため、作例のように高速で飛行するカモメなどでも、AIサーボAFで正確にピントを捕捉し続けてくれた。デフォーカスの状態から合焦にかかるまでのスピードも非常に速く、画面内に被写体を捉えていれさえすれば、ピントが間に合わなかったり、中抜けしたりするようなことはまずなかった。

連写した中の1枚。EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS STM / 1/1,000秒 / F9 / +1EV / ISO400 / シャッター優先AE / 135mm

一眼レフカメラであるだけに、光学式ファインダーで快適にAF操作ができるか否かは重要な要素である。その点、EOS 9000Dなら、(装着するレンズの性能にも依るが)入門機でありながら中、上級機にも引けを取らない高度なAF撮影が可能である。

作品

バリアングル式の液晶モニターを横位置に開きローアングルで猫を撮影した。デュアルピクセルCMOSセンサー(縦横約80%の範囲で1つ1つの画素が位相差AFセンサーの構造を兼ねている)とタッチパネルの採用により、しゃがんだ姿勢でも液晶モニターをタッチするだけで、簡単に狙った位置にピントを合わせ、シャッターを切ることができる。

EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS STM / 1/250秒 / F5.6 / +0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / 98mm

縦位置でのローアングル撮影も楽な姿勢でできるのは、バリアングル式液晶モニターの利点である。測距点の自動選択では猫の手前のロープにピントが合いがちであったが、モニター上の猫の顔をタッチすることで素早くピントを合わせることができた。

EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS STM / 1/320秒 / F6.3 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 106mm

パンジーの花を質感豊かに写したかったのでピクチャースタイルを「ディテール重視」にして撮影した。初期設定は「オート」になっており、意図したピクチャースタイルが適用されない場合もある。EOS 5Ds/5Ds Rで初搭載されたディテール重視が本機でも使えるところは、最新機種の強みだ。

EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS STM / 1/250秒 / F5 / +0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / 69mm

AIサーボAFでカモメを追っていた時の1コマ。不意に画面内に太陽が入ってきても迷うことなく合焦し続けてくれた。センサーのスペックだけでなく、解析や処理の能力も高く、AF性能全体が進化していることがわかる。

EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS STM / 1/1,000秒 / F22 / 0EV / ISO800 / シャッター優先AE / 69mm

干潟を飛ぶシロチドリの群れを連続撮影した。EOS 9000Dの連写撮影能力は最高約6コマ/秒となっており、10コマ/秒以上も可能な現代の上級機と比べると遅く感じてしまうかもしれないが、入門機としては相当に高速な部類に入ると言ってよい。よほどシビアな動態撮影でもない限り十分なスペックと言えるだろう。

EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS STM / 1/1,600秒 / F7 / +1EV / ISO800 / シャッター優先AE / 135mm

まとめ

ファインダー撮影用に45点オールクロスAFセンサーを、ライブビュー撮影用にデュアルピクセルCMOSセンサーを搭載するなど、入門機としてこれ以上ないくらいハイスペックなAF性能をもったデジタル一眼レフカメラである。実際、その性能はあらゆるシーンで簡単、的確に作動し、常に思い通りのピント合わせを保証してくれるものであった。

ただ、AF性能に代表される性能進化は、兄弟機であるEOS Kiss X9iでも同等である。では、EOS 9000Dならではの特長はどこかといえば、やはりカメラ上部の液晶表示パネルとサブ電子ダイヤルの存在ということになるだろう。EOSらしいともいえるこの2つの操作系があることによって、“Kiss”のペットネームを継承しフルオートでの撮影が多く想定される兄弟機に比べ、絞り優先AE(Av)やシャッター速度優先AE(Tv)、またマニュアル露出(M)での撮影をより積極的に楽しむことができる。

今回は、EOS 9000Dの優れたAF性能を利用して連続撮影を多く行ったが、そうした場合でも、迅速にカメラの設定をサブ電子ダイヤルで変更し、素早く設定値を液晶表示パネルで確認できた。

外観・機能編で述べた通り、初心者はもちろん、上位機を所有する既存のEOSユーザーがサブ機として使う場合でも、多くのシーンで満足して使うことのできるデジタル一眼レフカメラであることを確認したのであった。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。