山岸伸の「写真のキモチ」
第90回:四天展を終えて
友と学びを得た四人展
2025年6月30日 12:00
各分野を牽引する写真家である小松健一、鈴木一雄、林義勝、山岸伸の4人が集い6月2日から14日まで銀座の吉井画廊で「四天展(してんてん)」と題して写真展が開催された。どのような写真展になったのか、会期を終え山岸さんが思うこととは。(聞き手・文:近井沙妃)
4人で成し遂げた四天展
「四天展」と名を打って銀座 吉井画廊で行われた写真展が無事に終了。続いて同会場で小松健一さんと林義勝さんが1週間ずつ作品展を開催した。何度かちょっとした行き違いはあったが、会場に行く度に勉強させられ私にとってはとても楽しく意義のある写真展だった。なにより同年代の写真家4人が集まって何かしようと、こうして成し遂げたことが嬉しい。
私に声をかけてくれた林さんにはもちろん感謝しているが、受け入れてくれた鈴木さんと小松さんにも大感謝。四人展を銀座でやりたかった。そして写真ギャラリーではやりたくなかった。これを言い出したのは私。3人は写真ギャラリーでの開催を考えていたみたいだが、最後に仲間入りした私が皆さんとは違う考え方。また3人が意見を受け入れてくれて「四天展」は吉井画廊で開催することができた。
画廊の家賃や図録制作費用は4人で4等分。展示スペースやトークイベントの順番など何かあればじゃんけん。子どもっぽいかもしれないがじゃんけんで決めたことが意外とうまくいったと思う。
写真展初日、私はいつものことだが早く行き開場前に着いてしまう。自分や皆さんの写真を見て、会場で販売する写真展の図録にサインを入れる。私はこれといって特別なサインを持っていないためエンボスを印として押すようにしているが、このエンボッサーは写真家の岡嶋和幸さんが使用していたのを見て購入先を教えていただいて作ったもの。
順に林さんと鈴木さんが来て各々自分のページにサインを入れていく。
私は鈴木さんの作品集を1冊も持っていなかった。鈴木さんは「プレゼントするよ」と言ってくれたが、やはり1冊はどうしても購入したく今回購入させていただいた。写真を見てもわかるように鈴木さんの笑顔は素晴らしい。私よりも少し年下だが長男の様に皆をまとめる力があり、彼は彼の役割というものをきちんと人として持っているのだと思う。あまり写真家を好きにならない私だが、この機会で好きな写真家に鈴木さんの名が挙がるようになった。
鈴木さんは8月15日にアルカディア市ヶ谷にて鈴木一雄『にっぽん列島・いのちの聲』写真集発刊・写真展開催記念パーティを行うということで私も発起人に入れていただいた。久々に写真家の山口高志さんと会えるのも楽しみ。
来場者紹介
順不同で来場者を紹介。いつも東京で写真展を開催すると朝1番で来てくれるHASEOさん。毎回名古屋からわざわざ来ていただくのは申し訳ないがタイミングが合えば必ず来てくれる。
今回は写真を売ろう、写真を売って家賃を出そうという企画で各自値段を決めて写真を販売した。私の良き理解者で応援してくれているサイオス株式会社の喜多社長に1点ご購入いただいた。何かでお返しが出来るときが来れば嬉しい。
これらの記念写真は私が在廊当番で画廊にいたほんの少しの時間で撮った一部。四人展となれば三者三様、たくさんのお客様が連日会場にいらしてくれて心から感謝。
銀座の画廊
吉井画廊は私の大好きな画廊。何故かというと銀座であり路面ということ、そして午前中の光がとても綺麗に入る。私もこの会場で何名かのポートレートを撮らせていただいたことがある。画廊そのものがフォトジェニック。テーブルにSigma BFを置いて1枚撮ってみたがなんともいい雰囲気。カメラが被写体になる、そんな時代も来たんだね。
昔から私はカメラを集めるのが大好きで今も300台くらいのカメラをコレクションしているがこのBFは傷を付けたくないので大切に大切にしている。
ここに2本の葉巻がある。キューバ産の高級な葉巻。私が葉巻を吸うと知った画廊のお客様がわざわざ届けてくれて、早速吸える場所に行き葉巻を咥えてみたが本当に美味しかった。
画廊で過ごす中で
在廊は当番制だが、ふと林さんと一緒になることができ私に声をかけてくれたお礼をし、彼がこれからどのように写真家として活動していくかを少し伺った。私と同じ1950年3月生まれ、日にちは少し林さんの方が早い。1998年に齋藤康一先生が出版された「先輩・後輩・仲間たち」という写真集に私と林さんが最年少で登場しているが、そのときから彼の事をずっと意識していた。
当時は1番の若手だったがその2人がいつの間にか最年長として今回写真展をやっている。生き方は違ってもいつまでも写真を愛している2人がこうしていれることは私にとって幸せな空間だった。
ここにはアシスタントの近井が写っているが会場や記念写真を撮ってもらったりと、私が在廊するときは近井も同席している。今回は4人のプロフィール写真を近井が撮ってくれたので会場にいても違和感が無く、私を除いた写真家3名が「近井さん近井さん」と呼んでくれることが私としても嬉しい。本人にとってもそうだと思う。
これは林さんの写真の1部だがこうしてサインが入っている。画廊には知り合いの方も来れば通りすがりで入る方もいて、いろいろな方が来る。そんな中でお客様が入って早々に林さんの写真をスマホでパチリ。近井が気づき「会場の雰囲気は撮影可能ですが1枚ずつの撮影(複写)はご遠慮ください」と注意していた。恐らくアジア圏の方だったと思う。
高性能なスマホでサインを含めずに撮影し、「この写真は私が撮った」と言われたり商業利用をされたらどうなんだろう。手軽に行われる何気ない行為は一見大したこと無いように見えてもその先の可能性を考えるととても大したことである。今までもこれからも私たちのテーマであり課題である著作権や肖像権。改めてその必要性を感じた。
会期中には4人でトークイベントも開催。皆さん生徒やたくさんの方たちが来て会場は大盛り上がり。私はどこで何も教えていないので生徒がいなく、生徒がいるって心強いんだなと今回初めて思った。今後も写真教室などは持たないが少し違う形にでも目を向けていかなければ。
銀座のいいところは知人と再会できる確率が高いところ。画廊の前に立っていたら元LINE代表取締役社長の森川さんと目と目が合い、写真を見てくれた。
夕方、写真家の山口さんと路上に座っているときに記念写真を撮るよう近井にお願いした。ストロボを焚いて、さて、どんな風に写るか。スローシャッターでいい感じに写ったね。何気ないシーンでこういう撮影もした方がいいということは近井にとって1つ勉強になったと思う。
発展を信じて
「四天展」は私たちが写真を撮って生き続ける根本はここにあると感じさせてくれる有意義な展示だった。そして小松さん、林さんの作品展とバトンタッチされていった。この連載が公開される頃にはすべてが終わっているがこの4人の契りは今後どのように発展するか、私は楽しみにしている。
あまり人前に出て行かない私だが、こうして四人展の開催を経て仲良く感じる3人の友ができたことがこれからの私の写真人生にとても大切な出来事だったと思う。