新製品レビュー

PENTAX KP(外観・機能編)

これだけ多機能で13万円台は大サービスだ!

HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WRを装着

PENTAX KPは、リコーイメージングが2月23日に発売するデジタル一眼レフカメラだ。PENTAX K-1と同様の「機能ダイヤル」を搭載し、K-1と使い勝手の共通化が図られたと思っていいだろう。ハード的にもグリップ交換というカスタマイズが可能になっている。

性能面においても充実しており、高速電子シャッターの採用や、ISO812000を誇る超高感度撮影、5軸手ブレ補正など最新テクノロジーが採用され、PENTAX APS-C機のフラッグシップという位置付けと言える。カスタマイズと高機能の両面から、愛着を持って長く使える1台を目指したという印象だ。

デザイン

直線を基調としたデザインは最近の一眼レフカメラの傾向であると言える。すっきりと見えながら存在感があって好ましい。さらに大型の回転ダイヤルを多数搭載したKPのデザインはメカニカルな印象で、多くのカメラの中においても埋没しない個性を持っている。

ことに上方に意識を引っ張り上げるような、伸びやかに頂点に連なる大型のペンタカバーは印象的。ボディ上面からは情報表示のための液晶表示を省いてしまっているが、このことと大きなペンタカバーの存在感が、4つの大型回転ダイヤルを配してなおすっきりとした印象をこのボディに与えているのだ。

KPを実際に手にしてみるとAPS-C機らしく小さなボディだが、重量は約700g、高画質系の標準ズームレンズ(HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR)を装着するとおよそ1kg弱となり重くはないが、決して軽い一眼レフとは言えない。

しかし、その存在感の強いボディとある程度の重さを感じながら自分の手の大きさと比べると、凝集感・密度感を強く感じ、愛着という数値化できない魅力に繋がってゆくパッケージングだ。

そうしたことに重要な要素にもう1つ、操作感がある。大変多くの回転可動部を持つボディだが、回転のスムーズさ、クリック感は統一され、高級感を醸し出している。

さらにもう1つ、デザイン上の特徴は交換式のグリップだ。交換式グリップは80年代のフイルムカメラ、PENTAX LXにも採用された。自分のカメラに個性を与え愛着を深めるための仕掛けであると同時に使い勝手を左右する機能性パーツであり、KPの立ち位置を決めるキーアイテムであるのだ。

標準状態では最も小さなSグリップが装着される。そのホールディング性は、最近の深く大きなグリップに慣れたユーザーには違和感を覚えるものだろう。グリップが小さく手が余ると感じてしまうだろう。

しかし、上にあげた写真のように小指をおってボディの下に入れると途端にしっくりと、しかし軽やかにホールディングできる。まさにPENTAX LXのホールド感だ。背面液晶などがないぶん、フイルム時代のボディは薄いものであった。その感じだ。より近いのは90年代のモータードライブ内蔵のフィルムカメラだろう。

しかしながら、ユーザーの好みに合わせてMサイズ、Lサイズのグリップが用意されている。両サイズでは現代的な手のひら全体で包み込むようなホールド感になる。自分の手の大きさに合わせて選べば良いだろう。交換は六角レンチ1本で簡単だが、2箇所のツメを設けることで高い強度でボディに接続できる。DIYの得意なユーザなら、より自分好みにカスタマイズすることだろう。かつてのPENTAX LXユーザーたちのお喋りが聞こえてくるようだ。

Sグリップ(標準装備)を装着
Mグリップ(別売)を装着
Lグリップ(別売)を装着
グリップを外したところ

ボタン類

外観上の特徴ともなっている複数の回転ダイヤルのうち、右軍艦部に乗っている2つのダイヤルが機能ダイヤルと設定ダイヤルである。2つはセットで使用する。機能ダイヤルで使用したい機能を選び、設定ダイヤルでその設定値を決めるというものだ。

デジタル一眼レフカメラでは撮影機能が増える一方であるが、使用頻度の高いものだけをダイヤルに割り当てることでブラインドコントロールを実現し、よりシャッターチャンスに集中できる環境を作り出そうという提案だ。

機能ダイヤルには7つのポジションがある。4つのポジションは固定されており、白丸:機能無効、AE:測光方式の切り替え、HDR:HDRのON/OFFおよび設定、CH/CL:連写速度切り替えである。残る3つはユーザーポジションであり、任意の機能を割り当てることができる。

初期設定ですでに、カスタムイメージ、ローパスフィルター切り替え、アウトドアモニターが割り当てられており、よく練られた設定だ。

しかし、ユーザー設定をカスタマイズすることでさらに使い勝手を向上させることができ、カメラをいじる楽しみとも言える機能だ。機能ダイヤルはK-1から搭載されるようになったが、今後のペンタックスの操作系のメインストリームとなるのであろう。

撮影モードを決めるモードダイヤルは左上部に設置された。使用頻度と左手への役割分担と考えると妥当な位置であると言える。機能が多くなってくると操作項目が右手に集中しがちになるが、左手にも操作項目を割り振ってゆくほうが、素早く設定を変更できて便利だ。

さて、KPのモードダイヤルは小ぶりながらポジションが多く、実に13ものポジションに分かれている。U1からU5まではユーザーポジションだが、かなり細かい点まで設定が可能だ。

そのほか特徴的なのは、SVモードとTAVモードである。それぞれISO感度が強く関係する。SVモードは後電子ダイヤルで常にISO感度を変更できるプログラムオート、TAVモードはマニュアルで任意の絞りとシャッターを設定すると、適正露出が得られるようにISO感度が自動的に変更されるモードである。

2つのモードとも積極的に感度を変更するので、画質に影響する可能性が高くなる反面、手ブレを効果的に抑えやすいモードでもある。従来のモードと併せ、シーンによる使い分けの選択肢が増えるのは良いことだ。

前電子ダイヤルは、撮影時にはシャッター速度の変更に使うが、大きめで回しやすいものだ。回転トルクは軽く、適度なクリック感があるので回りすぎる感じはない。

こうした大型のダイヤルが前面に配置されている場合、不用意に動いてしまうことも多く、そのためKPの前電子ダイヤルの下半分はガードがついており、上側からの操作でのみ回転できるようになっている。

そのため、意識して中指で回すか、シャッターから外した人差し指で回す動作になる。上側からのみの操作は手袋をしているような場合も誤操作をしにくい。

撮像素子

イメージセンサーは新開発のCMOSセンサーで、APS-Cサイズ有効約2,432万画素、ローパスレスだ。これをセンサーを移動させるプラットフォームに乗せ、微細かつ精密にに移動をコントロールすることで、手ブレ補正であるSR(シェイクリダクション)、画素をずらして撮影しベイヤー配列の欠点を解消するリアル・レゾリューション・システム、微小駆動によるローパスフィルター効果、別売のGPSユニット(O-GPS1)と合わせて天体の動きを追うアストロトレーサーへと展開している。

画質の点で言えば、画像処理エンジンはK-1と同世代であるPRIME IVを搭載し、さらにノイズ処理に特化したアクセラレーターユニットを追加することで低ノイズ化し、最高感度ISO819200を実現した。

超高感度化により手持ちによる実用撮影範囲が大きく広がったが、さらにISOオート時に30~1/6,000秒まで全てのシャッター速度を低速限界として設定できるようになった。これにより、屋外から急激に暗いホールに移動するようなライブ撮影や、夕日から深夜に至るような大きく露光の変わるタイムラプス撮影など特殊な撮影分野にも対応できるようになった。

また、記録方式はJPEGのほかRAWデータを選べるが、RAWデータはペンタックス独自形式のPEFもしくは汎用性の高いDNG形式を選択できる。RAWデータは画像サイズを変更できないが、JPEGでは、以下4種類の画像サイズを選ぶことができる。

  • L(24Mpx:6,106×4,000px)
  • M(14Mpx:4,608×3,072px)
  • S(6Mpx:3,072×2,048px)
  • XS(2Mpx:1,980×1,280px)
記録サイズの設定画面
感度の設定画面
低速限界シャッター速度の設定画面

AFシステム

AF測距点は27点。一部の測距点は画面の7割近い位置に配置し中央以外の測距性能や被写体の捉えやすさを高めている。また、主要被写体が配置される確率の高い広めの中央部には25点を配置し測距点の密度を高めるとともに精度の高いクロスタイプのAFセンサーを採用した。

さらに中心部の測距点3カ所にはF2.8より明るいレンズを使用した時により高い精度で測距できる高精度ラインセンサーを採用し、大口径レンズの浅い被写界深度を活かす撮影に対応している。

AFの設定メニューは、ファインダー撮影時とライブビュー撮影時に大別されるが、ユーザーインターフェースはまとまっており、きめ細やかな設定が可能だ。

AFの設定画面

ファインダー

ファインダーは光学式であり、視野率はほぼ100%である。ガラスペンタプリズムを用いた損失の少ない光学系で、APS-Cサイズでありながら明るく解像感の高い視野を確保している。また、視度補正機構も内蔵しており、アイピース上部のスライダーを動かして調整できる。

アイレリーフは見口枠より20.5mmとなっており、眼鏡使用時にも問題のない長さとなっているが、実際に覗いた印象では裸眼で全視野が楽に見え、眼鏡使用ではギリギリ全視野が見えるという印象。これはもちろん使用する眼鏡によって印象は異なるが、アイポイントを定めやすく覗きやすい設定であった。

液晶モニター

液晶モニターは約92.1万ドットで3型である。モーションも上下方向のチルトのみで、スペックとしては特段のものではない。しかし、その機能面においては実用性の高い工夫がある。

まず1つは画面輝度を手動で変化させる「アウトドアモニター」だが、これは前出の機能ダイヤルに割り当てられる。周りの環境に合わせて即座に明るさを切り替えることができ、確実な情報収集が可能だ。

そしてもう1つ、ペンタックス独自の機能、赤色画面表示だ。天体撮影時、目がせっかく暗所に慣れて暗い星まで見えるようになっても、明るい液晶モニターを見たら即座に瞳孔が閉じて暗い星が見えなくなってしまう。そこで、モニターの表示色を赤とするのだが、人間の目は赤い波長に対して鈍感であるので、赤いライトであれば周りを確認できるような明るさでも瞳孔が閉じないのだ。

赤色画面表示にしたところ

手ブレ補正

KPの手ブレ補正機構はイメージセンサーを駆動する方式であり、ペンタックスではSRII(Shake Reduction II)と呼んでいる。5軸対応補正であり、CIPA規格準拠でシャッター速度5段分の手ブレ補正を持っている。また意図的な流し撮りをカメラが検出し、流し撮り方向以外の手ブレを切り替え操作なしに抑えられる。

手ブレ補正の設定画面

端子類

ボディ左側面にはマイク端子とDC電源の端子がある。どちらの端子も分厚いゴムの蓋で塞がれており、十分な防塵防滴性能を持っている。

マイク端子はリモコン端子も兼ねており、ケーブルスイッチ(CS-310)が対応する。DC電源には、ACアダプターキット(K-AC167J)が利用できる。

記録メディアスロット

ボディ右側面にメディアスロットとUSB端子がある。USB端子は一般的なマイクロUSBであり、PCと接続してのライブビュー撮影やデータの転送に対応する。USB端子もメディアスロットももちろん防塵防滴だ。

使用できるメモリーカードはSD及びUHS-I規格対応のSDHC、SDXCだ。2,400万画素機であり、動画もフルHDであるので、特別に速いカードを必要とはしない、リーズナブルな設定だ。

バッテリー

使用バッテリーはD-LI109。撮影可能枚数はフラッシュ50%発光で約390枚、フラッシュ発光なしで約420枚。同じ電池を使うK-70よりもやや撮影可能枚数が少ない。別売のバッテリーグリップ(D-BG7)を装着するとK-1やK-3 IIと同じバッテリー、D-LI90Pを使用できる。そのため、これら機種と併用する場合はバッテリーグリップの購入も検討するといいだろう。

充電器は小型軽量で過不足のないものだが、カメラが変わってバッテリーが変わると充電器も増えてくる。特に買い増して複数台のカメラを併用する場合に、増えていく充電器は悩ましい。今後期待することとしては充電器の統一や、カメラやバッテリーへ直接のUSB充電など汎用性や広範な利便性を考えた充電環境を望みたいところだ。

まとめ

液晶モニターなどはコストダウンされているものの、全体としては十分な高級感を持った仕上がりだ。しかしKPの魅力は、センサー駆動技術のもたらす多彩な機能だろう。

強力な手ブレ補正のみならず、リアル・レゾリューション・システムと呼ぶ高解像化技術やアストロトレーサーなど、独創的で実用的な機能を小さく使い勝手いいボディで楽しめることであろう。

さらに高速電子シャッター、視野率約100%の光学ファインダー、高速連写などカメラとしての機能も高級機クラスである。

これらてんこ盛りとも言える機能、性能の価格は13万円台だ。これはまず間違いなくお買い得というより、大サービス価格と言える。誰が買っても後悔のないコストパフォーマンスの高さである。

本来想定するのはK-1のサブ機もしくは、K-3やK-70からのステップアップだろう。しかし、メインは他社カメラであっても、写りと操作性の良い小さなサブカメラを求めるユーザーにちょうど手頃な選択だ。

防塵防滴ボディで少しばかり雑に扱えるし、カスタマイズで愛着も持てる。車で言えば、軽スポーツカーみたいな感覚だ。2台目で実用的だが、実は高性能で少し尖って愛着も持てる。そんな感じだ。それゆえ、エントリーユーザーだけではなく、他社ユーザーも含めて普段使いのカメラとしてお勧めしたい。

さて、今回は手に触るのみで実写はしていない。改めて実写の機会を作りたいが、非常に撮影機能の多いカメラである。それゆえ、楽しみである反面、その全てを試用し尽くすほどの時間を取れるかどうか不安でもある。

(次回は実写編をお伝えします)

茂手木秀行

茂手木秀行(もてぎひでゆき):1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、マガジンハウス入社。24年間フォトグラファーとして雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」を経て2010年フリーランス。2017年1月14日より新宿、コニカミノルタプラザにて個展「星天航路」を開催予定。