特別企画
街角写真家・佐々木啓太が一眼レフを使う理由と3つの楽しみ方
光学ファインダーで街スナップをもっと楽しく、もっと気軽に
2018年8月27日 09:23
街を歩きながらスナップを撮影するなら、機材は小さく、軽くを突き詰めたいと考える人も多いのではないだろうか。小型軽量だけを求めればほかの選択肢も多数あるが、佐々木啓太氏の選択はPENTAXのデジタル一眼レフカメラだった。なぜあえてデジタル一眼レフカメラなのか。その理由は“光を感じること”と“想像力を鍛えること”にあった。
いろいろ使ってきたけれども、やっぱり光学ファインダーに戻ってきた
コンパクトデジタルカメラを初めて使った時は、撮影後にすぐに画像が確認できることがうれしかった。撮影機材をデジタルにシフトし、さらに一眼レフカメラからミラーレスカメラになり、設定を変えた際に仕上がりや露出補正が反映されるEVFで確認しながら撮れるようにもなった。ミラーレスカメラの画質や性能が上がり、描写力の高いズームレンズもそろえたのに、物足りなさを感じた。
EVFで答えを見ながら撮影しているとチャレンジしなくなって、光を感じる力や想像力が落ちているように思えた。そんな時に出会ったのがペンタックスのカメラだ。本格的に使い始めたのはPENTAX K-S2から。ピントの山がつかみやすくトーンの確認も容易な光学ファインダーが魅力的だった。トーンをつかみやすいのは、そのために少しざらつきを残したファインダースクリーンと抜けの良いペンタプリズムの組み合わせによるものだ。
光学ファインダーを覗きながらモノトーンの設定にしているときは、フィルム時代と同じように光を感じながら頭の中で風景をモノクロに置き換えてファインダーを覗く。
HD PENTAX-DA 21mm F3.2AL Limitedは、コントラストが高く暗部が引き締まりやすいので、力強いモノクロが好みの人にオススメだ。
[楽しみ方①]撮影しながらの画像確認をしない
撮影がひと区切りつくまでは画像確認はしないようにしている。理由は、撮った結果をその都度確認していると、狙っているイメージに集中できないからだ。
カスタムイメージとデジタルフィルターを組み合わせて強い変化を作って撮るときに、光学ファインダーを覗きながら撮影していると露出を大きく失敗することもある。でも失敗の悔しさがなければ、成功したときの楽しさもない。その楽しさがなければ成⻑もしない。これが、EVFで答えを見ながら撮っているときに物足りなさを感じた理由のひとつでもある。
例えば「リバーサルフィルム」はコントラストが強いカスタムイメージで、さらにコントラストを強調するデジタルフィルター「ハイコントラスト」を組み合わせると暗部が潰れやすく、ハイライトが飛びやすくなる。光の向きや輝度差など撮影条件にも注意しなければ、自分が狙っているイメージにはならない。しかしこの設定でしか得られない色や雰囲気もある。
HD PENTAX-DA 70mm F2.4 Limitedは、サイズがコンパクトでKPにつけたときのバランスも良い。絞り開放では柔らかさが残る、優しさを感じる描写が特徴だ。
[楽しみ方②]単焦点1本勝負
なぜ、単焦点レンズなのか? 描写力が高く便利なズームレンズはたくさんあるし、楽ができる。しかし、楽をした結果に成長はなく、それでは光を感じる力や想像力を伸ばすためにペンタックスのシステムを選んだ意味がない。単焦点レンズで工夫することが成長の原動力になるのだ。
Limitedレンズシリーズには多彩な単焦点レンズがラインナップされており、それぞれに違った味わいがある。その味わいを楽しんでいるうちに、自分らしいそれぞれのレンズの使い方が見えてくるだろう。
単焦点レンズの楽しさを覚えるコツは、被写体に合わせてレンズ交換をするのではなく、1時間でもいいのでひとつのレンズだけで撮影を続けることだ。
単焦点レンズの話の最初に登場するのがマクロレンズ? そんな風に思った方もいるだろう。HD PENTAX-DA 35mm F2.8 Macro Limitedはマクロレンズである、という考えを持っているとこのレンズの魅力を引き出せないかもしれない。
マクロレンズは近接撮影のために特化されていて、標準マクロはボケが硬いことが多い。その点、HD PENTAX-DA 35mm F2.8 Macro Limitedは硬さがなく、味のある優しさがある。これは、このレンズが普通のレンズよりちょっと寄れる標準レンズとして企画されているからだ。ペンタックスのマクロレンズの通常の表記「MACRO」ではなく、「Macro」を使うという違いに、実はその思いが込められている。
優しさがある描写の標準レンズとして、ちょっと寄れることで変化を作りやすいという魅力は何者にも代えがたいと感じる。
HD PENTAX-DA 15mm F4ED AL Limitedは絞り開放から超広角レンズらしいシャープさと、画像周辺の像の流れや歪みがほとんどない描写が特徴だ。高性能ゆえ、いかにも広角レンズという描写を出しづらい面があるので、ファインダーを覗いているときは名作が撮れたと思っても、後で見るとただ広いだけということもある。
そんなレンズで、なんでもない風景を気軽に撮りたい時に使っているのが、ほのか・WB 日陰・+1.0EVの組み合わせ。露出補正も固定で、構図とタイミングだけに集中して撮影している。
HD PENTAX-DA 40mm F2.8 Limitedは薄さが魅力。最新のHDコーティングなので逆光などの厳しい撮影条件での安心感もある。Limitedシリーズは開放F値では程よく周辺光量が落ちて立体感を出しやすく、さらにこのレンズは開放F値がF2.8なので明るい日中でも絞り開放に固定した撮影がしやすい。
単焦点レンズの話のなかで、なぜズームレンズのHD PENTAX-DA 20-40mm F2.8-4ED Limited DC WRが出てくるのか。これにはしっかりとした理由がある。KPの前に使っていたK-S2では、このレンズの味わいを使い切るには力不足だと感じていた。何よりもその当時は、単なるズームレンズだと思っていた。実はこのレンズは30mmの単焦点的に使いつつ、ちょっと引いたり寄ったりできるレンズとして企画されていて、30mm F4と考えると使いやすい。
このレンズも絞り開放では少し柔らかさを残してあるレンズだ。絞りをF4に固定すると、20mm側では開放絞りから一段絞った状態になるので広角レンズ的な切れ味を出しやすく、40mm側では絞り開放になるので望遠レンズ的な優しさを出しやすい。
30mmの画角は、準標準レンズとしてタイミングを重視する時に使いやすい。Limited唯一の防滴構造とDCモーターという仕様で、防塵・防滴仕様のKPと一緒に使えば雨でも安心だ。ピント合わせは静かで滑らかで早い。
焦点距離を統一して撮影した写真を組写真としてまとめて見せるのもひとつの楽しみ方だ。
組写真の魅力は自分だけにしかできない組み合わせを楽しめること。組写真が難しいと思われる理由は、答えがいくつでもあるので、セオリー通りに行かないことが多いからだろう。
特に3枚組は、最後の1枚がなかなか見つからないのでより難しく感じるかもしれない。
3枚組で一番大切なことは変化。単焦点レンズの使いこなしで一番大切なのも変化。単焦点レンズで3枚組を作ると組写真という個性と単焦点レンズの使いこなしを同時に発見できる。異なるレンズで撮影した写真で組むと、画角の変化が組写真に必要な変化になっていると思ってしまうこともあるので、同じ単焦点レンズでまとめるほうが練習になる。
最後の1枚を探す方法は写真を並べること。並べてしっくり来なければ、別のイメージを探してまた並べる。組み合わせができなければ、必要なイメージを求めて再び撮影に出かける。
[楽しみ方③]いつでも手持ち
街を歩く時は三脚を持たない。理由はシンプルで、そのほうが身軽に、狙った一瞬も逃さず撮ることができるからだ。デジタルカメラの高感度画質の劇的な向上や手ぶれ補正の進化のおかげで、暗くなってから三脚なしでも止めるかぶらすかを狙っているイメージで決められるようになった。
デジタルフィルターは撮影時に使えるもののほかに、撮影後の画像に対してのみ使えるものもある。今回使った「ソフト(シャドーぼかし)」もそのひとつ。通常のソフトはソフトフィルターを使ったようにハイライトがにじむが、シャドーぼかしにするとシャドーがにじむので、画面の締まり具合を保ったままソフト効果を使える。
ISO感度を上げれば夜の街で絞りを絞りながら人物を止めることも可能になったが、あえて1/10秒ぐらいにして人物だけぶらしたほうが夜の雰囲気を出しやすい。シャッタースピードと絞りを固定してISO感度オートで適正露出にするTAvモードは、露出補正で明るさを調整できるので、ボケ具合とぶれ具合を固定した状態でタイミングを狙うことに集中しやすい。
三脚なしでも狙っているイメージで決められるようになった理由のひとつが手ぶれ補正だ。KPは手ぶれ補正が強力なので、少し暗くなった夕方でも、絞りを少し絞る程度であれば気軽に手持ち撮影ができる。
まとめ:PENTAX KPが楽しみを満たしてくれた
Limitedレンズのような味わいのあるレンズシステムと、ピント位置や光線状態を確認しやすい光学ファインダーのほかに、PENTAXデジタル一眼レフカメラの魅力的な部分は、ものづくりの姿勢にある。
例えば、あるカスタムイメージを使うと赤が飽和しやすいと感じて、そのことをメーカーの方に尋ねると「ああっ、あれは赤が飽和するようになってますよ」と、当たり前のように答えられて、「そこまでやらないとあの色味は出ないですからね」と続いた。撮影モードの数の多さや一見複雑に感じる使い勝手、極端なカスタムイメージなどのすべてがこの答えに集約されているように思えた。
色が飽和するのはデジタルカメラでは基本的にはNGだと言われている。そのNGをわかっていても、自分達に必要なもの、ユーザーが求めるものがあればそこに挑戦していく。それがこの会社のものづくりの姿勢なのだと思えた。世界的にも類を見ない「ペンタキシアン」と呼ばれるコアなファンを多く抱えている理由も納得できたような気がした。そして、僕もその1人になりたいと思った。
制作協力:リコーイメージング株式会社