デジカメ動画Watch

キヤノン PowerShot V1

1台でVlog撮影を完結 まとまりの良い動画向けコンパクトカメラ

キヤノンの新型コンパクトデジタルカメラ「PowerShot V1」の動画機能を通して、その実力を探ってみた。なお、別のページで「静止画編」も後日掲載する予定だ。

珍しい17mm相当からのズームレンズ

キヤノンが動画向けカメラと位置付ける「PowerShot V」シリーズの第2弾となるレンズ一体型のカメラで、昨今流行の”Vlogカメラ”というポジションだ。

PowerShot Vシリーズの第1弾は、2023年発売の「PowerShot V10」。超広角の単焦点レンズを搭載するなどどちらかと言えばアクションカム寄りのパッケージだった。

今回のPowerShot V1は高級コンパクトデジカメとも言えるデザインになり、より自由度の高い動画撮影が可能となっている。

安定した動画撮影に欠かせない熱対策として、冷却ファンを搭載したことも話題になった。そのせいかボディはやや厚みがあるものの、適度な厚みでむしろグリップはしやすいように感じた。

冷却ファンの通気口がある
ファンはマニュアルとオートが設定可能

上面には見慣れたモードダイヤルもあり、一般的なカメラの感覚で使える。静止画と動画はスイッチでモードを切り換える方式だ。シャッターボタンの位置にはズームレバーを備えている。

レンズは3.1倍ズーム。画角は静止画で16-50mm、動画で17-52mm相当。広角端が一般的なコンパクトデジカメに比べて広いのが特徴となっている。

望遠端でもレンズの突出は大きくない

超広角レンズのメリットとしては、手ブレ補正でクロップが発生しても広く撮れることや、自撮りでも背景を広く入れられるといった点が挙げられる。またシネスコサイズにクロップする場合でも広い画角が維持できる。

バリアングルモニター式
EOSでおなじみのボタンが並ぶ

撮像素子は動画撮影時に最大約1,870万画素となる1.4型センサーを搭載する。1.4型というサイズを採用するのはキヤノンで初めて。面積は1型センサーの2倍にもなる。それ故、高感度画質には期待がかかるところだ。

バッテリーは「LP-E17」
端子はグリップ側にまとめられている

画角変化と内蔵マイク

ズームレンズの画角変化を自撮りで試した。動画で17-52mm相当ということで、広角側では背景をかなり広く入れられる。電動ズームなので、ズーム自体ももちろんなめらかだ。

【PowerShot V1:画角変化(広角から望遠)】

撮影はPモードで、露出はオート。人物は日陰に入っているが、良い感じに持ち上がっていて背景の明るさとのバランスも悪くない。

音声は内蔵マイク(同梱の風防を装着)で記録している。撮影時はかなり風の強いタイミングだったがそれでも声が明瞭に記録されており、内蔵マイクだけでもVlog用途としては十分使えそうだ。

動画時の画面表示

4K30Pと4K60Pの比較

本機の最大解像度は4Kだが、4K撮影時はフレームレートによって画角が変化する。30Pはフル画角が利用できるうえ、5.7Kオーバーサンプリングの高精細な記録が可能だ。

動画記録サイズの設定画面

一方4K60Pの場合は1.4倍のクロップとなり、焦点距離は約24-73mm相当と望遠側にシフトする。

【PowerShot V1:画角を比較(4K30Pと4K60P)】

4K30Pは木の枝葉も鮮明に描写されており、動画カメラとして申し分ない画質となっていた。また4K60Pもクロップではあるが画質の低下などはほとんど見られないようだ。

理想を言えばクロップ無しの4K60Pが欲しいところではあるが、画角にさえ気をつければ問題無く使える画質だと感じた。

手ブレ補正

Vlogカメラで重要なのが手ブレ補正の性能。光学式手ブレ補正(IS機能)と電子式手ブレ補正(動画電子IS)を連係させることで強力に手ブレを補正できる。

手ブレ補正の強さとしては4段階あり、「IS機能:切」「IS機能:入」「動画電子IS:入」「動画電子IS:強」の順に補正効果が強くなる。

手ブレ補正の設定画面
【PowerShot V1:手ブレ補正を比較】

モデルに合わせて撮影者も横歩きをするという不安定な状況で撮影しており、手ブレ補正無しでは揺れが大きいシーンだ。動画電子ISを入れると光学補正では取り切れなかったブレが抑えられているのがわかる。また、動画電子ISを強にするとかなり滑らかに撮れる。

ご覧のように動画電子IS使用時は画角がやや狭くなるが、歩きながらの撮影などで活用したいモードだ。

被写体追尾IS

PowerShot V1では、被写体を特定の場所に捉え続ける「被写体追尾IS」がキヤノンで初めて搭載された。他社でも少しずつ搭載が始まっている機能であり、待ち望まれていた部分だろう。

被写体追尾ISの設定画面

被写体追尾ISは、名前の通り手ブレ補正を応用した機能だ。被写体を認識してフレームに納まるように自動的にクロップして位置を調整してくれる。

動く人物などを画面内に収めるのは通常難しいが、被写体追尾ISを使うとある程度フォローすれば任意の場所に被写体を維持できる。保持する位置は「画面中央」と「選択位置」の2つから選べる。選択位置では被写体をタッチしたときの位置に保持してくれる。

今回は画面中央のモードで試した。歩くモデルを追いかけつつ周りを回るという動きをしているが、この機能を使わないと人物を中心に保ち続けるのはなかなか難しい。

【PowerShot V1:被写体追尾IS】

被写体追尾ISを使うとほぼ画面の中央位置に人物がいるので、画面は安定して見える。手ブレ補正も効いており、ガクガクせずに撮れるのもメリットとなっている。

高感度時の画質

動画撮影時の最高感度は常用がISO12800、拡張でISO25600と十分広い。今回は夜の撮影ではよく使われるであろうISO6400で夜景を撮影してみた。

【PowerShot V1:高感度】

1.4型センサーのサイズはAPS-Cにも迫る大きさということもあって、この感度でもかなりきれいに記録できているのがわかる。ややノイズ感はあるがさほど気にならず、色もしっかりでている。こうした夜景の撮影でも困ることは無さそうだ。

カラーフィルター

14種類のカラーフィルターを搭載している。種類としては先のPowerShot V10と同じものだ。

カラーフィルターの設定画面

簡単に雰囲気のあるルックにできるので、自分でグレーディングする手間を省くことができる。

今回は映画のような陰影を演出するという「StoryTeal&Orange」と、懐かしさを演出するという「RetroGreen」を試している。

【PowerShot V1:カラーフィルター】

Log撮影にも対応

本機はプロの動画撮影でも使われるLog撮影にも対応している。コントラストや彩度が低い状態で記録して編集耐性を高めるモードとなっている。

Log記録の設定画面

Logの種類は「Canon Log 3」で、Webサイトで公開されているLUTを動画編集ソフトで適用するとビデオルックのBT.709に復元できる。4:2:2 10bit記録なので、グレーディングでも比較的破綻が起きにくいフォーマットになっている。

【PowerShot V1:Canon Log 3からの復元】

Log撮影時は、ISO800以上で撮ることでダイナミックレンジが約1600%になる。それ以下の感度は拡張扱いになり、ダイナミックレンジが狭くなる点に注意したい。このサンプルはISO800で撮影している。

3段分のNDフィルターも内蔵しているのでLog撮影時の露出オーバー対策にはなる

Log撮影時は「ビューアシスト」を入れることで、通常のルックでモニター可能だ。

まとめ

見てきたようにPowerShot V10から大幅に機能アップし、Vlog撮影をこれ1台で完結できるスペックが備わっている1台だった。今回は試していないが商品撮影モードなどもあるので、自宅での動画収録にも威力を発揮するだろう。

レンズ交換式カメラによる表現力も魅力だが、そこまで撮影主体ではない場合には良い選択肢になりそう。超広角レンズは旅行などの記録には相性が良いので、荷物を少なくしたい旅にもうってつけのモデルと言えそうだ。

モデル:進藤もも

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。