ミニレポート

高感度撮影に与える新たな選択肢。RAWデータを高画質化する「DxO PureRAW 2」を試した

高いノイズ除去性能を確認 シャープネスも向上

DxO PureRAW 2(スタンドアローン)の画面

DxOがRAWデータを最適化するソフト「DxO PureRAW 2」を3月に発売した。RAWデータを扱うソフトだが、一般的なRAW現像ソフトとは異なり、“RAW現像の前にRAWデータを高画質化させる”といったイメージのソフトとなっている。

まだ一般的には馴染みの薄いジャンルだが、その効果の高さから「手放せない」というユーザーの声も聞く。今回、二代目にメジャーアップデートしたタイミングで実際にその効果を確認することにした。

WindowsとmacOSに対応しており、価格は税込1万3,900円(アップグレード版は同8,500円)。30日間の体験版が用意されている。

RAWデータを生まれ変わらせる

本ソフトの特徴は、「RAWデータを処理して、RAWデータで出力できる」ことだ。処理後はDNG形式になるのでAdobe Lightroom Classicなどの現像ソフトでRAWベースで調整できるのがメリット。なお、JPEGでの出力機能も備えている。

ノイズ除去、デモザイク処理、光学補正、シャープネス調整などが行われる

PureRAW 2は、独自技術でデモザイキング、光学補正、ノイズ低減を行う。DxOといえば、カメラとレンズの膨大な光学補正データを自前で用意していることで知られるが、PureRAW 2でもそのデータをもとに歪曲収差、色収差、周辺減光が補正されシャープネスも向上する。

ピントの甘い写真やエイリアシング(ギザギザ)の補正もできる

光学補正ではシャープネス、周辺減光、ディストーション、色収差が補正される

Lightroom Classicから呼び出し可能に

最新版では、画像処理自体は従来と変わっていないようだが、処理の高速化や使い勝手を高めるアップデートが実装された。

まず、これまではスタンドアローンのソフトだったが、Adobe Lightroom Classicのプラグインとして利用可能になったのが大きいだろう。

Lightroom Classicから直接PureRAW 2の処理が可能になった

画像選択後、Lightroom ClassicのメニューからPureRAW 2の処理を選べる

また、WindowsのエクスプローラーとmacOSのFinderから直接PureRAW 2で画像を処理するメニューも出るようになった。取り急ぎ処理したい場合は便利な機能だと思う。

エクスプローラーで画像を右クリックするとメニューが出る

さらに今回、カラーフィルター配列が特殊なX-Trans CMOSセンサー機のRAWデータにも対応。富士フイルムユーザーには朗報となっている。

ワークフローの一例としては、Lightroom ClassicでRAWファイルをセレクトし、まずPureRAW 2で処理。できあがったDNGファイルを従来と同じく調整するというイメージだ。シャープネスに関してもPureRAW 2が適切に処理してくれるので、Lightroom Classic側のノイズ、レンズ補正、シャープの設定はOFFで良いようだ。

AI技術「DeepPRIME」の活用

PureRAW 2の処理モードは3つあり、「HQ」、「PRIME」、「DeepPRIME」の順に画質が高まる。中でもDeepPRIMEはAI(人工知能)技術を使ってデモザイキングとノイズ除去を行う仕組みとなっており効果が高い。

筆者のPCはCPUがCore i7-4790Kと古めで恐縮だが、α7 IIIの圧縮RAWデータを使ってDNG出力時の1枚の処理時間を計ってみた。HQが約9秒、PRIMEが約34秒、DeepPRIMEが約1分27秒だった。

なお、DeepPRIMEのみGPUでの処理も選択でき、これまた古めのGPUだがGeForce GTX 980 Tiでは約13秒で処理できた。重い処理をしていることは確かだが、GPU搭載環境であればもっぱらDeepPRIMEを選べば良いと言えそうだ。

注意点としては、処理後のDNGファイルの容量がかなり大きくなることが挙げられる。一例としてα7 IIIで記録した約24MBの圧縮RAWデータは、90MB程度のDNGデータになった。

PureRAW 2が起動すると処理内容や出力ファイル形式を選べる

高いノイズ低減効果を実感

画像処理のテストは、α7 IIIとFE 28-60mm F4-5.6の組み合わせでISO感度別に撮影した写真を使った。比較対象は以下の4パターンとし、PureRAW 2のスタンドアローン版で直接JPEGを生成した。

1)カメラで記録したJPEG(エクストラファイン、高感度NR:標準、レンズ補正:全てオート、クリエイティブスタイル:スタンダード)
2)非圧縮RAW→PureRAW 2(HQ)→JPEGで出力
3)非圧縮RAW→PureRAW 2(PRIME)→JPEGで出力
4)非圧縮RAW→PureRAW 2(DeepPRIME)→JPEGで出力

PureRAW 2の処理は「レンズ歪み補正」を全てでONにしている。またDeepPRIMEのみで設定できるオプションの「全体レンズシャープネス」もONにした。出力JPEGは最高品質の「100」に設定した。

※等倍切り出し画像をクリックすると、オリジナルファイルを表示します。

ISO 100

まずは常用最低感度のISO 100で撮影したものを見る。

四角の部分を以下で等倍に拡大した

カメラで記録したJPEG
PureRAW 2(HQ)
PureRAW 2(PRIME)
PureRAW 2(DeepPRIME)

PureRAW 2で処理したものはこのサンプルでは明るめになっていたが、コントラストがはっきりしてカメラで記録したJPEGよりもシャープに見えた。そしてやはり他に比べてDeepPRIMEはより鮮鋭度が高いようだ。ほぼノイズのない低感度域であってもPureRAW 2の処理は有効なことが分かった。

ISO 3200

続いては、比較的よく使われるであろう高感度域のISO 3200で撮影した夜景だ。

四角の部分を以下で等倍に拡大した

カメラで記録したJPEG
PureRAW 2(HQ)
PureRAW 2(PRIME)
PureRAW 2(DeepPRIME)

これはノイズの低減効果が一目瞭然だろう。空の部分に着目すると、カメラ記録のJPEGとHQはそれなりにノイズが見えるが、PRIMEとDeepPRIMEはかなりスッキリした。文字部分に注目すると、高いノイズ除去効果の割りに、ディテールの喪失はあまり見られないのが印象的だ。

PureRAW 2を使った3枚の方が、カメラ記録のJPEGよりも鮮鋭度も増している。他方でビルのエッジを仔細に見ると、空部分にリンギングがわずかに出ている。ただ、HQとPRIMEに比べるとDeepPRIMEはリンギングがかなり抑えられていた。リンギングはシャープ処理の副作用として知られるが、シャープさを上げながらもリンギングが目立ちにくいDeepPRIMEは高く評価できる。

ISO 12800

参考までに、一般的には使うのがためらわれる高感度域のISO 12800でも試してみた。

カメラで記録したJPEG
PureRAW 2(HQ)
PureRAW 2(PRIME)
PureRAW 2(DeepPRIME)

カメラ記録のJPEGを確認すると、さすがにこの超高感度ではノイズの多さやディテールの喪失はご覧の通りといったところ。だが、HQではノイズ感はあるもののカラーノイズが目立たなくなり鮮鋭度が増した。さらにPRIMEではグッとノイズが減るが、輪郭のアーティファクトはやや目立つ。

それらを踏まえてのDeepPRIMEだが、ちょっと驚きの画質である。ノイズ感がさらに少なくなった上に、輪郭にまとわりついていたアーティファクトが激減した。また、カメラ記録のJPEGではビル手前の上側(拡大画面の左上)のディテールはほとんど失われてモヤモヤしているが、DeepPRIMEではしっかりと柱の構造が見える画像になっていた。

撮影の仕方が変わるかも知れない

ざっと見てきたが、とりわけノイズ除去に関しては相当高いレベルにあると言って良い。通常、画像のノイズリダクションには副作用があり、ディテールや色の喪失を伴う。その点PureRAW 2ではディテールの喪失がかなり抑えられているのに加えて、色もかなり残っていて従来のノイズリダクションシステムとは一線を画す。

Lightroom Classicでも歪曲収差や周辺減光補正はレンズプロファイルによる補正が可能だが、いろいろ試したところではノイズ除去に関してはLightroom ClassicよりもPureRAW 2に軍配が上がるようだ。

必要な光学モジュールはすぐにダウンロードできるので面倒がない

“AI”というワードもニュースなどで聞かない日はないくらい流行っているが、コンピューターの進化と相まって「ここまで来たのか!」というのが正直な感想だ。

こうなってくると、撮影の方法論も変わってくるかもしれない。すなわち、PureRAW 2での処理を前提として従来よりも高感度で撮影し、そのぶん高速シャッターを切ったり絞り込んで被写界深度を稼ぐといったことも可能になる。また、ノイズに埋もれてしまうような暗いシーンを写すことができれば撮影領域の拡大、ひいては新しい表現にも繋がろう。

もっと言えば、同等の画質を得るために従来よりもF値が暗めのレンズや、より小さな撮像センサーのカメラで代替できる面もあるかもしれない。そう考えると、こうしたソフトウェアの登場はちょっとしたパラダイムシフトと言えそうだ。ただし、PureRAW 2を快適に使うには速いコンピューターと大容量のストレージが必須である。

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。