ミニレポート

気分を高める純正スリットフード。ルックスと効果を検証

富士フイルム「LH-XF35-2」

カメラを選ぶ上では、機能や画質が重要だ。しかし、せっかくなら楽しく使いたい。それには見た目も大切。気に入ったデザインのカメラを手にすると、「このカメラで写真を撮りたい」という撮影意欲が湧いてくる。

私にとって、そのひとつが富士フイルムX-E4。機能だけで言えばX-E4より充実したXシリーズ上位機種もあるが、シンプルなデザインと操作性を持ち、しかもコンパクト。かつてのレンジファインダー機を彷彿させるスタイルが気に入って購入した。撮影はもちろん、テーブルなどに置いて眺めているだけでも楽しいカメラだ。

X-E4に装着したXF35mm F2 R WR。X-E4にはコンパクトな単焦点レンズが良く似合う。フードなしの状態。

X-E4と一緒に購入したレンズは「XF35mmF2 R WR」。X-E4はパンケーキスタイルの「XF27mmF2.8 R WR」と組み合わせる人も多そうだが、私は使い勝手の良さから35mm(35mm判換算53mm相当)の方を選んだ。X-E4に装着したときの姿が27mmより好みだったのも理由のひとつ。やはり見た目にはこだわった。

XF35mmF2 R WR。よく見るとレンズ先端にLH-XF35-2を装着するためのバヨネットの爪がある。

とはいえ、このレンズ、ひとつだけ好みではないところがあった。それが付属のレンズフードだ。小さくてX-E4にマッチしないわけではないが、あまりに素っ気ない形で所有する満足感が少ない。せっかく見た目にこだわったのだから、レンズフードも何とかしたい。そこへ目に入ったのが別売の金属製フード「LH-XF35-2」だ。

付属品のフードを装着
XF35mmF2 R WRに付属のレンズフード。小さくてシンプルだが味気ない。素材も樹脂製。
付属のレンズフードを装着した状態。小さいのでフードなしのイメージに近く、コンパクトな雰囲気を崩していない。ただし筆者にとってはやや味気ない。
別売の純正フードを装着
別売フードのLH-XF35-2。こちらは金属製だ。円すい状の形とスリットのある姿は存在感たっぷり。
LH-XF35-2を装着。付属フードとは全く異なる雰囲気になった。レンジファインダーカメラを彷彿させるクラシカルな趣だ。

LH-XF35-2は先端側に向かってすぼまった円錐状で、3か所にスリットが入ったクラシカルなデザイン。APS-CコンパクトのX100シリーズにも同様のスタイルのフードがあるので、ご存知の方も多いだろう。

こうしたスリットフードでまず思い浮かぶのはライカだ。なぜフードにスリットが入っているのか。レンジファインダーカメラを使ってみるとわかるのだが、ファインダーの視野を確保するためである。このスリットがないと、ファインダー視野の右下部分がフードでケラレてしまう。それを防ぐためなのだ。

円すい状の形をしたフードの定番といえる、ライカの12585。バヨネット式のLH-XF35-2とは異なり、内側の爪で鏡筒に固定する方式を採用している。
2世代目のズミクロンM 50mm F2に12585を装着。ライカM4時代のレンズとフードだが、デザインを踏襲したライカM6に装着しても一体感がある。ライカファンにはお馴染みのスタイルだ。

似たデザインのフードはライカ以外にも多く登場し、ミノルタCLEのM-ROKKOR 28mm F2.8用のフードや、Newマミヤ6、マミヤ7のレンズフード、コニカHEXAR RFのM-HEXANON 28mm F2.8のフードなどが思い当たる。現在も富士フイルムの他、フォクトレンダーやツァイスZMレンズなどにも同様のスタイルのフードがある。

参考:コシナ・フォクトレンダーのレンズにもスリットが入った円すい状のレンズフードが設定されている。すっかりクラシカルスタイルの定番のフード形状だ。これはライカM用のNOKTON classic 40mm F1.4に別売フードLH-6を装着。

また、ミラーレスカメラ登場以降はドレスアップアイテムとしても広く定番的なデザインとなり、すっかり「こだわり派のレンズフードの定番デザイン」として認知されている。クラシカルな雰囲気を醸し出すのが人気の理由だろう。

それでは富士フイルムのLH-XF35-2と、ライカの12585を比べてみよう。LH-XF35-2は、XF35mmF2 R WRの他に「XF23mmF2 R WR」にも使える。これら2本のレンズは、それぞれ35mm判換算するとおおよそ50mmと35mmだ。12585がズミクロン50mm F2の他にエルマー50mm F2.8、同F3.5、ズマロン35mm F2.8と同F3.5にも使えるのに似ている感じがして懐かしい。

大きく異なるのが装着方法。12585は爪で固定する方式。フード両端にある突起を押すと、内側の爪が引っ込む。その状態でフードを鏡筒に差し込み、指を離すと再び爪が出てきて鏡筒にロックされる。それに対し、LH-XF35-2はバヨネット式だ。フードの指標をレンズ側の指標に合わせて差し込み、約90度回転させると装着完了する。カチッとしっかり固定させる感触は気持ちいい。

ライカの12585と富士フイルムのLH-XF35-2。遮光部分の厚さなどボリューム感は異なるが、カメラとレンズを含めた全体の雰囲気もよく似ているのがわかる。

収納時は、12585はフードを反転させて装着が可能。フード逆付けした際のキャップも用意されていた。対するLH-XF35-2は逆付けできないものの、そのままレンズキャップが装着できる。

12585は逆さまにしてレンズに装着できる。その際のキャップも用意され、より収納しやすく出来ている。
LH-XF35-2は逆付けできないものの、レンズキャップをそのまま装着できる。個人的には迅速に対応できるので逆付けできなくても気にならず、むしろ使いやすいと思っている。

先に述べたように、フードにある3つのスリットは、ファインダーのケラレを防ぐためだ。富士フイルムには光学ファインダーを搭載するX-Proシリーズがあるが、光学ファインダーを持たないX-E4では、このスリットに必然性はない。また、バヨネット式だからスリットは1つあれば十分なのに、わざわざ3つあるのは、やはりクラシカルな見た目を意識してのことだろう。これは富士フイルムだけでなく、やはりバヨネット式を採用しているフォクトレンダーでも同じ。それだけ、12585のような往年のスリットフードの影響力が大きいことを感じる。

実際の効果は?

それでは、XF35mmF2 R WRに付属しているフードと、別売スリットタイプのLH-XF35-2では、フードに本来期待される遮光効果に差はあるのだろうか。

フードなし
XF35mmF2 R WRの前玉はやや引っ込んでいるため直射光が当たっている部分はわずかだが、先端の銘板部分はしっかり日が当たっている。
【F6.4】実写して写りに違いは出るか、フレアが目立つ条件で試してみた。これはフードなし。画面左上からの光でフレアが出て、シャドーの締まりが弱い。
【F2】夕方が近づいてきた頃の強い西日。画面右上が、フレアでシャドーの締まりがやや弱い。ただし不自然さはなく、レンズ自体の高い描写力が感じられる。

まずはフードなしで前玉に直射光が当たる状態から、付属のフードを装着してみる。するとほぼ直射光を遮ることができた。付属フードは小さいながらも優秀だ。

レンズに付属するフードを装着
付属フードを装着。銘板の上部は影になった。小さくても遮光効果が高い。しかし前玉の下にはまだ直射光が当たったままだ。
【F6.4】付属フードを装着。フレアがカットされて、シャドーが締まったのがわかる。
【F2】画面右上のボケを見ると、フードなしより暗くなり、シャドーが締まっている。

次にLH-XF35-2に取り替えると、付属フードでは遮ることができなかった部分までカバーした。その差はごくわずかだが、やはりフード自体が大きくなった分、直射光を遮る面積も広くなった。

純正の別売フードLH-XF35-2を装着
LH-XF35-2を装着。前玉はほぼ直射光を遮ることができた。付属フードより大きい分、やはり光を遮る面積も広い。
【F6.4】わずかだが内蔵フードよりさらにシャドーが締まった。とはいえ、ここまで差をつけるのは非常に難しかった。付属のフードでも通常の使用では十分な効果がありそうだ。
【F2】画面右上のシャドー部がさらに締まった。同条件で試した別カットでも同様の結果だったので、付属フードよりフレアカットの効果が高いことが確認できた。

もっとフレアやゴーストの出方が変わるかと思いきや、結果の違いを見出すのは非常に困難。付属フードとLH-XF35-2の装着時には、わずかにフレアが出にくいように感じる程度だった。これはレンズそのもののコーティング効果が高いという証でもある。

とはいえ、やはり強い日差しの下ではフードの安心感は大きい。画面内にゴーストが出るような条件では、フードを装着しても防ぐことはできないが、フレアの出方には違いが出た。フードを装着せず画面隅にわずかにフレアが出ている条件では、付属フードを装着するとフレアが減少し、シャドーが締まってきた。フードをLH-XF35-2にすると、さらにフレアが減り、シャドーの締まりがより高くなる。LH-XF35-2は付属フードより大柄なので、遮光の効果がより高くなるようだ。

繰り返しになるが、レンズフードは実用性も大切ではあるが、コーティングや内面反射処理の技術が高い現代のレンズでは、見た目の満足感も重要だ。今回LH-XF35-2を手に入れて、その姿に大満足。撮影時のテンションも上がってくる。レンズフードを装着したときの一体感を味わうのも、カメラ好きの大きな楽しみのひとつなのだ。

カメラは、実用性だけでなくスタイルも思いっきり楽しもう。お気に入りのカメラとレンズにお気に入りのフードを装着し、お気に入りのストラップで街を撮りに出かけたい。ふと手元にカメラを置いたとき、その姿に思わず顔がほころぶ。それも写真を撮る楽しさに繋がるのだ。

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になり、カメラ専門誌を中心に活動。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。