ミニレポート
富士フイルム純正「Mマウントアダプター」の使い方
ライカ用レンズ×フィルムシミュレーション 補正機能の効果も解説
2022年12月15日 07:00
今やすっかりお馴染みとなったマウントアダプター。ミラーレスカメラに組み合わせる定番と言えば、やはりライカMマウントだろう。また、それ以前のライカスクリューマウントでも、リング状のL-Mアダプターを使えばライカMマウントに変身する。いずれもライカ純正をはじめ互換レンズが豊富にあるのが魅力だ。
筆者が富士フイルムX-E4を購入する際、Webサイトで見つけたのが富士フイルム純正のライカMマウントアダプター「FUJIFILM M MOUNT ADAPTER」だ。Xシリーズが登場した頃から存在する製品で、筆者は対応するライカレンズをいくつか所有しているので、撮影のバリエーションが増やせる。しかもX-E4のスタイリングはライカMレンズと似合いそうだ。そこでX-E4、XF35mmF2 R WRと一緒にFUJIFILM M MOUNT ADAPTERも手に入れた。
XシリーズとM型ライカで、大きな違いはセンサーサイズだ。M型ライカが基本的にライカ判=35mmフルサイズなのに対し、XシリーズはAPS-Cフォーマット。50mmが75mm相当になってしまう。カメラ店で聞いて意外だったのは、この画角の変化を気にするユーザーが今はほぼいないとのこと。それより、富士フイルムならではのフィルムシミュレーションとオールドレンズを組み合わせて使いたい人が多いそうだ。
筆者自身も、標準レンズ付近の画角が使いやすそうだと思っていたので、APS-Cサイズは全く気にしなかった。むしろライカMレンズは最短撮影距離が0.7m〜1mと遠いので、クローズアップしやすくなるのがありがたい。
純正ならではの機能をチェック
さて、そのFUJIFILM M MOUNT ADAPTERは、純正ならではの機能を備えている。それがファンクションボタンだ。このボタンを押すと、マウントアダプター使用時の各種設定にダイレクトにアクセスできる。
そして歪曲収差や周辺色かぶり、周辺光量補正の度合いをレンズごとに設定できるのも特徴だ。多くのマウントアダプターは、ボディに異なるマウントのレンズを装着して撮影できるだけだが、歪曲収差や色かぶり、周辺光量のコントロールができるのは嬉しい。かつてはこうした補正機能を搭載したカメラやカメラ内アプリも存在したが、現在では珍しく、富士フイルムX&純正アダプターならではの機能といえる。
歪曲収差補正はタル型、糸巻型、共に弱、中、強の3段階。強でも極端な補正ではないので扱いやすい。
広角レンズ、特にバックフォーカスが短いレンズをミラーレスに装着すると、撮像素子の周辺部には斜めから光が入るため、色かぶりしやすい。RAWで撮影し、現像時にソフトで補正していた人もいるだろう。しかしこれならあらかじめ補正量が登録でき、後処理を考えずに撮影できる。逆にあえて周辺部に色を付けることも可能だ。
色かぶりと並んで、気になりやすいのが周辺光量だ。補正量は±10段階。通常は落ちてしまった周辺部を明るくする操作になるが、わざと周辺部を落として個性的な表現もできる。
マウントアダプターにこのような補正機能を搭載させるのは、フィルムシミュレーションを活かしたJPEG撮影を重視している富士フイルムらしさを感じる。
今回使用したレンズは、21mmから50mmまで6本。ライカはエルマリートM f2.8/21mm、ズミクロンM f2/35mm、ズマリット f1.5/50mm、エルマー f3.5/50mmの4本、そしてミノルタG-ROKKOR 28mm F3.5とフォクトレンダーNOKTON classic 40mm F1.4だ。
そして富士フイルムの特徴であるフィルムシミュレーションは、すべてクラシックネガで撮影した。おそらく古いレンズ(フォクトレンダーは現行品だが)とクラシックネガの組み合わせが気になる人が多いだろう、と思ったからだ。そしてホワイトバランスは太陽光に固定した。
レンジファインダーカメラ用レンズは、AFもなければ自動絞りも電子接点も何もない。コンパクトでシンプルなスタイリングのため、小型のX-E4にはどのレンズも似合っていた。一眼レフライクのX-HシリーズやX-Tシリーズより、レンジファインダーライクのX-ProシリーズやX-Eシリーズの方がマッチする。
ライカ エルマリートM f2.8/21mm
スーパー・アンギュロンM f3.4/21mmの後継として登場した、ライカの21mmレンズで初となるレトロフォーカスタイプの超広角レンズ。スーパー・アンギュロンのように後玉が出っ張っていないため、X-E4にも問題なく装着できる。筆者が所有しているものは371万番台。1990年代の製造で、非球面レンズを使用する以前のタイプだ。APS-CサイズのX-E4では31.5mm相当となり、超広角のダイナミックな表現はできなくなるが、街中のスナップには使いやすい。
絞りは開放のF2.8。窓に強い光が反射しているため、フレアが出ている。古いレンズらしさが感じられる写りだ。解像力は高いという印象ではないが、引き締まったシャープさを求めるのでなければ十分だろう。
絞りは1段絞ったF4。ぐんとシャープになり、細かい部分もしっかり解像する。X-E4ではわずかにフロントヘビーに感じるものの、軽快なスナップが楽しめる。
ミノルタG-ROKKOR 28mm F3.5
1998年に、ミノルタの高級コンパクトカメラ「TC-1」のレンズ部分をライカスクリューマウントにして、限定2,000本で発売されたレンズ。ライカMマウントアダプターを使用。後玉がやや出ているものの、X-E4の撮像面にはぶつからずに装着できる。APS-Cでは42.5mm相当。広めの標準レンズになる。
TC-1の発売当初から、非常にシャープネスの高いレンズと言われていたが、デジタルのX-E4でも絞り開放からそのシャープさを味わうことができる。強い逆光でもクリアな描写は、1990年代のレンズとは思えないほど。当時のミノルタの気合いが感じられる。このレンズの個性である大きく落ちる周辺光量は、APS-Cでも楽しめる。
絞りはF5.6。外壁にディスプレイされたサーフボードを切り取った。フィルムシミュレーションのクラシックネガのおかげでレトロ感のある仕上がりだ。コンパクトで軽く、X-E4によく似合い、使い勝手もすこぶる良い。
ライカ ズミクロンM f2/35mm
言わずと知れた、ライカの定番広角レンズ。APS-C機では52mm相当の標準画角になる。これは271万番台、1975年に製造されたカナダ製。いわゆる6枚玉と呼ばれるモデルだ。X-E4に装着すると、一体感のある姿。コンパクトだが、手にすると重量感が伝わってくるところに半世紀近く前のレンズであることを実感する。
デジタルの時代になるまでは、年代を問わず絞りを開けても絞っても安定した描写がズミクロンの特徴だったが、現代のX-E4で絞り開放にすると、古いレンズらしい柔らかな写りだ。ボケも二線傾向にある。「ふわっとした描写」と「ざわっとしたボケ」が現代のレンズにはない味を感じる。
絞りはF4。2段絞っても柔らかさが残った写り。とはいえ、木の扉やカーテンの質感はよく再現されている。こうした解像力の高さだけではないところに、当時のライカのレンズの特徴が見て取れる。
フォクトレンダー NOKTON classic 40mm F1.4 SC
今回、唯一の現行レンズ。しかし、あえてクラシカルな描写をするように設計されている。シングルコートのSCとマルチコートのMCがあり、筆者はSCを所有。X-E4に装着すると、F1.4の大口径レンズらしい迫力のある姿だ。APS-Cサイズでは60mm相当。やや長めの標準レンズになる。
絞り開放では、わずかににじむような柔らかい描写をする。あえてクラシックレンズを意識していることがうかがえる写りだ。しかしクリアな描写も兼ね備え、現代レンズの雰囲気も感じられる。X-E4は1/32,000秒までの電子シャッターを備えているので、明るい屋外でも絞り開放が使える。
絞るとシャープ、というメーカーの言葉通り、F5.6では驚くほど高い解像力を発揮する。クレーンやビルは実にシャープだ。現代のレンズで、絞りの違いによる描写の違いが楽しめる。また60mm相当は画面を整理しやすく、気になった被写体をクローズアップするのに使いやすい。
ライカ ズマリット f1.5/50mm
1949年に登場した当時のライカの大口径標準レンズ。1954年にライカMシステムの登場と共にMマウントになり、1959年に開放F1.4になったズミルックスM 50mmが登場するまで製造された。筆者所有の個体は121万番台の1954年製。Mマウントになったばかりの頃のモデルだ。APS-Cでは75mmの中望遠画角になる。大柄で存在感のあるスタイルだ。
絞り開放。70年近く前のレンズなので個体差や経年変化はあるだろうが、これぞクラシックレンズと言える写りだ。ソフトフォーカスのようににじみ、コントラストも低く、ボケも綺麗ではない。それでいてピントがあった部分の解像力は高い。
絞るとソフトなにじみは消えてコントラストも上がり、同じレンズとは思えないほどシャープな描写になる。絞りを開ける、絞る、で性格が全く変わるので、使っていて楽しいレンズだ。
ライカ エルマー f3.5/50mm
1925年に発売されたライカの1号機、ライカI(A型ライカ)から存在していたエルマー。ライカを代表するレンズのひとつだ。これは94万番台、1951年製。コーティングが施されて最少絞りがF22まである。いわゆる「赤エルマー」が登場する直前のモデルだ。L-Mリングを介してMマウントアダプターに装着。沈胴式だが、鏡筒を沈めるとX-E4内部に衝突する恐れがあるため気を付けながら撮影した。参考までに、ライカのデジタル機でも鏡筒を沈めることは推奨されていない。
ほぼ最短1mで絞り開放に設定して撮影。丸ボケには輪郭線がはっきり出ていて、いわゆるバブルボケに近い。ややザワついた印象のボケだ。解像力も高いとは言えないが、柔らかさを感じる写りをする。
絞りはF5.6。開放より解像力がアップした。柔らかさもあり、滑らかな階調なのが個性的だ。このレンズは前玉周囲に絞りリングを持ちクリックもないため、絞りの設定がやや面倒。それも現代のレンズでは得られない操作と思うと、楽しく付き合えるレンズだ。
レンジファインダーカメラ用のレンズを装着しても良く似合い、とても気に入っているX-E4だが、なんと発売からわずか1年半ほどで製造・販売が終了してしまった。人気のある機種だったので、まさかここまで短命になると思わず、いささかショックを受けている。
その大きな理由は、昨今続いている材料不足のようだ。新製品に注力するために、ラインナップを整理する必要があったのだろう。発売当初から品薄で、筆者も3か月待って手に入れた。一度も余裕を持って店頭に並ぶことなく姿を消すのは残念でならない。いつの日か、X-E5の登場でX-Eシリーズが復活することを期待している。