ミニレポート
工場夜景クルーズで、“1,000mm相当+手ブレ補正8段分”の手持ち撮影を試す!
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
2021年8月17日 09:00
OMデジタルソリューションズより発売されたマイクロフォーサーズ規格準拠の超望遠ズームレンズ「OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」は、焦点距離150-400mm(35mm判換算300-800mm相当の画角)だが、内蔵の1.25倍テレコンバータを併用することで187.5-500mm(同357-1,000mm)となり、1本で300mm相当から1,000mm相当までの超望遠撮影が可能なのだ。
1,000mm相当と聞くと、長くて太い巨砲レンズを思い浮かべるが、そこはフォーマットが小さくカメラもレンズも小型化に有利なマイクロフォーサーズだけに、35mm判フルサイズ用の同種レンズに比べて小さく軽い。オリンパスのカメラのなかでは一番大柄なフラッグシップモデルのOM-D E-M1Xと組み合わせても質量は約2,872gと、超望遠機材にしては軽量だ。
また、強力な手ブレ補正機構が搭載されていることにより、これまでは考えられなかったような超望遠域での手持ち撮影を可能としている。OM-D E-M1Xとの組み合わせにおいては、広角端150mmではシャッタースピードにして最大8段分、望遠端400mmおよび内蔵テレコンバーター使用時でも最大6段分もの手ブレ補正効果が得られるという。
まずは、地上で手ブレ補正をテスト
手ブレが発生しやすくなるシャッタースピードは、昔から一般的に「1/焦点距離(35mm判換算時)」と言われている。つまり500mm相当の焦点距離であれば、1/500秒が手持ち撮影でも手ブレを抑制できる目安のシャッタースピードだ。ここでシャッタースピード3段分の手ブレ補正効果が加わると、1/500秒から1段で1/250秒、2段で1/125秒、3段で1/60秒となり、手ブレを起こさない限界値の目安は1/60秒ということになる。
これをもとに試算すると、本レンズでは広角端の300mm相当で1/4秒、望遠端の800mm相当および望遠端+1.25倍テレコンバーターをONにした1,000mm相当で1/15秒が限界値目安という概算になる(※シャッター速度は1段ごとに揃えて概算)。そこで、まずはこれを踏まえて実際に夜景撮影を行い、手ブレを起こす割合を実測してみた。
被写体は横浜ランドマークタワーの夜景。これを東京湾を挟んで千葉県富津岬より撮影した(直線距離約21km)。5軸シンクロ手ブレ補正が有効となるS-IS AUTO、フォーカスはMF、ドライブ設定は連写Lに設定。撮影後にPCの画面上で等倍表示し、手ブレの有無を判定。ブレていないカットの割合を算出した。
4月21日に陸上自衛隊木更津駐屯地にて、航空機「V22(通称オスプレイ)」が初めて夜間飛行訓練に飛び立つ姿を撮影したもの。駐機場から垂直上昇しホバリングしている状態なので機体の動きは比較的少ないものの、駐屯地外の離れた位置で、三脚使用が難しい場所からの800mm相当での手持ち撮影であり、さらにごく限られた灯りの中での撮影と非常に厳しい条件。ISO感度はE-M1Xの最高値ISO 25600、絞りは開放値のF4.5としたが、それでもシャッタースピードは1/8秒までしか上げられなかった。
そのような手ブレ試算での限界値ギリギリな撮影条件でも、結果的にはほぼ手ブレのない画像を得ることができた。夜闇でほぼ真っ暗な状況下であったにも関わらずここまで機体の状況を捉えることができたことに驚く。また1/8秒というスローシャッターの副産物として、回転するローターの先端に取り付けられたLEDライトが輝線となって写し込まれたのも非常に面白い。不可能が可能となったことで生まれた新しい表現だ。
この画像では、RAW現像時に強めの高感度ノイズ処理やディティール調整などを行っており、それに伴って多少の緩さも感じられるが、鑑賞サイズによっては十分に実用的だろう。8段分の手ブレ補正による可能性が伝われば幸いだ。
このレンズの特徴を活かして、さらに面白いことができないかと考えてみたところ、海の上を進む船から、手持ちでの工場夜景撮影にトライしてみることを思い付いてしまったのだ。
ここ数年、船の上から楽しむ工場夜景の人気が高まっていることから、工場夜景クルーズのツアー船も多く存在しているのだが、実際にツアーに参加した方の話を伺うと、船の揺れが激しくて写真撮影がとても難しいという声をよく聞くのだ。ならば、手ブレ補正が強力で、そこまで大柄ではない、このレンズの出番ではないかと閃いてしまったのである。
そこで、千葉県の千葉港にて工場夜景クルーズを運行している『千葉ポートサービス』に相談したところ、快く乗船しての撮影許可をいただけた。しからばとM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROの白い鏡筒を抱えてクルーズに参加することとなった。撮影時はまん延防止等重点措置下だったので、筆者一行が県外移動を伴わない千葉県内で、かつ一般のお客さんの邪魔にもならないよう撮影に臨んだ。
いざ工場夜景クルーズに出発!!
千葉県の国際港である千葉港から出航する観光クルーズ船は、海上から京葉地域の工場地帯を間近に見られる人気のコースだ。日中に行われるクルーズもあり、夏には納涼船も出るなど千葉港の様子を多彩に楽しめる。今回はこの観光船で、夜の工場地帯を堪能できるコースに参加した。
工場夜景の実写
ここでは実際に船上でE-M1X + M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROの組み合わせで撮影した作品をご覧いただこう。
撮影方法としては、甲板上の観覧エリアに立ち、体全体をショックアブソーバーのようにして船の揺れを吸収しつつ、ファインダー内に撮影対象をできるだけ揺れないように収め、連写モードでいっきに複数枚を撮影する。
ここで注目していただきたいのは、各作品でのレンズ焦点距離とシャッタースピードの関係だ。焦点距離が長くなり撮影倍率が上がれば上がるほど被写体はブレやすくなるので、それによりシャッタースピードの“手ブレ限界値”が変わる。その関係性を実写作例から読み取っていただきたい。
これらの作品は、70分間のクルーズ中に撮影したおよそ2,000枚の画像のなかから、ピントが合っているもの、フレームにちゃんと収まっているもの、そして手ブレがないものといった条件で選んだ。今回のクルーズ船は比較的小型だったこともあり、波の状況から時折大きく揺れるときもあっただけに、超望遠での撮影はなかなかに厳しい条件であったが、過去に私が行なった同様の船上撮影(フルサイズ一眼レフ+レンズ内手ブレ補正付き望遠レンズ)の経験から判断すると、今回はそれに比べて遥かに安定した撮影が行えたことは断言できる。さらに、船上にも関わらず300mm相当で1/8秒、1,000mm相当で1/25秒での撮影までもが可能であったことは、「驚くべき」結果だといえる。
厳しい環境ほど存在価値が明確に
今回の撮影は実験的な意味合いが強いものではあったが、それによって得られた作品はいずれもこれまでには難しいと考えられていた、揺れる船上からの本格的な夜景撮影を可能とするものとなった。暗いからといって単にISO感度を上げて撮影するだけではなく、スローシャッターによって光量を得ることで付随する動感も魅力のある表現となる。このM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROの登場は、その可能性を拓いてくれる新次元のレンズではないだろうか。
市場販売価格は80万円前後と決して安いとは言えない製品だが、超望遠の幅広い焦点距離域、一切妥協のない高画質、同クラスの他製品と比較すると圧倒的に軽量かつコンパクトなサイズといったメリットに加え、今回検証した非常に強力な手ブレ補正能力が揃うと、高額な製品であってもその価値は十分以上にあるだろう。極限ともいえる撮影を可能とする機材として考えれば、むしろこのレンズを使いたくてOM-Dを選ぶといった選択さえ“アリ”だと感じる。現時点においては他には比肩するものがない、唯一無二の存在のレンズであるといえる。
船上撮影での撮影ワンポイント
激しく揺れる船上では、三脚や一脚はむしろ揺れを増大させてしまうし、周囲の安全面からも使用は避けたい。カメラは必ずストラップ等でしっかりと身体と繋いでおき、安定した立ち方で、まずは安全を確保。必ず両手でカメラをしっかりと持ち、カメラを持ち替える際などには落下させないよう十分に注意しよう。
手持ち撮影のイメージとしては、カメラは空中の一定の場所に浮かせておき、それを足腰と腕で柔軟にフォローするといった感じだ。通常の夜景撮影のように強くホールドしてしまうと、むしろ逆に船の動きに合わせて大きくブレてしまう。あとは可能なかぎりフレーミングを安定しつつ連写でいっぱい撮影しておくという、“数打てば当たる”作戦が有効だ。なお船上での撮影を行いたい場合は、クルーズの参加予約時などに撮影可否を事前に確認しておき、乗船したあともスタッフの指示には必ず従おう。安全な運行がなによりも重要だ。
取材協力:千葉ポートサービス 工場夜景クルーズ(乗船には事前予約が必要です)
http://www.chiba-port.com
状況写真撮影:浅倉真一