ミニレポート

工場夜景クルーズで、“1,000mm相当+手ブレ補正8段分”の手持ち撮影を試す!

M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO

発売は2021年1月(受注生産)。実勢価格は税込88万円。

OMデジタルソリューションズより発売されたマイクロフォーサーズ規格準拠の超望遠ズームレンズ「OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」は、焦点距離150-400mm(35mm判換算300-800mm相当の画角)だが、内蔵の1.25倍テレコンバータを併用することで187.5-500mm(同357-1,000mm)となり、1本で300mm相当から1,000mm相当までの超望遠撮影が可能なのだ。

1,000mm相当と聞くと、長くて太い巨砲レンズを思い浮かべるが、そこはフォーマットが小さくカメラもレンズも小型化に有利なマイクロフォーサーズだけに、35mm判フルサイズ用の同種レンズに比べて小さく軽い。オリンパスのカメラのなかでは一番大柄なフラッグシップモデルのOM-D E-M1Xと組み合わせても質量は約2,872gと、超望遠機材にしては軽量だ。

また、強力な手ブレ補正機構が搭載されていることにより、これまでは考えられなかったような超望遠域での手持ち撮影を可能としている。OM-D E-M1Xとの組み合わせにおいては、広角端150mmではシャッタースピードにして最大8段分、望遠端400mmおよび内蔵テレコンバーター使用時でも最大6段分もの手ブレ補正効果が得られるという。

まずは、地上で手ブレ補正をテスト

手ブレが発生しやすくなるシャッタースピードは、昔から一般的に「1/焦点距離(35mm判換算時)」と言われている。つまり500mm相当の焦点距離であれば、1/500秒が手持ち撮影でも手ブレを抑制できる目安のシャッタースピードだ。ここでシャッタースピード3段分の手ブレ補正効果が加わると、1/500秒から1段で1/250秒、2段で1/125秒、3段で1/60秒となり、手ブレを起こさない限界値の目安は1/60秒ということになる。

これをもとに試算すると、本レンズでは広角端の300mm相当で1/4秒、望遠端の800mm相当および望遠端+1.25倍テレコンバーターをONにした1,000mm相当で1/15秒が限界値目安という概算になる(※シャッター速度は1段ごとに揃えて概算)。そこで、まずはこれを踏まえて実際に夜景撮影を行い、手ブレを起こす割合を実測してみた。

E-M1XにM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROを組み合わせて手持ち撮影。

被写体は横浜ランドマークタワーの夜景。これを東京湾を挟んで千葉県富津岬より撮影した(直線距離約21km)。5軸シンクロ手ブレ補正が有効となるS-IS AUTO、フォーカスはMF、ドライブ設定は連写Lに設定。撮影後にPCの画面上で等倍表示し、手ブレの有無を判定。ブレていないカットの割合を算出した。

OM-D E-M1Xを使用し、各焦点距離でシャッタースピードを1段ずつ変えて撮影した画像から、手ブレを起こしていない画像の割合を算出した。黄色の部分は、焦点距離から試算した手ブレを起こしにくいとされるシャッタースピードの領域。驚くべきは500mm(35mm判換算1,000mm相当)での撮影が、シャッタースピード1/8秒でも高い割合でブレ画像とならなかったことだ。あくまでもテスターである私の技量と、ときおり風が吹くシーンという限定された条件下においてではあるが、概ね試算通りの結果となった。
参考:手ブレ補正を生かした撮影例

4月21日に陸上自衛隊木更津駐屯地にて、航空機「V22(通称オスプレイ)」が初めて夜間飛行訓練に飛び立つ姿を撮影したもの。駐機場から垂直上昇しホバリングしている状態なので機体の動きは比較的少ないものの、駐屯地外の離れた位置で、三脚使用が難しい場所からの800mm相当での手持ち撮影であり、さらにごく限られた灯りの中での撮影と非常に厳しい条件。ISO感度はE-M1Xの最高値ISO 25600、絞りは開放値のF4.5としたが、それでもシャッタースピードは1/8秒までしか上げられなかった。

そのような手ブレ試算での限界値ギリギリな撮影条件でも、結果的にはほぼ手ブレのない画像を得ることができた。夜闇でほぼ真っ暗な状況下であったにも関わらずここまで機体の状況を捉えることができたことに驚く。また1/8秒というスローシャッターの副産物として、回転するローターの先端に取り付けられたLEDライトが輝線となって写し込まれたのも非常に面白い。不可能が可能となったことで生まれた新しい表現だ。

この画像では、RAW現像時に強めの高感度ノイズ処理やディティール調整などを行っており、それに伴って多少の緩さも感じられるが、鑑賞サイズによっては十分に実用的だろう。8段分の手ブレ補正による可能性が伝われば幸いだ。

OM-D E-M1X M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO(400mm)F4.5 1/8秒 ISO 25600 マニュアル露出 MF(RAW現像時にノイズ低減)

このレンズの特徴を活かして、さらに面白いことができないかと考えてみたところ、海の上を進む船から、手持ちでの工場夜景撮影にトライしてみることを思い付いてしまったのだ。

ここ数年、船の上から楽しむ工場夜景の人気が高まっていることから、工場夜景クルーズのツアー船も多く存在しているのだが、実際にツアーに参加した方の話を伺うと、船の揺れが激しくて写真撮影がとても難しいという声をよく聞くのだ。ならば、手ブレ補正が強力で、そこまで大柄ではない、このレンズの出番ではないかと閃いてしまったのである。

そこで、千葉県の千葉港にて工場夜景クルーズを運行している『千葉ポートサービス』に相談したところ、快く乗船しての撮影許可をいただけた。しからばとM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROの白い鏡筒を抱えてクルーズに参加することとなった。撮影時はまん延防止等重点措置下だったので、筆者一行が県外移動を伴わない千葉県内で、かつ一般のお客さんの邪魔にもならないよう撮影に臨んだ。

いざ工場夜景クルーズに出発!!

千葉県の国際港である千葉港から出航する観光クルーズ船は、海上から京葉地域の工場地帯を間近に見られる人気のコースだ。日中に行われるクルーズもあり、夏には納涼船も出るなど千葉港の様子を多彩に楽しめる。今回はこの観光船で、夜の工場地帯を堪能できるコースに参加した。

出航直前の船の前にて。クルーズ船としては比較的小ぶりでカラフルな色使いが可愛らしい。この時点ではまだ、このあとの船の揺れの大きさも知らず、呑気な笑顔でいられたのだが……。(撮影:浅倉真一)
18時45分、桟橋を離れいざ出航。夏至に近い日程だったことから、この時間帯でも曇天ながら空が明るかった。しばらくは夕方の港の様子を見ながら千葉港の沖合を目指す。
太陽が水平線に沈み、辺りは徐々に夜の風景へ。海上で体験する昼から夜への移りゆきはとてもドラマチック。ただ船の速度は思っていたより速く、ときおり乗り上げる水中のうねりによって、カメラのファインダー像も大きく揺られてしまう。カメラを構えながら体のバランスを取るのはなかなか大変。
クルーズ船は沿岸に建ち並ぶ工場などの見所を丁寧に回ってくれる。随所で千葉港の歴史を説明してくれるアナウンスも入り、とても興味深い。乗客もみんな思い思いに写真撮影。スマホでの撮影が多いなかでは、マイクロフォーサーズで小型とはいえ、大きな白いレンズを構える姿は目立ってしまう。撮影目的で乗船する際は自分の周囲にも目を配ろう。
E-M1X + M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROで工場夜景を激写。カメラを構えた状態で全身をクッションのようにして揺れを吸収しつつ、ファインダーを覗きながら、像が安定した瞬間にシャッターを切る。船の揺れで想像以上にカメラが振られてしまうので、連写モードでとにかく数多く撮影しておくのがコツだった。なお低照度下のため、AF動作の逡巡はどうしても多くなる。あらかじめレンズのFnボタンにAF停止もしくはプリセットフォーカスを設定しておき、フォーカスが迷った際にはFnボタンでいったんフォーカス位置をリセットし、MFで微調整するのが効果的であった。(撮影:浅倉真一)
高級超望遠レンズらしく、フォーカス位置のプリセット機能が搭載されている。鏡筒左手の「L-Fn/PRESETスイッチ」をPRESETにセットしたうえで、いちど被写体にフォーカスを合わせ、レンズ鏡筒右手にあるSETボタンを音が鳴るまで押す。すると次回からはレンズ先端部のL-Fnボタンを押すだけで、瞬時にプリセット位置にフォーカスが移動する。暗い中でのフォーカス合わせなどに重宝する機能だ。
いつしか周囲も暗くなり、輝く工場の灯りが海面に反射して煌びやかな光景を見せてくれる。海面の輝きも一緒に撮りたい場合は広角〜標準レンズも併用するとよい。ただし揺れる船上でのレンズ交換はリスキーなので、可能ならば2台のカメラを用意することをお勧めする。
70分間のクルーズも気がつけば終了時刻。休みなく集中して撮影を続けていたことで、港へ戻るころには結構な疲労感を全身に感じていた。桟橋の周囲の灯りが海面に反射して眩しいほどに煌びやかだ。

工場夜景の実写

ここでは実際に船上でE-M1X + M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROの組み合わせで撮影した作品をご覧いただこう。

撮影方法としては、甲板上の観覧エリアに立ち、体全体をショックアブソーバーのようにして船の揺れを吸収しつつ、ファインダー内に撮影対象をできるだけ揺れないように収め、連写モードでいっきに複数枚を撮影する。

ここで注目していただきたいのは、各作品でのレンズ焦点距離とシャッタースピードの関係だ。焦点距離が長くなり撮影倍率が上がれば上がるほど被写体はブレやすくなるので、それによりシャッタースピードの“手ブレ限界値”が変わる。その関係性を実写作例から読み取っていただきたい。

F4.5 1/30秒 ISO 1600 マニュアル露出 400mmで撮影
F4.5 1/30秒 ISO 1600 マニュアル露出 288mmで撮影
F5.6 1/25秒 ISO 200 マニュアル露出 500mmで撮影 内蔵テレコンバーター使用
F4.5 1/25秒 ISO 500 マニュアル露出 316mmで撮影
F4.5 1/25秒 ISO 800 マニュアル露出 195mmで撮影
F5.6 1/20秒 ISO 800 マニュアル露出 313mmで撮影 内蔵テレコンバーター使用
F5.6 1/15秒 ISO 1600 マニュアル露出 256mmで撮影
F5.0 1/15秒 ISO 1600 マニュアル露出 400mmで撮影
F4.5 1/15秒 ISO 3200 マニュアル露出 150mmで撮影
F5.6 1/8秒 ISO 800 マニュアル露出 188mmで撮影 内蔵テレコンバーター使用
F4.5 1/8秒 ISO 3200 マニュアル露出 150mmで撮影

これらの作品は、70分間のクルーズ中に撮影したおよそ2,000枚の画像のなかから、ピントが合っているもの、フレームにちゃんと収まっているもの、そして手ブレがないものといった条件で選んだ。今回のクルーズ船は比較的小型だったこともあり、波の状況から時折大きく揺れるときもあっただけに、超望遠での撮影はなかなかに厳しい条件であったが、過去に私が行なった同様の船上撮影(フルサイズ一眼レフ+レンズ内手ブレ補正付き望遠レンズ)の経験から判断すると、今回はそれに比べて遥かに安定した撮影が行えたことは断言できる。さらに、船上にも関わらず300mm相当で1/8秒、1,000mm相当で1/25秒での撮影までもが可能であったことは、「驚くべき」結果だといえる。

番外編

こちらの写真は、無理を承知でシャッタースピード1秒での撮影を試したものだが、ご覧のように完全にブレて写ってしまっている。この輝線の動きから、いかに船の揺れが不規則で予測がつきにくいものかがお判りいただけることと思う。でもちょっとキレイ。
こちらも同じく1秒の露光で撮影したものだが、船の移動によるブレを逆手に取って、工場の点光源で描かれた光跡を捉えたものだ。この時は比較的波も穏やかで船の上下揺れも少なく、カメラの手ブレ補正の効果もあり、工場の建物はほとんどぶれていないように見える。結果的に幻想的なシーンとなった。これも機材の進化によって生み出される新しい表現のひとつといってよいだろう。

厳しい環境ほど存在価値が明確に

今回の撮影は実験的な意味合いが強いものではあったが、それによって得られた作品はいずれもこれまでには難しいと考えられていた、揺れる船上からの本格的な夜景撮影を可能とするものとなった。暗いからといって単にISO感度を上げて撮影するだけではなく、スローシャッターによって光量を得ることで付随する動感も魅力のある表現となる。このM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROの登場は、その可能性を拓いてくれる新次元のレンズではないだろうか。

市場販売価格は80万円前後と決して安いとは言えない製品だが、超望遠の幅広い焦点距離域、一切妥協のない高画質、同クラスの他製品と比較すると圧倒的に軽量かつコンパクトなサイズといったメリットに加え、今回検証した非常に強力な手ブレ補正能力が揃うと、高額な製品であってもその価値は十分以上にあるだろう。極限ともいえる撮影を可能とする機材として考えれば、むしろこのレンズを使いたくてOM-Dを選ぶといった選択さえ“アリ”だと感じる。現時点においては他には比肩するものがない、唯一無二の存在のレンズであるといえる。

船上撮影での撮影ワンポイント

激しく揺れる船上では、三脚や一脚はむしろ揺れを増大させてしまうし、周囲の安全面からも使用は避けたい。カメラは必ずストラップ等でしっかりと身体と繋いでおき、安定した立ち方で、まずは安全を確保。必ず両手でカメラをしっかりと持ち、カメラを持ち替える際などには落下させないよう十分に注意しよう。

手持ち撮影のイメージとしては、カメラは空中の一定の場所に浮かせておき、それを足腰と腕で柔軟にフォローするといった感じだ。通常の夜景撮影のように強くホールドしてしまうと、むしろ逆に船の動きに合わせて大きくブレてしまう。あとは可能なかぎりフレーミングを安定しつつ連写でいっぱい撮影しておくという、“数打てば当たる”作戦が有効だ。なお船上での撮影を行いたい場合は、クルーズの参加予約時などに撮影可否を事前に確認しておき、乗船したあともスタッフの指示には必ず従おう。安全な運行がなによりも重要だ。

取材協力:千葉ポートサービス 工場夜景クルーズ(乗船には事前予約が必要です)
http://www.chiba-port.com
状況写真撮影:浅倉真一

女性ポートレートから風景、建築、舞台、製品広告など幅広く撮影。「人の営みが紡ぎだす日本の日常光景」をテーマに作品制作を行い全国で作品展を開催するとともに、撮影テクニックに関するセミナーへの出演やワークショップ等を開催する。デジタルカメラの解説や撮影テクニックに関する執筆も多数。(公社)日本写真家協会正会員、EIZO公認ColorEdge Ambassador、プロ写真家としてツクモeX.computer写真編集用モデルパソコンを監修