ミニレポート

Panasonic LUMIX S 50mm F1.8:コンパクトサイズに高コスパが凝縮。気軽に手にしやすいSシリーズ標準レンズ

パナソニックの35mm判フルサイズミラーレスカメラ用交換レンズ「LUMIX S 50mm F1.8」(S-S50)が6月25日に発売されました。希望小売価格が税込でも5万9,400円と、同社Sシリーズレンズの中で最も求めやすい価格ながら防塵・防滴・耐低温仕様となっているなど、一般的にイメージされるF1.8の単焦点レンズよりもワンランク上の性能が特徴となっています。同レンズはLUMIX S1Rとの組み合わせで、どのような描写を見せてくれるのでしょうか。

F1.8シリーズの2本目

パナソニックが公開しているSシリーズ用レンズのロードマップによれば、F1.8の単焦点レンズはLUMIX S 85mm F1.8(2020年11月発売)のほか、24mmと35mmがアナウンスされています。今回の50mmを含め、4つの焦点距離が揃う計画となっています。

これらF1.8レンズシリーズの特徴は、操作面はもとより、サイズ(最大径73.6×全長約82.0mm)やフィルター径(67mm)、フォーカスリングの位置、AF/MF切替スイッチの位置が統一されていることです。

LUMIX S 50mm F1.8製品紹介Webページより

サイズが統一されることで得られる利点を考えていくと、まずジンバルやドローン等にカメラを設置した際にレンズを交換してもバランスの調整が微調整の範囲で済むことが挙げられます。質量は50mm F1.8が約300gで、85mm F1.8は約355gです。

レンズの操作部はAF/MFの切り替えスイッチとフォーカスリングしかありませんが、例えば、フォローフォーカスモーターを併用してジンバル側からフォーカス操作をしたい、といった使い方でも、フォーカスリングの位置と最大径がシリーズで共通化されているため、即座に撮影を続行できるというメリットが得られます。

ここにあげた2つのメリットは動画撮影の視点によるものですが、いわば、F1.8シリーズは同社が動画撮影に本気で向き合っているからこそ生まれた製品なのだといっても過言ではないでしょう。

もちろん、静止画撮影でもレンズ交換に伴う操作感の違いを意識することなく撮影を続行できるということは、大きな利点となります。レンズを変えたという明確な意識のスイッチングはありませんので、そうした意味での高揚感はありませんが、玄人目線で撮影行為の合理化を突き詰めると、これがひとつの解なのだろうと、妙にしっくりくる感覚があります。

付属フードは深めの円筒形。バヨネット式で、ロックスイッチを備えるなど、実用性の高いデザインと丁寧なつくりが特徴です

パナソニック製50mmは2本に

Sシリーズ用の50mmには、本レンズのほかにLUMIX S1/S1Rと同時に登場した「LUMIX S PRO 50mm F1.4」があります。こちらはCertified by LEICA、つまりライカカメラ社の品質基準に基づき同社が認定した測定機器と品質保証システムによって生産されているレンズで、「S PRO」ラインという別枠の位置づけにある1本です。世評では最高峰クラスの50mmとも言われている1本ですが、価格もいわば最高峰。希望小売価格31万3,500円(税込)と、おいそれと手を出すことが難しい、という側面も有しています。

開放F値が1段分明るいというのが、LUMIX S PRO 50mm F1.4の数値上のアドバンテージであるわけですが、サイズおよび重量はその1段分という差以上に大きく異なります。最大径90×全長約130mmで、質量は約955g。フィルター径も77mmとひとまわり以上大きく重たい1本となっています。

ちなみに最短撮影距離はF1.4が0.44m、F1.8は0.45mと、わずか1cmしか違いません。レンズ全長と重さが異なるため体感値は異なってきますが、数値上はほぼ同じようなワーキングディスタンスが求められることになるわけです。

今回はLUMIX S1Rとの組み合わせで試用しました。同機の質量はバッテリー・SDカード込みで約1,016gです。F1.4と組み合わせた際は約1,971gに、対してF1.8では約1,316g。数字上はそこまで大きな差には見えないかもしれませんが、実際に持ち歩いてみると明確に疲れ方が違ってきます。これはレンズサイズがひとまわり以上コンパクトであることも理由です。LUMIX S5のバッテリー・SDカード込みの質量は約714gですから、本レンズを組み合わせると約1,014g。Lマウント採用機であるSIGMA fp(Lも)とのマッチングも良さそうです。

2本を並べたところ。F1.8がF1.4のほぼ半分の大きさとなっていることがわかります。重量ではF1.4のほうが約3倍ほど重くなります

ちなみに、F1.4は鏡筒が金属製であるのに対して、F1.8は樹脂製となっています。例えば寒冷地や冷え込みのある状況で使用する場合は、樹脂製のほうが手へのあたりがソフトで、長時間の撮影での使い勝手は金属製を上回る点があるなど、実用性と満足感は常に天秤。先にも触れたように、本レンズは実用性という色彩が強く、ある意味で撮影に冷静になれる1本とも言えるように思います。では、気になるの描写はどうなのか。さっそく様々な側面から見ていきました。

解像性能

本レンズの開放F値はF1.8と、一般的な50mmレンズの基準からすると、いわゆる普及モデルという位置づけになります。加えて、最近ではF1を切る50mm付近の単焦点レンズが多数登場してきていますし、開放絞り値をF1.2とする製品が新しいAF対応50mmの花形的な位置づけとなりつつあります。そうした観点から見ていくと、F1.4とF1.8からなる布陣はひと昔の鉄板的な組み合わせでは、とする意見も出てくるだろうと想像されます。

しかしながら、パナソニックのSシリーズレンズに限って言えば、そうした尺度が当てはまらないように筆者は感じています。というのも、この例を見てもわかるとおり、ピント面は極薄です。加えて豊かなボケ量と柔らかく溶けていくなだらかなボケ味は、F1.4レンズにも肉薄する描写がある、というと言い過ぎでしょうか。

スナップシーンでは「もはやこれ1本でいいんじゃないか」と思わせるほど上質な描写が得られます。細かな毛の質感を見てもLUMIX S1Rのセンサー性能を十分に引き出してくれていることがわかります。なお、フォトスタイルは特に注記のないかぎり「スタンダード」を使用しています。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F1.8・1/60秒・±0EV) / ISO 125

同じく解放F1.8で撮影したシーン。細かな枝葉に至るまでしっかりと解像していることがわかります。四隅に至るまで破綻は見られません。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F1.8・1/800秒・±0EV) / ISO 100

解放側から十二分にシャープな写りが得られますから、絞りのコントロールは被写界深度の調整用と考えても差し支えない印象です。F5.6まで絞ると、パンフォーカスに近い、キッチリとした端正な描写が得られました。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F5.6・1/320秒・±0EV) / ISO 100

同じくF5.6で撮影。最短撮影距離付近まで寄っています。被写体は樹肌ですが、手に触れることができそうなほどリアリティの高い描写が得られました。ひび割れた肌のざらつき、滑らかな部分との質感差など、ディティールの再現性には目を見張るものがあります。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F5.6・1/60秒・-0.7EV) / ISO 250

コントラスト

温かみが増してきた斜光を利用して、原色を捉えるとどのような描写が得られるのか。かなり難しい条件ですが、赤を飽和させることなく描ききってくれれました。無論、センサー性能や画像処理の巧みさがあってこその結果ではありますが、それらの力を十分に引き出すことができるレンズだと言うことでもあります。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F4・1/640秒・±0EV) / ISO 100

ことあるごとにお伝えしていることですが、やはりLUMIX Sシリーズは水の表現が巧みです。梅雨時ならではの空気の重さすらも感じさせる描写は、同社がこだわって突き詰めたとしている「湿度感」という画質設計のキーワードを確かに感じさせます。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F1.8・1/60秒・-1.0EV) / ISO 400

原色系の色味を豊かなコントラストで描き出してくれる本レンズ。葉のハリ感と鉄サビのいまにも剥がれそうな質感など、有機物と無機物の違いもしっかりと描き分けてくれました。ここでも色の飽和は見られません。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F1.8・1/160秒・±0EV) / ISO 100

ボケ味

ボケ味のチェックでは、まず前後のボケ具合を見ていきました。若葉がにょきにょき伸びている様子が可愛い印象で、気持ちハイキー調にして生き生きとした印象を強調してみました。

ピント面は中間あたりに置いて伸びる若葉を主役に。前後で同じようににょきにょきが続いているわけですが、柔らかく溶けるようなボケが得られています。木漏れ日がつくりだしている玉ボケがアクセントを添えてくれていますが、これらの出方もスムーズ。背景もざわつくことなく、比較的クリーミーに溶けています。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F2.8・1/80秒・+1.0EV) / ISO 100

ガチャガチャを壁なめの要領で捉え、ボケのつながり感をチェックしました。ピントは最至近側にして、画面奥にかけての形状の変化を見ています。形状の判別が可能なのは、3台目あたりまで。画面奥に向かって、なだらかにボケています。とはいえ、溶けきらないのは、F1.8ならではの特徴でもあると感じます。ある程度背景がわかるように調整したい場面では、むしろ有利なポイントになりそうです。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F1.8・1/100秒・±0EV) / ISO 100

F1.8での被写界深度を確認していきました。冒頭のネコでも確認できたとおり、合焦範囲は極めて薄いことが見てとれるだろうと思います。拡大すると、その薄さがよくわかるのですが、全体を表示した状態だと、ピント範囲が広めに感じられます。ということは、前後の形のボケ方が極めてスムーズなためだろうと推察されます。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F1.8・1/60秒・-1.0EV) / ISO 125

もう1点は、タイポグラフィを被写体にした場合。ピント位置は「E」の文字の底部端です。最も奥側の文字は形状から「W」だろうと見られますが、このシーンでもある程度のボケの中でも形状の判別が可能であることがわかります。ここで確認できたように、前後ボケのスムーズなつながりは、被写体を不自然に見せないという意味で、非常に自然な描写を生む、という好結果にもつながっているのだと思います。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F1.8・1/3,200秒・±0EV) / ISO 100

前ボケの柔らかさをいかすことで立体感をひきだしてみました。その場の空気感をもとりこんだような描写で、まさに湿度感という言葉がしっくりくるイメージにまとまりました。グリーンの出方もよく、ボケの中のグラデーションも豊かです。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F1.8・1/1,600秒・±0EV) / ISO 100

階調再現

階調の再現性を見ていきました。温かい光を灯すランプが、レンガづくりの壁を柔らかく浮かび上がらせています。ハイライト側とシャドー部とで、差は比較的大きめですが、どちらも豊かなトーンで再現されています。シャドー側は暗く落とし込んでいますが、完全にツブレてしまうことなく、ディティールを保持してくれています。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F2・1/60秒・-1.3EV) / ISO 125

徐々に夜の時間帯に移り変わろうとしている空を主役に、グラデーションをチェックしていきました。暗部もよく粘っています。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F1.8・1/4,000秒・-1.0EV) / ISO 100

ボンネットのゆるやかなカーブに沿うようにして、色がどのように変化していくか、という視点から。右奥の少し影になっている部分から、左側、下側に向けて、ゆるやかなトーンのつながりが再現されています。エンブレムのあたりに若干の色収差が認められますが、あと1段ほど絞れば気にならないレベルになります。逆に、開放側だと、もう少しこうしたシルバーパーツでは色収差が目立つ印象を抱きました。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F2.8・1/60秒・±0EV) / ISO 400

AF速度

AF動作はきわめて速く、とてもコントラスト式のAFとは思えないほどの快適さをもたらしてくれます。また動作感もほとんど伝わってこず、設計の巧みさを、まさに手で感じることになりました。ここではすばやく動き回るリスを被写体にテストしていますが、ある程度コントラスト故のAFのクセをフォローしてあげるだけで、しっかりと結果を出してくれました。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / マニュアル露出(F1.8・1/250秒) / ISO 200

状況によっては50mmのレンズ1本だけでもハンドリングの工夫で撮っていける面がある分、好い結果を生むことも。望遠レンズほど大きな圧縮効果がないことも手伝って、自然な遠近感で表現できます。もちろん背景の形はある程度判別できる状態になりますから、整理の面で工夫する必要はありますが、誇張感のない画は目に違和感なく感じられる再現につながります。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / マニュアル露出(F4・1/250秒) / ISO 500

鴨の雛もこのくらいの大きさになると、結構な速度で泳ぎまわります。背景がシンプルな分、形状の認識がスムーズに働いたのか、このシーンでは高い歩留まりが得られました。天候は小雨。とっさのことでレインカバー等は用意していませんでしたが、躊躇することなく撮り続けることができるのは、防塵・防滴にしっかりと対応しているからこそ。雨がつくりだす波紋が、単調になりがちな画面に動きを与えてくれています。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / シャッター速度優先AE(1/500秒・F1.8・±0EV) / ISO 1000

輝度差・逆光・歪曲・口径食

夕暮れ時、敷き詰められたタイルが太陽光を反射して輝く中、周囲の建物が大きな影となる部分もつくりだしています。いわゆる輝度差が大きなシーンですが、ハイライト側がかなりねばっていることがわかります。暗部のディティールも残存。厳しい条件ですが、破綻なく描き出してくれました。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F5.6・1/800秒・-0.7EV) / ISO 100

同じく夕暮れ時の逆光シーンから。ねこじゃらしに一部太陽を重ねるようにしてフレーミングしていますが、エッジ部がよくねばっていることがわかります。さすがに細かな毛の部分はハイライトにのまれてしまっていますが、これだけの逆光にもかかわらずコントラストの低下は見られません。いかにも色収差が出そうなシーンですが、このシーンでは水滴のエッジ部にも確認はできませんでした。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F1.8・1/80秒・+2.3EV) / ISO 100

何としても色収差を確認せねば、というわけではありませんが、ところん意地悪なシーンで試してみました。シートで多少ディフューズされているとはいえ、完全に太陽光を入れています。しかもシートは極めて細かな網目のあるもので、モアレとの戦いも同時に強いる内容です。さすがにこれだけの条件を揃えると紫と緑のフリンジが発生しましたが、しかしごく軽微。モアレの発生も見られず、結像性能の高さを物語る結果となりました。この程度のフリンジであれば、特に補正等をせずとも、よほど拡大しない限りはわかりません。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F2・1/4,000秒・±0EV) / ISO 100

歪曲のチェック。昨今のレンズは電子補正が当たり前となっていますので、基本的に補正項目はチェックを入れた状態で撮影しています。あえてオフにする理由もありませんし、それらをトータルで見てこそ、システムとしての仕上がりとの考えからです。ここではF1.8にて撮影していますが、画面周辺に至るまで、きわめてシャープかつ歪みのない像が得られました。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F1.8・1/1,000秒・±0EV) / ISO 100

口径食は中央から画面中程にかけてほぼ真円。周辺ではわずかにレモン型になります。本レンズでは非球面レンズが用いられていますが、それを示すように、わずかに年輪ボケが確認できました。画面中央部の玉ボケが少し汚れたような見え方になっていますが、これは背景の影響からきているものです。ここではあくまでも口径食のサンプルとして見ていただければと思います。

LUMIX S1R / LUMIX S 50mm F1.8 / 絞り優先AE(F1.8・1/60秒・±0EV) / ISO 1600

まとめ

パナソニックの35mm判フルサイズ・Sシリーズ用のレンズには、LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6を除き、総じて高額な製品が多く、なかなか手を出しづらい状況が続いていました。が、ここにきて50mm F1.8という普及クラスのレンズが登場。当初考えていた以上に廉価な価格であったことに、発表を聞いて驚かされた記憶があります。

昨今のフルサイズミラーレス用に専用設計されたレンズは、単焦点レンズを含め、かなり高価格帯に位置する製品が増えました。と同時にひと昔まえで言えば写真の学びはじめに手にすべき1本とされていた50mm F1.4が高額化するか、あるいは空位になるなど、ミラーレス時代にあっては、その役割を50mm F1.8が担うというのが、本稿執筆時点におけるミラーレス用50mmレンズの状況ともなっているように思います。

本レンズもまた、そうしたF1.8の50mmレンズとして登場したわけですが、防塵・防滴・耐低温仕様となっているほか、8群9枚の光学系には非球面レンズを3枚、EDレンズ1枚、UHRレンズ1枚が用いられるなど、贅をこらした設計となっています。さらに動画撮影に配慮した工夫を盛り込むことで将来F1.8シリーズでシステムを組むことも視野に入れたデザインを採り入れるなど、ユニークなアプローチも面白いところ。

鏡筒が樹脂製であることを不満視する意見もあるかもしれませんが、先述したとおり、冷気で操作性が阻害されることがないという素材による利点を考えると、その軽量性とともに大いに歓迎できるポイントだと感じました。今回は重量級のLUMIX S1Rとの組み合わせで試用しましたが、片手持ちでもブレなく撮影ができました。

コンパクトに持ち歩くことができ、重量バランスにも優れるため、撮影にともなう疲れ方がLUMIX S PRO 50mm F1.4使用時とは全く異なります。梅雨空の下から真夏日で撮り歩いてきましたが、快速なAFとあわせて、テンポよく様々な被写体に目を向けることができました。

描写面に関しては、開放側では若干の色収差が感じられましたが、このクラスではよく抑えられていると思います。もちろん、かなりの意地悪をして試す中でのことですから、よほど反射の強い金属や水面を開放側で捉えるという使い方でない限り、そう気になるシーンは少ないのではないかと思います。総じて同社のSシリーズレンズは、同クラスよりもワンランク上の描写性能を誇っているという感覚が、本レンズでも確かに見てとれる結果となりました。それでいて実勢価格が5万円台ですから、描写性能を鑑みれば、むしろリーズナブルと言っていいレベル。Lマウント機のユーザーにとって、最初の1本または次の1本として、かなり手の出しやすい仕上がりになっています。

1点だけ難点をあげるとすれば、ピントリングのスライド動作でAF/MFをワンタッチで切り替えることができるフォーカスクラッチ機構を知ってしまうと、鏡筒脇の切り替えスイッチによる操作が少々煩わしく感じられたこと。本レンズのコンセプトとは異なる視点からの感想のはずですから難点としてあげるのは不適切。ですが、やはりコントラスト式ゆえのAFの迷いがあるシーンはありますので、それを即座にフォローできる工夫を望んでしまいます。

ただ、そうした脇道にそれた感想を抱くのも、総じて隙のないつくりと描写があるからこそ。ライカ、パナソニック、シグマの3社からなるLマウントシステムの中でも、本レンズは描写性と価格の両側面から好バランスな標準レンズとしての役割を担う1本となっていくことだろうと思います。

本誌:宮澤孝周