インタビュー

オリンパスM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO(後編)

フラッグシップ望遠ズームで目指したもの オリンパスブランドの今後は?

左から、メカ制御技術 開発1 堀内円嘉氏(手ぶれ補正担当)
映像商品企画 商品企画1 小野憲司氏(商品企画担当)
映像事業 副事業長 片岡摂哉氏
映像開発 レンズ製品開発 開発1 村山恭二氏(プロダクトリーダー)
映像開発 レンズ製品開発 開発1 スーパーバイザー 安富暁氏(メカ設計担当)
光学システム開発 映像光学開発 開発1 窪田勇樹氏(光学設計担当)

オリンパスが2021年1月22日に発売を予定しているマイクロフォーサーズ交換レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」に関するインタビューの後編をお届けする。

手ぶれ補正と内蔵のテレコンバーターを利用すれば、手持ち撮影で35mm判換算300-1,000mm相当の画角をカバーできるという特徴を持つ本レンズ。2019年1月には既に開発が発表されていたが、このほどようやく発売日と仕様に関する詳細な情報が開示された。

後編では本レンズのほか、2021年1月から新しく設立される「OMデジタルソリューションズ株式会社」がこれから歩んでいく、マイクロフォーサーズと“オリンパスブランドの今後”についてをお届けする。

購入後のカスタマイズサービス

——本レンズを使う方々に注目してほしい機能は何ですか?

小野 :本レンズで特徴的なカスタマイズサービスについてお話をさせていただきます。本レンズは他社にはないカバー範囲の広いレンズなので、様々な撮影スタイルのお客様に満足していただきたいと思っています。初期の出荷時にはフォローができていない部分を、購入後の有償カスタマイズサービスというカタチで用意しております。

1つ目は、内蔵テレコンバーター切り替えレバーの位置変更サービスです。通常は手持ち撮影を考えて右側にあるのですが、一脚や三脚を使用して撮影するスポーツフォトグラファーの方など、焦点距離を変える機能をすべて左手に持たせたいというような要望があります。なおかつレリーズボタンから指を一瞬でも離したくないという要望もあり、レバーを左側に移行するというサービスを提供します。

左側がカスタマイズしたレンズ。内蔵テレコンバーター切り替えレバーの位置が変わっているのがわかる。

小野 :2点目は、三脚座のクリック機構静音化です。本レンズから三脚座に90度クリック機構を新しく搭載しております。目的としては、撮影時に瞬時に縦位置に変えることができるというものです。しかし、既存の40-150mm F2.8 PROや、300mm F4.0 IS PROはクリックがない三脚座機構を採用してきましたので、それに使い慣れているお客様向けに三脚座のクリックを取り外すサービスを用意しています。

フラッグシップ“信頼性”を担保するために

——他の同クラスレンズと比べて、どこに力(コスト)が入っていますか?

村山 :「望遠撮影に比類なき自由を」というコンセプトがありますが、超望遠で手持ち撮影をするために、力もコストもいたるところにかけております。レンズの全体性能や、新開発のカーボン繊維強化プラスチックの採用、マグネシウム合金製の骨格、手持ち撮影に配慮したフロントヘビーにならないためのカーボン製フードの採用などです。また、レンズ自体を軽くするための薄肉化には非常に高い技能が必要なため、ここにも力とコストをかけています。

プロダクトリーダーの村山恭二氏

村山 :高画質化のためにオリンパスの誇る特殊レンズを採用しており、作るのが難しいという話をさせていただきましたが、こちらもコストをかけている部分です。手持ちでも高画質で快適にストレスなく撮影できるということを証明できないと、“手持ちで撮影できます”とはアピールできません。

また、コストではありませんが、本レンズで力を入れているところが“信頼性”という点です。一瞬を残すというカメラ機材の中で、何かの要因で残すことができなかったということがあってはいけないと考えています。本レンズでは、35度を超える炎天下や雨の中で、地面に置いたままにした状態での耐久性を確認したり、様々な環境下で数十万ショットの撮影を通したチェックをしています。開発や品質管理部門にかかわるメンバーみんなで、その環境での撮影を実際に体験・体感しながら、かなり過酷な状況で信頼性評価をしてきました。

“望遠レンズに対する固定観念は捨てた”

村山 :今回は設計時に、「超望遠レンズってこういうものでしょ」という固定観念は捨てていました。望遠ユーザーについて、望遠レンズの使い方、使う焦点距離、必要なF値、それから撮影以外の状況、持ち運び時にどこかが邪魔になっているかもしれない、ということをもう一度ゼロから調査してきました。

「OM-D」シリーズとの組み合わせを想定

——市場にある他のシステムも含めて検討する際、本レンズとOM-Dを組み合わせる最大の長所は何ですか?

小野 :フルサイズ機で同じ焦点距離、F値で撮影したいとなったときに、どれだけシステムが肥大化するかということをイメージしていただきたいと思います。我々が提供する「OM-D」というものは、システムパッケージとしても他社より圧倒的に小型軽量化することができます。今回のレンズは「5軸シンクロ手ぶれ補正」で最大8段分の手ぶれ補正効果も達成しています。そのような機能もあり、手持ち撮影で最高のパフォーマンスを発揮できるところが最大の長所だと思っています。

——11月18日にOM-D E-M1Xの価格引き下げが発表となりましたが、どのような背景がありますか?

片岡 :今回、本レンズの発売を発表し、それに合わせてOM-D E-M1Xのファームウェアアップデートで鳥認識AFなどを入れました。やはり本レンズを機に、マイクロフォーサーズの、ある意味究極の姿というか、手持ちで1,000mmの撮影をするという世界をベストな状態で感じてほしいと思っています。OM-D E-M1Xは、本レンズを意識しながら作ってきたボディでもあります。これを機にOM-D E-M1Xと本レンズ、つまり我々が提供したい価値をより多くのお客様に手に取ってもらいたいという考えのもと、今回思い切って戦略的な価格をOM-D E-M1Xにつけました。

——本レンズの構想やコンセプトの中に、OM-D E-M1Xとセットという想定はあったのでしょうか?

片岡 :本レンズのような超望遠レンズが出てくる時代になったとき、それを受け止める堅牢制や性能が必要になるだろうということがOM-D E-M1X開発に対するモチベーションのひとつになっていました。今回、ようやく“試してください”といえるようになったと感じています。

映像事業 副事業長の片岡摂哉氏

新会社「OMデジタルソリューションズ」が引き継ぐもの

——オリンパスブランドは今後どうなりますか? ペンタ部のロゴ表記は変わりますか?

片岡 :ずっと先の話については、正直まだ未定の部分があるのですが、当面の間はオリンパスブランドを継承するということが決まっています。1月1日に急にオリンパスという名前がカメラから消えてしまうということではなく、当面の間は継承されます。いつ頃までかは検討中です。

—— 購入経路、サービス拠点やサポート体制、価格帯など、ユーザーにとって変わる部分はありますか?

片岡 :基本的にお客様へのメッセージとしては、“安心してほしい”ということです。オリンパスブランドを継承するということは、ただ名前が残るということではありません。これまでのシステムや製品に対して責任を持ちますという意志でもあります。いきなりサポートが受けられないとか、買う場所がなくなってしまうとか、そうなると名前しか継承していないという話になってしまいます。

名前を継承するということは、サービスであったり、販売経路であったりその他諸々、今お客様が享受している価値やメリットをそのまま継続していくということです。今後はOMデジタルソリューションズとして、サポート体制そのものもオリンパスからそのまま引き継ぎます。そういった意味では、全く同じサービスを提供できると考えています。もちろん新しい会社になったからには、やり方を変えていこうとか、もっと良いものを提供したいという想いはありますが、お客様に見える部分としては、サービスを含め、同じ価値を提供していけるようにしたいと思っています。

マイクロフォーサーズの今後、「手持ちでどこへでも行ける」の追求

——現在のマイクロフォーサーズシステムは、発展中なのか、あるいは成熟しているのか、どのような段階にありますか?

片岡 :古くはフォーサーズ(2003年)から始まっていますが、当時は自分たちも、どこに価値を持っていくのがいいのか、画質に力を入れるのか、小型化に力を入れるのかなど、いろいろと試行錯誤してきました。マイクロフォーサーズの時代になって、自分たちがやりたいものができるようになってきた面があると思っています。

例えば、ファインダーにしても、一眼レフの場合は画面が小さければ、大きく見ようとすると大きなプリズムで拡大しないと見られないなどの制約があります。しかし、マイクロフォーサーズの場合はEVFですので、接眼の光学系だけを工夫すれば大きくできます。“ボディは小さく、見えは大きく”ということがEVFになって可能になってきました。EVFもどんどん進化して、遅延もなくなり見えも良くなってきたことで、小型であるというメリットが活かせると思っています。

2003年から、高画質に対しても継続して取り組んできました。エンジンであるとかイメージャー(イメージセンサー)が進化したことによって、われわれの目指す“小型軽量でありながら高画質”がだんだん可能になってきました。

マイクロフォーサーズはどうしてもイメージャーが小さいので、高画素がなかなかむずかしいという部分があります。しかしその点は、技術が進化したことによって、「ハイレゾショット」というアプローチも可能になります。そうなると、今まで小さい分の制約と言ってきたものがどんどん取れてきています。

ミラーレスならではの可能性というものが、マイクロフォーサーズにとってもいいサイクルで回ってきていると感じています。そうなると今度はマイクロフォーサーズならではのシステムというものを作ればさらに相乗効果があると思っています。これまで我々は後発だったこともあって、他社と似たようなスペックのレンズを出してきました。しかしもっと我々の特徴を出していこうということで、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROであったり、今回のM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROを開発することとなりました。

同じようなことをフルサイズでやろうと思ったら、とてつもない大きさや重さ、値段になってしまいます。これを手持ちでできる設計に仕上げられるのはマイクロフォーサーズだけであるという、“ならでは”の強みを活かしたいと思っています。電子デバイスがどんどん進化してきて、徐々にネガティブな要素がなくなり、ポジティブな要素を残していこうというのが今の段階で、これからもそれはどんどん追求していきたいと思っています。

——オリンパスとマイクロフォーサーズのこれからについて、一言コメントをお願いします。

片岡 :小型・軽量・耐環境という要素と、マイクロフォーサーズというシステムそのものが持っているメリットをうまく組み合わせて、我々が得意とする「手持ちでどこへでも行ける」という長所をさらに尖らせて行きたいと思います。もちろん高画質についても、さらに追求していきます。今までお客様が撮れなかった写真を撮れるように、より良い写真が撮れるようにしていきたいというのは、今までもそうですし、これからも変わらないことだと思っています。

本誌:宮本義朗