フィルター活用術
見慣れた街の風景を不思議な雰囲気に
NDフィルターを使った都市風景講座
2018年8月29日 17:00
みなさんはNDフィルターをご存知ですか。NDとは"Neutral Density"の略で、「無彩色/濃度」という意味です。全体がグレーになっていて、透過する光を抑え、色彩に影響を及ぼすことなく、シャッター速度を遅くすることができます。
今回はこのNDフィルターを使って、動くものをぶらした作品を撮ってみましょう。
動いている被写体をブラして撮るためには、シャッター速度を遅くする必要があります。夜間や暗所では自然とシャッター速度が遅くなりますが、天気のいい日中の場合は速めのシャッター速度で撮る必要がでてきます。シャッター速度優先オートで遅いシャッター速度を選択することはできても、光量が過多になって露出オーバーになってしまいます。そこで、NDフィルターを使ってみましょう。光量が減ることで、明るいところでも適正露出になり、長秒時の露光が行えます。
使用するカメラやレンズは問いませんが、夜景撮影と同じようにシャッター速度を遅くしますので、ブレを防ぐための三脚は必須となります。さらに、シャッターボタンを押した時のわずかな振動を防ぐため、カメラ用のリモコンを用意したり、2秒セルフタイマーを使うと安心です。
今回使用したフィルターは、マルミ光機の「EXUS NDシリーズ」です。薄枠設計で、ワイド系のレンズでもケラレにくく、帯電防止・撥水・防汚の3つのコーティングが施されているため、ホコリや水滴、指紋汚れがつきにくい高性能タイプです。
ND4、ND8、ND16、ND32、ND64とND500、ND1000の7種類があり、数字が大きくなるほどグレーの濃度が濃くなり、減光効果も高まります。
それぞれ、どれほど光量が減るかというと、1をND●の数字で割ってください。例えば、ND4なら光量が1/4になり、通常の半分のさらに半分なので、絞り2段分の減光効果があります。
それぞれの減光量を計算すると、次のようになります。
・ND4:光量1/4・絞り相当2段
・ND8:光量1/8・絞り相当3段
・ND16:光量1/16・絞り相当4段
・ND32:光量1/32・絞り相当5段
・ND64:光量1/64・絞り相当6段
・ND500:光量1/500・絞り相当9段
・ND1000:光量1/1000・絞り相当10段
同じ露出値で撮り比べると、フィルター無しでは露出オーバーだったのが、NDフィルターの濃度を上げるのに比例して、暗く写ることがわかります。
観覧車が回ったように写る姿は夜のシーンでよく見かけますが、青空の下で回っている様は新鮮です。それぞれ、同じ明るさになるように、絞りとISO感度を固定して撮り比べると、シャッター速度に変化が見られます。
4秒では微かなブレですが、15秒も露光すると回転しているように感じます。ここでは高濃度のND1000に加え、中濃度のNDフィルターをかけ替えて見ました。ND8では4秒になりましたが、ND16にでは倍の8秒となり、さらにND32では15秒となります。NDフィルターの番号を1つあげると、シャッター速度は倍遅くなっていくのがわかります。
このように、NDフィルターは重ねがけすることができます。計算の仕方としては掛け算になるので、例えばND4とND8を重ねると4×8=32なのでND32相当となります。天気の良い日は高濃度のND1000でも足りないことがあるので、中濃度のNDを重ねましょう。
NDフィルターは種類が多いので、どれを買うべきか迷うところですが、まずは高濃度のND1000に加え、中濃度のND8かND16あたりを揃えてみてはいかがでしょうか。日中にシャッター速度を数秒程度に抑えたい場合はND16を、数十秒にしたければND1000といった具合です。さらにシャッター速度を遅くしたければ、ND1000にND16を重ねづけしていくこともできます。あとは絞りで多少の調整も可能です。
しかし、高濃度のフィルターを重ねると暗くなるためにAFが合いにくくなることがります。そんなときは一度フィルターを外して、AFで合わせ、MFに切り替えましょう。また、重ねづけすることでフィルター枠に厚みが出るますので、広角レンズでは周辺部のケラレに注意してください。
シャッター速度が遅くなることからNDフィルターを付けて、動きのある被写体を狙うとおもしろいです。では、街中で動いている被写体を探して撮ってみましょう。
作例
フィルターを付けずに公園の噴水を撮ってみました。シャッター速度1/25秒では水が流れたようには見えません。
そこで、シャッター速度を2秒にしましたが、露光時間に対して光が多すぎて真っ白くなってしまいました。
そこでNDフィルターの出番です。NDフィルターを装着することで光量が落ち、2秒露光のまま、適正露出で撮ることができました。シャッター速度を遅くすることで、水の動いた軌跡が繋がり、優美な姿になりました。
渋谷のスクランブル交差点に立ち、人々の動きを撮りました。1/30秒ではブレが目立たず動きか感じられにくい仕上がりです。
20秒も流してしまうと、人がいる様子は残っていますが、力強い躍動感はありません。
シャッター速度を変えて何枚か撮り比べた結果、私としては微かなブレで動きを感じる1/4秒ぐらいが程よいと感じました。
原宿の竹下通りも多くの人で賑わっていました。60秒露光すると交差点の写真と同様に、大きくブレすぎて、ぼやけた印象です。
ここでは5秒ほどに抑えることで、人の動きが残像のように写りました。人々がどんどんと通りに吸い込まれていくように見えますね。
観光地では建物を写そうとすると、多くの人も写り込んでしまいます。
そこで、NDフィルターを使って、人を消してしまいましょう。シャッター速度を遅くすることで建物はそのままに、動いた人がブレました。かすかに姿は残りますが、あまり気にならなくなりました。ただし、記念撮影をしている人など、動かずに留まっている人ははっきり写ってしまうので、動きのあるタイミングを狙いましょう。
さらにこんな撮り方も
さらにこんな撮り方もできます。歩行者天国で立ち止まっている女性を写しました。周囲の歩いている人はブレますが、立ち止まった女性はシャープに写っています。ポイントをはっきり見せつつ、動きを表現した画面になりました。
車もぶらしてしまえば、往来感は残しつつも建物を目立たせられます。人の顔や車のナンバーがはっきり写らないので、コンテストに出したり、ネットにアップするときも安心です。
街路樹に風が吹くと枝葉がさわさわと揺れます。ここでNDフィルターを装着すると、目では見えない風を感じさせることができます。1/10秒では揺れた感じはしませんが、60秒間露光すれば枝先の揺れに風を感じます。
昼間の遊園地を写した場合です。幻想的な雰囲気を表現することができました。
動いているものを探しているうちに、エスカレーターに目が止まりました。どんな風に写るのか試してみると、階段状の姿がブレてまるで滑り台のようです。人の動きを撮ったときと同じで、ぶらしすぎると人の姿が溶け込んでしまうので、シャッター速度は3秒にしました。対比させるため、動きのない建物部分とエスカレーターの両方を画面に入れるのがポイントです。
街を流れる川や港の水も動きのある被写体。水面が細かくさざ波だっています。しかし、シャッター速度を遅くすると波が重なり合って、水面が平坦に写り、静けさを感じさせます。映り込みもすっきりと綺麗に見えますね。
同じ場所ですが、対象が船か雲かでどの程度のシャッター速度が効果的なのか、比べてみました。船の場合は動きが速いので1秒程度にすると、動きが感じられますが、あまりシャッター速度が長いと背景に溶け込んでしまいます。一方、雲の動きは遅いので、1秒程度では流れたようには写りません。1分程度の露光をかけて、ようやく雲の動きの軌跡を捉えることができました。
画像にはっきりとした効果がかかる、PLフィルターやソフト、クロスと違って、NDフィルターはやや地味なイメージでしたが、人、乗り物、風、水など、街中の動いている被写体が目で見る世界とは違った表情を見せるのがとても面白いです。日常的に多くの写真を見る中で、日中に何かがブレている写真はほとんどありませんよね。だからこそ、スローシャッターの景色がどれも新鮮に感じるのです。街のスナップはもちろん、ネイチャー、ポートレートなど、みなさんの好きな撮影ジャンルで活用法を探ってみてください。きっと表現の幅がひろがるはずですよ。