フィルター活用術
初夏の海を印象的に撮る!
PLフィルター・NDフィルターの活用でワンランク上の作品を目指す
Reported by 伊藤亮介(2015/6/12 13:28)
NDフィルターで波を印象的に写す
海の風景を求めてやって来たのは静岡県の伊豆半島だ。東伊豆で青く澄んだ海と岩礁の風景を撮った後、西伊豆へ移動すれば海の向こうに沈む夕陽を写すことができる。伊豆は首都圏からもほど近く、日帰りの撮影にはまさにうってつけの場所なのである。
まず東伊豆の代表的な景勝地として知られる城ヶ崎海岸に到着すると、満潮の時刻を迎えて波が勢いよく打ちつけていた。独特の形状をした岩礁に押し寄せる波を低速シャッターで撮ると美しく表現できるが、このときは晴れていて光量が十分にあったので、カメラのISO感度を下げて絞り込んでも低速シャッターは得られない。
そんなときに重宝するのが「NDフィルター」である。NDフィルターは減光フィルターとも呼ばれ、文字通りレンズに入る光の量を減らすフィルターだ。光量を減らせば日中でもスローシャッターで写せるので、水風景を写す際にNDフィルターは欠かせない。
フィルターメーカーのマルミ光機にはND8、ND16、ND32、ND64といった減光効果の異なる種類が揃っていて、それぞれ光量を1/8、1/16、1/32、1/64に減らすことができる。
余談になるが、一般的に風景は絞り優先モードで撮影するのが基本となる。しかし僕の場合、海ではマニュアル露出に切り替えて撮っている。
というのも、絞り優先モードだと画面の中で次々に変化する波の白さにAE(自動露出)が影響を受け、意図通りの露出を得にくくなるからだ。この場面でも絞りをF14、感度をISO100に固定して、あとはシャッター速度を調整しながら適正な露出になるように撮影している。
NDフィルターが無いとスローシャッターで撮るのは難しい
白い波の影響を受けないようにマニュアル露出で写す。フィルターをつけずにシャッター速度1/125秒で撮影すると、波の泡立つ様子は再現されるものの写真的な美しさは感じられない。そこで絞りとISO感度は変えずにシャッター速度を低速側にシフトする。しかし当然のことながら、露出オーバーになって画面は白く飛んでしまう。このようなときにNDフィルターを使用する。ここでは絞り5段分の減光効果があるND32を装着して、シャッター速度を1/4秒に設定。波の軌跡が絹糸のような滑らかな描写となり、写真ならではの表現ができた。
また、NDフィルターを装着すると光学ファインダーは暗くなって見えづらくなる。そんなときは適正な明るさで表示できるライブビューに切り替えて撮影しよう。
◇ ◇
次に海面に点在する岩をポイントにして、逆巻く様子をアップで捉える。ここではND8、ND16、ND32、ND64の各フィルターを装着して波の描写の違いを比べてみる。
その結果、ND32とND64を使ったときがベストだった。シャッター速度はそれぞれ1/4秒、1/2秒で撮影しているが、このシャッター速度がいつも正解だとは限らない。波の勢いやシャッターを押すタイミング、使用するレンズの焦点距離などによって描写は変わるので、まずはシャッター速度を変えて何枚か写し、場面ごとに一番美しく表現できる秒数を自分なりに見つけることが大切だ。
NDの数字が大きいほどシャッター速度を遅くできる
ND8やND16を使って撮影したときは水流の美しさが感じられず、やや中途半端な印象を受ける。ND32とND64を使うと水の流れがきれいに描写されて、見ていて心地いい写真になった。ND32の方が躍動感が出ているが、どちらを気に入るかは好みの問題だ。なお、NDフィルターを使った撮影ではスローシャッターになるため、ブレないように三脚とケーブルレリーズを準備しておきたい。
遠景も鮮やかに写せるPLフィルター
一方、海の色をしっかりと表現したいときに欠かせないのが「PLフィルター」(偏光フィルター)である。
「海を写しても目で見たような感動が得られない」という経験をお持ちの方には、ぜひ試してもらいたいフィルターだ。PLフィルターには被写体の表面の反射を取り除く効果と、色彩を強調する効果がある。
このときも伊豆の鮮やかな海を表現したかったので、PLフィルターを装着して撮影した。海面の反射を取ると緑がかった色彩が現れて、海中の様子もしっかりと捉えることができた。
水面の反射を取るとエメラルド色がはっきりと現れた!
PLフィルターを装着しないと海面に空が映り込む。PLフィルターを取りつけ、ファインダーを見ながら前枠をゆっくりと回転させると水面の反射が徐々に取れていく。反射が最も取れたところで止めると鮮やかな緑色が現れ、イメージ通りの写真を撮ることができた。なお、PLフィルターはレンズに取り付けただけではその効果は得られない。二重構造になっている被写体側の前枠を回転させると効果が現れるので、ファインダーや液晶モニターをよく見ながら効かせ具合を調整しよう。
PLフィルターの効かせ具合は作品の狙いで決める
PLフィルターを使うとその効果の面白さも手伝って、つい一番効かせた状態で写してしまいがちだ。しかし場合によっては、少し反射を残しておくと水の存在感を強調できたり、フラットな画面になることを避けられる。半分だけ効かせた状態(半掛け)と最大に効かせた状態(全掛け)の両方を撮っておけば、あとで気に入ったカットを選べる。◇ ◇
前述したように、色彩を強調するときにもPLフィルターは有効だ。この場面では青空が一面に広がっていたので、青色を強調するためにPLフィルターを操作した。
風景を撮るときには、目の前の光景を必ずしも忠実に再現する必要はない。自分が感動した色を強調することで、自分の意図を風景に盛り込むことができる。
PLフィルターを使うと全く違う印象に!
PLフィルター非装着時と、装着してフルに効かせた場合のカット。その差は一目瞭然だ。青空や木々の緑が色鮮やかになったのと同時に海面の反射も取れて海の色が濃くなり、岩場のコントラストも高まって画面にメリハリがついた。このように仕上げることで、写真を見る人にも自分の思いを伝えやすくなる。夕景をより印象的に写すには?
東伊豆での撮影を終え、夕景撮影のため西伊豆へと移動する。東伊豆と同様に西伊豆にも景勝地が数多くあるが、中でも堂ヶ島海岸は夕景スポットとして特に人気のある場所だ。
ところが現地に到着すると、日の入りの時間が干潮時刻と重なったこともあって海は穏やかで、あまり変化が感じられない。そのまま撮ると平凡な写真になると判断し、ここでもNDフィルターを使って波をスローシャッターで幻想的に表現して、変化をつけることを試みた。
フィルター重ね掛けというテクニック
「色を強調しつつ、スローシャッターで表現したい」というときには、PLフィルターとNDフィルターを重ねて取りつける方法もある。
ただしこの際には、装着する順番に気をつけよう。まずレンズにNDフィルターを取りつけてから、その後でPLフィルターを装着するのが正解だ。逆の順番で取りつけると、回転させているうちにNDフィルターがPLフィルターの前枠に食い込んでしまい、撮影後にフィルターを取り外すのが困難になる。
NDフィルターとPLフィルターは、いずれも海を撮影するときには欠かせない製品だ。今回使用したマルミ光機のフィルターにはさまざまな種類があるが、NDフィルターは「DHG ND」シリーズを、PLフィルターなら「EXUS」シリーズをお勧めしたい。
DHG NDには、フレアやゴーストの発生を抑えるデジタルコーティングや、フィルターガラスの外周部に内面反射を防止する墨入れ加工が施されている。薄枠設計のため超広角レンズを使用したときにもフィルター枠が写り込む心配がない。
なおマルミ光機では、1枚でPLとNDの効果を合わせ持つ「CREATION C-PL/ND8」と「CREATION C-PL/ND16」というフィルターもラインナップしている。詳細はこちら。
一方、PLフィルターのEXUSは、従来製品よりも明るい偏光膜が使われていてPL効果の確認がしやすく、着脱もスムーズに行える。フィルター表面には撥水コーティングや帯電防止コーティングが施され、水が付着しても玉状になってブロアーで吹き飛ばせたり、ホコリがつきにくいので使い勝手に非常に優れている。
これらのフィルターを状況を見極めて上手に使えば、今までとは違った海の風景が撮れるはずだ。今年の夏はワンステップ上の写真を狙ってみよう。
制作協力:マルミ光機
機材協力:キヤノンマーケティングジャパン、ベルボン