フィルター活用術

紅葉・渓流で大活躍!秋のフィルターワークを学ぶ

PLフィルターとNDフィルターの使いどころをおさらい

いよいよ紅葉シーズンも佳境を迎えている。彩り豊かな山や、紅葉と渓流・滝がコラボする風景にレンズを向けている方もきっと多いはずだ。紅葉は1年をとおして、もっとも彩りが豊かな季節だけに、気合の入り方も違うのではないだろうか。

そんなとき、紅葉を鮮やかにして、水の動きをコントロールするフィルターは大いに活躍する。しかし、「あとからデジタル処理をすれば色のコントロールなんてできるし、水の表情は出たこと勝負でいいから、フィルターは使わない」ともしも考えているとしたら、大いなる勘違いと損をしていることになる。

PLフィルターでしかできない色表現やコントラスト表現はあるし、NDフィルターを使えば水の表情は「出たとこ勝負」ではなく、「意図して表現」できるからだ。

紅葉の山をPLフィルターで鮮やかに写す

PLフィルターとは?

では、そもそもPLフィルターとはどんな効果があるのか、少しおさらいしておこう。「PL」はPolarized Light(偏光)の略で、「偏光フィルター」とも言われる。

マルミ光機「EXUS サーキュラーP.L」

ガラスの間に偏光膜を挟んだ構造をしており、その偏光膜を回転させることによって、青空などの色彩を鮮やかにしたり、葉や水面の反射を除去する効果を発揮する。

PLフィルターを透かしてみるとグレーに見えるが、このためレンズを通る光の量が少し減る。効果の効かせ具合によって違うが、シャッタースピードにして約1段ぶん程度遅くなる。

PLフィルターの使い方

PLフィルターはレンズの先端部に取り付け回転枠を回し、表面反射の具合や色彩の効果を確認しながら使う。回転枠は、左右どちらの方向にも回すことができるので、使いやすい方向へ回せばよい。効果は180度の間で変化し、強い効果や弱い効果を選ぶことができる。

勘違いしやすいのは、PLフィルターは常に最大効果で使わなければならないと思っていることだが、まったくそんなことはなく、自分の裁量で決定すればよい。青空の濃い色がほしいのか、ほんのりと強くした色にしたいのか。葉や水面の反射は完全に消してしまいたいのか、光のニュアンスをわずかに残したいのか。そんなことを考えならが、PLフィルターを使ってほしい。

もう1つ勘違いしやすいことがある。それはPLフィルターはどんな場合も効果があると思っていることだ。

基本的には太陽に対して90度の方向で強い効果が得られる。そのため、たとえば順光(太陽が背中側にある)のとき、昼近くなら地平線近くで、逆に日の出や日の入り頃なら頭上近くで強い効果となる。だから逆光では効果は薄いし、曇天時も同様に効果はあまり期待できない。

また水面の反射を除去する場合は、水面に対して30度から40度でレンズを向けていると、効果的に使うことができる。

これらの関係は、PLフィルターを使うにあたっては大事なことなので、しっかりと頭に入れておいてほしい。

効果の度合いを変えて撮っておくのがポイント

下の写真は、マルミ光機の「EXUSサーキュラーP.L」を使って、PLフィルターの効果を比較したものだ。

PLフィルター非装着
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 1/100秒 / F8 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 100mm
PLフィルター(効果:弱)
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 1/80秒 / F8 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 100mm
PLフィルター(効果:最大)
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 1/60秒 / F8 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 100mm

ちょうど山は紅葉真っ盛りで、しかも青空も広がっていたので、PLフィルターを使うには絶好の条件だった。PLフィルターを使わない状態でも、それなりの色合いとコントラストは出ているが、秋たけなわの美しさを表現するには少し物足りなかったので、PLフィルターを使ってみた。

PLフィルターを使うことで明らかに彩とメリハリがついているが、その強さは好み次第だろう。現場での判断がしづらかったら、効果の度合いを変えて撮影しておくとよい。

水面に落ちた紅葉をPLフィルターで印象的に描写

晩秋になると落葉の美しさが目に付き始める。水際の落葉はしっとりと濡れ、色も鮮やかで、いっそう魅力的だ。11月のこの日は幸いにも雪がふり、渓流では雪の白と落葉のオレンジや黄色が美しいハーモニーを奏でていた。

そのままPLフィルターを使わずにストレートに撮ると、水面で反射する光が雪の清楚な白と相性がよくないように感じたので、PLフィルターを使って水面の反射を除去することにした。

PLフィルター非装着
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 1/50秒 / F5.6 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 35mm
PLフィルター使用
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 1/20秒 / F5.6 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 35mm

結果としては水面で反射する光のざわめきがなくなり、視線が雪と落葉にしっかりと誘導できたように思う。

PLフィルターは、たんに「反射を除去する」だけでなく、「反射を除去して視線を誘導する」ことも可能だ。このように考えてPLフィルターを使うことができれば、ワンランク上の表現を楽しみことができる。

PLフィルターで水面の反射を取ればグッと画面が締まる

紅葉と雪がコラボする渓流の風景を、PLフィルターを使わずに撮影したものと、使って撮影したものを比較してみた。

PLフィルター非装着
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 1/30秒 / F8 / +0.3EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 28mm
PLフィルター使用
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 1/13秒 / F8 / +0.3EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 28mm

PLフィルターを使わずに撮影すれば、水面で反射する光がそのまま描写され、それを味として鑑賞することも可能だが、一方でその光のために画面全体が引き締まって見えない。

対して、PLフィルターを使って水面の反射を除去した場合は、水面がグッと引き締まり、結果、画面全体としてメリハリの感じられるものになる。どちらが○で、どちらが×という話ではなく、PLフィルターはこのような効果を期待して使うことができることは覚えておけば、重宝するにちがいない。

渓流の流れを滑らかに写すにはNDフィルターを使う

NDフィルターとは?

PLフィルターと並んで、風景撮影には欠かせないフィルターの1つにNDフィルターがある。「ND」はNeutral Densityの略で、「中立な濃度」という意味を持っている。

マルミ光機「DHG ND」

レンズを通る光の量を減らす効果を持っており、色には影響を与えず、シャッタースピードのコントロールをするときに使われるフィルターだ。風景写真においては、渓流や滝、湖沼や海などの表現を行うときに使用されることが多い。

NDフィルターには、減光する光の量(NDフィルターの濃さ)によって、さまざまな種類がある。

光の量を半分に減らすフィルターは「ND2フィルター」という。NDの次の数字が入ってくる光の量を減らす目安になっているが、「2」は「1/2」に減らすことを意味している。「ND4フィルター」は「1/4」に、たとえば「ND64フィルター」は「1/64」ということになる。フィルターはグレーの色をしているが、減光する量の強さによっては、透かしても何も見えないほどだ。

NDフィルターの使い方

NDフィルターはPLフィルターと違って、レンズ先端部に装着したら回転させる必要がない。デジタルカメラでは、背面モニターのライブビューを通して見れば、画面が暗くなることがない。フィルムカメラでは、ピントを合わせたあとでNDフィルターを装着するという手間をかけていたが、その面倒がないのは大きなメリットだ。

さて、NDフィルターは先にも述べたように、光量を減らすことができるため、シャッタースピードを遅くすることができる。PLフィルターも同じ役割を果たすことができるが、シャッタースピードにして約1段ぶん程度ほどなので、限度がある。

しかしNDフィルターなら、さまざまな偏光量が選べるので、表現できる範囲は格段に広がるのである。加えて、2枚、3枚と重ねて使うことができるので、さらに活用範囲は広がる。

表現意図に最適な濃さで撮る

今回はマルミ光機「DHG ND」シリーズのDHG ND8/DHG ND16/DHG ND32/DHG ND64の4枚を持って渓流へ出かけた。

紅葉と雪が奏でる美しい風景の中、水が岩の間を滑り降りる場面を見つけた。NDフィルターを使わずに撮影をすると、水のざわめきが聞こえてくるが、一方で水の滑らかな雰囲気は描写できない。

この場面では、岩の間をしなやかに流れる水の表情を撮りたいと思ったので、4種類のNDフィルターを試してみた。

ND8、ND16、ND32、ND64と濃度が濃くなるにつれて、水の表情はどんどん柔らかくなっていくことに注目してほしい。水の白さが活きていながら、滑らかな表情を獲得しているという意味においては、ND16を使った写真がもっともバランスのよい仕上がりになっているように感じられるが、いかがだろうか。

NDフィルター非装着
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 1/15秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO 800 / 絞り優先AE / 12mm
ND16使用
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 1/1.6秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO 800 / 絞り優先AE / 12mm
ND8使用。OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 1/2.5秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO 800 / 絞り優先AE / 12mm
ND32使用。OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 1秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO 800 / 絞り優先AE / 12mm
ND64使用。OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 1.6秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO 800 / 絞り優先AE / 12mm

ND8ではまだ水のざわめきが残っており、逆にND32やND64ではおとなしくなりすぎているかもしれない。

ただ、どんな濃さがもっとも相応しい表現になるかは、場面によって、そして狙いによって変わる。だからこそ、色々な種類のNDフィルターを持って、その場その場で試してみることが必要になるのである。

PCでできないことは現場でやっておくこと

デジタルの時代になったからと言って、PCでなんでもできると考えるのは間違いだ。とくにPLフィルターやNDフィルターの効果は後付できるものでは決してない。現場でやっておくべき仕事なのである。

風景写真において、PLフィルターとNDフィルターは活用できる場面がきわめて多い。とくに秋は撮影意欲もわくし、被写体も豊富にある。レンズを向ければ、紅葉の葉は知らずと画面に入ってくるし、爽やかな秋の空も入れないほうが難しいくらいだ。

PLフィルターを使って、葉の反射をとり本来の色を出したり、空の青さを強調するにはうってつけの季節だ。紅葉がからむ滝や渓流は、風景写真の被写体として欠かせない存在である。NDフィルターによって、水の表情をしなやかに表現してほしい。

もしも、まだPLフィルターやNDフィルターを持っていないというのなら、これを機会にぜひ揃えることをオススメする。もしも持っているけれどあまり使っていないというのなら、使うことを強くオススメする。なぜなら、表現が確実に変わるからだ。

佳境を迎えている紅葉シーズン。PLフィルターとNDフィルターを使って、一味違う作品作りにチャレンジしてほしい。

使用したフィルターについて

今回使ったフィルターは、いずれもマルミ光機製のフィルターです。ここで簡単に紹介します。(編集部)

EXUSサーキュラーP.L

本文にもあるとおり、PLフィルターを付けると光量が落ちますが、EXUSサーキュラーP.Lは従来品よりも透過率が3割アップしているのが特徴です。光学ファインダーでもピント合わせがしやすくなっています。

また、帯電防止コーティングで塵やホコリが付きにくいほか、付いてもブロアーで吹き飛ばしやすい仕様です。そのほか、撥水コーティングや防汚コーティングも施されています。

もちろん、広角レンズ対応の超薄枠設計。レンズキャップも取り付け可能です。

対応フィルター枠は、37/40.5/43/46/49/52/55/58/62/67/72/77/82mmです。

DHG ND

同社スタンダードラインのNDフィルターです。超薄枠設計で、広角レンズでもケラレが発生しにくくなっています。ND8(減光効果3段分)、ND16(同4段分)、ND32(同5段分)、ND64(同6段分)があります。

枠にはローレット加工を施しており、レンズへの着脱がしやすくなています。加えて、枠はマットなサテン仕上げで、不要な反射を防ぎます。さらに、フレアやゴーストを防ぐデジタルコーティングや墨入れ加工も施されています。

対応フィルター枠は、37/40.5/46/49/52/55/58/62/67/72/77/82mmです。

制作協力:マルミ光機株式会社

萩原史郎

(はぎはら しろう)1959年山梨県甲府市生まれ。日本大学卒業後、株式会社新日本企画で「季刊風景写真」(※現在は隔月刊) の創刊に携わり、編集長・発行人を経験。退社後はフリーの風景写真家に転向。著書多数。日本風景写真家協会(JSPA)会員。カメラグランプリ選考委員。Webサイトはhttp://hagihara-photo.art.coocan.jp/