都市風景のためのフィルターテクニック

NDフィルターで時間表現を味方につける

被写体を流す/ぶらす/消す

左からND8、ND64、ND500。

前回、写真クオリティーを上げるフィルターとしてPL(偏光)フィルターを紹介した。

今回は写真をよりクリエイティブにする「NDフィルター」を紹介する。

NDフィルターはシャッタースピードをコントロールして人の目では決して見ることのできない“流れ”のある世界を描き出すフィルターだ。

これがNDフィルターだ

NDフィルターの効果はとても単純で「減光」するためのフィルターだ。見た目はガラス面が黒っぽい半透明のフィルター。

レンズに入る光の量をNDフィルターを通して「減光=少なく」すると、写真を撮る際にフィルターを付けていない状態よりも長い露光時間が必要になってくる。この効果によって「スローシャッター」表現が可能になるのだ。

NDフィルターは減光効果の濃さによって露光時間が変わってくる。濃度は露出倍数で表され、NDの数値=露光時間の倍数となる。

たとえばND8だったら8倍のシャッタースピードになりますよ、ということだ。ちなみに絞り1段で光量は2分の1ということから、ND2が絞り1段分、ND4が絞り2段分ということになる。

ラインナップは3種類

NDフィルターは主にスローシャッター表現をするためのフィルターであり、手持ち撮影では画像がブレブレになってしまうため三脚を使用して撮影することが多い。

そんなNDフィルターの絶対の相棒ともいえる三脚メーカーであるマンフロットが、昨年日本市場において新規にNDフィルターの販売を開始した。

マンフロットがラインアップしたNDフィルターは3種類。「ND8」「ND64」「ND500」だ。

前述の計算からもわかる通りND8が露光時間8倍の絞り3段相当、ND64が64倍露光時間64倍の絞り6段相当、ND500露光時間500倍(正確には512倍)の絞り9段相当となる。

ND効果の使い分けは?

ND8は強いスロー効果こそないが、少しシャッタースピードを調整したいときに役立つ器用なタイプといえる。また、大口径レンズを明るい野外で使いたいけどカメラ側のシャッタースピードがこれ以上早くならない、といった時にも使える。

ND64はスローシャッター表現としては汎用性の高い濃度だ。特に最近デジタルカメラのベース感度が上がっていることもありND64くらいの濃度が使いやすいと感じる。

そしてND500はというと非常に高濃度のNDフィルターで、明るい日中でもスローシャッターにできるほどの効果がある。ただし一眼レフカメラの光学ファインダーでのピント合わせは至難の業となるため、ライブビューの使用が前提となるだろう。

マンフロットのフィルターは意外に思われるかもしれないがすべて日本製だ。ネジ山の切り方もよくレンズに付けやすく、噛みすぎて取り外しにくいこともない。アルマイト処理も指掛かりが良い。

フィルターガラス面のコーティングにも力を入れており、同社プロテクトフィルター、PLフィルターの最上位「PROFESSIONAL」グレードと同じく撥水、撥油、帯電防止、防汚処理が施されている。また、薄枠設計でガラス端面墨塗り加工もされている。

作品

車と人が行き交う交差点をND64を使用して120秒の超スローシャッターで撮影した。ガラス越しの撮影だったため反射をなるべく隠すべくおかしな格好で2分間固まっている私はさぞかし変な人だっただろう。

その甲斐あってか人の目では決して見ることのできないスローな表現を一枚の写真に閉じ込めることができた。

国道の上に走る道路脇から高速で走る車を撮影した。手前のフェンスがはっきり見えてしまうと画面がうるさくなるので開放F値のF2.8でぼかして撮影した。

そのためここでは高濃度のND500にさらにPLフィルターを重ね付けして1/3秒のシャッタースピードにした。PLフィルターで路面の反射も抑えられて一石二鳥だ。

PLフィルターの代わりにND8などを重ねればもっとスローシャッターにもできるが、日中の車をぶらしすぎると車線しか見えなくなり面白くない。車の形が分かる程度のスロー表現がちょうどいいだろう。色のある車を多く入れるのがポイントだ。

新宿駅前の交差点を60秒のスローシャッターで描いた。信号で立ち止まっていた人たちが歩き出し信号が変わり車が走り出す。

1分間の間でも多くの動きがありスローシャッターで描くと亡霊の国に迷い込んだかのような世界が描き出される。人をぶらして描く場合は明るい色の服がアクセントになっていい。

ここではND64を使用している。デジタルの恩恵でISO感度の選択肢が広がった現在ではND64は非常に使いやすい濃度だ。

南京錠が付けられたフェンスがパリのポンデザール橋のように思えた。ただしその向こうに見えるのはセーヌ川ではなく総武線だからそれほどロマンチックでもない。

それじゃあ川は流れないけど列車を流してみましょうとスローシャッターで総武線を流すように描いた。フレームに列車が入る1.5秒くらい前からシャッターを切り列車を透かしてみた。露出時間は4秒。

ND500という高濃度NDフィルターがあると単純な風景にもちょっとアートの香りが漂ってくる。

静止する街と歩く人々。3秒のシャッタースピードなので人の動きはブレていても消えきらず、信号で止まっている車は完全に静止している。よく見るとスクランブル交差点で記念撮影している人も止まっているのが面白い。

ND64で落ちすぎたシャッタースピードもISO感度を800まで上げれば何ら問題ないので、やはりND64は汎用性が高いフィルターだ。

まとめ

写真表現においてわかりやすく変化が出せる一番は被写界深度=F値のコントロールだが、その次はシャッタースピードのコントロールだ。特にスローシャッターは人の目には見ることのできない“流れ”を絵柄にできる面白さがある。

そのスローシャッターのコントロールを自在にするNDフィルターは最高に面白いカメラアクセサリーだ。何を隠そう私もNDフィルターのヘビーユーザーで常に3種類以上の濃度のNDフィルターを持ち歩いている。

繰り返しになるが、NDフィルターは三脚を使用することがほぼ前提となるアクセサリーだ。マンフロットが発売するND8、ND64、ND500という豊富な種類のNDフィルターに挑戦すると同時に、マンフロットの進化した三脚シリーズもぜひチェックしてみてほしい。

制作協力:マンフロット株式会社

今浦友喜

1986年埼玉県生まれ。風景写真家。雑誌『風景写真』の編集を経てフリーランスになる。日本各地の自然風景、生き物の姿を精力的に撮影。雑誌への執筆や写真講師として活動している。