ライカレンズの美学

LEICA ELMARIT-TL F2.8/18mm ASPH.

抜群の携帯性が魅力のパンケーキレンズ

ライカレンズの魅力をお伝えする本連載。今回はELMARIT-TL F2.8/18mm ASPH.を取り上げよう。本レンズはライカCL(2017年12月発売)と同時に登場したAPS-Cフォーマットのパンケーキレンズで、フルサイズ換算27mm相当の画角となる広角レンズ。全長わずか21mmの薄型形状と、80gという超軽量による携帯性の良さが最大のポイントで、足で稼ぐタイプのスナップ撮影にはもちろん、日常的にライカを常時携帯したい人にとっても注目の1本だ。

外観は他のライカTL用レンズと同様にきわめてシンプルで、可動部はフォーカスリングのみ。ライカCLと同時に発表されたレンズだが、もちろんライカTLやTL2にも使用可能で、鏡胴のカラーはブラックだけではなくシルバーもラインナップ。シルバーボディのライカTLシリーズに装着する場合でもカラーリングをバッチリ統一できる。鏡胴は樹脂などではなくアルミ製でブラック、シルバー共にアノダイズ処理による滑らかで美しい表面仕上げが施されている。小さなレンズでも外観品位に手抜きが全くないところはライカらしい。

マウント面からレンズ先端まで、わずか21mmしかない薄型設計。

レンズ構成は6群8枚で、薄型パンケーキレンズとしては構成枚数が多めだ。一般的に薄型レンズは鏡胴内スペースの関係で繰り出し式のフォーカシングを採用することが多いけれど、本レンズはインナーフォーカス式なので、ピント合わせに伴う全長の伸縮はなく、構造的に極めて堅牢な鏡胴になっている。当然、前玉も回転しないのでPLフィルターなどの使い勝手は良好だ。最短撮影距離は30cmで、実焦点距離が18mmであることを考えると正直もう少し寄れればなぁと思うけれど、薄型設計+インナーフォーカス方式でフォーカスレンズの移動量にかなり制限があることを考慮すれば納得できる。

画角はフルサイズ換算で27mm相当。みんなが使い慣れたiPhoneよりも少し広いくらいで広角レンズとしては使いやすい。ライカCL / ISO100 / F2.8 / 1/640秒 / WB:オート
18mmでF2.8ということであまり大きなボケは期待できないが、最短撮影距離付近ならこのくらいは背景をボカせる。ライカCL / ISO800 / F2.8 / 1/400秒 / WB:オート
絞りによる描写変化は極めて小さく、深度調節以外では絞る必要はほとんどない。ライカCL / ISO100 / F5.6 / 1/125秒 / WB:オート

薄型形状をスポイルしないよう、純正レンズフードは用意されていないが、ライカによるとコーティングをしっかりと行うことでフード無しでもライカ基準の光学検査はパスしているという。レンズ前枠には39mm径のフィルターネジが切られているため「どうしてもフードを付けたい!」という人は、その気になればサードパーティのフードを取り付けることは可能だ。また、このフィルターネジに市販のステップアップリングを介してクローズアップレンズなどを装着すれば、ライカの保証範囲ではないが、前述の最短撮影距離の不満についても解消できるだろう。

ライカCLと同時に登場したELMARIT-TL F2.8/18mm ASPH.。今回はライカCLとブラック同士で組み合わせたが、シルバー鏡胴も用意されている。
APS-Cサイズへのクロップにはなるものの、フルサイズ機のライカSLでも使用できる。レンズの凸量はグリップよりも少なく、ライカSLの可搬性能を上げる秘策レンズとしても注目される。

今回はライカCLと組み合わせて試用したが、EVF付きのAPS-C機としては小型軽量で持ち出しやすいサイズ感の魅力も相まって、ブラブラ歩きのスナップ散歩には最良のパートナーと感じた。インナーフォーカスということもありAF速度はかなりスピーディで、その点でもストレスを感じる事なく軽快に撮影できる。フードなしでも本当に大丈夫なのか、かなりイジワルな光線条件でも試してみたが、確かにフレアによるコントラスト低下は最小限で、フードが無いことによる写りへの悪影響は特に感じられなかった。

この日は自転車で移動したが、小型軽量なライカCLとの組み合わせではまったくライドの邪魔にならず快適に撮影しつつポタリングできた。ライカCL / ISO100 / F8 / 1/50秒 / WB:4500K
画面の最周辺部では若干の像流れもあるが、パンケーキレンズとしては均質度の高い上質な描写。ライカCL / ISO100 / F5.6 / 1/200秒 / WB:オート
ズミルックスシリーズのような繊細極まりない描写ではなく、どちらかというと力強い写り方をする。ライカCL / ISO320 / F2.8 / 1/320秒 / WB:オート
ハイキーで撮影。これ以外にも様々な逆光シチュエーションで撮ってみたが、コントラスト低下はほとんどなく、コーティングは優秀。ライカCL / ISO400 / F2.8 / 1/100秒 / WB:オート

描写は想像以上にシャープで良く写る。他のTLレンズのようにカミソリ的な鋭いキレ味というのとは少し異なり、線はやや太めだがなかなかシッカリとした解像。興味深かったのは絞りによる描写変化がほとんどないことで、絞り開放から合焦部には十分な解像とコントラストがあって、絞っても被写界深度が深くなるだけで基本的な描写傾向はほとんど変化しない。これは本レンズに限らず最近のライカレンズに共通の傾向だが、本レンズは特にその印象が強い。安心して絞り開放から使えるレンズと言えるだろう。

前玉径は1cm強しかないが、周辺光量の低下は少なめ。ライカCL / ISO250 / F2.8 / 1/320秒 / WB:オート
今回はカメラがライカCLだったので、ほぼすべてEVFを使って撮影したが、ライカTLシリーズと組み合わせて液晶モニターで軽快に撮影する用途にも適したレンズだ。ライカCL / ISO100 / F2.8 / 1/60秒 / WB:オート
少し深度が欲しかったのでF5.6で撮影。満足できるディテール描写を得られた。ライカCL / ISO400 / F5.6 / 1/60秒 / WB:オート
ボディ側での電子補正も行われているかもしれないが、歪曲収差はかなり少なめで直線物も安心して撮影可能。ライカCL / ISO100 / F2.8 / 1/200秒 / WB:オート

APS-CのライカCLやTLシリーズは、コンパクトでいつでも気軽に連れ出せるのが最大の魅力。今回のELMARIT-TL F2.8/18mm ASPH.はそういうAPS-Cライカの本領を発揮させるレンズとして待ち望んでいた人も多いはずで、色々な意味で肩の力を抜いて撮影を楽しめる良レンズだ。

シャッター速度を落としたかったのでF14まで絞って撮影。絞り込みによる回折現象でもっと解像が甘くなるかと思ったが、想像以上に画質低下は少なかった。ライカCL / ISO200 / F14 / 1/20秒 / WB:オート
27mm相当とはいえ広角なので、あまりにラフに撮ってしまうと画面の傾きが気になることも多い。今回はライカCLの水準器表示をかなり活用した。ライカCL / ISO400 / F5.6 / 1/160秒 / WB:オート

協力:ライカカメラジャパン

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。