私はこれを買いました!

新しい表現やひろがりを取り入れるために

DJI RONIN-S(茂手木秀行)

RONINN-SとNikon Z 7。RONINN-SにUSBで接続すると静止画、動画のレリーズ、フォーカスコントロールが行える

今年、デジカメ Watchでレビュー系の記事を複数執筆していただいた写真家・ライターの皆さんに、2019年に購入したカメラ関連製品(新品に限る)をひとつだけ挙げていただきました。(編集部)

新しい機材がもたらす表現を知る、ということ

ジンバルとは物体を回転させる装置であるが、ジャイロスコープやロケットのエンジンなどに使われてきた。映像の業界においてはその機構に類似して、動画の揺れを抑える装置のことだ。近年はブラシレスDCモーターを利用することで、より大きな効果を得られると共に、様々な機能が盛り込まれている。この分野のトップブランドはやはりDJIだろう。DJIはドローンのトップブランドでもある。

筆者は、本年DJIの普及機といえるRONIN-Sを購入した。普及機とは言え、機能はフルスペックである。基本のセットでできることは、手持ちジンバルとして動画の揺れを防ぐこと、三脚に載せてモーターコントロールの雲台としての使用、シャッターもレリーズするタイムラプス雲台としての機能、そしてフォーカスのコントロールである。

スマホと組み合わせれば無線でのコントロールの他、動体のスムーズな追尾も可能なのだ。さらにオプションを使えば、有線や無線での遠隔コントロールも可能になる。これら機能はこれまでもあったものだが、それぞれがバラバラに存在し、ほとんどが単機能であった。雲台、つまりカメラの動きをコントロールする機材に求められる機能のほとんどを一台に統合したのがRONIN-Sだと言って良い。できないことはドローンに乗せることぐらいだ。

RONIN-Sをキャリブレーション、コントロールするアプリ画面。様々な機能が盛り込まれている

なんだかDJIの広告のようになってしまったが、気になっている人の参考になればと思う。下位機種のRONIN-SCとは基本機能の差はないので、乗せるカメラの重さで選べばいいだろう。

さて、本題はここからだ。

「写真は機材ではない」とよく言われる。これは真実だ。しかし、どの時代においても、写真/映像にはクォリティーが求めらるとともに、新鮮な視点が求められる。写真や映像が、「機材」によって作りあげられることを考えれば、新しい機材がもたらす表現を知ることは重要なことだ。「機材」がもたらす表現を知ることで自分の表現したいことを膨らますことができるからだ。

より簡単に言えば、撮れないと思っていたことや、予算や時間がかかりすぎて諦めていたことが可能になるのである。RONIN-Sはそうしたことをもう一度考えさせてくれる良い機会を与えてくれたと思う。「写真は機材ではない」ことに至るためには「機材で撮る写真」を経由することが必要なのである。

RONIN-Sで撮影したタイムラプス動画。星景など極低速で動かす場合、多少の位置ずれが起きることがあり、ソフトウェアでのスタビライズも必要だ。プロ機材という位置付けであるので、足りない部分は撮影者の責任だ。しかし、それは簡単な作業である。

近況報告

本年は「僕が眠るための夢・序」「僕が眠るための夢」というタイトルで二つの個展を行った。双方で写真のみではなく、タイムラプス映像の展示を行なっている。これらの映像展示にRONINN-Sを使用したものは間に合わなかったが、これまで撮ってきた積み重ねとRONIN-Sという「機材で撮る写真」を知った現在、次回の個展映像にはしっかりと新たな表現を反映できるだろう。

本年行った2つの個展。連作であり、展示作品も会場も別々のものだ。総計約80点の写真と2つの映像作品を展示した

茂手木秀行

茂手木秀行(もてぎひでゆき):1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、マガジンハウス入社。24年間フォトグラファーとして雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」を経て2010年フリーランス。