ソニー フルサイズミラーレスα7 IIIの実力をジャンル別に検証

【ポートレート編】Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA × α7 III

高性能カメラボディ&レンズが作品の世界観を作り上げる

α7 III / Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA / マニュアル露出(1/80秒・F4.5) / ISO 1250

様々な撮影ジャンルのフォトグラファーが、ソニーのフルサイズミラーレスカメラ「α7 III」と、お気に入りのEマウントレンズを紹介するこのコーナー。フォトグラファーの作品を通じて、「α7 III」とソニーEマウントレンズの魅力を伝えるのがその趣旨だ。

今回登場いただくのは、独自の世界観のポートレート作品で人気の小林修士さん。今回はボディ「α7 III」に、レンズは「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」をチョイスしてもらい、撮りおろしをお願いした。(編集部)

小林修士(こばやし・しゅうじ)

1989年、渡米。アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン写真学科卒業。1996年よりフリーランスとして活動を開始。ロサンゼルスをベースにハリウッドのセレブリティの撮影をする。2011年に帰国し、現在は雑誌や広告等で日本の俳優、タレント、ミュージシャンの撮影を中心に活動中。2016年3月個展「left behind -残されたもの-」開催。2017年9月に玄光社より写真集「密会」刊行。神保町画廊にて個展「密会」(2017年)、「続・密会」(2018年)、および「re-flection」(2020年)開催。

Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA
α7 III

55mmという画角とポートレート撮影の関係

僕が写真を始めた頃、ポートレート撮影のレンズは中望遠という認識が強かったが、考えてみれば僕自身の作品では中望遠のレンズを使った覚えはあまりない。

背景をぼかして被写体を浮かび上がらせるような撮影の場合は使うが、そういう撮影はあまり好みではないので、大抵は標準もしくは広角レンズを使っている。広角レンズで背景を写し込むことで、その人物がいる状況まで表現することが多い。

標準域のレンズを好んで使うもう一つの理由は被写体との距離だ。焦点距離50mmあたりで得られる画角は、自分の目で見ているものとほとんど同じ画角で、写真を見ていて自然に感じる。それと被写体となるモデルとの距離も適度なので普通の音量で会話ができるのは撮影中のコミュニケーション上、とてもよい。

ちなみに今回の作品は、自分の写真集「密会」と同じスタイルで撮影し、現像した。この写真集は70年代から80年代にかけて撮影された写真を2020年の現在見ている、というコンセプトで、意図的にピントを少し甘くしていたり、色褪せた質感の写真になるように調整しているが、今回撮影した作品についてはピントを甘くする処理はしていない。作品によっては、ふんわりした光に包まれたような柔らかい感じに表現するために、ソフトフィルターをレンズにつけて撮影をした。

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家屋の縁側のような空間で、モデルが本を読みながらくつろいでいる雰囲気にしようと思った。寒い日だったので長袖のタートルネックを着てもらい、実際に暖をとるために置いたヒーターを画面に入れている。モデルが肩からかけているストールは彼女の私物。また後ろにライトを点灯させることで、背後が暗くならないようにした。

α7 III / Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA / マニュアル露出(1/125秒・F5.0) / ISO 250

通常なら広角で撮るシチュエーションだが、「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」でも距離を取ることでこのように撮影できる。広角レンズで被写体に近づきすぎるとパースがついてモデルの顔や体が歪むことがあるが、標準域のこのレンズならその心配も少ない。この写真は背景ありきのシチュエーションだがパースで誇張されることなく、自然な奥行き感が生み出されている。

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冬は太陽が低く、正午過ぎには窓から光が差し込み始める。次の作品は大きめの窓から入る日光が直接当たる状況で撮影した。標準域の「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」をモデルにまっすぐ向けると、このような誇張のない作品になる。望遠レンズで離れて撮ったかのようにも見えるが、実際には引きのスペースを取れない日本家屋の狭い空間で撮影している。

α7 III / Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA / マニュアル露出(1/160秒・F4.0) / ISO 1600

モデルの膝あたりから上を写したかったので離れて撮ったが、画面に対してモデルの顔が小さいにも関わらず、リアルタイム瞳AFはしっかり作動した。

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今度はモデルに近づいて撮影。ハイライトが当たる顔とシャドウが被る衣服との間、明暗が分かれる境目に視線が集まるようにアクセントとして花を置いた。

α7 III / Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA / マニュアル露出(1/125秒・F4.0) / ISO 800

畳の上で横になったモデルを真上から撮影。こういうとき「α7 III」のチルト式モニターが活躍する。

さらに「α7 III」のAFの精度と5軸ボディ内手ブレ補正を信頼しているので、手を伸ばしてモニターが離れても不安を覚えない。広角レンズではなく標準域の55mmという画角を選んだのは、こうしたモデルと近い距離の撮影でもパースがきつくならない利点があるからだ。

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高い描写力と小型サイズを両立した「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」

今回使用した「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」は、僕にとって最初のフルサイズαとなった「α7R」を手にしてから2番目に買ったレンズで、それ以来使い続けている。僕の作品撮影ではメインの1本といえるし、最近は仕事でも使うようになってきた。「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」はαのフルサイズミラーレス用のレンズとしては初期に発売されたものだが、その描写性はズバ抜けて高くとても満足している。

レンズの開放F値はF1.8。漠然と憧れを抱き易いF1.4と比べるとほんのわずかに暗いが、通常F4かF5.6で撮影する僕の撮影スタイルでは十分なスペックだ。それよりもこのレンズの大きさと重さこそ注目すべき点だろう。「α7 III」のボディに対してベストといえるサイズで手に持った時の重さも非常に良いバランスだ。

長い間使っているから外側こそ傷が付いているが、修理に出すようなこともなく使い続けているので、耐久性にも満足している。お気に入りの1本といっても過言ではない。

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背景に窓を取り入れつつ、思い切ってモデルに寄ったカット。モデルの前方、撮影者の横に位置する部屋の外からLEDライトを当てている。特に輪郭を強調するような処理をしていないが、それでも驚くほどシャープだ。背景のぼけも素直で良い。服に見られる白の繊細なトーンもよく出ている。

α7 III / Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA / マニュアル露出(1/125秒・F4.0) / ISO 1000

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シチュエーションを変えて、モデルを中心にしてドアから窓までの奥行きを感じさせるカット。背景の窓に滲んだ光を発生させ、手前のドアのガラスにも同様のハイライトを与えている。モデルの目や髪の毛はシャープに描写されている一方、前後のぼけはとても自然だ。

α7 III / Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA / マニュアル露出(1/125秒・F4.0) / ISO 800

僕の作品は逆光もしくは半逆光などの状態で光を強調する撮影が多い。個人的にはレンズフレアが入ってくれると嬉しいのだが、「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」は逆光耐性が優秀で、レンズフレアが出にくい。一般的には歓迎すべき性能だが、自分としては工夫を必要とするところだ。そこでソフトフィルターの出番だ。

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フルサイズならではの階調と色再現

逆光かつ高コントラストで撮る場合はアンダー気味の露出で撮影しておき、RAW現像でシャドウ側を持ち上げて調整することが多い。一見黒く潰れてしまっているところも、現像時に持ち上げるとしっかりと階調が出てくるのが「α7 III」の良いところだ。そのあたりは上位モデルと遜色ない。ラインナップの中ではベーシックモデルとされる「α7 III」だが、フルサイズセンサーならではのダイナミックレンジが感じられ、高解像度モデルの「α7R III」と同じ感覚で現像作業できたのがその証拠だろう。

先述の通りこの「密会」シリーズでは、70年代〜80年代のプリントのような、いくぶん色褪せた色調を目指している。とはいえ色にこだわりがないわけではなく、原色の差し色などはしっかりした濃さで表現したいと思っている。「α7 III」で撮影したデータはその辺りも優秀で、自分が思い描いた色調に近づけられる余裕を持っているように思う。

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背景に大きく窓を配置し、光の中でモデルがリラックスしている雰囲気を捉えた。コントラストが高い状況ながら、窓のハイライトと衣服のシャドウまでのつながりに不自然さはない。光を前面に受ける窓にも階調が残っている。αを使い続けている僕にとっては当たり前のことだが、フルサイズセンサーの実力はこうしたところに自然と表れてくる。

α7 III / Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA / マニュアル露出(1/125秒・F4.0) / ISO 320
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こちらも窓からの光を背後に背負ったカット。外からの光が壁に当たり、それが彼女に当たっているシチュエーションを作りたく、手前にレフ板を置いている。

α7 III / Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA / マニュアル露出(1/125秒・F4.0) / ISO 100

強いハイライトの中、窓の外の様子を想像できる程度には階調と色が表現されている。また、部屋の奥へと続く右側に暗部が残されており、これもつぶれていない。明暗のコントラストを効果的に取り入れるこの「密会」シリーズの撮影において、こうしたダイナミックレンジの広さは頼りになる。

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高感度性能が作品を作り上げる

この「密会」シリーズの作品は、薄暗い日本家屋で撮影するのが常だ。さらに背景をぼかしたくないため絞りをF4〜5.6に、ブレないようシャッター速度を1/125秒あたりに設定している。そのためISO感度を高めに撮影していることが多い。ISO 1600あたりを上限に考えているが、場合によってはISO 3200で撮ることもある。

そうした高感度で撮影した時にも、「α7 III」ならノイズが気になることはない。表現上、どうしても高感度にせざるを得ない状況でも安心して撮影できるのは利点だ。ベーシックモデルとはいえ、フルサイズセンサーの強みをしっかり生かせていると感じる。

ちなみに自分の作品ではノイズを後から足す処理をしているものがあるが、今回掲載した作品ではノイズ足しは行っていない。

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屋外に面した引き戸を開けた状態だが、あいにくの曇り空のためそれほど明るくはない。扉から出てきた瞬間を収めるために、シャッター速度は下げたくなかったので、感度はISO 1250に設定した。ノイズが出やすい黒い衣装や暗い屋内に、気になるノイズは見られない。「α7 III」の感度性能を実感した一枚だ。

α7 III / Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA / マニュアル露出(1/100秒・F5.6) / ISO 1250
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左から差す光があるとはいえ、室内撮影のため明るさを十分に稼げない状況。思い切ってISO 2000まで感度を上げたが、ノイズは問題なかった。畳の上や白壁にかかる影の中にも、目立つ色ノイズはない。この状況で、スカートの赤いグラデーションも重厚に出ている。

α7 III / Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA / マニュアル露出(1/160秒・F3.5) / ISO 2000
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まとめ

通常、作品撮影においては単焦点レンズを使っている。理由は「軽さ」だ。時には4〜5時間かけて作品を撮ることもある。その時に選ぶレンズとして、自由度が高い明るいズームレンズという手もあるが、サイズが大きく重く、それだと撮影後半になると腕が疲れてしまい、撮影に集中できなくなる。また、フィルターを付けたりするとさらに重量が増すので、それも避けたい。

今回紹介した「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」は小型でAF性能が良く、さらに絞り開放からバッチリと解像する描写力に信頼を置いている。作品によっては撮影後にピントをぼかす処理を行うこともあるが、それは作品をどう見せるかによって変えるので、どちらにしても最初から写りがシャープな方が作品も作り込みやすい。現場で軽快に撮り進めるため、そして必要な画を得るために、このレンズはなくてはならない存在となっている。

ボディについて言えば、第1世代の「α7R」からフルサイズαを使用しているが、第3世代の「α7 III」から大きく変わったと感じることの一つがバッテリーだ。5時間程度の作品撮りでも、バッテリー交換をしたことがない。撮影の流れを中断してしまうバッテリー交換はなるべく避けたいので、これはありがたく感じている。

EVFにも触れておこう。僕の作品ではソフトフィルターやクロスフィルターなどを使って光を強調することがある。そんなとき、フィルターの効果や光の差す状態がリアルタイムでわかるのがEVFのメリットだ。一眼レフカメラの光学ファインダーの場合、撮影した結果を確認しなければ効果がわからない。リアルタイムに確認できなければ撮影のテンポが落ち、それは確実に出来栄えにも影響する。

もちろんリアルタイム瞳AFはほぼすべてのシーンで活用している。ポートレート撮影では、もはやなくてはならない機能だ。モデルの表情や光の当たり方、質感をその場で追い込んでいく撮影スタイルにおいて、リアルタイム瞳AFのおかげで「まずは瞳にピントが当たっているから大丈夫」という気持ち的な安心感を持てるのは大きい。ほぼ全てのボタンに任意の機能を割り当てられる操作性も気に入っている。

ポートレート撮影におけるαのポテンシャルは高く、ベーシックモデルと称される「α7 III」でも、使い込むことで「ベーシック」という言葉から想像される実力以上のものを発揮してくれるだろう。

制作協力:ソニーマーケティング株式会社
モデル:ちゃんめい

小林修士