中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」

ソニーα7R IVで撮る!北海道ツアー④

ソニーα7R IV FE 16-35mm F2.8 GM(18mm) 露出マニュアル(F5.6、1/500秒) ISO200 WB:太陽光 風景

7月に開催した北海道撮影ツアーをご紹介するラストの回は、元国鉄広尾線の幸福駅で撮影した作品をお見せします。僕は気に入った場所や被写体を見つけると、簡単には撮り終えずいろいろなアプローチで撮影しまくります。今回は思い入れのある廃止線が被写体なだけに、かなりエキサイトして、いろいろな作品を生み出しました。1つの場所からこんなにもたくさんのイメージが生まれることを、ぜひ参考にしていただければと思います。

ソニーα7R IV FE 24-70mm F2.8 GM(34mm) 露出マニュアル(F2.8、1/3200秒) ISO200 WB:日陰 ニュートラル

ここは1987年に廃止された国鉄広尾線の幸福駅。愛国〜幸福駅の切符がブームになり飛ぶように売れていただけに、廃止が決まったときはびっくりしたのを覚えています。

じつは同じ帯広から反対方向に伸びていた国鉄士幌線が大好きで、この広尾線には数回しか撮影に行きませんでしたが、この幸福駅は有名ながらも絵になる駅だったので、何度も訪ねました。廃止から30年以上経ったいまも幸福駅は当時のままの雰囲気で、帯広空港からも近いこともあり、今でも人気スポットになっています。

昔からこの駅舎には名刺や切符がびっしりと貼られていましたが、その駅舎もいまだに現役。ピカピカに整備されたキハ22も2両静態保存されていて、思わずテンションはマックスに!

ソニーα7R IV FE 16-35mm F2.8 GM(18mm) 露出マニュアル(F5.6、1/500秒) ISO200 WB:太陽光 風景

はやる心を沈めて、駅の全景から撮影開始。かつてはなかったお花畑があったので、とりあえずパチリ。カラフルでいいですが、撮りたいのはコレジャナイ。まぁ最初はこんな感じでしょう。そこでやっぱり僕は、現役時代の幸福駅の雰囲気を表現したいのだということに気づきます。

ソニーα7R IV FE 16-35mm F2.8 GM(35mm) 露出マニュアル(F5.6、1/500秒) ISO200 WB:太陽光 風景

この小さな駅にキハが2両と保線用車がいるのはおかしいので、1両に狙いを絞ります。まずは縦位置で大きく森を入れて、入れたくないものを隠します。あまり車両を大きく撮ると奥の駐車場が目立ってしまうので、キハはかなり小さくフレーミング。冒頭の横位置の写真も、同じ場所で撮影した作品です。こちら保線用車と木を重ねて、できるだけ目立たないように撮影しています。とってもいいお天気で、空は爽やかな青色。車両がピカピカすぎることをのぞけば、かなりいい雰囲気に撮れたと思います。

ソニーα7R IV FE 24-70mm F2.8 GM(33mm) 絞り優先オート(F3.5、1/400秒) ISO200 WB:太陽光 ニュートラル

続いてホームへ。ここは奇をてらわず、直球勝負で撮影しました。奥の事業用車はほとんど隠れて見えないので良しとしましょう。さきほどまではソニーの仕上がり設定であるクリエイティブスタイルを「風景」にして、PLフィルターもいれて派手な色調にしていましたが、ここでは「ニュートラル」にして、やさしい雰囲気に仕上げています。広尾行きの鈍行がエンジン音を響かせて入線してきたかのような雰囲気がたまりません。

好きな車両を一つ挙げよと言われたら、僕はキハ20系気動車と答えます。なかでも寒冷地仕様のキハ22と山岳用のキハ52は、僕の大・大・大好きな車両。僕の世代でもツートンカラーの一般色にはほとんど出会えず、当時の広尾線で撮影したのもこの赤一色の近郊色でした。

ソニーα7R IV FE 16-35mm F2.8 GM(17mm) 露出マニュアル(F5.6、1/20秒) ISO200 WB:太陽光 風景

幸福駅に保存されているキハ22は、車内に入れるのも魅力です。北海道ワイド周遊券を握りしめて、よくこの青いシートにお世話になったなぁ。車内中央付近に縦に伸びる煙突が泣かせますね。冬に乗るとヒーターが強すぎて、外は極寒なのに、中はムレムレの暑さ。そのヒーターにボンカレーのレトルトを置いて温めて、食パンをつけて食べたりしてました(笑)

ソニーα7R IV FE 24-70mm F2.8 GM(41mm) 露出マニュアル(F2.8、1/160秒) ISO200 WB:日陰(A+4) ニュートラル
ソニーα7R IV FE 24-70mm F2.8 GM(54mm) 露出マニュアル(F5.6、1/60秒) ISO200 WB:太陽光 風景

さらに把手や落書きをアップで。いったい何人の旅人が、この把手のお世話になったのでしょう。撮影しながら、胸が熱くなりました。手すりに彫られた落書きは、モラル的にはだめなことなのですが、恋する女学生が好きな人のことを思って彫った言葉には、強い想いが宿っているようで、けっこう好きな被写体です。こんなマナー違反を撮影するなんてけしからん!なんて思わずに、ゆる〜い気持ちでご覧ください。

車内を撮っていたら、窓をメインに撮りたくなりました。というわけでホームに戻り、窓をテーマに撮影開始です。撮るほどに想い出は蘇り、撮影テーマが次々と現れます。この興奮が味わいたくて、僕は写真を撮っているのかもしれません。

ソニーα7R IV FE 16-35mm F2.8 GM(24mm) 露出マニュアル(F5.6、1/160秒) ISO200 WB:太陽光 風景

ホームに出て列車の窓を見ると、森が映り込んでいました。列車の側面に日が当たらない状況だったので、鏡のようにしっかりと映り込んで、とても幻想的なイメージになりました。鉄道に興味がない人が列車の窓だとわからないと困るので、車内の窓が連続して白く写る角度で撮影し、列車感を強調してみました。写真を見る人にちゃんと伝わるかを想像しながら撮ることは、とても大切なのです。ここではコントラスト強め+ローキーで映り込みを強調し、シャープな印象に仕上げました。

ソニーα7R IV FE 24-70mm F2.8 GM(44mm) 露出マニュアル(F3.5、1/30秒) ISO200 WB:太陽光 ニュートラル

続いては先ほどの写真とは正反対の、ハイキー+コントラスト低めでやさしいイメージに。仕上がり設定は「スタンダード」のままって人がけっこう多いのですが、僕はこうやって作品1点ごとに、狙いにあわせた仕上がり設定を選ぶようにしています。

もちろんRAWで撮影しているので後で修正することもできますが、現場で作り上げたイメージのほうが、よりフレッシュな印象になる気がするからです。だから本当はRAWで撮影しているので意味がないとしても、現場で設定をいろいろ変えて作品を完成させ、撮影後にはあまり色味や調子をいじらないというのが僕のスタイルです。

あとで調整するのが悪いということではなく、あくまでも自分だけが感じる作品のフレッシュさにこだわっているということです。「フレッシュ」ってニュアンス、伝わるかなぁ。

ソニーα7R IV FE 24-70mm F2.8 GM(70mm) 露出マニュアル(F3.5、1/200秒) ISO200 WB:日陰 風景

今度はホームから車窓ごしに車内を狙います。奥の車窓を通して見る木々が、旅情を誘いますね。嬉しい誤算だったのが、手前の窓ガラスに僕の後ろの森が映り込んで、いいアクセントになったこと。とても臨場感のある作品になり、とても気に入っています。

懐かしいキハの横で、写真を撮りながら一喜一憂している52歳の僕。もしかしたら、というかほぼ間違いなく、19歳の僕はこの車両に乗って、広尾線の車窓に広がる景色を眺めながら旅をしていました。10代のころのように、いやそれよりもフレッシュに鉄道写真を楽しめていることに、しみじみと幸せを感じました。

ソニーα7R IV FE 24-70mm F2.8 GM(57mm) 露出マニュアル(F3.5、1/3200秒) ISO200 WB:太陽光 スタンダード

さぁ駅のまわりはいろいろ撮れたので、今度は離れた場所に移動して撮影します。駅の前は昔のまま広大な畑なので、まるで現役路線のように見えます。後ろの事業用車を木で隠すと、さらにリアルな感じになりました。

ソニーα7R IV FE 24-70mm F2.8 GM(57mm) 露出マニュアル(F3.5、1/3200秒) ISO200 WB:太陽光 スタンダード

夕方になり斜光線になってきたので、列車に当たる光に露出を合わせて、背景を暗く落としてみます。これも今にも発車しそうな、かなりリアルな風景です。

ソニーα7R IV FE 24-70mm F2.8 GM(60mm) 露出マニュアル(F3.5、1/1600秒) ISO200 WB:太陽光 スタンダード

さらに手前に木を入れて。こうやって撮影した作品を見返してみると、ほんとにしつこい性格だなぁと思ってしまいます。かなり現役時代っぽい作品が撮れたのですが、いまいち撮りきった感がありません。僕の記憶のなかの風景と、ちょっと違う気がしてしまうのです。まぁ記憶の中の風景なので、一致するわけないのですが。こういう感覚で、僕は作品を追い込んで行きます。

ソニーα7R IV FE 24-70mm F2.8 GM(60mm) 露出マニュアル(F3.5、1/8000秒) ISO200 WB:太陽光 スタンダード

今度は近寄ってみるも、う〜んって感じです。

ソニーα7R IV FE 16-35mm F2.8 GM(17mm) 露出マニュアル(F2.8、1/1200秒) ISO200 WB:日陰(A+4) ニュートラル
ソニーα7R IV FE 16-35mm F2.8 GM(17mm) 露出マニュアル(F2.8、1/160秒) ISO200 WB:日陰(A+4) ニュートラル

次に、お土産物店などがある駅の裏に行ってみます。柵などいろいろなものがあるので、あまり撮れそうもないですが、逆光になるので、チャレンジ。森と森の生み出す影、そして太陽がいい感じではありますが、ちょっとイメージが違います。そこで思い切って+3補正してみたのが2枚目の写真。一気にイメージが変わりました。不思議なことに、記憶のなかの風景というイメージが強まった気がします。

イメージしていた記憶の中の幸福駅は、撮影できないと思いこんでいた森のなかにありました。イメージが浮かんだので、手前に木々を入れてさまざまなアングルで撮影します。

ソニーα7R IV FE 24-70mm F2.8 GM(62mm) 露出マニュアル(F2.8、1/60秒) ISO200 WB:日陰(A+4) ニュートラル

まずは前ボケをたくさん入れて、列車はチラッとだけいれる構図で。不思議なことに、列車のエンジン音が聞こえてきそうな臨場感があります。やはり保存車両ならではの美しい車体が、リアル感を薄めていたのかもしれません。

ソニーα7R IV FE 16-35mm F2.8 GM(35mm) 露出マニュアル(F2.8、1/100秒) ISO200 WB:日陰(A+4) ニュートラル

そしてこれが、今回幸福駅で撮影した作品の完成形です。あえて強烈な太陽の光をレンズに入れることで、幻想的なイメージに仕上げました。ホワイトバランスは日陰に、仕上がり設定はニュートラルにして、やさしい雰囲気を強調。僕の記憶の中を走る広尾線のイメージを、再現できた気がしました。

今回は1か所の撮影ポイントで、さまざまなアプローチで生んだ作品をご覧いただきました。撮影前は下調べをしてやる気満々で行くのに、実際に撮影をはじめると、かなり淡白に撮影を終えてしまう人が多いように感じます。特にたくさんの人が集まるポイントでは、みんなが撮っている写真を撮ったら満足してしまいがち。でももしかしたらそこには、まわりの人が見つけられなかった素敵な風景が隠されているかもしれません。ここまでしつこく撮る必要はありませんが(笑)、撮影地でもっともっと楽しみながら、キョロキョロすることをオススメします。

中井精也からのお知らせ

2019年11月16日〜17日にかけて、中井精也&小嶋みつみさんと行く、小湊鐵道&いすみ鉄道写真教室を開催いたします!ただいま中井精也の1日1鉄!ブログにて参加者募集中。

1泊2日の大変濃厚な写真教室となります。分からないことや作品へのアドバイスは、遠慮なく中井精也へ直接ご質問頂けます。

また、列車がくるまでの待ち時間には、小嶋みつみさんをモデルとしてお招きし、人物向けの撮影実習も開催。鉄道と人物の両方を欲張り撮影できるのは、この写真教室だけ!ぜひご検討下さい!

<千葉応援!小湊鐵道&いすみ鉄道写真教室>
受講料:1名、税込¥52,000-(宿泊費含む)
募集締め切り:11月8日(金)
集合場所:小湊鐵道 五井駅
1日目:朝8時55分受付 → 日中は撮影実習 → 夜にトークショー開催
2日目:朝、講評会を実施 → 日中は撮影実習 → 午後5時ごろ 五井駅解散
★モデル役:小嶋みつみさん

写真教室の詳細は、下記リンクのPDF資料をご覧ください。
2019年11月16日〜17日 写真教室日程表(PDF)

・お申し込みはこちら
https://forms.gle/5dBoXv8rAYWurDc77

・お問い合わせはこちら
(株)ワールドファンツアーズ 担当:市村
info@funtours.jp

中井精也

1967年、東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を継続中。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。全国を旅しながら自身の作品を販売する「ゆる鉄画廊NOMAD」を展開中。テレビレギュラー番組に「中井精也のてつたび!/NHK BSプレミアム」、「ヒルナンデス!/日本テレビ系列」、「にっぽん鉄道写真の旅/BS-TBS」などがある。https://ameblo.jp/seiya-nakai/