インタビュー

ライカが作った「腕時計」と「ホテル」。その心は?

Leica Watchとエルンスト・ライツ・ホテルを見てきた

LEICA L2

6月15日からドイツ・ウェッツラーで行われたライカカメラ社イベントで発表のあった、ライカ初の本格腕時計「Leica Watch」と、「arcona LIVING ERNST LEITZ HOTEL」についてお届けする。

ライカカメラ本社が所在する「ライツパーク」の新エリア。

ライカの機械加工技術をアピールする「Leica Watch」

Leica Watchは、独Lehmann Präzisionsuhrenとの協業で製作された機械式腕時計。新しく設立された「Ernst Leitz Werkstätten」(エルンスト・ライツ・ヴェルクシュタッテン。Werkstätten=工房の意味)のブランドを冠する。

Lehmannはライカカメラ社に精密機械を納入した実績があり、自社ブランドの腕時計も展開しているが、そのプロダクトラインは自動巻きのみ。Leica Watchの手巻きムーブメントは本製品向けに製作された特別なものだという。

シンプルな3針モデルの「LEICA L1」と、文字盤外周に第2時間帯表示を備えたGMTモデル「LEICA L2」をラインナップ。2018年秋以降に、ドイツのほか東京、シンガポール、ロンドンなどで販売開始予定としている。価格はL1の標準的なステンレススチールケースモデルで1万ユーロ程度になる予定。後述する複雑機構が入った高級時計としては、驚かない価格帯だ。ムーブメントの機構が複雑なL2や、貴金属ケースを採用したモデルはそれより高価になる。

ゴールドケース版のLEICA L2。

ケースサイズはL1/L2ともに41mm径で、厚さは14mm。背面もムーブメントを眺められるようにシースルー化されている。風防はサファイアクリスタル製で、加工コストを考えれば平面に仕上げるところ、Leica Watchの風防にはレンズのようなカーブが与えられている。

LEICA L2。パワーリザーブはL1/L2ともに60時間。8時半位置のインジケーターが両側から閉じていくような動きで、残りのゼンマイ動作時間を示す。
LEICA L2の背面。シースルーバックになっている。両面とも無反射コーティングを施した。

L2の文字盤レイアウトは、長針短針と6時位置のスモールセコンド、8時〜9時位置のパワーリザーブ(ゼンマイの残動力を示す)がL1と共通。3時位置の日付表示ディスクは、2時位置のボタンを押すと1日ずつ進む。3時半の位置にある丸いインジケーターはローカルタイムの昼夜表示。4時位置の竜頭を引き出して回すと、文字盤外周の第2時間帯ディスクが回転する。

カメラ的な動作の時刻合わせ機構

Leica Watchは見た目にカメラモチーフを散りばめるのではなく、ユーザーの体験としてカメラらしい精緻さを与えた点が興味深い。これらの時計は、時刻合わせに移行する際に「竜頭をプッシュする」という動作を行う。ご存じの通り、一般的な腕時計は竜頭を引き出して時刻や日付を設定する。

LEICA L2の側面。時刻合わせのプッシュ式竜頭には、赤いルビーが埋め込まれている。

赤いルビーが埋め込まれた竜頭をプッシュすると、カチンというタイトな感触があり、秒針が0秒の位置にジャンプして止まる。竜頭を回して時刻を合わせたあと、時報などに合わせて再び竜頭をプッシュすると、秒針がキレイに0秒からスタートするという仕組みだ。

「ボタンを押すと時が止まる」というのは、捉えようによってはカメラのシャッターボタンを通じた写真行為に通じるストーリーを見出せるかもしれない。そして、こうした"面白み"のために新しい複雑機構を開発するというアプローチは、いかにも高級時計的だ。

Leica Watchはパーソナライズも可能にする予定。こちらはLEICA L2のカスタマイズ見本。

インタビュー:社主カウフマン氏に聞く、Leica Watchを作った理由

オープニングセレモニーで挨拶する、ライカカメラ社主のアンドレアス・カウフマン氏。

——なぜ、本格的な腕時計を手がけようと考えたのですか?
(独ライカカメラ社主アンドレアス・カウフマン氏。以下同)これはライカのDNAに関係してくる部分があります。もともとライカは高い技術の機械加工で作られていて、少量生産を自社工場で製造する点などでも、時計作りと親和性がありました。ライカではこれまでにも何回かOEMの腕時計を手がけたことはありましたが、今回初めて本格的なものを製作しました。

——この腕時計の特別な点はどこですか?
時刻や日付を合わせる際、一般的な腕時計では竜頭を1段階か2段階引っ張ってから回しますが、Leica Watchは竜頭をプッシュすると秒針が0秒にジャンプして停止します。その状態で時間を合わせ、もう一度竜頭をプッシュすると時計が0秒から動き出します。この機構に2つのパテントが含まれています。

——Ernst Leitz Werkstättenは腕時計だけを手がけるのですか?
今のところはLeica Watchしかありませんが、決して腕時計メーカーというわけではなく、ライカにおいて通常製品とは少しレンジの異なる製品を手がける部門になります。メルセデス・ベンツの特別車部門であるAMGのようなイメージですね。

特にここでは、見る目があるというか、他人と違った物を求める方に向けた製品作りをしていきます。売り上げで数字で貢献するというより「メカニカルな高品質製品を作るライカ」というマーケティングの要素も多いです。

今後もいくつかアイデアはありますが、場所などが許せば……といったところです。そのうち発表できると思いますが、とにかく「大量生産品ではない」ということだけは言えます。

カウフマン氏が着用していたLEICA L1のファーストサンプル。

地元のホテル需要に応えた「エルンスト・ライツ・ホテル」

arcona Living ERNST LEITZ HOTEL

ライツパークIIIで拡張された新エリアに建つ「arcona Living ERNST LEITZ HOTEL」。経営はライカカメラ社ではなく、ドイツのarcona HOTELS & RESORTS。しかし入口の回転ドアを通ったところから、「エルンスト・ライツ・ホテル」とは名ばかりではないことがわかる。

フロントの壁にエルンスト・ライツ二世の肖像。

部屋数は129で、タイプはコンフォートルーム、スーペリアルーム、エクゼクティブルーム、アパート、スイートの5種類。特別なデザインルームとして「ライカ スイート」「ザガート スイート」「ザックス ルーム」といったコンセプチュアルな部屋も用意されている。

アパートの内装。壁に写真が飾られている。
窓からライツパークIIIの広場(イタリアの市場をイメージしたという)を見下ろす。
壁紙はライカA型の図面。
デザインルームの一例。照明には傘、金レフも常備。
ベッドサイドの赤い照明はセーフライト風か。
こちらは「ザガート スイート」。
自動車の写真が並ぶ。
参考:今回のイベントで発表された、ザガートデザインの限定モデル「ライカM10 Edition Zagato」
参考:「ザックス ルーム」を手がけたロルフ・ザックスがデザインした限定モデル「ライカM-P(Typ 240)グリップ」

部屋には合計240枚の写真が飾られており、そのうちの半分はライカカメラ社主のアンドレアス・カウフマン氏のアーカイブだという。各部屋のベッドサイドだけでなく、地下の駐車場へ向かう通路にも写真が並んでいた。

地下の駐車場へ繋がる通路。
訪れた写真家がサインを残していくボード。フロントの近くにある。

また、最上階にはフィットネスルームやサウナも用意。1階にはレストランやコミュニティスペースがある。

フィットネスルーム。こうした各種案内文字にライカ書体が用いられている。
マシンとダンベルが用意されている。
ライカ本社を見ながらトレッドミルに乗れる。
1階のレストラン。
ライカ本社を見ながら食事を楽しめる。
リビングルームという名前のコミュニティスペース。
壁にささった本は、「自分が1冊置いたら、代わりにどれか1冊を持っていってよい」というルールらしい。

カウフマン氏によると、この四つ星ホテル(プールがないので五つ星にはならないとか)はライツパークを訪れるライカファン向けのみならず、この地域にある会社などのホテル需要を鑑みてのものだという。

ライツパークは今回の拡張で完成のようにも見えるが、上空図でわかるように区画内には整地された空きスペースが残っている。聞けば、ここにはヘッセン大学の光学部門が来るのだとか。60〜80人の学部でエンジニアを養成して、ライカカメラ社をはじめウェッツラーの光学メーカーで働けるようにしていく計画を進めているそうだ。

ライツパーク上空図(イメージ)。画面右上に並ぶ丸い建物がライカカメラ本社。ライツパークIIIの隣に空きスペースがある。

本誌:鈴木誠