インタビュー

キヤノンPowerShot G1 X Mark III(後編)

EOSと同等の操作性を追求 レンズ一体型だからこそ実現した薄型化とは?

PowerShot G1 X Mark III

キヤノンが2017年11月に発売したAPS-Cズームコンパクト「PowerShot G1 X Mark III」の開発者インタビューをお届けする。後編では、EOSとの親和性も強く意識されたデザインや、コンパクトデジタルカメラらしい薄型化を実現したレンズ設計の挑戦などについて聞く。(編集部)

デザインの目標「EOSと同等の操作性をコンパクトボディで表現」

——本体のスタイリングが前モデルから大きく変わりました。EOS M5やPowerShot G5 Xなどとも共通するところのあるデザインですが、意図するところは?

髙谷:今回はGシリーズのフラッグシップ機ということで、究極のコンパクトデジタルカメラとは何か、シリーズの統一感を保ちながらフラッグシップ機としての風格や高品位が感じられるデザインとはどんなものか、ということを考えてデザインしました。

デザインを担当した髙谷慶太氏。
PowerShot Gシリーズの現行ラインナップ。
PowerShot G1 X Mark IIIのデザインコンセプト。

今回は画面上のインターフェースやレリーズボタンにEOSと同様のものを採用し、EOSと同等の操作性を実現するため、デザイン面でも様々な工夫をしています。その一つが、この外観上の特徴にもなっている“なで肩”の部分です。

これは単にEOSに形を似せたということではなく、この図のようになで肩の特徴的なシルエットの上にモードダイヤル、露出補正ダイヤル、レリーズボタンなどを載せた上で、トップ部分をさらに前方に傾斜させています。この傾斜により、カメラを構えた時にレリーズボタンが自然に指にかかるようにしています。

このデザインに到達するまで、たくさんの3Dモデルを試作しながら検討しました。今回のモデルではレリーズボタンやダイヤル類の高さと角度はもちろん、ローレットの形状が少し変わっただけでもホールド感が大きく変わってしまうこともあり、なかなか理想の形にたどり着けなかったのですが、試作を重ねた結果、ようやくEOSのお客様にもご満足いただける操作感を実現できたと考えています。

EOSのような本体サイズを活かしたエルゴノミックなデザイン手法を取らず、Gシリーズ独自のデザイン手法でコンパクトボディでありながらもEOSのように快適に使える新しいスタイルを追求していきました。

コンパクトデジタルカメラの魅力はコンパクトであることです。限られた条件の中でいかに携帯性と操作性を両立するデザインを実現させるかを常に意識しています。

3Dプリンターによる試作で操作性を追求した。

——小さいけれど指の引っ掛かりなども考えられていて、ホールド感がいいですね。

髙谷:デザインをはじめる前に、まずG5 Xなどの従来機を使い込んで、長時間使った時にどんな不満な点があるかなどを徹底的に洗い出し、さらにそこから操作感を高めるにはどうすれば良いかをデザイン的な視点で考えていきました。

そしてたどり着いたのが、この“なで肩”からくるシルエットと操作部を傾けるデザインです。これによって、指の動きに合わせて回しやすいダイヤルやスムーズにアプローチできるレリーズボタンを実現しました。フロントグリップのデザインにも斜めのラインを取り入れることで、手になじむホールド感を実現しています。

ダイヤル類のデザインも角度やローレットのパターンを変えたものを数多く試作して、細かな部分に至るまで、どんな形が最適か検討しています。

ほぼ直線のものから“なで肩”まで、様々なパターンの試作モデルがあった。
ダイヤルのローレット(側面のギザギザ)形状も様々なタイプを試作。

——グリップが革シボパターンというところや、外装の剛性感が意外とある部分もいいですね。

髙谷:従来機では右手の親指とフロント部分だけにグリップパーツを配置することが多かったのですが、今回の機種の場合は両手で構えた時のホールド感なども考慮して、ほぼ全周に革シボパターンの柔らかい樹脂材料を配置しています。手に当たるところは全てカバーしようということです。

両サイドに革の質感をあしらったグリップを取り入れることで、フラッグシップとして相応しい風格や高品位なイメージを打ち出したいという狙いもありました。

——G5 Xもそうですが、新しいデザインの中にどことなくカメラらしさや、クラシックな雰囲気も醸し出していますね。

髙谷:革の質感など伝統的なカメラのテイストも取り入れているところがありますが、グリップ部分の斜めのラインを取り入れることで、モダンさも感じられるようにしています。そうしたバランスも考えて「Timeless」というコンセプトを掲げています。

——EVFの部分の形も特徴的ですが、この部分でのこだわりは?

髙谷:今回はアイカップの大きさにこだわり、左右の大きさを少し広げています。以前アイカップの形状を台形にしたこともあるのですが、それだと左右の光が漏れて気になることがあり、今回はよりファインダー内に集中できる形状を採用しています。

——このアイカップは外れますか?

髙谷:外れないようになっています。

——下手に外れると失くしてしまいそうで、外れない方がいいですね。また、ファインダーの見やすさがカメラの高級感を演出する効果にもなっていますね。

髙谷:そうですね。余分な光が見えなくなることで撮影での没入感が違ってくると思います。今回のデザインにはそうした狙いもありました。

——コンパクトカメラながら、レリーズボタンの押し心地に底打ち感がなく一眼レフ中級機のようですが、ポイントを聞かせてください。

道心:今回の機種ではPowerShotシリーズで初めて、EOSと同じような構造のレリーズボタンを採用しました。とはいえ、G1 XシリーズとEOSでは、重量やグリップ感、特にレリーズボタンへのアクセスの方法や距離、手首の角度なども異なるため、EOSのレリーズボタンの構造をそのまま採用できませんし、サイズなども合いません。

本体のメカ設計を担当した道心雄大氏。

そこで、今回G1 X Mark IIIのために、薄くて小型な新規のレリーズボタンユニットを開発しました。多くの方にアドバイスをいただきながら、ボタンの重さやストロークの微調整を何度も繰り返しながら仕上げたことで、今回のようなこだわりのあるレリーズボタンの機構にできました。

トップカバーと、レリーズボタン下のスイッチ(左下)。

レリーズボタン半押しの重さはEOSと大体同じですが、全押し時はG1 X Mark IIIのほうが若干軽くなるように設定しています。これは、EOSの場合はグリップした時のバランスにより自然な体勢でレリーズボタンを押せるのですが、G1 X Mark IIIの場合はそれよりは多少手首を傾けた体勢になるので、軽めにした方がバランスが良くなるからです。

加藤:EOSとの親和性を考えた時、ハイアマチュアのお客様が気持ちいいと感じていただけるような操作感にこだわりました。また、レリーズの操作感が似ていないと持ち替えた時にシャッターチャンスを逃しやすくなるところもありますので、EOSの中級・上級機の感触をこの小型ボディで実現する最適なポイントはどこにあるかという追い込みを、時間をかけて行っています。

——ところで、よく見るとレリーズボタンをはじめ、すべてのダイヤル類の根元部分にワインレッドのリングがありますね。よく見ないとわからないくらいさりげないですが、どんな意味を込めていますか?

髙谷:レリーズボタンやダイヤル類に赤のアクセントを入れたのは、2014年のPowerShot G7 Xが最初で、プレミアムコンパクトシリーズのハイパフォーマンスを象徴する意味を込めて採用しました。お客様に一目でキヤノンのプレミアムコンパクトカメラであることを認識していただけるように、それ以降のすべての機種で同様のデザインを採用しています。

ダイヤル基部などに赤のアクセントが入っている。

——G5 Xもそうでしたが、前面の電子ダイヤルを縦置きにした理由は?

髙谷:人差し指で回せるEOSの電子ダイヤルと同じ操作感を、コンパクトデジタルカメラで実現するにはどうしたら良いかということで、色々と模索した結果、現在の位置が最適ということになりました。

カメラ前面右手側の操作部。

レンズ一体型ならではの薄型化に挑戦

——G1 X Mark IIIを使って驚かされるのは一眼レフと変わらない、もしかしたら上回るかもしれないと思う画質です。15-45mm F2.8-5.6というスペックですが、設計のコンセプトを教えてください。

伊藤:この機種の場合、まずこのカメラの大きさでAPS-Cサイズのイメージセンサーを使うこと、そしてズームであることが条件でした。そこで、焦点域をどうするかということから検討を始めました。

想定される撮影スタイルから、まずスナップを高画質で撮影したいというコンセプトがありますので、広角端は28mmではなく、より広角の24mmから欲しいと考えました。そして、標準域の50mmがあって、望遠端は人物撮影でちょうどバストアップが撮影できる72mmとする、3倍ズームを企画段階で提案しました。

F値に関しましては、APS-Cサイズのイメージセンサーでは大口径と言えるF2.8を少なくとも広角端では達成したかったです。これに、サイズの要件などを加味して現在の仕様に決まりました。

——高画質の実現や、EOS M用のキットズームより明るくできた要因は?

伊藤:一つは、コンパクトデジタルカメラならではの優位点として、レンズのバックフォーカス(レンズの後端から撮像面までの距離)を短くできます。一眼レフよりもバックフォーカスを短くできるミラーレス構造のEOS Mシリーズよりも、さらに短くできるのです。

バックフォーカスを短くできると、レンズの全長を短くでき、すると電源OFF時のカメラの厚さをより薄くすることもできます。これに先ほど申し上げましたレンズ枚数の削減を加えて、カメラの小型化に貢献しています。

仮にバックフォーカスが長い状態でこの大きさを実現しようとすると、レンズの設計に無理がかかり、レンズのスペックや大きさに余裕がなくなり、画質面にも影響が出てくることになります。

EOS M用のキットズームもシステムの中で最適化を図っていますが、G1 X Mark IIIではバックフォーカスが短いアドバンテージを使い切り、その中での最適化を行なった結果、F2.8という明るさを実現できていると言えます。

参考:ミラーレスのEOS Kiss Mと標準ズームレンズ「EF-M15-45mm F3.5-6.3 IS STM」。センサーサイズおよびレンズの焦点距離はPowerShot G1 X Mark IIIと同じ。

もう一つ高画質化のポイントとしては、今回は設計当初の段階から、光学設計、メカ設計、工場を含め、担当者を集めてどうすればより高精度に組み立てられるかということをシミュレーションを含めて検討を重ね、高精度な組み立てや調整を想定した設計を当初から行っています。Fナンバーを明るくすると、高画質を維持するためにはより高精度な組み立てが必要になるからです。

上原:レンズを設計している最中に私から工場の担当者に声をかけ、関係者に集まってもらい、“このレンズタイプだとレンズの敏感度はこれくらい高くなるので、これを要求精度内でどうすれば組み立てられるか”ということをかなり早い段階から協議・検討し、設計を進めました。こうして生産技術の限界を狙って光学設計及びメカ設計を進めた結果、小型化と高画質の両立を達成できたのかなと思います。

——F2.0-4.0またはF1.8-3.5というスペックだとより大きなボケが実現できたという意見もあります。どのような検討・葛藤・判断がありましたか?

伊藤:おっしゃるような明るいレンズからもう少し暗めのものまで、様々なレンズタイプを検討しましたが、決められた大きさの範囲で実現可能な最大限のスペックが今回のF2.8でした。仮に1段明るいレンズにするとなると、単純に考えて絞りの口径が約1.4倍になりますので、今のカメラの大きさでは収まりません。

加藤:企画側からは「もう少し明るくならないか?」と言いましたが、それではカメラ本体が大きくなるということで、今回はサイズを優先して現在のスペックに落ち着いています。

——インナーフォーカス方式が採用されているということですが、AFのスピードは一眼レフと変わりませんか?

飯田:一眼レフと比較したデータがないためその点に関してはお答えできませんが、コンパクトデジタルカメラにおいては歴代キヤノン機で最速のAF速度と同程度と言えます。

——レンズキャップの着脱が面倒という声があります。自動開閉のレンズバリア(カバー)は難しかったのでしょうか?

上原:この機種はコンパクトデジタルカメラのフラッグシップ機ということもあり、防塵防滴性能を重視するというねらいがあります。これに対して、自動開閉のレンズバリアは防塵防滴とは相性の悪い機構ですので、防塵防滴性能を優先して今回はレンズキャップ方式を採用しました。

——内蔵NDフィルターがあるのは、コンパクトカメラらしい点ですね。小絞りボケ対策は必要ないかと思いますが、どういったシーンで活用されることを想定していますか?

上原:小絞りボケ対策というよりも、シャッタースピードを長くしたり、明るい日中でできるだけ明るい絞り値が使えるようにするために入れています。

飯田:光線の軌跡や水の流れを表現する際に使っていただきたいですね。

——小型化など、コンパクト機特有のレンズ設計上の課題はありますか?

上原:やはり、沈胴構造にするという点で色々と工夫しなければいけません。

伊藤:沈胴構造にする場合、メカ的に最適なレンズ構成が、光学的にも最適解とは限りません。そのため、双方のバランスを取ったレンズ構成とメカ構成に落とし込んでいくことがコンパクト機ならではの難しさかなと思います。

気になる各部仕様について質問

——バリアングル液晶モニターは、縦位置のローアングルがやりやすいのですが、横位置が光軸から大きくずれる点が気になります。

道心:この機種の場合は、縦位置のローアングルのほか、EVFが付いていながら自撮りができるといった使い勝手の自由度を優先してバリアングル液晶モニターを採用しています。

液晶モニターはバリアングル式を採用した。

——シャッターの方式は?電子シャッター機能はないのですか?

上原:レンズシャッター式のメカシャッターになります。電子シャッターには対応しておりません。

飯田:電子シャッターのみで撮影するモードはありません。

——外部スピードライトの使用時、高速シャッターに設定していてもシャッタースピードが1/250秒までになるのはどうしてでしょうか?

上原:外部スピードライトの発光特性(時間ごとの光量変化)は機種により異なり、いろいろな製品に対応するため、シャッターの開いている時間を長くとりました。内蔵ストロボを使う場合は、G1 X Mark IIIのシャッタースピードの上限である1/2,000秒まで同調できます。

——最新の純正外部スピードライトでも1/250秒までに制限されるのでしょうか?

上原:はい。純正スピードライトでも1/250秒の制限がかかります。

——RAWモードを選択するとデジタルズーム機能が使えなくなるのはどうしてですか?

飯田:RAWモードはやはり画質を優先して記録するモードですので、多少なりとも画質に影響が出る可能性のあるデジタルズームは使えない仕様にしています。

——手ブレ補正はレンズシフト式ですか?

上原:レンズシフト式です。シャッタースピード約4段分の補正効果があります。

鏡筒内の防振(手ブレ補正機構)ユニット。

——手ブレ補正にイメージセンサーからの画像情報を活用するとありますが、具体的にはどんな仕組みになっているのですか?

上原:従来からのジャイロセンサーによる本体の加速度の検出に加えて、画像情報からもブレ量を検出し、双方の検出結果を照らし合わせながらより適切な手ブレ補正を行うというものです。

アクセサリーについて。水深40m撮影を身軽に実現する防水ケースなど

——水中40m防水対応のウォータープルーフケースがありますが、振り返るとPowerShotシリーズは伝統的に多くの機種で防水ケースが用意されていたことに驚きました。

ウォータープルーフケースWP-DC56

加藤:昔からPowerShotシリーズでは、カメラを水中にも持ち込んでいただきたいという思いから防水ケースを重要視しています。現行機種ではG1 X Mark IIIのほか、G7 X Mark IIなどにも用意しています。一眼レフですと、どうしても水中ハウジングなどを組んで大掛かりになってしまうのですが、コンパクト機ではより手軽に、しかも高画質で撮影できるということでお客様のニーズも高く、ずっと続けてきています。

G1 X Mark III専用の防水ケースは、新規のレリーズボタンやロック機構付きのモードダイヤルにも対応するなど、G1 X Mark IIIの各操作に対応していますし、内蔵ストロボをポップアップした状態でケースに入れていただきますと、内蔵ストロボでの撮影のほか、外部スピードライトによる同調撮影も行えます。

——APS-Cズーム機をこのサイズで水中に持っていけるというのがいいですね。

加藤:今回APS-C化する際には、防水ケースは絶対にやりたいと思っていました。

——別売のレンズフードをつけると、かっこよくなりますね。

飯田:アルミ削り出しのねじ込み式になっています。逆光時など、余分な光をカットしたいときにお使いいただきたいですね。

別売のレンズフードLH-DC110を装着。

——標準だとレンズ前面のフィルター径が37mmとやや特殊な小径ですが、フードを装着すると49mmという一般的なフィルター径になりますが、狙っていた点ですか?

加藤:実は本体の37mm径ネジも、フードの49mm径ネジも、公式にはレンズキャップ用としていまして、フィルターの装着は想定していません。と申しますのも、レンズ性能をギリギリのところまで追い込んでいる関係で、本体に市販のフィルターを装着しますと広角端で周辺部がケラレる恐れがあり、動作保証ができないためです。また、レンズフードにフィルターを装着しますと外れにくくなることから、こちらもフィルターの装着は推奨していません。

——そのほかに、ぜひ注目してほしい機能がありましたら教えてください。

加藤:新たに追加した機能に「パノラマショット」があります。スマートフォンのようにカメラを一定方向へパンさせる要領で撮影しますが、壁面いっぱいに引き伸ばしても十分鑑賞に耐えるほどの精細さで撮影できます。

特に、夜景の手持ちパノラマがオススメです。手ブレ補正機構と流し撮り機能の応用によりパンによるブレを補正しながら撮影していますので、パノラマでも点光源が点に写るのがポイントです。

️まとめ:サブにも、メインにも使ってほしい高画質コンパクトカメラ

——最後にお一方ずつ、言い足りない点やエピソードなどがありましたらお願いします。

加藤:今回は、小型軽量化とAPS-Cサイズセンサーの搭載による高画質の両立にこだわった製品ですので、EOSの上位機種をお使いのお客様のサブ機として、ご満足いただけるものに仕上げることができました。是非お試しいただきたいです。

飯田:コンパクト機で初めてデュアルピクセルCMOS AF対応のイメージセンサーを採用しました。従来のコンパクト機をお使いのお客様にとっては、ライブビュー画面の表示の美しさ、AFの追従性の良さは全く違ったものに感じられると思いますので、そうした品位の高さを楽しんでいただけたらと思います。

山口:いま、加藤から“一眼レフのサブ機として”という話がありましたが、コンパクトデジタルカメラのフラッグシップ機にふさわしい高画質が得られるカメラに仕上がっていますので、メイン機としても十分お使いいただけると考えています。このシリーズの機種はご年配の方がご購入されるケースも多いのですが、スマートフォンなどと異なり画質面の余裕からくる“空気感”のような表現も可能だと考えています。ぜひスマートフォン世代の若いお客様にもこのカメラの良さを味わっていただきたいです。

髙谷:Gシリーズの集大成ということで、スタイリングはもちろん質感も操作性も妥協なくブラッシュアップして完成した自信作です。その辺りを店頭で触って感じていただけたらと思います。新たにこのカメラの世界観としては、いろいろな趣味を持つ男性に向けて、そのライフスタイルに寄り添うような存在感を新しく打ち出していけたらと思っています。

デザインスケッチや試作検討用のモックアップなど。

伊藤:今回のカメラは、ここに代表して出てきたメンバーだけでなく、設計から製造まで多くの人たちが関わり、苦労のすえにようやく出来上がった製品ですので、コンパクトで高画質という従来にない世界を是非お試しになって頂きたいですね。

上原:鏡筒メカ設計の立場からは、今回はいかに小型化するかというところで非常に苦労した製品ですが、企画の加藤から当初「1型センサー機のボディにAPS-Cセンサーを入れたい」という概要を聞かされたとき、難しい課題ではあるけれど、もし実現できたらすごいカメラになると確信しました。

お客様には気軽に持ち歩いていただきたいです。常にカバンに入れておいて、撮りたいものがありましたらいつでも取り出して、スナップ写真でも本格的な作品でも、ご活用いただければと思います。

道心:本体メカ設計としましては、小型化に加えて軽量化も達成する必要があったため、トップ、ボトムおよび前後のカバーを始め、各構成パーツの強度や剛性感を維持しながら、いかに薄型化、軽量化するかというところが課題でした。そのため新素材を採用したり、製造方法を工夫したりと、新たな試みも数多く取り入れています。

また、操作感をEOSユーザーがお使いいただいても快適に使えるようにするため、デザイナーや評価担当とも相談しながら試作を重ね、小型でも操作性が犠牲になることがないように工夫しました。そのあたりの実機での感触を、ショールームや店頭などでぜひ実際に手にとってお確かめいただけたらと思います。

話を聞いたキヤノン株式会社イメージコミュニケーション事業本部の面々。後列左からICB製品事業部 課長の加藤収一氏、ICB統括第三開発センター 主幹の飯田誠二氏、ICB統括第三開発センター 室長の山口利朗氏、総合デザインセンター 主任の髙谷慶太氏、前列左からICB光学開発センターの伊藤大介氏、ICB統括第三開発センター 主任研究員の上原匠氏、ICB製品開発センターの道心雄大氏。

インタビューを終えて:キヤノンのカメラはなぜ使いやすいのか、わかった気がした(杉本利彦)

インタビューを通して、お聞きしたかった情報に加えて、1型コンパクトカメラのボディにAPS-Cセンサーを搭載するという、あえて厳しい課題を与える(獅子落しのような)やさしい上司と、その要求に苦労しながらも立ち向かうツワモノ技術集団達という美しい構図も見え隠れして興味深かった。本題についてはインタビューを読んでいただくとして、筆者が本題以外に特に気になったのは、その一つ一つの技術の検討や選定作業が驚くほど緻密で周到なものであったことだ。

例えば、ダイヤルのデザイン一つにしても、いくつもの試作を重ねて使い心地を確認している。通常なら旧モデルの形を踏襲するか、デザイナーのセンスに任されるところかと思うが、固定観念にとらわれず一つ一つデザインのバリエーションを実際の形にして1から確認し、数え切れないほどの検討を重ねている。まるで、新薬の配合を見つけ出すが如く気の遠くなるような作業である。

しかし、その先に生まれるものは「洗練」ということばがふさわしい、真に使い心地の良いモノになるに違いない。キヤノンのモノづくりの流儀では、これまでもこの先も、同じように緻密で周到な検討が重ねられていくのだろう。だから、キヤノンのカメラを使うと指が変に引っかかったり、無理な態勢を強いたりということがなく、流れるような操作感を実現しているのだと思う。なんとなく感じていたキヤノンの使いやすさは、こうした技術者の地道な努力の下で実現されているのだと改めて感心させられた。

カメラ市場は今、さらなる多様化の時代を迎え、企画の加藤氏がおっしゃるようにレンズ交換式とレンズ固定式の垣根がなくなりつつある。今回の製品はそういう意味で大型センサーを搭載したレンズ固定式カメラの可能性をさらに広げる製品として注目される。従来はレンズ交換式がベストであると考えておられた方も、一度このカメラで撮影してみればレンズ固定式も決して悪くなく、画質はもちろん撮影機能もメインで使えるほど十分なものと思えるはずだ。何より、何時間持ち歩いても全く疲れない軽さがいい。撮影に費やした体力に対して得られる撮影の成果の比を、フィジカルパフォーマンスとでも命名すれば、今の所フィジカルパフォーマンスにおいてこのカメラの右に出るカメラはないと言い切れる。それくらいの強烈なインパクトが、カメラ好きの所有欲に刻まれるカメラである。

杉本利彦

千葉大学工学部画像工学科卒業。初期は写真作家としてモノクロファインプリントに傾倒。現在は写真家としての活動のほか、カメラ雑誌・書籍等でカメラ関連の記事を執筆している。カメラグランプリ2018選考委員。