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ライカカメラ社の新社屋「ライツパーク」見学レポート

発祥の地、ドイツ・ウェッツラーにオープン

 5月23日、ライカカメラAGの新社屋が所在するドイツ・ウェッツラー「ライツパーク」において、プレス向けの新社屋見学ツアーに参加した。本稿ではその様子をお届けする。

 ライツパークは、フランクフルト国際空港から車で1時間ほどのヘッセン州ウェッツラー(Wetzlar)にある。35mmスチルカメラの原点「ライカ」を生み出したエルンスト・ライツ社があった場所として、1980年代後半までのライカ製品に刻まれた「Ernst Leitz Wetzlar」などの文字でお馴染みの地名だろう。ライカに限らず“光学の町”として知られる静かな場所だ。

 ライカカメラ社の新社屋は、カメラのレンズや双眼鏡をイメージしたという円形の建物。グレーに統一されたシンプルな外観に、赤いライカロゴが製品同様のワンポイントとなっている。

 ライカカメラ社CEOのアルフレッド・ショプフ氏によると、新社屋は「ライカワールド」を建物で表現することを目指したという。「ブランドと歴史をモザイクのように組み合わせた」、「トータルなブランド体験ができるところは光学メーカーでは少ないのでは」と自信を見せる。

車からもライツパークの名前(地名)が見える
ライカのロゴが目を引く建物
建物の正面、大きな球体が存在感を放つ
ドイツの部分が赤丸になっている地球儀のオブジェだった
広々とした建物前のスペース
社屋内にレストランを持つが、建物の外にも「ライツカフェ」を併設している

 ライカカメラAGは1988年からウェッツラー近郊のゾルムスに本社を構えていたが、ウェッツラーのライツパークに新社屋を建設し、“発祥の地”に移転する計画を2008年に発表していた。

 同社では2014年をライカ誕生から100周年として、この新社屋お披露目や既報の100周年記念セレモニー新製品発表などを、5月22日〜5月24日にかけウェッツラー市内で行なった。

新社屋のエントランスを入ったところ。世界各国から訪れたプレスで賑わっていた
見学ツアーは組ごとに分かれて回った。筆者を含む日本からの参加者は“チームM9”
エントランスにて、出荷前のライカTを載せたワゴンが通りがかった
ライカTの製品担当者が、国内未発売のブラックモデルを手にしていた

 新社屋の内部は、白を基調とした明るく開放感のあるデザイン。エントランスを入って左側にギャラリーと歴史的アイテムの展示(パンフレットにMilestonesと記載)がある。ライカ誕生以前のエルンスト・ライツ社やオスカー・バルナックに関するアイテムの展示は、筆者はこれまで目にする機会がなく新鮮だった。

オスカー・バルナックが所有していた機材(1905年)。こうした大きなカメラを担ぐのが病弱な彼には苦だった、というのがライカ誕生の経緯でよく語られる
ライツ社が1905年に作ったカメラ
1905年のレンズカタログ
オスカー・バルナックが1912〜1913年に作ったカメラ。レンズはカールツァイスイエナの銘
当時の文献(オスカー・バルナックのノート)なども展示されている
展示品の番号を端末に入力すると、説明が表示される
Milestonesコーナーの入口付近

 奥に進むと、ウル・ライカを起点としたライカの歴史が並ぶ。当日は説明員による解説も聞くことができた。

ウル・ライカ(レプリカ)。ここからはライカの歴史において特に目立った技術的進化のあるモデルを展示している

 例えば、オスカー・バルナックが開発した35mm判カメラ試作機の「ウル・ライカ」(1914年。展示機はレプリカ)には、まだセルフキャッピング機構がなく、シャッターチャージの際にスリットが閉じないため1コマ撮影ごとにレンズにキャップをして巻き上げなくてはならなかった。

 それが1925年に登場したライカ初の市販モデル「ライカI」(A型)では解消された。続けて1932年の「ライカII」(DIIとも呼ばれる)では距離計連動のファインダーを内蔵。「ライカスタンダード」(E型)でレンズがスクリューマウントの交換式になった。

 そして1954年に登場したのが、バヨネット式のライカMマウントを採用した「ライカM3」だ。現行の「ライカM」まで60年続いているM型ライカの初号機。それまで“ライカに追いつけ・追い越せ”でレンジファインダーカメラを作ってきた国内カメラメーカーを、新しい道として一眼レフカメラに注力させるほどの衝撃を与えたと言われているモデルだ。

ライカM3。ライカメーターMが付いている

 具体的には、それまでに登場したスクリューマウントのライカ(いわゆるバルナックライカ)では別々のファインダーを覗く必要があった「ピント合わせ」と「フレーミング」が、大きな一眼式ファインダーの中で可能になった。また、撮影範囲は装着レンズに応じて表示されるブライトフレームが視野に浮かぶように示す。これは最新のデジタル機「ライカM」にまで続く代表的な機構だ。

 ほかにも、M3ではシャッターダイヤルがスローも一体化し、レリーズ時にも回転しない一軸不回転式(バルナックライカではレリーズ時にダイヤルに触れてしまうとシャッター速度に影響がでる)になった点、レバー巻き上げやフィルム装填時にバックドアが開くといった進化点が特徴として挙げられた。

特に技術的革新があったという機種が並ぶ

 また、Milestonesに展示されているのはレンジファインダーだけでなく、フィルム一眼レフ「ライカフレックスSL」(TTL測光と全面ピント合わせ可能なスクリーン採用)、1996年のデジタル初号機「ライカS1」、1996年登場の「ライカR8」に組み合わせる「デジタルモジュールR」(2004年)、2009年の中判デジタル一眼レフ「ライカS2」およびAPS-Cコンパクト「ライカX1」など多岐にわたる。

ライカフレックスSL
ライカS1
1984年登場のライカM6は「クラシックなM型デザインに露出計を内蔵した初のモデル」という説明
奥の窓際に進むと、オスカー・バルナックやマックス・ベレク(レンズ設計者)らの像

 Milestonesコーナーの壁には、“ライカフォトグラフィー”100年を代表する写真を「36 AUS 100」として展示していた。ライカと、ライカが原点である35mmカメラを使った写真、それぞれの歴史に親しめる趣向だ。

100年のライカフォトグラフィーを代表する36枚が展示されている

 ギャラリーおよびライカアカデミーを担当するカリン・レン-カウフマン氏によると、ライカギャラリー(日本では銀座店と京都店に併設)とライカアカデミー(世界各国で行なう写真ワークショップ)は「カメラだけでなく文化全体を見せる」という点で他のカメラメーカーにない取り組みだと強調。「クレイジーかもしれないが、そのアプローチを楽しんでいる」と説明してくれた。

 また、オートマチック化したカメラが一般化な現在におけるライカは、特にM型ライカが“操作を学んでやっと写真が撮れる”カメラであることから、「撮影者の気持ちが出やすく、単なるツールではなくインストゥルメンツ(楽器)に例えられる存在」と評した。

歴代ライカが一堂に並ぶ見学ゾーン

 エントランスの裏側にあたる位置に、ライカ製品の製造工程を見学できるコーナーがある。レンズやカメラの組み立て・検査工程を間近に見ることができた。

 レンズの工程では、「ライカレンズは15種類のガラスを扱っている」、「レンズに入った光が1点を通るようにするためのセンタリング(芯出し)が大事」、レンズ構成が増えると反射面も増えることから「コーティングや墨入れが大事」といった説明があった。

レンズの製造ライン
ガラスに工程説明のビデオが映し出されている
センタリングの重要性をレクチャー
レンズ側面の墨入れ(反射防止)。モニター上の指差している部分を確認しながら行なう
ノクチルックスが台にセットされていた。後玉から光が当てられ、F0.95の超大口径レンズが絞り開放でもキレイな丸を天井に映すというデモだそうだ。説明用とはいえ、気安く触っていいものか一瞬迷う

 次に見えてきたのは、「ライカM」の製造ライン。全14ステップあるという。CMOSセンサーの取り付け調整は、0.01mm単位でシムを挟んで行なっているとのこと。

ライカMの製造ライン。右下の写真の検査工程では、Sレンズのセントラルシャッターをチェックしていた

 進んでいくと、磨りガラスのように明かりだけが漏れる窓があった。横に設置されたタッチスクリーンからメールアドレスを入力すると、窓が透明になり30秒間だけ中の様子を見られるという展示。この時はライツパーク限定のライカX2や、アラカルト(カメラなどのパターンオーダー)といった特別モデルの外装を手がけていた。

横のタッチスクリーンにメールアドレスを入力すると、30秒間だけ中が見える
ライカXバリオに革を貼っているところ
後述するライツパーク限定モデルもここで扱っていた

 これら見学スペースの背後には、歴代ライカのカメラ、レンズ、双眼鏡がずらりと並んでいる。少数の特別モデルなどを除いて、過去に販売された製品はほとんど揃っていると見られる。

組み立て見学スペースの背後には、歴代ライカ製品がずらりと並ぶ。カメラだけでなく双眼鏡もある
Milestonesにも展示されているライカA型。レンズ違いが並んでいる
ステレオアダプターを取り付けたA型
1935年の製品群。左上から時計回りに、エルマー50mmを装着したライカIIIa、タンバール90mm(フィルター装着でソフトフォーカスとなる稀少レンズ)、スナップショットエルマー、ヘクトール28mm F6.3。
1954年の「ライカ72」。撮像範囲が18×24mm。レンズは沈胴ズミクロン
ライカA型Luxus(金ライカ、デラックスライカ)。ネジひとつから距離計までゴールド仕上げ
インパクト大の250型、軍用ライカも
歴代コンパクトデジタルカメラ
フィルムコンパクトが並ぶ。APSの機種もあった
ライカS1(左)と、ティルトアダプターを装着したS1ハイスピード(右)
最新モデルの「ライカT」まで続く歴史を体感できる

 見学場所がエントランス付近から奥へ移ると、以降は撮影ができなかった。カスタマーケアの部門では、製品のリペアやメンテナンスを実施。現行Mデジタルで旧世代Mレンズを識別するための6bitコード付加、トップカバーへの刻印、レザーの張り替えのほか、付属ソフトのサポート、使い方講座、レンタルサービス(現在ドイツのみ)も行なっているという。

 また、リペア部門では現行のM、S、Tシステムだけでなく、スクリューマウント(いわゆるバルナックライカ、ライカLマウント)も対応できるという。事務スペースはガラス張りで外光がよく入る環境。作業スペースは資料や工具が整然と並び、工作機械もまだ新しそうだった。取材時にはヘリコイドを削ったり、レンズを研磨している工程を見られた。Sレンズのズーム伸縮を繰り返す耐久試験マシンの動作も見られた。

ライツパーク限定モデルを販売

 エントランスから右に進むと、ライカストアが入っている。現在、全世界に40のライカストアと180のライカブティックがあるという。

ライカストア担当者による説明を受けた

 店内には、ライカの現行製品(カメラ、双眼鏡など)、取材翌日に行なわれるライカ100周年記念オークションの出品アイテム、写真集などが並ぶ。写真集コーナーにはソファーが用意されていた。

ライツパーク限定のライカXバリオ。ストロボ部のロゴ、レザーやライカロゴの色が主な違い
こちらもライツパーク限定のライカMモノクローム。シルバークロームを採用
ライカSのライツパーク限定モデルもあった。来館の記念に
双眼鏡も、赤レザー・黒バッジの組み合わせ

 また、ここではライカグッズも見逃せない。中でもキーホルダーとTシャツが人気のようだった。ラインナップは今後変わるかもしれないが、日本でも買いたいという方は、近くのライカストアなどを通じてライカカメラジャパンに声を届けてみてはいかがだろうか。

グッズの一部を紹介。ライカM9-PをベースにしたUSBメモリー。35ユーロ
Tシャツは5種類(取材翌日に1種追加された)。ライカロゴを配したものから、レンズ構成図のデザインまで。キャップと傘もある
こちらはウル・ライカがモチーフのキーホルダー。39ユーロ
これはグッズではなく、オークションに出る特大のM3だった
写真集コーナーは、ストア奥のゆったりとした空間

(本誌:鈴木誠)