写真展レポート

エプソン「meet up! -selection-」コンテスト受賞者に魅力を聞く

多彩な表現の場としてひらかれたフォトコンテスト

左から清水哲朗氏、河本花波さん、成瀬夢さん、馬場さおりさん、小池裕也さん、舞山秀一氏

エプソン主催のフォトコンテスト「meet up! -selection-」の受賞者による作品展「meet up!-EXHIBITION-」が7月26日から8月29日にかけて東京・丸の内のエプソンスクエア丸の内エプサイトギャラリーで開催された。

meet up! -selection-は、2017年に新設されたばかりのフォトコンテスト。2018年の上位入賞者4名の受賞作品に加えてそれぞれの新作をグループ展形式で展示していた。エキシビジョンの展示作品も交えながら、受賞者4名の声を紹介していきたい。

フォトコンテストの新しい提案

エプソン主催のフォトコンテストとして、よく知られているものに「エプソンフォトグランプリ」(2006年から開催)がある。これは、ネイチャーやモノクロ、学生といった部門があらかじめ設けられているコンテストだ。

対して、今回の「meet up! -selection-」は、テーマが設けられておらず、比較的自由な表現ができる点が魅力のフォトコンテストだといえる。応募はプリントとデータかによって部門が分けられている。

このように、ひろく門戸が開かれたフォトコンテストとなっている「meet up! -selection-」だが、そこにはどのような意図や想いがこめられているのか。エプソンによると、写真をプリント作品として身近に感じて楽しんで欲しいとの想いがあって、主に若年層をターゲットとしてこのフォトコンテストを立ち上げたのだそうだ。

「meet up!-EXHIBITION-」と題して催された作品展示は、受賞者それぞれの次なる飛躍へ向けた大きな足がかりとなったといえそうだ。

meet up! EXHIBITION展示空間の様子

受賞者に聞くmeet up! -selection-の魅力

それぞれの受賞者たちはどのような点に魅力を感じ、また本コンテストから何を得たのだろうか。4名の受賞者にそれぞれ聞いていった。

コンテストと展示を通じてやりたいことが見つかった:河本花波さん

今回グランプリを獲得した河本花波さん。受賞作品は被写体となっている2人の女性の瞳が印象に訴えかけてくるモノクロ作品だ。作品のタイトルは「PRIDE」。高校生を被写体として「アオハル(青春)」をテーマに撮り続けているシリーズだという。

「自分が想像していた以上に目や口元がしっかりと表現できました。カラーだと情報が多くなってしまうと思ってモノクロでの表現を選びましたが、モニターで見ていたときに見えていなかった部分もわかり、満足しています」(河本さん)

受賞作とエキシビジョンともにモノクロ作品で挑んだ河本さんだが、プリントを通じてモノクロならではの細かなディティール表現ができたことに喜びを示した。これらの作品制作と展示を通じて、やりたいことがたくさん見つかったと振り返る河本さんに、今後どのような活動をしていきたいか尋ねた。

「スペースをもっとひろく使えたらいいなと思います。やっぱり個展を開きたいですね。被写体になってくれている人たちにも、私自身の想いを伝えるのと同時に、自分自身に自信をもってもらえるようにしていきたいなと思っています。それと、若者に共感してもらいたいです。インスタグラムなどで写真を楽しんでいる人たちにも来てもらって、楽しみながら作品を見てもらい、考えてもらいたいです」(河本さん)

医療福祉系の学校に在学中で、若者の自己肯定感を支えるプロジェクトも進めているのだと話す河本さん。「若者に共感してもらいたい」と作品に託した想いは、丸の内という好立地での作品展示を通じて、最良の発表の場を得たといえそうだ。

河本花波さん。エキシビジョンの作品「キャンバス—私の居場所—」の前で。「大きくプリントしたことで、新しい写真の魅力に気づくことができました」と、笑顔を見せた
河本花波さんのエキシビジョン作品「キャンバス—私の居場所—」

コンテストは出すことに価値がある:成瀬夢さん

高校在学時に顧問の先生に応募をすすめられたことが、「meet up! -selection-」に応募したきっかけだったと話す成瀬夢さん。今年の春から写真の専門学校へ進学した、今回の入選者では最年少のフォトグラファーだ。

本フォトコンテストの魅力として、カジュアルな気持ちで応募できるところが良いと話す成瀬さん。多くのフォトコンテストには“かちっ”とした作品でなければならない、というイメージがあると続けた。

本コンテストの、もうひとつの魅力として多様な発想やイメージの作品であっても応募できるところをポイントに挙げた成瀬さん。確かに受賞作の「仮面な彼女」は、仮面を被った女性を様々なシチュエーション・表現でまとめあげており、審査員の清水哲朗氏が「多様なバリエーションは溢れ出る発想の賜物」と選評しているように、多様なバリエーションで構成されている。

楽しむ気持ちでエントリーできることもあるのだろう、作品を自身のイメージに寄り添いながら自由につくりあげていったことが話を聞く中で成瀬さんの言葉の端々から浮かびあがってくるようだった。こうした中で「コンテストは出すことに価値がある」とコメントする成瀬さん。「撮りたい写真を撮っていても発表できる場は少ない」のだと続けた。

エキシビジョンで展示されている作品はバレエの練習風景を捉えたものだ。撮影にはスタジオを使用したとのことで、被写体の手にする布にさまざまな感情の在り方をこめたと話す。

成瀬夢さん。エキシビジョンの作品「invisible emotion」の前で。入賞作品とはアプローチをがらりと変えて、全く異なるイメージで挑んでいた
成瀬夢さんのエキシビジョン作品「invisible emotion」

発表して見てくれる人がいて作品が完成する:小池裕也さん

審査員をつとめた清水哲朗氏と舞山秀一氏から、共通して画作りの巧みさや安定感の高さが大きく評価された小池裕也さん。作品は土地や建物を捉えたモノクロ作品だ。作品タイトルである「エモい」。“emotion”から転じてつけられたものだ。

プリント技術の高さも称賛されている小池さんだが、こうしたプリントで応募できる公募は少なくなっているのだと、本コンテストへ応募するに至った動機を明かした。

見てくれる人がいてはじめて作品は完成する、と展示の意義を話す小池さん。今回の丸の内での展示となったことについては、写真が好きな人はもとより、「インスタグラムをやっている人にも、プリントだからこそ物質感をもって伝えられるものがある」のだと続ける。

エキシビジョンでの展示作品は、受賞作(ライカM Monochromeを用いて撮影)とは打って変わってカラー作品で構成。大判に引き伸ばされた作品については「あのサイズを自分の作品として見るのは初めて」とコメント。ピンホールで撮影したという作品だが、離れて見た時と近づいて見た時で印象や見え方が変わってくると、大判プリントにした意義と成果に手応えを感じた様子だ。

小池裕也さん。エキシビジョンの作品「0と1のゆらぎ」の前で。ピンホールを使用して光を捉えたという作品で、作品パネルに掲出されているQRコードから動画作品の世界へも誘う展示となっていた。展示作品は静止した光だが、動画では揺れ動く光が鑑賞できる仕組みだ
小池裕也さんのエキシビジョン作品「0と1のゆらぎ」

作品を発表することで人と人がつながる:馬場さおりさん

被写体の力強さがそのまま引き出されたかのような作品が印象的な馬場さおりさんは、自身の作品について“アートに寄った作品”だとコメントした。

本コンテストへの応募のきっかけも、こうした点にあるとのことで、先にとりあげた成瀬さん同様、アート系の作品は発表の場そのものが少ないのだと、応募の動機を明かした。

人との関わりを持ちたいという想いで写真を撮っているのだと話す馬場さん。作品を発表し展示するということも、そうした人と人とのつながりを求めた結果のあらわれなのだと話す。

受賞作「OUR STRENGTH IN THE SORROW」は“痛み”をテーマにしているのだと話す馬場さん。現代社会においては、男性も女性も性的に傷ついており、そうした“痛み”を切りとって作品に仕上げていったのだという。これは自身が乳がんを患ったこととも深く関係しているとのことで、マイノリティーに属する人々だけでなく幅広い人々の姿を撮影していったのだそうだ。

エキシビジョンの展示作品も、そうした視点の延長で撮影されている。大きく引き伸ばしてプリントされた作品は、ちょうど鑑賞者と写された人物の顔の大きさが同じくらいになるように調整することで、自然な距離感を生み出している。こうした“自然に見える”表現ができたことも大きな成果につながったのだろう、地元福岡で開催が決定した展覧会への意気込みも力強いものだった。

作品を発表することで人とつながっていくことを強く取りあげた馬場さん。東京駅を目の前にする丸の内での開催であることも、立地の良さに驚いているとコメント。様々な来場者と作品を通じてつながれると続けた。

馬場さおりさん。エキシビジョンの作品「kakuuchi〜『主体としての自己』と向き合う刻」の前で。人物にフォーカスしたという点では共通しているものの、主要な被写体以外を暗く落とし込み、人物をスポットで浮かびあげる手法を見せた
馬場さおりさんのエキシビジョン作品「kakuuchi〜『主体としての自己』と向き合う刻」

審査員に今回の総評を聞く

今や写真は本格的なレンズ交換式カメラだけでなく、コンパクトタイプのカメラやスマートフォンなどで広く撮影されるようになっている。しかし今回の受賞者の作品からも伝わってくるように、紙の選択やプリントの仕方、見せ方に対するこだわりなど、“作品を見せるということ”それ自体にプリントが強く結びついたものとして受け止められていることがよく伝わってきた。

作品をプリントし、展示して、会場に来て見てもらうということ。これら一連の行為に託した熱量の高さが感じられる展覧会となっていた。これはひとつには、作品に対してそれぞれの受賞者が真実向き合っているからこそだと、清水氏は振り返る。そうした挑戦的な受賞者の姿がうかがえる一方で、“それぞれが楽しんで作品をつくりあげていくことができるフォトコンテスト”になっているともコメントした。

舞山氏からも全く同じコメントが。さらに舞山氏は本コンテストについて様々なチャレンジの指標にしてもらいたいとも話す。そうして、すべての応募者にとって写真が楽しいものになるようにしていきたいと続け、今回は選ぶ側としても楽しいコンテストだったと振り返った。

エプソンのフォトコンテストの公募が開始

エプソンのフォトコンテストは、目標別にコンテスト・公募展等、3つのカテゴリーで発表の場が用意されており、プリントを通じて作品を発表したいと考えている作家を支援する仕組みが様々に整っている。

まず冒頭でもふれた「エプソンフォトグランプリ」も、そうしたコンテスト形式の公募のひとつだ。ネイチャー部門、ヒューマンライフ部門、モノクロ作品部門、学生部門の計4部門が設けられ、全作品の中から1作品がグランプリに選ばれる。募集する作品はインクジェットプリントのみとなっており、デジタルフォトづくりの総合力が評価される格式高めのフォトコンテストとして位置づけられている。

「meet up! -selection-」はこのエプソンフォトグランプリよりも、気軽に応募できるカジュアルなフォトコンテストに位置づけられる。フォトコンテストにあまり応募したことがない人でも挑戦しやすいように、プリント部門とデータ部門が設けられており、今年度からはどちらも1枚の作品(単作品)で募集する。

この他、エプソンスクエア丸の内で個展を開催できる「エプサイトギャラリー公募展」もある。これは年2回にわけて作品の募集を行い、展覧会を開催する作品が選出される。またこの展覧会より半期に一度最もすぐれた展覧会に賞(epSITE Exhibition Award)が贈られる。

今回のmeet up! -EXHBITION-の4名も、それぞれの目標や作品を発表することの喜びを語ってくれた。今年はどんな作品が発表されるのか、楽しみにしていきたい。なお、2019年の各コンテストの応募要項・詳しい情報は、エプソンの「フォトコンテストポータル」をご覧いただきたい。

meet up! -selection- 2019:プリント部門応募要項

応募期間
2019年8月29日(木)~2019年11月18日(月)
当日消印/宅配受付有効

応募先
〒151-0072
東京都渋谷区幡ヶ谷2-24-1 遠山ビル3F
「meet up! –selection-」応募受付センター
※「エプソンスクエア丸の内」への直接持ち込みも可

応募方法
以下のいずれかの方法で応募することができる
[1]告知ページよりダウンロードした応募票をプリントアウトし作品に貼り付けして応募する
[2]WEB応募フォームに必要事項を入力・登録し、送信後に届くメールをプリントアウトして作品と一緒に同封して送付する

結果発表
2020年3月中旬、ホームページにて発表
※入賞内定者へは発表前に事務局より直接通知

審査員(敬称略)
中井精也

賞と賞品
優秀賞:10万円(2名)
審査員賞:EP-10VA(5名・各1台)
入選:1万円分のAmazonギフト券(35名)

meet up! -selection- 2019:データ部門応募要項

応募期間
2019年8月29日(木)13時00分~2019年11月18日(月)24時00分まで

結果発表
2020年3月中旬にホームページにて発表
※入賞内定者には発表前に事務局より直接通知

応募方法
告知ページ上の応募フォームより応募

応募に関する問合せ先
エプソン「フォトコンテスト」事務局
TEL:03-6276-7705
受付時間:10時00分~17時00分(土・日・祝日、指定の休日を除く)

審査員(敬称略)
中井精也

賞と賞品
優秀賞:5万円(2名)
審査員賞:EP-30VA(5名・各1台)
入選:5千円分のAmazonギフト券(50名)

エプソンフォトグランプリ 2019:応募要項

募集部門
ネイチャー部門
ヒューマンライフ部門
モノクロ部門
学生部門

応募期間
2019年8月29日(木)~2019年11月18日(月)
当日消印/宅配受付有効

応募先
〒151-0072
東京都渋谷区幡ヶ谷2-24-1 遠山ビル3F
「エプソンフォトグランプリ」応募受付センター
※「エプソンスクエア丸の内」でも直接持ち込みも可

応募方法
以下のいずれかの方法で応募することができる
[1]告知ページよりダウンロードした応募票をプリントアウトし作品に貼り付けして応募する
[2]WEB応募フォームに必要事項を入力・登録し、送信後に届くメールをプリントアウトして作品と一緒に同封して送付する

応募に関する問合せ先
エプソン「フォトコンテスト」事務局
TEL:03-6276-7705
受付時間:10時00分~17時00分(土・日・祝日、弊社指定休日を除く)

結果発表
2020年3月中旬にホームページにて発表
※入賞内定者には発表前に事務局より直接通知

審査員(敬称略)
田沼武能
三好和義

主な賞と賞金
グランプリ:賞金100万円
ネイチャー部門・優秀賞:賞金30万円
ヒューマンライフ部門・優秀賞:賞金30万円
モノクロ部門・優秀賞:賞金30万円
学生部門・優秀賞:賞品SC-PX5VII

エプサイトギャラリー公募展:応募要項

募集期間
第1期募集:受付終了
第2期募集:10月1日(火)~10月31日(木)

応募資格
年齢、経験(プロ・アマチュア)不問
日本国内在住の人が対象
エプソン製のインクジェットプリンターで展示作品を制作できる人
※ギャラリーで展覧会を開催した人は会期後2年間の申し込みは不可

選考委員(敬称略)
・2019年度第1期募集選考委員
 上田義彦
 速水惟広
・2019年度第2期募集選考委員
 未定

展覧会の費用
ギャラリー使用料は無料。展示物制作費(プリント・マット・裏打ち・額装など)、キャプション類制作費、作品輸送費、ダイレクトメール制作費は出展者負担

応募時の提出物
[1]エプサイトギャラリー応募申込書
[2]出展作品見本
[3]作品解説文・応募者の略歴
[4]およその展示プラン

本誌:宮澤孝周