写真展レポート

11人の写真家の物語。新たな時代、令和へ 「平成・東京・スナップLOVE」

ハービー・山口さんと元田敬三さんが展覧会の見どころを語る

エントランス脇の記念撮影スペースにて。ハービー・山口氏(左)と元田敬三氏(右)。

平成、東京、スナップをキーワードに、総勢11名の写真家によるスナップ作品が一堂に会する写真展「平成・東京・スナップLOVE」展が、東京・六本木のFUJIFILM SQUAREで6月21日に開幕した。会期は7月10日まで。東京の次は富士フイルムフォトサロン大阪に巡回する(大阪会場の会期は2019年7月26日~2019年8月7日)。

平成の東京を捉えたスナップがあつまる

新天皇の即位に伴い、祝賀ムードのうちに幕を閉じた平成の時代31年間をふりかえり、この時代の東京を舞台に撮影されたスナップ写真が展示されている。

写真の世界でいえば、フィルムからデジタルへの市場の移行があったこの時代は、インターネットやスマートフォンの普及など、通信インフラの整備が急速に進んだ時代でもあった。

本展では、有元伸也氏、ERIC氏、大西正氏、大西みつぐ氏、オカダキサラ氏、尾仲浩二氏、中野正貴氏、中藤毅彦氏、ハービー・山口氏、原美樹子氏、元田敬三氏の11名の写真家によるスナップ写真を通じて、それぞれの写真家が捉えた“平成の東京”の姿が紹介されている。

展示構成

作品が展示されている作家は総勢11名。展示点数は144点にもなるという。展示企画を担当した佐藤正子氏は「スナップ写真は男性が多かったのですが、インスタグラムなどで若い女性にも写真が身近になってきていることもありますので、そうした女性の視点も入れたかった」として、女性写真家の原美樹子氏とオカダキサラ氏の作品を織り交ぜて展示を構成していったと話した。

佐藤正子氏

また富士フイルムでの開催にちなみ、元号が令和にきりかわった5月1日から31日までの1カ月間でそれぞれの写真家にチェキで東京を撮りおろしてもらったのだという。このチェキで撮影された作品は、入り口に写真家のセルフポートレートとあわせてそれぞれ5点ずつ展示されている。

ハービー・山口氏と元田敬三氏が見どころを語る

内覧会が開催された取材当日は、ハービー・山口氏と元田敬三氏によって、展覧会の見どころが紹介された。

今年で69歳になったというハービー氏。平成の時代の時代を迎えたのは39歳の時なのだそうだ。

自身の作風を“スナップポートレート”と表現するハービー氏。被写体に声をかけないスナップではなく、声をかけて、ある程度の作画操作を加えるポートレートの間の子としての作風なのだという。

撮影のスタンスについては、街の中で偶然見かけた自身もその光景と一体となりたいという気持ちが写真に込められると話すハービー氏。

「人と光とがつくりだすおとぎ話のような美しい光景の中に僕自身も入っていきたい」という、その作風はずっと変わっていないとコメントした。

ハービー・山口氏

スナップショットとは何か、という問いに対して以前は答えられなかったと切り出した元田氏は、近似の作品にはキャプションをつけるようにしているのだと話す。これらの説明によって、自身が何に対してどう心が動いたのかを写真とテキストとともに伝える工夫をしており、そこを見てほしいと話した。

元田敬三氏

そうした手法は自身の主観になってしまい、どうしても見る側の視点を固定化してしまう、という懸念を示しつつ、それでもこうした取り組みは今後も続けていきたいと考えているという。

人物に“はっ”とすることが多いと話す元田氏。シャッターを切った瞬間に背景や状況が一瞬にして集積してしまうところが写真のすごいところで恐ろしいところだと自身の作品を振り返った。

会場に展示されている他の写真家についても「みさなんの写真を見て、東京の街が写っていると思いました」とコメント。

「中野正貴さんは、三脚と大型カメラを使用して撮影しているので、それはスナップじゃないと言われてしまうかもしれないんですけれども、僕から見ると、すごくスナップ的な写真で、心がざわざわするような一瞬を捉えた写真に思えるんです」(元田氏)

原美樹子氏の作品については、東京の街がうしろにひろがっていくような感覚を受けた、と話した。

中野正貴氏の作品
原美樹子氏の作品

スナップ撮影には愛がこめられている

会場入り口には、尾仲浩二氏のハートの形が写された作品「池袋サンシャイン60特別展望台より,1999」にあわせて、ネオン管で各部を装飾した作品が展示されている。これは、元田氏の発案がベースになってつくられたものなのだそうだ。

展覧会タイトルとともにネオン菅で装飾された尾仲浩二氏の作品。ここは記念写真撮影スペースとなっている。

ネオン菅を装飾に用いた理由について元田氏は、別の展覧会で写真行為として作品に言葉を添えたときに、写真の中に写っている言葉や文字に強さを感じたことがきっかけになっているのだと説明。文字の力というところから、ネオンサインを連想したことから、このデザインを思いついたのだと話した。

元田氏の展示作品。奥に“轟”という文字のネオン管が設置されている。これも元田氏の作品タイトルにあわせた演出だ。

「心がうごいたから“Love”。それで“東京Love”というのをつくってはどうか」と提案したと話す元田氏。この提案と尾仲氏の作品でハートモチーフが扱われていることが合致して、入口脇のスペースデザインにつながっていったのだそうだ。

「来場者が“ハート=愛”を感じてくれたらいいのではないか、と考えてつくりました」(元田氏)

これについてハービー氏は、“Love”という言葉から「一瞬を愛して、人に声をかける時の“怒られるんじゃないか”という恐怖に勝って撮っていく」ということや自身の撮影スタイルである「その人の幸せを祈ってシャッターを切る」という撮影行為の根底には、すべて“Love”があるのだということを改めて認識したとコメントした。

昨今、スナップを撮るということが難しくなってきている状況に対しては、しかし多くの人が撮られることを楽しんでいる状況にあるのだと、ハービー氏は語る。

「盗撮だ何だと猜疑心をもたれる昨今だけれども、もっと写真家は善良な気持ちで(撮影行為が)世の中を愛した末の行動だということを人々に知らせて、スナップがもっと撮りやすい令和になっていけば」(ハービー氏)

写真の文化が世の中にもっと貢献してもいい世の中になっていったらと、希望を語った。

またハービー氏は「写真家は被写体になる人を観察しているつもりだけれども、世の中の人はもっと写真家を観察しているものだ」とも話す。

「この人になら撮られてもいいと思ってもらえるように、人間性=Loveをもって、そうした“撮られたい”という気持ちに応えていく必要があると思います」(ハービー氏)

人と人との心の動きを、11名の多様な視点から写しとめていった写真展。見るということも様々に考えさせられる展示となっている。

出展写真家(敬称略)

有元伸也
ERIC
大西正
大西みつぐ
オカダキサラ
尾仲浩二
中野正貴
中藤毅彦
ハービー・山口
原美樹子
元田敬三

FUJIFILM SQUARE

開催期間

6月21日(金)~7月10日(水)

開催時間

10時00分~19時00分
最終日は16時00分まで/入館は18時50分まで

所在地

東京都港区赤坂9-7-3

休業日

年末年始

富士フイルムフォトサロン 大阪

開催期間

7月26日(金)~8月7日(水)

開催時間

10時00分~19時00分
最終日は14時00分まで/入館は終了10分前まで

所在地

大阪府大阪市中央区本町2-5-7 メットライフ本町スクエア 1階

休業日

無休(年末年始を除く)

本誌:宮澤孝周