イベントレポート

岡嶋和幸さんに教わる写真セレクトの極意…「プリントすると写真がうまくなる! with Canon PIXUS PRO-100Sセミナー・体験会」

セレクト術・プリント術を指南する写真家の岡嶋和幸さん。

写真家の岡嶋和幸さんによるイベント「プリントすると写真がうまくなる! with Canon PIXUS PRO-100Sセミナー・体験会」が12月5日に兵庫県神戸市・メリケン波止場のmeriken gallery&cafeで開催された。主催は株式会社インプレスの写真サイト「GANREF」。

当日は2時間半のセミナーが2回行われ(同一内容)、各回10名の定員が満席だった。どの参加者も熱心な写真愛好家で、プリントによる作品作りにも大きな関心がある人々が集まった。

写真のセレクトで失敗している人が多い

撮影した写真をPCで見るだけではなく、プリントする方が上手になると説く写真家は少なくない。だが、岡嶋さんは作品を出力する以前に、「セレクト」でプリンターを活用することが上達の秘訣だとする。このセミナーではその方法論を実践でたたき込まれる。

今回のセミナーではフォトコンテストの応募を想定。参加者に50枚ほどのJPEG画像を持参してもらい、それを最終的に1枚に絞り込む腕を伝授することで、フォトコンテストで勝てるセレクト術を身につけてもらおうという趣旨である。

「フォトコンテストでは作品よりも、どれを選ぶかというセレクトがまず重要です。多くの人がセレクトで損している部分があって、良い写真を撮っているのに選んでいないんです。これはとてももったいないことですね」(岡嶋さん)。

岡嶋さんの経験によると、PCでセレクトすると後で迷いが生じたりするが、プリントでセレクトすると迷いがなく良い写真が選べるとのことだ。その理由はPCの画面では、しっかり見ているようで見ていないからだという。

「文字原稿の校正もPC画面では誤字を見落とすことがありますが、プリントするとしっかり見つけられる。これと同じ事です」(岡嶋さん)。

あえて小さなプリントでセレクトするわけ

まずは1枚に20コマのインデックスプリントを作り、それを各コマにハサミを入れて切っていく。それを10枚まで選んでいく。

この大きさだと写真がよく見えないのでは? と思うが、それは逆。細部が見えないからこそ、本質的に「良いな」と思った写真を残せるのだそうだ。

プリントではなくPC画面で拡大して見てしまうと、わずかなピンボケやブレなどを発見してボツにしてしまうことが多い。ところがボツ写真も、A4などのプリントではあまり問題にならなかったりするそうだ。

だから、少しでも問題があったらボツにするのではなく、「少しでも良い部分があったら積極的に採用する」のが、この段階では重要とのこと。

今回はキヤノンの現像ソフト「Digital Photo Professional」(DPP)およびプリントソフト「Print Studio Pro」を使用し、同社のインクジェットプリンター「PIXUS PRO-100S」でプリントした。

PIXUS PRO-100Sは、8色独立インクタンクを採用するA3ノビ対応のプリンター。染料インクであるため、発色性・光沢感に優れているのはもちろん、グレーインクとライトグレーインクの搭載で、階調豊かなプリント表現が可能だ。A3ノビのカラープリントを約1分30分秒で仕上げるなど、高速性能にも優れている。このセミナーでは1人1台のPIXUS PRO-100Sが使えた。

PIXUS PRO-100S

Digital Photo Professionalで読み込んだ画像は現像後、そのままPrint Studio Proへ。こうすることで、インデックスプリントが簡単に作れる利点がある。インデックスプリントには撮影データを付けることも可能だ。

インデックスプリントを挟みで切る参加者。こうしてカード状のプリントにすることで、選ぶ際の自由度が高まる。

次は10枚に絞り込んだ作品を、1人ずつ岡嶋さんに見せる。40枚の選ばなかったカットも含めてだ。すると岡嶋さんは、ボツカットから気になったものを選ぶことがあった。岡嶋さんが救済したカットが参加者の選んだカットより良いというわけではないが、選ばれたのは岡嶋さんの視点で「もう少し大きくして見たい」と思ったカット。ここで参加者は、自分が捨てていたカットの中にも、実は良い写真があったことに気づかされる。

筆者も参加者に交じって写真をセレクトしたが、やはりボツにしたカットから岡嶋さんが何枚か救済している。その理由は細かなテクニックより、写真的な特徴を見てのこと。プロの視界の広さを実感した瞬間だ。

岡嶋さんがプリントを見るスピードは、1枚あたり1秒あるかないかという具合。瞬間的に見て良い雰囲気のものを選んでいくのが重要だとのことだ。

「セレクトのポイントはじっくり見ないこと」(岡嶋さん)。

こうした作業によって写真を見る目が養われ、撮影の上達も早くなるそうだ。この「セレクト体験」はこうしたイベントならではで、多くの参加者も感心しきりの様子だった。

写真が変われば合う用紙も変わる

続いては、先ほど岡嶋さんからもらったアドバイスも参考にしつつ、再度10枚を選ぶ作業だ。ここで選んだ10枚はインデックスプリントはなく、A4サイズにしてプリントする。その10枚をさらに3枚に絞り込んでいく。

選んだ3枚はどうするか。次はそれぞれを3種類の用紙にプリントする。異なる面種の用紙にプリントすることで、どの作品がどの用紙に合い、また合わないのかを知ることができる。用紙はプレミアムマット、微粒面光沢 ラスター、光沢 プロ[プラチナグレード]。

異なる面種で同じ作品を比較するのは費用面などでなかなか難しい。プリンターを持っている人は、いつも決まった用紙しか使わないという人も少なくない。筆者も光沢紙でしかプリントしたことはないが、今回マット紙が作品に良く合っていることに気づいた。

また岡嶋さんは、プリントは余白がとても重要と教えてくれた。

「フォトコンテストでは、縁なしプリントはどちらかと言えば不利なのではないかと思います。余白がある方が、写真の中身を瞬間的に集中して見せることができます」(岡嶋さん)

「縁なしプリントは見る人の視点がどうしても外に逃げてしまう傾向があるので、ぼやっと見られてしまいます」(岡嶋さん)

「よほど強い主題がない限りは、広めの余白を付けた方が良いでしょう。A4の場合は25〜30mm位を推奨しています」(岡嶋さん)

余白の話は、写真展など展示の場合も同様とのこと。余白を活用した方が1点1点をじっくり見てもらえる作品になるとのことなので、機会がある人は実践してみてほしい。

ボツ写真を見直したくなった

参加者はさきほのど3枚のうち1枚を選び、翌日、同じ場所で行われる公開審査用に提出することになった。このように写真のセレクトからフォトコンテストの応募までの流れを岡嶋流で体験すると、適切なセレクトの重要さを実感できる。

筆者自身、モニター上で写真をピクセル等倍で見て、わずかなミスでボツにすることはある。かといってPC画面で小さなサムネイルにしても、解像度の関係なので今ひとつしっかり見ることができないのも事実。並び替えたりまとめたりの作業も、大量にあるとPC画面上だと煩わしい。

インデックスプリントを活用するという岡嶋さんのアイデアを使って、もう一度これまでのボツ写真を見直してみようと思ったイベントだった。

参加者の声

荒川明日香さん

PC画面で見ていた写真をプリントしたとき、思っていたイメージと違っていた経験が参加の理由です。インデックスプリントでのセレクトは新鮮でした。これはちょっと違うな、と自分で選ばなかった写真が岡嶋さんが選ばれ、コンテストに出す作品は客観的な視点が必要だとわかりました。

今回学んだ方法だと、普段は選ばないような写真をセレクトできそうだと感じました。また、写真はDPE店やネットサービスなどの業者にプリントしてもらうものという考えがありましたが、こんなに簡単に自分でプリントできるのだということを知りました。

増田新吾さん

デジカメ Watchの以前の記事でプリントのセレクト術を知り、興味をもち参加しました。今回持参したのは自分の子どもの写真だったので、どうしても撮影時のシチュエーションなど思い入れの強い写真を選んでしましました。が、岡嶋さんは自分では平凡だと思った写真を選ばれている。コンテストで選ばれるということはこういうことか、納得がいきました。

用紙の比較では、温かみのあるマット紙が気に入りました。温かみがあって、子供の肌色がとても良く出ていています。普段は複合機を使ってLサイズでプリントをしていますが、PIXUS PRO-100Sはそれと比べても静かなのに驚きました。

角敏行さん

写真を本格的に始めて5年になりますが、なかなかフォトコンテストで入賞できず、その理由を知りたくて来ました。まず感じたのは、岡嶋さんのセレクトがものすごく早く、1枚を一瞬で見ること。ショックでした。あくまで写真としての良し悪しを見ているわけで、撮影時の苦労などは見る側は関係が無いのだと……そりゃそうですよね。

また、自分は暗すぎると思ってボツにした写真が拾われていて、なぜかと思ったら、インパクトのある写真だったからとのことでした。プリントすることの手軽さ・楽しさも知ることができたので、自分でもプリントして、家の壁に写真を貼ったりもしてみたいですね。

岡田春樹さん

プリンターは持っていないのですが、写真をステップアップするためにも家でプリントしないといけないと思っていたとき、このイベントを知って参加してみようと思いました。

セレクトでは、自分がボツにした中から岡嶋さんが選んだものを最終的に選びました。ただそれは岡嶋さんが選んだからということではなく、よく見ると自分でも確かに良い写真だと思えたからです。やはり思い込みがあって客観的に見ることができなかったのだと実感しました。PIXUS PRO-100Sのプリントは本当にきれいです。

中嶋正和さん

時々フォトコンテストに作品を出すようになってきたのですが、作品のセレクトで迷うことが多く、その時の考え方を知ることができればと参加しました。

何度かインデックスプリントをしたことはありますが、今回のように切ったりしたことはなかったですね。

持ってきた写真は類似カットが多かったのでセレクトに迷いましたが、そうしたときの岡嶋さんの見方が参考になりました。持っているプリンターはA3までなのですが、A3ノビが出せるプリンターだと海外の用紙も使いやすいので魅力を感じています。

堀智美さん

顔料インクの方のPIXUS PRO-10Sを持っていて、同じメーカーのプリンターのセミナーだったというのが参加を決めた理由のひとつです。

セレクトでは、撮影時の思い入れが強いものをどうしても採用してしまいがちでした。今回岡嶋さんの選んだ写真の方が光が良かったりして、いかに自分が客観的に見ていなかったのかがわかりました。

PIXUS PRO-100Sを使ってみて、染料インクの良さもわかりました。光沢紙などでは染料インクのプリンターが良いとの話もありましたので、染料インクの良い機種も欲しいと思いました。

武石修

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。