イベントレポート

公文健太郎さんのプリント術が学べる「プリントを1,000倍楽しむ!PIXUSセミナー・体験会」

9月17日、神保町にあるインプレスセミナールームにて、「プリントを1,000倍楽しむ! with Canon PIXUS PRO-100S セミナー・体験会」が開催された。

講師を務めたのは写真家の公文健太郎さん。ルポルタージュやポートレートの撮影を中心に、雑誌書籍、広告などで幅広く活動しているとともに、国内外で「人の営みがつくる風景」をテーマに作品を制作されている。最近では日本全国の農風景を撮影した写真集「耕す人」を発表されたことでよく知られている。

公文健太郎さん

1人1台のPIXUS PRO-100Sを用意

用意されたプリンターはキヤノンの「PIXUS PRO-100S」だ。8色染料インクのプロフェッショナル向けプリンターであり、1人の参加者につき1台が準備された。憧れの高性能プリンターを存分に使えることも、当セミナーに参加することの醍醐味のひとつとなっている。

交換インクやプリント用紙も十分に用意されていた。

写真をプリントするうえで基準ともなるキヤノン写真用紙・光沢プロ「プラチナグレード」。キヤノン純正写真用紙のフラッグシップで、光沢度が高く厚手の質感と美しい仕上がりを楽しむことができる。

しっとりとした高級感のある仕上がりになるキヤノン写真用紙・微粒面光沢「ラスター」。落ちついた質感をかもしだす微粒面(半光沢紙)の写真用紙だ。

高級感の高い滑らかな仕上がりを楽しめるキヤノン写真用紙「プレミアムマット」。厚みのあるマット調の写真用紙で、階調性に優れているためモノクロ写真の出力にも向いている。

PIXUS PRO-100Sに繋がれたノートPCは、マイクロソフトの「Surface Book」。あらかじめ参加者から送られてきた数十枚の画像データが保存されていた。

なぜプリントするのか?

はじめに公文さんから参加者に投げかけられた質問は「なぜプリントするのか?」というもの。スマートフォンやPCモニターで写真を閲覧できるいま、なぜわざわざお金と労力をかけてまでプリントする必要があるのかという、当セミナーの核心をつく質問だ。

その答えとして提示されたのが、とある場所で同じ時に同じシーンを、スマートフォンとデジタル一眼レフカメラ(キヤノン EOS 5D Mark IV)で撮影し、それぞれをプリントした2枚の写真だった。

「どちらもよく撮れたとは感じていますし、SNSなどで人に見せるにはスマホの写真でも十分かもしれません。でも、こうして実際にプリントしてみると、奥深さや詳細さという面でハッキリとした違いがみてとれます」と公文さん。

つまり、プリントはデータの質の違いを克明にすることができるということで、「良いプリントは良いデータから」できるということでもある。

両者を見比べてみた参加者もこの大きな違いに、プリントの大切さの第一歩を理解できたようすだった。

プリントワークフロー

公文さんの解説はつづく。

撮影したデータをプリントとして完成させるまでのワークフローは写真家によってさまざまである。しかし、公文さんの場合、すなわち公文流のプリントワークフローはPC上で「調整→修正→加工」の順で行うことと決めており、それぞれの手順ごとにプリントを繰り返して確認しながら完成プリントに至るとのことだった。

ここで言う「調整」とは、RAW現像による露出(明るさ)・色味・コントラスト・彩度などの調整のことを指す。この段階で撮影時のカメラ設定では調整できなかった画像全体のイメージを作る。撮影時にRAWデータの記録をしておくことは必須で、また、この段階でいったんプリントすることで、調整後のリアルな全体イメージを把握することも大切なことである。

「修正」は、調整段階だけでは出来なかった画像の部分的な補正のことを指す。言葉でいうと簡単に思えるが、これを不自然さがなく効果的に行うには、先の調整で全体のイメージを正確に把握しておく必要がある。今回のセミナーでは特に、修正を効果的に行うための方法もレクチャーされた(後述)。

なお、今回はRAW現像にAdobeのLightroom Classic CCを用いたので、「修正」段階での部分的な補正もRAWデータ上で行ったが、部分補正ができないRAW現像ソフトを使用している場合は、現像後の画像をAdobe Photoshopなどで行っても全く問題ないとのことだ。

最後に「加工」であるが、これは合成やHDRといった特別な演出効果のことを指す。何かしらの意図があって行うものであって、撮影者の意図を表現するための「修正」とは意味合いが異なる。

「写真コンテストの審査員をしていると極端な加工を施した応募作品をよく見ることがあります。恐らく修正をしているつもりが行き過ぎて加工になってしまっているのだと思いますが、不自然さばかりが目立って正直よくないことが多い。今回はあくまで撮影者(参加者)が撮影時に感じた被写体のイメージを自然に再現するというプリントテクニックを学んでもらいたいです」と公文さん。

そのような訳で、今回のセミナーでは、プリントを確認しながら「調整」と「修正」を行い、最終的に完成した作品プリントを出力する運びとなった。

まずは「調整」してプリント

さて、ここからは、実際に参加者自身が撮影したデータを使った、上記の「プリントワークフロー」の実践である。

Adobe Lightroom Classic CCでRAWデータを「調整」するのであるが、公文さんは「では早速やってみましょう!」と思いっきりよく放任…さすがに参加者も戸惑うのではないかと思ったが、意外にも各人がサクサクとSurface Bookを操り「調整」に取り掛かっていた。きっと先の公文さんの実演をよく聴いていたからだろう。講師も参加者もさすがである。

放任とは書いたものの、参加者それぞれの「調整」は公文さんが随時チェックしており、「大丈夫、プリントして見ましょう!」となったところで初めてプリントに移るので、安心感は高かった。

と、ここで公文さんからの注意事項。「調整後に確認するためのプリントは光沢紙でやってください。光沢紙は白から黒までの階調が最も中庸ですし、ベースが純白なので色の再現性も確認しやすい。今日は高級紙のプラチナグレードを用意してもらっているので是非これを使ってください」。

そうした諸注意をよく聴きながら、参加者それぞれが次々に最初のプリントを出力する。

「ダーマト」登場

「調整」したプリントを終えたところで、「修正」に取り掛かるために公文さんが取り出した秘密兵器がグリースペンシルであった。グリースペンシルとはワックス成分を多く含んでいることから、普通の筆記具では書けないものにでも書けてしまう色鉛筆のこと。三菱鉛筆の登録商標である「ダーマトグラフ」のことである。

「ダーマト」の名で知られ、かつては書籍の編集時や、プロラボへのプリント発注時の赤入れ用必須アイテムとして親しまれた文房具である。ちなみに筆者の家にも使いかけの赤いダーマトが1本残っている。

このダーマトを使い、調整段階で出力したプリントに、自分で添削を行い、それを「修正」に反映していこうという訳である。とは言っても、やはり最初は難しいことなので、参加者を集めて公文さんが添削の実演を行うこととなった。

「調整」のプリントで全体のイメージを掴み、そこに自分で添削を行うことで、「修正」の方向性を明確にするのである。やみくもにレタッチを繰り返して迷路にはまってしまうことはないだろう。

適切な「修正」を施しプリント

「修正」の方向性が決まったところで、いよいよ本番のプリントである。

が、その前に、公文さんから再び写真用紙についての注意事項があった。「今日はプラチナグレードの他にもラスターとプレミアムマット、3種類の用紙を用意しています。ベースの色の調子や紙の質感で写真が変わりますので、修正プリントではぜひ色々な用紙を試してください」と。

標準となる光沢紙のプラチナグレードで調整プリントをしているので、そこからの変化も把握しやすいという訳だ。

プリントワークフローの大切さをかみしめながら、それぞれが自分の写真を昇華しようとする姿が印象的だった。

「良いプリントは良い写真から」。撮影から作品作りまで、参加者にとっても何が必要で何をすべきなのか、プリントすることの大切さが実践によってわかる良いセミナーとなったことだろう。

参加者の声

兼田言子さん

今も銀塩での暗室プリントをやっていまして、アナログ的な銀塩プリントをデジタルでどう表現すればいいかと悩んでいました。特にPCモニター上での色や階調のズレをインクジェットプリンターでどう解消していくか分かりやすく教えてもらえたので勉強になりました。

PIXUS PRO-100Sはプリント出力の速さの違いに驚きです。暗室での苦労とは大違い。でも手応えは感じましたので、今後は暗室で作る作品並みの重みのあるプリントをデジタルで表現できるように頑張っていきたいと思いました。

安達尚宣さん

15、6年前のことになりますが、私も銀塩で暗室に勤しんでいた時期がありまして、その時にデジタルでもモノクロプリントに挑戦していました。ところが当時の機材では、全く思ったように写真を表現できませんでした。今日、久しぶりにデジタルプリントに挑戦し、PIXUS PRO-100Sを使ってみてその進化に驚かされました。

プレミアムマット用紙を使ったプリントでは、かつてのぞんだ写真の表現ができていると感じましたので、好みのバライタ用紙を使ったプリントにも挑戦したくなりました。このセミナーに参加したことで、すぐにでもキヤノンのプリンターを買ってしまいそうになりました(笑)

田村洸さん

自分の子供をいっぱい撮っていますので、自宅で綺麗にプリントできたら楽しいに違いないと思ったのが応募の動機です。写真はまったくの初心者でしたけど、公文先生の説明を聞きながらプリントしたら、作品の制作過程がよく分かりよかったです。

ホワイトバランスの調整などやってはいたものの、よく分からないというのが本音でしたけど、今日その意味と楽しさが理解できました。写真ってすごく楽しいものなんですね。大きいので置く場所の問題こそありますけど、それを何とかしたら、ぜひPIXUS PRO-100S買ってどんどん楽しみたいです。

高橋布美子さん

とても楽しかったです! これまでも写真をプリントしたり、セミナーに参加したりしましたけど、今日はRAW現像の方法と大切さを教えてもらえて有意義でした。

これまではPCモニターとプリンターで色が違うのが悩みでしたが、PIXUS PRO-100Sを使ったら自分が思ったイメージに近づいたのですごいと思いました。暗いところまで目で見たようにキチンと表現してくれているのは嬉しかったです。

齊藤諒さん

いままではJPEGで写真を撮ってPCで見てみるだけだったので、今日、RAW現像から作品プリントにまで仕上げるワークフローを体験をできたことがとても新鮮でした。悩んで「調整」する度に、先生のアドバイスを受けて「修正」する度に、出力されてくるプリントがよくなってくるので感動です。

結婚した時に購入したキヤノンの複合機でプリントしていましたが、それがPIXUS PRO-100Sの表現力とどのくらい違うのか、家に帰って確かめてみたいと思いました。きっと全然違うでしょうね(笑)

山口友子さん

現在、写真教室に通っていて定期的にプリントを提出しているのですが、周りが皆キヤノンの上位機種プリンターなのを羨ましく思っていました。PIXUS PRO-10SかPIXUS PRO-100Sが欲しいなとは思っていましたけど、もう少し勉強してからでないと納得できないと感じていましたので今日のセミナーはとてもよい機会でした。早くPIXUS買いたい!(笑)

公文先生に教えていただいた「修正」の体験は初めてで、部分的なレタッチでこんなに写真のイメージを変えられることにも驚きです。写真を始めて4年目ですけど、ますます写真が楽しいと思えるようになりました。

制作協力:キヤノン

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。