イベントレポート

岡嶋和幸さんの「プリントすると写真が上手くなる!セミナー・体験会」に潜入!

目から鱗のセレクト術 取材しながら筆者も体験して見た

11月26日(日)、写真家の岡嶋和幸さんによるプリントセミナー「プリントすると写真が上手くなる! with Canon PIXUS PRO-100Sセミナー・体験会」が開催された。会場は兵庫県神戸市・メリケン波止場にあるギャラリー「meriken gallery&cafe」。主催はインプレス運営の写真サイト「GANREF」。

このイベントは、写真プリントの工程を通して、写真技術の向上を図る主旨のセミナー。「作品をプリントする」ことを前提に、撮影、セレクト、用紙選びに関する考え方や、写真プリントに関わる具体的な方法論を伝える。座学だけでなく、実際にプリントを行ない、選別と講評を受ける内容となっている。機材にはキヤノンの「PIXUS PRO-100S」を使用。

セミナーでは作品のセレクトを行なうことから、参加者は事前にJPEG撮って出しの写真を100枚用意してセミナーに臨んだ。そこから写真展に出す1枚を選ぶのが目標。

山崎えりこさんのセミナーに続き、筆者も一般参加者と同じ条件でセミナーに参加することができたので、参加者の視点でセミナーの内容をレポートしたい。

岡嶋和幸さん
参加者は1人につきPIXUS PRO-100Sを1台ずつ使えた。
現像用マシンとしては、マウスコンピューターのクリエイター向けノートパソコンDAIV-NG5720シリーズを使用。パフォーマンスとディスプレイの発色に優れている。

写真を大量のカードにするためにプリント

セミナー内容は大きく分けて「写真のセレクト」、「プリント」、「講評」の順で進行した。

写真セレクトのパートは、あらかじめ用意した100枚の写真をA4の写真用紙にインデックスプリントし、出力された写真を100枚のカード状に切り分けるところから始まった。岡嶋さんによれば、この作業には、撮影時の反省や復習の意味合いがあるという。

「インデックスプリントは、サムネイルと撮影時のデータを一緒に印刷する設定にしてもらっています。今回用意していただいた100枚の中には、成功した写真も失敗した写真も混ざっているはずですが、写真と一緒に撮影データが打ち出されていると、撮影時の状況とか、行動を思い出すきっかけになります。これは撮影時の反省点を洗い出すことにも役立ちますし、何よりも自分の写真と向き合う時間が長くなるのがメリットです」

Lightroom Classic CCとPrint Studio Proを連携させて写真を読み込む。
5×4のインデックスプリントを使って、持参した100枚の画像を縮めて一覧に出力する。
5枚のインデックスプリントが完成した。

「多くの人は、撮影直後に失敗写真を消してしまいますが、人間が失敗するのは当然で、むしろ失敗は経験なんです。失敗した写真の撮影データひとつ取っても『どうして失敗したのか』を省みることができるのです。失敗に向き合い、省みて、経験値を高めるというのは非常に重要なことなので、『失敗した』と思った写真をその場で消す習慣のある人は、改めた方がいいと思います」

完成したインデックスをカード状に切り分ける。
参加者の手元にはハサミが用意された。
切り終わったらシャッフルして20枚まで絞り込む作業をする。
最終的に5枚まで絞り込むように指示された。
筆者(左)も自分の写真100枚から選んで見た。
20枚まで絞り込まれた写真は、さらに絞るために岡嶋さんの指導を受ける。
岡嶋さんからのアドバイスもあった。

カード化した写真はまず、100枚から20枚まで絞り込むように指示された。そこからは5枚、最終的に1枚と、段階的に絞り込む流れ。直感的に、良いと思ったものを残し、ピンと来ないものは除外する。迷ったものはひとまず残す。これを複数回繰り返す。選び方は「どれかを外す」のではなく「どれかを選ぶ」。二者択一的に残したい写真を優先的に選んで、選ばれなかった方を外すという考え方だ。

だがインデックスプリントを切り離して作った100枚のカードは小さく、細かい写りを確認しながらセレクトをするには難しいように感じる。これについて岡嶋さんは、それこそが狙いなのだと話す。

「インデックスプリントの写真サイズだと、個々の写真の細部に目を向けようと思っても無理ですよね。だから、パッと見で選ばざるを得ないんです。作者は撮影時の状況や心情に関する情報を持ちすぎているので、選び方が主観的になりがちです。この主観性を排除し、できるだけ客観的な目で写真を選ぶために、このサイズにしています」

「写真を見る側にとってはそこにある写真がすべてであって、撮影者の思い入れは全然関係ないのですから」

消去法で引くのではなく、残したいという意識で写真を選ぶ。

また、そもそもPCの画面上でなく、プリントアウトしたものでセレクトを進める理由、そしてそのメリットについても言及した。

「PCの画面で写真を選ぶと、つい拡大して細部を見てしまいますよね。そのときに、ピントが甘かったり、ブレていたりすると、その時点でその写真を弾いてしまったりもします」

「でもそういったミスって、A4サイズ程度のプリントであれば、問題ないレベルだったりもするんです。写真全体の印象に目を向けずに、ごく一部だけをクローズアップして判断してしまうのは、実はすごくもったいないこと。仮に大伸ばしにする場合でも、展示する段になれば、見る人は離れて全体を見ようとするので、意外と気にならなかったりします」

「今日は最終的にベストな1枚の写真を選ぶ流れなのですが、これとは別の機会に、例えば組写真を展示する機会があるとしましょう。セレクトや構成を考える作業をするのには、PCの画面よりも、実際に机に写真を並べて、見せる順番を考える方がはるかに展示のイメージがしやすいんです」

20枚からさらに5枚まで枚数を絞る。

セレクトの段階で実際に手を動かして印象的だったのは、当初「これだ」と思っていた写真が、いざセレクトを始めてみると、次々に選別から落ちていったことだ。

今回、筆者は動物園で撮影した写真を持参したのだが、自分ではそれなりにいい感じに撮れたと思っていた写真をほかの写真と比較してみると、思っていた以上に「良くない」ことに気付いてしまった。もちろん自分の実力以上の写真は撮れるわけがないのだが、筆者の実力の範囲で比較してみても、特定の写真に対して、自分で考えていた以上に思い入れのバイアスがかかっていたことがわかった。

筆者が持ってきた写真のうち残った5枚。まさかこの組み合わせが残るとは自分でも予想もしていなかった。

そしてその一方で、選別の結果、思いもよらない写真が残ったことに面白さを感じた。これはディテールを確認できないカードサイズのプリントで写真を選んだからこそ得られた結果だという実感があり、主体性を排除するために、小さいプリントを使うことの有効性を肌で感じた次第だ。

「少しのミスを許容する」という話にも気づきがあった。考えてみれば、確かに写真展の展示などで大伸ばしになった作品を見るとき、その細部については思っていたよりかっちりと写っているわけではないと感じることがある。それよりも、作品そのものへの感動が勝ることの方が圧倒的に多く、良い作品に出会うと、多少の粗は気にならないということに改めて気付かされた。

ベストの1枚にたどり着くまでプリントを重ねる

次に、カードの束から選ばれた5枚をそれぞれ2L判にプリントする作業に入る。写真展に出品する1枚をこの5枚から選ぶパートだ。

2L判というある程度大きなプリントにしてのセレクトになるが、写真を選ぶ基本は同じ。客観的にプリントを見て判断する。その際、手元で見比べるのではなく、壁に貼るなど距離を置いてみる。こうするとより客観的に写真を見て判断できるのがわかった。岡嶋さんからのサジェスチョンはあるものの、1枚を決めるのはあくまでも自分だ。

5枚まで絞った写真を2L判の用紙にプリント。

2L判の写真5枚をホワイトボードに貼り出し、離れた位置から観てベストの1枚を決める。

いよいよ、セレクトで選ばれた1枚の写真をA4にプリントするパートに入った。ただA4にプリントするだけではなく、3種類の用紙にプリントして比較し、最も作品の意図を表したプリントを選出する。

3種類の用紙として「光沢 プロ[プラチナグレード]」、「微粒面光沢 ラスター」、「プレミアムマット」が用意された。用紙は自分の好みで選んでよいが、重要なのは、用紙の特性を理解し、特性に合わせて画像の調整を行なうことだという。

「光沢 プロ[プラチナグレード]」、「微粒面光沢 ラスター」、「プレミアムマット」の3種類の用紙を試せた。
Print Studio Proで余白設定をしているところ。中央の位置に固定したまま余白の広さを調整できる。

岡嶋さんは写真をプリントをするにあたり必ずやるべきことのひとつに「比較すること」を挙げている。

「ぼくは作品作りをする時、傾向の異なる複数の用紙に同じ写真をプリントしてみて、比較し、傾向を掴み、その後で膨大な種類の中から、自分の作品にあった用紙を選ぶようにしています。例えば同じ半光沢でも、紙の白さや光沢の具合が微妙に違ったりします。用紙を変えると、写真の発色とか、色の階調性とか、色んなものが想像以上に変わってくるんです」

「写真のセレクトも、画像処理も、プリントも比較をすることが大事です。比較対象がないと、どこをどう調整したらいいのかわからないですよね」

「例えばホワイトバランスに関して、今回の場合は、ラスター(半光沢)の白が一番青っぽくて、プレミアムマットが温かい感じです。これなら、調整しなければならない箇所が目に見えてわかります」

「コストはかかってしまっても、最初に複数の用紙にプリントして、細部の違いを見比べるようにしましょう。これがプリントや画質を見極める目を育てることに繋がります」

一般的なフローでは、まず写真を撮影して、画像調整をし、用紙を選んで、最終的にプリントを出力するというイメージだが、岡嶋さんはその「逆」の流れで撮影に臨んでいるという。

「ぼくは、作品を作るときにまず用紙を決めます。『このサイズの、この用紙で写真展をやるんだ』と決めたら、用紙に応じて気をつけるシーンや露出を想定し、画像処理はこういうことをやらなければならないから、こう撮ろう、というところまで最初に詰める必要はあります。だから撮影をするのは一番最後。一般的には『現場でどう撮る』から始まりますが、順番が逆なんです」

「プリントすることが前提にあるならば、実際に複数の紙へプリントしてみて、比較することで初めて画像処理でどこを調整すれば良いのかがわかるのです。たとえば特定の用紙で、あるところから階調が崩れれば、この紙ではコントラストを上げすぎなのだな、ということがわかるし、色が潰れるなら、彩度を上げすぎなんだという気づきになる。その事実を知っていれば、それらの条件を踏まえた撮影ができるということです」

「ここで一番大事なのは、良い光を捉えること、これに尽きます。逆に言えば、撮ったときの光の良さが活かせていないと、ほかの工程でどんなにリカバリーを試みても無駄に終わってしまう可能性が高い」

今回のセミナーでは画像処理の部分まで触れなられなかったが、参加者の作品に対しどの用紙が一番合うのか、といった部分までは比較できた。人によっては「色合いはマット紙が好みだが、階調は半光沢紙がいい」といった具合に、別々の用紙から長所を見出す場面も見られ、用紙の特徴を把握することと、比較の重要性について理解が深まったようだ。

マット紙のプリント前に印刷面の紙粉を取るためにブラシとブロワーで清掃をする。
ブロワーをかけているところ。細かいホコリは張り付いて意外と飛んでいかない。
用紙の違いによる見え方の違いの解説と、写真の講評を受けられた。
自分の作品について、用紙ごとの描写の違いを確認。
参加者同士、お互いの写真を見せ合って用紙の違いによる表現の差を話し合っていた。

実際に筆者も、3種類の用紙にプリントされた自分の写真を見て、明確にそれぞれの違いを実感できた。

例えば光沢紙では階調性が最も豊かに再現されたし、半光沢紙は高いコントラストと寒色寄りの白さが特徴的で、その一方マット紙は階調が狭く、暗部が浮き上がりがちで、暖色系の色合いに寄ることがわかった。

これは実際にプリントして比較しなければここまではっきりとはわからなかったことだし、それぞれ自分好みに調整する必要性を感じたのも確かだ。

セミナーのタイトルにある「プリントをすると写真が上手くなる」とは、実際にプリントした写真を比較し、それに合わせた用紙選びと、用紙の特徴に合わせた画像調整、そしてそれを踏まえた撮影に連なる一連のフローを実践することであることが理解できた。

筆者はあまり写真をプリントしない方だったが、今回のセミナーではプリントを通して、これまでなんとなくしか知らなかった写真の世界を垣間見ることができ、大いに興味を喚起された。しかし今回は同時に、レンズやボディだけでなく、用紙にまで沼があることを知った機会でもあり、どの世界もなかなか一筋縄ではいかないことを思い知った次第だ。

参加者の声

古塚明日人さん

写真のセレクトにL判を使っていますが、インデックスプリントを使って大量の写真から選ぶ方法は初めて体験しました。小さなイメージで判断されてしまうというのは正直、最初は腑に落ちなかったのですが、実際の写真を展示する場で、離れて見る感覚に近いというお話を伺って、とても納得しました。それと、今回のセレクトの仕方で写真を選んだ結果、別の機会に展示へ出したものとは違うものが最後に残ったというのが面白かったです。

用紙の選び方については、フィルムに近いものを感じました。種類もたくさんあって、特徴もそれぞれ違うし、色も違う。どう使いこなすのかを考えるところも、良く似ていますよね。とても勉強になりました。

谷村友紀さん

実はこの講座のことは別の受講者からお聞きしていて、予習していた部分もあったのですが、直感で写真を選ぶというのは、実際にやってみるとかなり予習と感覚が違っていました。思い入れのある写真をある意味諦めなければいけなかったのは、なかなか衝撃的な体験でした。

先に紙を選ぶというやり方も目からウロコでした。今まではお気に入りの写真がまずあって、その次に用紙を選んでいたので、そういうやり方もあったのか! と驚いています。

神田幸大さん

今までは撮るだけで満足していたのですが、今回初めて紙に出力してみて、こんなにも違いが出るのかと驚きました。また、先生が仰っていたプリントの微妙な違いというのも、正直なところあまり違いがわからなかったりもしたので、見る目を養う必要も感じました。

セレクトについては、まさに失敗したと感じた写真を消去してしまっていたので、これは自分の写真趣味を見直すきっかけになる気がしています。

阿部千那さん

同じデータでも、用紙ごとに発色がまったく違うところが面白かったです。ほかの方も仰っていますが、セレクトの作業では、自分の考えていた結果とは違うものが最後に残って、自分が思っているよりも自分の写真のことが解っているわけではないということを実感しました。

用紙も3種類使わせていただきましたが、これまで触れたことのないマット紙が意外と良かったので、これからも使おうかなと思っています。いい機会になりました。

都築由美さん

セレクトに関して、最初に自分がいいなと感じたものと、最後に残ったものがまったく違ったのが面白かったです。プリント用紙を選んだ際にも、それぞれかなりはっきり特徴が出たのが面白かったですね。ここまで違いが出るなら、積極的にプリントに取り組んでみてもいいかもしれない、と思いました。

平義由紀子さん

私は自宅にプリンターがないので、自分で焼いて勉強するのもアリだなと考えています。インデックスプリントを切って写真をセレクトするのも初めての経験でしたし、主観的な思いを捨てて選んだ最後の1枚も「これなんだ!」という意外性がありました。自分の写真に対する見方がかなり変わったと思います。

制作協力:キヤノン

関根慎一