イベントレポート

「プリントすると写真が上手くなる!セミナー・体験会」レポート

撮った写真をカードにしてセレクト 最終プリントはキヤノン PIXUS PRO-100Sで

講師の岡嶋和幸さん

11月5日、神保町にあるインプレスセミナールームにて、写真家の岡嶋和幸さんによるセミナー「プリントすると写真が上手くなる!with キヤノン PIXUS PRO-100S セミナー・体験会」が開催された。

昨年開催された「プリントすると写真が上手くなるって本当? with Canon PIXUS PRO-100S セミナー・体験会」が好評だったことを踏まえ、さらに内容を充実して今年も開催する運びとなったのである。

昨年を超える申し込みがあったため、残念ながら受講がかなわなかった方が多数でてしまったが、決して密室的な内容ではなく多くの方に知ってもらいたいことなので、ここで当日のセミナーの様子をレポートしたいと思う。

一人一台のPIXUS PRO-100Sが用意される

このセミナーの醍醐味は岡嶋さんの丁寧なレクチャーを受けながら、実際にプリント作業ができるところにある。講義時間である2時間半の間、みっちりプリント作業をすることになるので、準備された機材はどれも本格的なものばかりだ。

1人につき1台が用意されたプリンターはキヤノンの「PIXUS PRO-100S」。8色染料インクのプロフェッショナル向けプリンターだ。

交換インクやプリント用紙も十分に用意されていた。

PCはマウスコンピューターの「DAIV-NG5720」。ハイパフォーマンスなCPUにグラフィックスカード、15.6型のsRGB比95%の液晶パネルなどを搭載するクリエイター向けのラップトップ。高画素な画像を扱ってもサクサク動作してくれる。

さらに今回は、静電防止ブラシやブロアー、ハサミなども用意された。プリント作業のどこでこれらがどう使われるかは、後ほど分かるだろう。

100枚の画像をインデックスプリントする

今回のセミナーでは、参加者は撮って出しの画像データ(JPEG)を、あらかじめ100枚ほど運営サイドに送ることになっていた。カメラのメーカーや機種は問わないが、できるだけ失敗写真などを削除していない連番で提出するように注意されている。これは、連番になっていなかったり、RAW現像によるJPEG画像だったりすると、写真セレクトを重視するセミナーの内容に沿った実習を行えなくなる場合もあるからだという。

あらかじめ送られてきた画像は、参加者が使用するPCにあらかじめインストールされ、Adobe Lightroom Classic CCでサムネイル表示されていた。

そしていきなり本番が始まった。用意した100枚ほどの画像をインデックスプリントとして出力するように指示が伝えられたのだ。

プリント出力に使用するソフトウェアとして、今回使用したのはPIXUS PRO-100Sに付属して無償提供されるキヤノンの「Print Studio Pro」。

突然のプリント開始であったが、岡嶋さんが今回の内容に合わせたプリント設定を丁寧に教えてくれたため、初めてインクジェットプリンターを使うという参加者でもそれほど迷うことなく出力できていた。

今回のインデックスサイズは、A4サイズ用紙に4×5でプリント。ファイル名や露出などの撮影情報も一緒に表示して、セレクトの際、いつでも確認できるようにすることが重要。

インデックスプリントを1コマずつカット

インデックスプリントができたら、今度はハサミを使って1コマずつバラバラにカットする。

これは「フィルム写真ではコンタクトプリントやL判など小さなプリントですべての写真を同時にチェックしながらセレクトするのが当たり前です。選んだ写真はサイズを大きくしながらプリントして絞り込んでいきます。デジタル写真はPC上で閲覧できますが、プリントすればテーブルに並べたりして、もっと気軽に見ることができます。この手軽さ、快適さこそがセレクトではとても重要なのです」という岡嶋さんの方針に基づいたものだ。

確かに、全ての写真を小さなカード状にすれば、実物の写真を手に取って、並べたり組み替えたりが容易にできる。「PC画面では拡大が容易なので、つい細部まで気にしすぎて主観的になってしまい、肝心の写真がもつ雰囲気を見失いがちです。セレクトで大切なのは客観的な視点です。その点、カードサイズなら細部を気にしようがないので、必然的に素早く判断できるようになります」。

なるほどと納得すると、参加者の方々は直ぐに先ほど出力したインデックスプリントに、ハサミを入れだしたのだった。皆さんとても真剣でかつ楽しそう。

「比較的根気のいる作業ではありますが、自分で撮影した写真の1枚1枚と向き合う大切な時間でもあります。おのずと丁寧にカットしようという気持ちになりますよね?」と岡嶋さん。

100枚の写真から20枚を選ぶ

さて、インデックスプリントをカットしたらセレクトの開始である。あらかじめ用意した100枚のなかから20枚程度を選ぶ作業だ。

カットしたインデックスプリントを使って写真を選ぶ、とは言っても最初はなかなかどうやったらよいか分からないのが普通だろう。そこで、まずは岡嶋さん自らが実演して見せてくれた。

ポイントは、合格と不合格を判別するように、あくまで直感的に感覚で振り分けていくこと。合格を振り分けたら、同じ要領で、その中からまた合格を直感的に振り分けていく。これを繰り返すうちに自然と写真を見る目が養われるため、20枚が選ばれるまでにはかなりセレクトの精度が上がっていくことになる。

ちなみに、実演で見せてくれた岡嶋さんの選択スピードはものすごく速く、タタタタという感じで写真が振り分けられていく。もちろん、慣れないうちからそのスピードでセレクトする必要はないが、プロが写真をセレクトするときのスピード感を目の当たりにできるだけでも参加した甲斐があったというものではないだろうか。

岡嶋さんの説明を聞いた受講者の方々も、なかなかの速さで写真をセレクトしていた。

20枚の写真から5枚を選ぶ

バリバリと写真を20枚まで選んだら、次はさらに5枚にまでセレクトする作業である。100枚から20枚へのセレクトを1次選考とするなら、この5枚へのセレクトは2次選考と言うことになるだろう。

なお、ここまでの20枚にする作業は基本的に各人の自由に任されていたが(質問がある場合は必要に応じて説明があった)、ここからは岡嶋さんが個別にセレクトの相談に応じるスタイルに変わる。

その理由を岡嶋さんに訊ねると「100枚から20枚までは比較的容易にセレクトできますが、20枚までくると思い入れの強い良い写真ばかりになります。そうなると撮影者は選びあぐねてしまうので、1人1人の写真を見ながらアドバイスするようにしました」とのこと。なるほど、これも納得、とても丁寧だ。

1人1人の写真については、それぞれに個性があるため、ここで具体的なセレクト方法を紹介することはできないが(参加型セミナーのいいところ)、20枚のなかから同じようなシーンや構図、光で撮影した写真はグループとして分け、グループの中で自分が良いと感じる1枚を選んでいくのが基本とされていた。この時も大切なのはやはり直感的な感性。これを繰り返していくことで、多くの参加者が最後には自然と5枚程度を残していたのですごいと思った。

5枚の写真を2Lでプリントし1枚を選ぶ

5枚までセレクトできたところで見やすく選びやすくするために、少し大きめの2L判でプリントする。

選んだ写真と違う写真をプリントしてしまわないように注意が必要だが、インデックスプリントを出力する際に、ファイル名や撮影情報も一緒に印字してあるので、間違えてしまう心配はほとんどない。まだセレクトは残っているため、同じ理由で2L判プリントにもファイル名や撮影情報を一緒に印字する。

2L判という大きさ5枚程度は、床に並べて俯瞰気味で全体を見たり、手に取って見比べたりするなど、いろいろ応用の利くサイズであるが、今回は壁(ホワイトボード)に並べて貼る方法がとられた。

岡嶋さんが言うには、近づいたり離れたりしながら距離の調整がしやすいため、最も客観的に写真を見ることができる最適な方法だと言う。

いよいよ1枚を選ぶという、いわば最終選考の段階なので、皆さん一段と真剣な表情で写真と向き合っていた。なぜこの写真を選ぶのか?何が原因で悩んでしまうのか? 自分が表現したい写真とは何か?など、岡嶋さんのアドバイスを受けながら、100枚のうちから1枚が決まっていったのだった。

3種類のA4サイズ用紙を使ってプリントする

ベストショットが決定したところでようやく本番プリントと思いきや、実はまだ違う。よく「プリント用紙を変えると写真が変わる」と言うが、今回はまさにその意味を参加者に実体験してもらおうという趣向だ。

という訳で、紙質の異なる3種類のキヤノン純正用紙、「光沢 プロ [プラチナグレード]」・「微粒面光沢 ラスター」・「プレミアムマット」を使ってプリント。用紙サイズはさらに大きなA4サイズである。

用紙ごとにプリンター設定は変わるため再び丁寧な説明がなされる。プリント初体験の方は、ここで「用紙が変わると設定や給紙方法も変わる」と言うことを学ぶことができる。

A4サイズの段階になると、Print Studio Proのレイアウトタブを使い、プリントに「余白」を付けることが指示され、その使い方が説明された。

Print Studio Proは、余白の幅や写真の位置を自由に設定できるが、今回の推奨設定は、写真を中央にして余白を30mm以上にすること。自動的に中央が固定され、そのままドラッグで余白を調整できる。設定は簡単だ。

ほとんどの参加者は、プリントに余白を簡単につけられることを始めて知り、驚いていた。

また、プレミアムマットを使う場合の注意点の説明もあった。プレミアムマットは厚手のアート紙と呼ばれるタイプの用紙で、ブロアーやブラシで付着している紙屑を払ってから給紙する必要がある。

一通り準備ができたところで、3種類のA4サイズ用紙でプリントを開始。

写真では分かりにくいが、出力されたプリントは言われる通り用紙によって全く異なるイメージで出てきたため、会場のあちこちで驚きの声が上がっていた。

A4プリントが出揃ったところで、再びセレクト。今度は、同じ写真が用紙の違いで異なるイメージを選ぶセレクトだ。選んだ写真が、どの用紙だと自分が表現したいイメージに合うのかを考えるのである。

実は、あらかじめ100枚の写真を送る時、「撮って出しのJPEG画像」が条件だった理由はここにある。最終的に選んだ1枚の写真がどのプリント用紙で出力するのが適切か、それを見極めてから、初めてどのような画像処理を施し、仕上げていくべきかを考えるようにするためだ。そのためには写真をプリントすることが大前提となる。

『プリントをすると写真と向き合う時間が長くなり、撮影時の観察力や判断力が高くなります。写真を見返すことで反省点に気づき、次のセレクト、そしてセレクト後の画像処理やプリントの方向性が見えてくるようになります。「撮る」・「選ぶ」・「見せる」の繰り返しから生まれる相乗効果によって写真は上手くなります。「選ぶ」時と「見せる」時は必ずプリントしますよね、プリントすると写真が上手くなるというのはそういうことなんですよ』

そんな岡嶋さんの言葉を最後に、セミナーは無事に終了したのだった。

参加者の声

萱野いつきさん

写真の展示会などに出させてもらうことがあるのですが、プリントは自分でなくお店に出していました。セレクトやレタッチといわれてもよく分からず困っていましたけど、今日みたいに小さなプリントで全部の写真を出してセレクトするのは分かりやすくていいなと思いました。そして、今日のプリンター(PIXUS PRO-100S)でプリントした写真の色がすごく綺麗。用紙の違いでこんなに写真が変わるものかと驚きだったので、ラスター用紙と一緒にプリンターが欲しくなってしまいました。体験会に参加できて本当によかったです。

飛田野麻衣さん

せっかくミラーレスカメラで写真を撮ってもSNSにアップして終わっていましたので、ちゃんとプリントしたいと思い参加しました。今日みたいに写真を選ぶというのもほとんど初めてだったので、必死になってしまいましたけど、その分とても楽しかったです。岡嶋先生の言う通り、今までははじめにピントや明るさで写真を選んで他を削除してしまっていましたけど、逆だということがよく分かりました。これからは撮った写真はきちんと保存して、セレクトして、プリントしてみたいです。

鈴木久仁子さん

写真を撮るのは好きなのですが、自宅のプリンターで写真をプリントするというのは、あまり積極的でなかったというのが正直なところです。でも、PIXUS PRO-100Sは早くて静かで綺麗でいいですね。書類しか印刷しないわが家のプリンターとは大違いだってことが分かりました。PC上で大きくして写真を選ぶものだと思っていましたが、それだと結局選べなくなってしまっていました。色々なことを教えてもらえたので、これを活かしてプリントにも挑戦していきたいと思います。

T.K.さん

写真は友人と撮りに行ったり一人で撮りに行ったりと大好きです。プリンターにも興味はありましたけど、機械の知識がないのでどのプリンターを買えばいいのか迷っていました。場所の問題もありますけど、やっぱりPIXUS PRO-100Sいいですね!今日の岡嶋先生のセレクト方法は、プリントの大切さが理解できて、とても勉強になりました。プリンターを買ったらフォトコンなどにも応募してみたいと思います。

くるみさん

写真教室に通ったり、仲間とやるグループ展に参加したりなどしています。ですけど、お店で端末を使ったプリントが主だったので、ちゃんと自分でプリントしてみたいなと考えていました。セレクトも具体的な方法を知りたかったので、今回のセミナーに応募しました。小さなプリントで直感的に選んでいくという今日のセレクト方は、始めは難しく感じましたけど、慣れてくるとPCでやるより感覚的で分かりやすかったです。プリントでないとセレクトは上手くできないと分かりました。次の展示にも生かしていきたいと思います。

石井太壱さん

高校生の頃から鉄道を始めとした写真が趣味でしたけど、撮った写真はPCモニターで見て楽しむだけでプリントは何もしない状態でした。今日、プリントとセレクトを体験したことで初めて自分の写真と向き合い、撮るときにもっとこうすればよかったという反省点が次々に見えてきました。プリントの大切さが分かって世界が広がった思いです。これまでは、カメラやレンズにお金がかかってしまい、プリンターが後手になってしまっていましたが、これからはプリンターや用紙にも投資できるよう頑張りたいです。

制作協力:キヤノン

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。