新製品レビュー
Nikon NIKKOR Z 85mm f/1.8 S
Zマウントの本命ポートレートレンズ Z 50での作例も
2019年12月31日 12:00
2019年9月にニコンより発売された「NIKKOR Z 85mm f/1.8 S」はミラーレスカメラ Z シリーズ専用の大口径中望遠レンズだ。ポートレート撮影においては最も使用頻度の高い単焦点レンズの登場となる。
このレンズの登場により、ポートレート「三種の神器」に喩えられる35mm・50mm・85mmの単焦点レンズが開放F値F1.8のシリーズとして揃うことになる。発売されてから、いくらか時間が経っているが、その魅力や素晴らしさ、そして実力をフルサイズ機Z 6を中心に改めて見ていこう。最新機種Z 50での撮影もおこなっているので、ぜひあわせてご覧いただきたい。
外観と特徴
本レンズは、伝統的なニコンの設計思想と厳格化した品質のNIKKOR Zレンズの中でも更に高い最高クラス「S-Line」に属する1本だ。レンズの構成はEDレンズを2枚含む8群12枚で、9枚の円形絞りを採用。フィルター径は67mmとなっている。
特徴としては「マルチフォーカス方式」を採用し、AFの高速化・静音化に加えて全域で収差を排除した高い結像性能を得られることが挙げられる。
このほか、レンズコーティングにはナノクリスタルコートを採用。これによる逆光耐性の強化や高解像化は逆光ライティングなどの多いポートレートで、とても心強い。
デザイン・操作性
レンズ本体はNIKKOR Zシリーズ共通のデザインで金属鏡筒が採用されている。防塵防滴仕様、ボディ内手ぶれ補正機能により本レンズでは手振れ防止機能非搭載で重量も470gと、金属を使用している割によく抑えられている。スイッチ類は適度なかたさを残した[A-M]の切替だけでとてもシンプルな構造になっている。
一般的に「フォーカスリング」に相当するコントロールリングのトルク感も心地よい。僕はAFとマニュアルを常に併用しているのでフォーカスリングとして使用しているが、AFのみで使用している場合などでは、このコントロールリングに絞り・露出補正・ISO感度を変更できる機能を割り当てることが出来る。
特に絞り優先オート(Aモード)で撮影する事が多いポートレートでは、コントロールリングに露出補正機能を割り当てると便利だ。画面を見ながらコントロールリングを回転させることで明るさを変更(補性をかける)できるようになるため、ボケなどのイメージはそのままに、明るさだけを調整したい場合に便利だ。
設定の方法はMENU→カスタムメニュー→f(操作)→カスタムボタンの機能に入る。ここで設定の変更が可能だ。
また、本レンズのコントロールリングは鏡筒の半分以上を占める、ひじょうに広い幅が確保されている。ホールド時にバランスをとる際に、レンズの先端もしくはボディ側のどちらかに寄った持ち方をしても、操作が可能となっている。シンプルなデザインだが、だからこその使い勝手が追求されているといえようか。
フードは円筒形のデザインを採用している。深さがあるため遮光効果の高さも期待できる。取り付けの硬さも中庸で程よくセットでき扱いやすいと感じる。もちろん落下の心配もない。装着時は全長が長めになるが、収納時には逆付けできるので携行性が犠牲になるということもない。
作例
それでは写真を見て頂きたい。今回の撮影は模範的な作例撮影というより「白飛びも黒つぶれも場合によってはやむなし」という心持ちで普段僕が一般の雑誌などで撮影しているスタイルで自由に撮影している。
まず発色や色再現についてみていこう。Z 6の評価にもつながる内容だが、シーンにシンクロした素直な発色でバランスもよく、リアルな再現性がすばらしい。クリアな再現性こそがこのレンズの持つポテンシャルであり、最大の強みだとも言える。
次に、前ボケたっぷりに最短撮影距離0.8mいっぱいにグイグイ寄ってみた。描写はご覧の通りでピントはシャープに結び、肌の質感や頬の凹凸感などもリアルに再現されている。奥に向かうボケのつながりも滑らかで美しい。
非常に高解像でバストアップのサイズの引きにもかかわらず産毛や木目まで解像してしまうレベルの高さだ。撮影当日は天気も良くコントラストが立って見えるが、日陰や曇りなどでの撮影でも高い画質をキープしていた。
どこにモデルを配置してもその高い画質は変わらない。配置場所による誇張などなく、周辺部に至るまでナチュラルな描写は、通常のポートレート撮影はもちろんアオリや、俯瞰など通常の目線と異なった表現の多いタレント撮影でもとても重宝する。
カメラ性能がどんなに高くても、目となるレンズが解像しないと微細な表現は望むべくもない。
撮影時の状況は感度をISO 5000に設定しなければならないほどの低照度なシーンだったけれども、モデルの黒いニットのディテールを描き出すことができた。この見事な解像は、まさにレンズの持つ明るさと性能の高さの証だ。
逆光はポートレート撮影の鉄板ライティングだ。さまざまな角度からレンズに強い光が差し込んでくるこの条件では、フレアやフリンジなどの発生がコントラストの低下を招くなど、画質を損なう要因になってくる。
こうした厳しい撮影条件下であっても、本レンズに施されたナノクリスタルコーティングの効果と恩恵には本当に驚かされる。写真を見ていただければ分かるとおり、コントラストを下げる滲みも出にくく、密度の濃い色表現が出来た。
このレンズの大きな特徴は滑らかなボケだ。髪の毛の軟らかなボケ、奥の葉や幹のボケもざわつく事なくしっとりと再現されている。是非絞り開放でこのレンズの持つボケを楽しんで欲しい。
夜撮影でもモデルのテンションを維持しながら撮影したいならある程度のリズムで撮り進めたい。そのための手持ち撮影は非常に有効だ。夜や悪天候など、光量的なハンディーが高い現場では絞り値の明るいレンズは本当に頼りになる。
焦点距離85mmのレンズは歪みが少なく圧縮効果も控えめで、背景や、状況を絡めやすいといった利点がある。
どんな距離変化に対しても迷いのない素早いフォーカシングはマルチフォーカスの恩恵だろうか。ポートレート撮影は思っている以上に短い間隔で目まぐるしく変化していく。ストレスのないフォーカススピードとキレの良い写りは、たいへん頼もしい。
引きであっても開放絞りから満足できる写りをするレンズの描写は表現のレンジが広い。絞りを変えながら撮影していった。バストアップでは変化率が小さかったボケも、全身が入るほどの距離まで引いて撮影すると、その変化量が観察しやすい。
ここではF1.8→F2.8→F4・F1.8→F2.5→F3.5→F4と、F1.8からF4まで段階的に絞っていった。絞るにしたがって背景の木々の輪郭がはっきりしてくることがお分りいただけることだろう。絞りを決めるポイントは、背景をボカす、モデルはクリアに写して背景はややボカす、全てクリアに写すなど、自身の求める見え方になる絞り値を見つける事がポイントだ。
Z50では換算135mm前後になる
最新機種Z 50でも撮影してみた。APS-Cサイズセンサーを採用している機種なので、換算すると127mm相当の焦点距離となる。135mmの画角に近くなるため、背景がより整理しやすくなった。Z 50の瞳AFも機敏に動き日中の撮影、夜の撮影ともにZ 6に迫るほぼ遜色ない安定した描写が得られた。
まとめ
一言でいうと「S-Line」は侮れない。ポートレート向けのレンズをポートレートで検証しようと一日を通して色々な場所で撮影したが、どのシーンも本当に素晴らしい描写で、本レンズのポテンシャルの高さが実感された。日中の撮影では逆光を多用してみたが、髪の毛のハイライトなどに発生しがちなフリンジなどもほぼ出る事なく、高い描写クオリティーが維持されており、気持ちの良い写りが得られた。
今回はZ 6とZ 50との組み合わせで撮影に臨んだが、85mmと135mm相当の焦点距離の2役に変化させることができるところも、35mm判フルサイズ機とAPS-C機で共通のマウントを採用するZマウントならではの魅力だといえよう。2台持ちでもZ 50はより軽量小型なので、Z 6のサブ機としても負担にならない。
Zマウントのオーナーで、ポートレートを楽しんでいるなら是非持つべき、オススメしたい1本だ。もちろんFマウントのレンズもすばらしいが、やはり新しい設計のレンズは更に高いレベルの描写を見せつけてくる。僕もそこにやられて自腹で購入した。今最も使用率の高いレンズであることをお伝えしておきたい。
モデル:青山明日香(プラチナムプロダクション)