COSINA E-mount WORLD
大村祐里子×NOKTON 21mm F1.4 Aspherical E-mount
標準レンズみたいに常用できる超広角
2019年8月20日 07:00
月刊誌「デジタルカメラマガジン」と連動した本特集は、コシナ・フォクトレンダーがラインナップするソニーEマウント用レンズの個性を写真家とともに見ていく。今回は超広角の大口径レンズ「NOKTON 21mm F1.4 Aspherical E-mount」を、大村祐里子さんのスナップ作品とインプレッションで紹介する。(編集部)
スナップをするならば断然広角派だ。目に見える範囲がきっちり写ると気持ちが良い。ただ、28mm相当の自分の視野よりも少しだけ広い画角のレンズを使うと、見えなかった部分までが写るのでシャッターを切るごとに新たな発見があり、純粋に「写真ってたのしい!」と思える。その理由から、最近スナップをするときのお気に入りの画角は20mm前後だ。今回のNOKTON 21mm F1.4 Aspherical E-mountは、そんな自分にぴったりの画角だったので、使用前からワクワクが止まらなかった。
このレンズはMF専用だが、クラシックカメラ愛好家の私は普段からMFレンズに慣れ親しんでいるので、むしろ好都合だ、と思った。αのピント拡大やMFアシストを併せて使えば、ピントを外す心配もほとんどない。MFレンズは、一枚一枚を大切にしながら、自分のペースでじっくりと被写体に向き合えるところが良い。
真夏の撮影だったので、写真には思いっきり夏らしさを出したかった。ただ、レンズが21mmと超広角なので、場所に関しては広い絵の撮りやすいところが良いと思った。夏らしく、海も山も建物も撮れる場所……と考えたとき、脳裏に浮かんだのが江ノ島だった。
真夏の江ノ島へ
頂上まで楽にアクセスできるエスカレーター。ドーム型かつメタリックな内部が宇宙船のようで面白いと思った。水平をあえて崩し、宇宙船の中を回転しながら進んでいくような雰囲気に仕上げた。こういうときに、21mmという超広角は建物内の様子をまるごと写せて気持ちが良いし、何の変哲もない景色を、一気に非現実的なものに変えられるので楽しい。
おみくじの鮮やかな赤色に惹かれて近づいてみた。最短撮影距離は25cmと、寄りたいときにぐっと寄れるのが嬉しい。手前を大きくぼかし、奥のおみくじにピントを合わせて、画面に奥行きを出してみた。前ボケは非常にナチュラルでクセがなく、絵全体は自然な仕上がりだ。レンズの色ノリがとても良く、自分が現場で感じた鮮やかな赤をそのまま写し取れたように思う。
池のわきに置いてあったザルにピントを合わせ、背景の池までフレーム内に収めて撮影した。これぞ、ザ・広角の絵であり、写真って面白いなと思う瞬間でもある。さらに、このレンズはビックリするくらい歪みが少なく、本来ならばグニャリと歪んでしまいそうな手前のザルも、背景も、ほとんど歪んでいない。目の前の光景をそのまま切り取れた、といっても過言ではない。歪みを気にせず標準レンズの延長のような感覚で使えるのが、本レンズの良いところだ。
コントラストの高い描写もこのレンズの特徴だ。ハイライトはヌケが良く、シャドウ部はぐっと締まる。言葉にするならば「リッチな写り」をしてくれる。こういった明暗差のある絵は大得意だ。青い屋根の小屋も、背後の草木も、リッチな写りにより、存在感がさらに強調されているように思う。
猛暑の中、クーラーボックスの中に見えたソフトクリームが冷たくて美味しそうだった。絞り開放にして、ソフトクリームにピントを合わせてシャッターを切った。21mmという超広角の場合、ある程度引いた状態で絞り開放にして撮影をすると、状況がわかる程度に周囲がぼけながらも、撮影者の視点がはっきりと見えるような仕上がりになる。
鮮やかな緑とオレンジの番傘をバックに、ひらひらとはためく2枚ののぼりが夏らしくて良いなと思ったので、そのすべてが収まるようなフレーミングで撮影をした。クリアな発色が、現場で感じた色の鮮やかさをそのままに表現してくれた。のぼりは風にあおられ、かなりのスピードであちこち動いていたが、αのMFアシストを使ったのでしっかりピント合わせができた。おかげで、のぼりがいい感じに重なった、狙いどおりの構図となった。
展望台に登る途中、階段の隙間から見える階下が幾何学模様のようで面白かったので、下を覗き込みながらシャッターを切った。21mmという画角は、真下を向けば自分の足元が写るくらい広い。それが魅力だ。日常的な光景をデザイン的な絵に仕上げることができる。
展望台から、江ノ島の入口付近を眺めてみた。島、橋、そして向こう側の街、すべてを写し取りたいと思ったので、F8まで絞った。橋のたもとの浜で遊ぶ人々や、建物のひとつひとつまでシャープに描写されていて、気持ちが良い1枚になった。
お店の入り口にあったビールサーバー。水滴の質感が夏らしくて良かったので、思わずシャッターを切った。水滴に注目したので絞り開放にして水滴にピントを合わせたが、21mmという画角は周囲の状況までしっかり写し取れる。水滴だけではなく、あくまで「店内の入り口付近にあるビールサーバーの水滴」を写したかったので、狙い通りの絵に仕上げることができた。
海に複数のヨットが水平に並んでいる様子がおもちゃのようで可愛らしく、絞り開放にしてヨットにピントを合わせて撮影した。周辺部の光量はわりと落ちるが、効果としてはアリかと思う。自然と、ヨットに視線がいく。
フェンス越しに海を眺める人のオレンジ色の服と、青い海の対比が良いと思った。超広角なのにほとんど歪まないので、海やフェンスといった直線が多い絵も、極めて自然に仕上げられる。
これも、コントラストの高い描写が特徴の本レンズが得意な絵だ。青緑色の海面に浮かぶ白い波紋をくっきりと写せた。
空を見上げると、電灯の上で休むカモメが目に入った。それだけではさみしかったので、太陽もフレーム内に入れてみた。12枚羽根の綺麗な光条が、絵全体のアクセントになってくれた。
歪まず、寄れる。常用可能な超広角
使ってみて大変気に入ったのは、MFレンズの命ともいえるフォーカスリングの回し心地だ。やや重めだが滑らかな操作感が、繊細なピント合わせを可能にしてくれた。おかげで、自分の視点を細やかに、かつ明確に表現できたように思う。
11群13枚というレンズ構成ゆえ多少のずっしり感はあるが、αと相性の良いサイズのためホールドしやすく、その重みで疲れることはなかった。さらに、カメラボディ側の5軸手ブレ補正に対応しているので、シャッター速度が遅くても手ブレの心配は最小限で済む。
コントラストが高く、絵そのものをリッチに仕上げてくれるような描写は、どのようなシーンでも目の前の光景を力強く切り取ってくれる。絞れば気持ちが良いくらいシャープで、開放で寄れば被写体の存在感をぐっと強調できる。最短撮影距離も25cmと短く、パースペクティブを生かした広い絵から、寄った絵まで幅広くカバーできる。
歪みがほとんどなく、標準レンズの延長のような気持ちで使えるので、単焦点の常用広角レンズをお探しの方にはぴったりの1本だ。視野より広い21mmという画角は、中上級者にもカットごとに新鮮な驚きと発見をもたらしてくれる。撮影がマンネリ化していると感じている人にも是非使ってほしい。
協力:株式会社コシナ