赤城耕一の「アカギカメラ」
第101回:3本の単焦点レンズで愉しむ「LUMIX S9」との付き合い方
2024年9月5日 07:00
フルサイズのLUMIX Sシリーズの中では最小最軽量のLUMIX S9。発表時からずっと気になっていました。ところが当初は作例写真問題もあり、少し距離を置いてみていました。もっともこの問題はS9自体に罪があるわけではありませんし、今回、落ち着いたところで、気分を一新して試用してみることにしました。
S9はフラットタイプのデザイン、LUMIXシリーズ最小最軽量ということで筆者の理想とするミラーレス機に近いものがあります。
動画の分野ではおなじみの「LUT」が「リアルタイムLUT」設定が気軽に使えるようになったこともS9の特性であると強くアナウンスされています。
筆者と一緒に撮影現場を共にすることが多い動画カメラマンがS9のLUTを褒めていたので、そうなのかと思っておりましたが、背面に独立した「LUT」ボタンがあることでアプローチが簡便になっていることがわかります。
専用のスマートフォンアプリの「LUMIX Lab」を連携させることでもLUTの設定を行うことができます。これまでのお仕着せの色彩表現に飽きたクリエイターには歓迎されるわけですね。
カメラ内RAW現像でもPCでもLUTの反映やコントロールはできますが、現場で効果を確認しながら撮影をすすめることができるのはありがたいことです。
さらに2つのLUTを重ね合わせマイフォトスタイルとして記憶することもできますが、各種のパラメーターのコントロールや、濃度の変化も同時に行うことで、オリジナルの色彩表現を追求したい人は積極的に研究してみる価値はあります。ただ、筆者は「フォトスタイル」の使いこなしだけでも手一杯で、LUTを自在に操るまで昇華していません。自由が広がると同時に迷いも広がるわけです。どうも年寄りの感性の鈍さが出てきているようです。
筆者自身、特別に35mmフルサイズであることにこだわるわけではありません。小型軽量をひたすら追求するなら、小さなフォーマットのカメラを選択すれば解決ということになりますが、現役でフィルムカメラを使用していることもあり、“フルサイズの亡霊” が時おり部屋の隅から顔を出してきます。
S9はLマウント採用によるライカとの整合感が強く、センサー前のカバーガラスが薄いので、フィルム時代の各種レンズを使う場合もポテンシャルを引き出しやすいのではないかという期待を持つことができますし、気持ちの余裕が生まれるというわけです。
S9、最初に手にした感じは、そんなに小さくねえな。という印象でありました。見かけよりもしっかりとした重量感を感じますし、凝縮された印象です。
部屋で眺めているぶんには問題ないのですが、外に連れ出すと、グリップがないこともあり、少し長めのレンズをつけてしまうと長時間手にして歩くには不安を感じます。
ここはサードパーティ以外にも純正のしっかりしたグリップが欲しいところですが、そうなると携行性は犠牲になるのかな。カメラの握りやすさと携行、収納性の両立は難しいところですよね。
兄貴分のLUMIX S5IIXと並べてみますと、グリップとファインダーがなければ、カメラは小さくすることができるのだということがよく理解することができます。
ただしですね、とくにカメラにファインダーがあるかないか、このことで大きな分かれ目になるところなることを今回思い知らされました。被写体の選択から変わってきてしまうからです。
このことはS9の登場に合わせて用意されたLUMIX 26mm F8を使用してみると実感することができます。本レンズはなかなかに変態的な仕様であります。
変態の大きな理由はMFであること、絞りがF8に固定されているからであります。コストを下げることを第1の目標としているのでしょうか。あるいは操作を楽しんでもらおうということが目的なのでしょうか。それとも徹底して、薄いパンケーキタイプにして、本レンズを装着したS9全体を小さくみせようということが目標なのかもしれませんが、本レンズを装着したS9のスタイリングはなかなかのものです。
ただし、26mmの焦点距離とF値、しかもMFレンズならば、距離指標と被写界深度指標を使用して、目測設定で撮影するのが基本になります。ところが、本レンズを装着したS9を使用してみると、距離指標が大胆に省略されていることが筆者的にはかなり負担というか、ワークフローの上で大きな問題となりました。
あたりまえですが、MFでのフォーカシングはS9の背面LCDを頼りにすることが必然となるわけですが、日中晴天下では周囲が明るすぎるので表示画像を鮮明に見ることができないのです。
周囲が明るくてもなんとかLCDでフレーミングすることはできるのですが、今回はライカの28mmの単体ファインダーも装着してフレーミングを試みました。フレーミングは問題なくなるのですが、正確なフォーカシングをしようと思うと明るい場所ではハードルが高くなるわけです。
ピーキングもありますし、表示画像の一部分を拡大することは可能ですから、LCD周囲を覆うなどして、周辺の明るさをカットすることができるのならば、精度の高いフォーカシングは可能になるでしょう。筆者は使用したことはありませんが、LCDにとりつけるフードがサードパーティから発売されていますよね。
けれど、そんな所作をしているうちに被写体はレンズの前からいなくなってしまいそうです。26mm F8レンズにもう少し細かい距離指標がありさえすれば、目測による距離設定でフォーカス時間0秒で撮影することができるのですが。
かつてLUMIXのGシリーズにGM1という本機のようにファインダーを省略した小型軽量のモデルがありました。筆者の大好きなカメラですが、のちにほとんど大きさを変えないままファインダーを内蔵したGM5が登場しました。S9のサイズとさほど変わらない大きさでファインダーを内蔵することはパナソニックの優れた技術をもってすれば可能だと思うのですが、どうなのでしょうか。
筆者はフラットタイプのミラーレス機だと、最近はソニーのα7CRの使用頻度が高くなっています。
撮影条件にもよるのですが、だいたい背面LCDを7割、内蔵ファインダー3割くらいの使用比率で撮影しています。内蔵ファインダーの見やすさや性能云々よりも、フレーミングの正確さやMF時のフォーカスの精度のためにファインダーを使用しているわけです。
とはいえ、LUMIX26mm F8がAFレンズであったとしたら、ここまでS9のファインダーの有無に固執はしなかったもしれませんね。
本レンズの光学性能がとても優秀であるということも、フォーカシングのこだわりにつながるのかもしれません。つまり、本来のポテンシャルを最大に活かしたいという要求が生まれるからです。一般的には光学性能が優秀なレンズほど合焦点が鋭く、わずかなピンボケも気になるからです。筆者もそのことは思いしらされました。意外に26mmレンズの被写界深度は浅いということを。
28mm相当の画角を得ることのできるRICOH GR IIIでは、主に外付けの簡易的な光学ファインダーでフレーミングをこなしていますが、フォーカスはAFまかせなので、明るい場所でもさほど不満を感じなくなるわけです。
もちろんこれも完全ではありませんから、時としてこちらの思惑と外れることもあるのです。だから、そういう意味ではレンズにアバウトな距離指標を入れるよりも、レンズをAF化してしまうほうが話は早いかもしれませんね。
ということで、今回のS9の試用にあたっては、早々とMFのフォーカシングに挫折してしまい、AFレンズ、それも小型軽量の単焦点レンズを主に使いました。LUMIX 50mm F1.8とSIGMA 24mm F3.5 DG DN|Contemporaryであります。
もうね、はっきり申し上げて、小型軽量の単焦点AFレンズとS9の組み合わせはものすごく軽快かつ気持ちよく使用することができます。人間は素直ですね26mmの百倍はシャッター切りましたもん(笑)。
S9の撮像素子は、有効約2,420万画素のCMOSセンサーです。LUMIX S5IIやS5IIXと同等です。画質に対する論評はもう不要なんじゃないですかねえ。
ISO 100~51200と幅広い常用感度も魅力です。さらに小さなボディながらもボディ内手ブレ補正機構(B.I.S)を内蔵しており、ボディ単体で最大5.0段、レンズ側と協調する「Dual I.S. 2」では最大6.5段までいけるようです。すばらしい。
高感度領域に強く、かつ手ブレ補正に手厚いということならば、フラッシュなんか要らないじゃん、という考え方も最近はあるのかもしれませんが、筆者の場合は写真は現実とは別世界としてみせたいという要求もあり、街中のスナップショットでも、フラッシュを発光させることでシャドー部に隠れていたモノを暴き出すという手法も表現として使うことがよくあります。
S9はその基本は動画に軸足が置かれたコンセプトのもとに誕生していることがわかります。アクセサリーシューには電子接点がない、“コールドシュー” タイプを採用していますし、フラッシュ用のコネクターも見当たらないですねえ。ストロボを使うことを考えていないことは、メカシャッターを省略していることからも伝わります。ですからS9のこの動画に特化した仕様は正直、個人的には愉快には感じませんでした。
筆者は動画撮影の場合には35mmフルサイズのフォーマットのカメラより、LUMIX Gシリーズのようなマイクロフォーサーズフォーマットのほうが撮影時の歩留まりもよく、画像も取り扱いやすく、のちの作業効率も便利なのではと考えています。
これは個人の好みというか、年寄りの硬直した考え方なのでしょうが、静止画と同様に35mmフルサイズの画質がクリアでボケも生かしやすいことは間違いありませんが、カメラの機能が進化したので、さあ、お気軽に撮れますよという割り切った解釈ができないわけです。どうもすみません。
もし仮にS9で本気で動画に取り組むとなればコールドシューにモニターやらマイクやらの動画用のアクセサリーを装着し、それなりの用意をして挑むことになると思います。そうなれば、上位機種と大して変わらない姿、雰囲気になりそうであります。先の26mmレンズを装着したお気軽でシンプルなS9の姿とはほど遠くなることでしょう。LUMIXでの動画撮影はLUMIX G9PROIIに任せています。
結論をいえばS9はフラットタイプの小型ミラーレス機という観点では画質や取り回しなど最高の部類に属します。何よりも、筆者はカメラの価値を、まずは見た目で判断しますので、デザインの観点からみてもじつに魅力的にみえました。
ただ、筆者の仕事や使い方ではフラッシュが使用できることが必須でありますし、視認性能はそこそこでも、カメラが大きくならない程度で、ファインダーを内蔵、あるいは外付けのファインダーを用意していただければ、MFのフォーカシングやフレーミングを正確に行うことができます。これはS9後継機、あるいは兄弟機の登場を待ちたいところです。ぜひお願いしたいですね。
また、今後の展開はいろいろとあるのでしょうけれど、筆者個人の望みとしては、ライカQシリーズのように高性能の単焦点レンズを固定した35mmフルサイズ機をLUMIXシリーズ仲間に加えることも考えてもよいのではないでしょうか。
筆者はライカQシリーズに触れ、ファインダーを見ただけでもパナソニックのことを思い出してしまいます。もちろん細かい理由は書きません。ここでは謎ということにしておきます(笑)。
ライカとパナソニックの熱い協業関係ならば、こうしたモデルもすぐに登場してもおかしくないような気がするのですが、いかがでしょうか。