赤城耕一の「アカギカメラ」

【連載100回記念】アカギカメラができるまでを知りたい! 赤城耕一氏の撮影に密着してみた

アカギカメラ101回目のテーマである「LUMIX S9」での取材に同行した。

撮影の最寄り駅で合流し、なるべく邪魔しないように背中を追いかけてみた。

豊田慶記(以下、豊):今日はよろしくお願いします。邪魔をしないように付いていきます。時々話掛けたりしますが、基本的に私は居ないものとして、いつも通りお願いします。

赤城耕一(以下、赤城):指示があればポーズをとって微笑んだり、何でもできますので(笑)


まず、想像よりも歩みが速いことに驚く。

気になるモノがあるとまるでスキップでもするかのように歩みが軽くなる。

てっきりパシパシ撮るものだと思っていたが、バックナンバーから想像するよりも撮る枚数は少ない様子。

豊:どんなことを気にかけて撮っていますか?

赤城:メーカーやクライアントの縛りがある場合には、期待に応えるように撮りますけれど、アカギカメラでは楽しむことを重視した、いわゆる脱力系です。豊田さんをはじめとして、真面目な方々が性能面にしっかり触れたレビューをやってくれているので、私は自由気ままにやることができるのかも知れません。

豊:「テストだ」という気持ちだと嫌なところばかりが見えてくるので、肩肘張らないことはとても重要だと、同業者として思っています。それにしても、お散歩スナップを楽しんでいるように見えました。

赤城:楽しんでナンボ、みたいな気持ちがありますから。楽しめるかどうかは重要です。


基本的な歩みのペースは変わらず。時折好物の対象に出会うと顔を綻ばせる。

赤城:どうしても撮ってしまうものがあります。歳のせいか我慢できない(笑)

豊:わかります。私も波板などには吸い寄せられてしまいます。ところで、今回のS9の具合はどうですか?

赤城:日中の屋外ではEVFが欲しい。あと物理的に掴みどころが少ないのが気になりました。純正のエクステンショングリップなどは無いのかな? 夏場などは、おっとっと、となってしまいそうで。


「脱力系」とのことだが、感想はとめどなく溢れてくる。どちらかといえば「前のめり系」という感じもある。

豊:あまり聞いてしまうと本編での楽しみが減ってしまいそうです。紙媒体とWebでの書き分けなど、取材時や執筆時に注意することは?

赤城:紙媒体ではスペースの都合で600字とか400字などの制約があって、さわりだけで誌面が尽きてしまうこともしばしばでした。Webは長文を掲載できますので、言いたい事を思い切り書けています。

豊:時にはデジタルカメラマガジンとデジカメWatchで同じ製品に触れる場合もあるかと思いますが、注意していることはありますか?

赤城:デジカメ Watchでは文字数の制約がありませんので、褒めるにしてもボヤくにしてもありのままに綴ることができます。紙だと予告編止まりで、話を盛り上げる前に終わらせなければならないこともあります。すると「紙とWebで言ってることが違うぞ」と受け止められてしまう場合があり、注意はしています。ですが、やはり仕方のないこともあります。


取材風景を観察してみて、改めて感心したのは撮影の速さ。スッと立ち止まりパッと撮る。どちらかといえば「撮ってやろう」というようなギラついた感じや仕事感のある振る舞いではなく、例えばズラリと並ぶ ”おばんざい” から好みのものを選ぶような雰囲気があった。

そういえばロケ地の候補はどのように選ぶのだろうか。

豊:お題(取材対象)が決定した際に、どこに撮りに行くであったり何を撮ろうなど、どのようにやっていますか?

赤城:担当者から怒られてしまいそうですが、あまり考えていません。これだけの為に出かける、ということも少ないので、前後の予定によって都合やアクセスの良い場所を選んでいます。

豊:アカギカメラを含む、インプレ仕事で何処か遠方へロケに行くことは?

赤城:遠方でのアサインメントがあれば、そちらで取材を進めることもありますが、基本的には近所です。

豊:自宅から半径2km以内に、あらゆる被写体はあると巨匠の言葉にもありますね。

赤城:その通りです。風光明媚な場所に行って撮るというのも良いですが、ご近所スナップもまた発見があり、町並みの変化に思いを馳せたり、まだ健在であることにホッとしたりすることもできますから。


80分程度で5kmほど歩く。撮影しながらではあるが、想定よりも歩みのペースは早く、1カ所で長く撮影することは無かった。

取材の終わりに気になっていたことを聞いてみた。

豊:写真をはじめたキッカケは?

赤城:従兄弟が聴覚障害を持っていたのですが、その彼は写真を嗜んでいまして、ニコンのFなどを持っていました。もう50年も前の話ですが、その彼の影響で写真をはじめました。

そこから興味を持ってカメラ雑誌を読むようになり、写真やカメラの研究をするようになりました。当時の写真誌にはモノクロフイルムの現像レシピが色々と載っていたので、コストの都合というよりは、こんなシーンや表現ではこんな現像が向いている、というような記事を読んでは試していました。温度や撹拌、配合を変えたりすると目に見える変化があり、楽しかったことを良く覚えています。

豊:カメラ自体への興味はどうでしたか?

赤城:メカのことも嫌いではなかったので、カメラ誌を読んで「こうなっているのか」とワクワクする学生時代を過ごしましたし、当時はカメラ毎日のアルバムに掲載されることを目標にやっていました。写真のことを考えた時に、カメラ誌はその多くのスペースを占めていましたので、今でも写真誌に思い入れがあります。

豊:レビュー記事の仕事をするようになって、印象的な出来事はありましたか?

赤城:いろいろありますが、例えばストロボのTTL自動調光が出てきた時に世の中がひっくり返るくらいカメラ業界は騒いだことがあります。ただ、実際に撮ってみると期待したほどは調光が当たらないという現実がありました。コレを指摘して怒られたのは良く覚えています(笑)

豊:技術の理想と実態がかけ離れている場合がありますが、期待を込めて見守らなければならないこともありますね。私も自動調光に関する開発に携わっていたことがあるので、実際にTTLで安定して調光させることが非常に難しいことはとてもよく分かります。それに熟練者ほどカメラに余計なことをして欲しくないと考えていますし。

赤城:その通りです。メカニズムが進化しても、実際の現場では何が起こるか分からないから、すぐに自分で対処できる方法を選んだ方が安心という考えがあります。それにマニュアルであれば被写体が黒い服を着ていようが白い服を着ていようが、安定して撮れる。TTLだと反射率を考慮して調光補正が必要になる。

豊:絞りを設定して外光オートで光らせたり、距離とGNで絞りを算出してマニュアルで光らせたりしたほうが安心ですね。

赤城:まさに。AEの多分割測光にしても、どこ測っているのか?が撮る側にとっては重要だから。測光値を均して欲しいとは思っていなくて、被写体の明るさを測って欲しいだけだったりします。そうした現場での不満に、改良を積み重ねて応えることで信頼できる機能になるわけで。

豊:優れたメカニズムや機能を持つカメラで撮影したものが、結果にちゃんと現れれば話は早いと思いますが、そうとばかりも言えないのが作例やレビューの難しいところ、というのは作例写真家協会としてもアピールしておきたいところですね。

赤城:そうですね(笑)

豊:アカギカメラで、今後テーマにしたいことはありますか?

赤城:これまでのデジタルカメラは世代交代のスパンが短く、大袈裟に言えば少し長めのレビューをやっている間に新しいカメラが登場するような状態でした。そんな有り様だったので、カメラが持つ物語に触れる時間が無かったけれど、最近では1つの製品をそれなりに長く売るようになったので、インプレのお仕事でも脱力する余裕が出来ましたから、例えばカメラの裏側にある物語に注目したいですね。他にもディスコンになったけど、人気のある製品があったとして、なぜ人気が出たのか?を探るのも面白いと考えていますし、ひとつの機種を長期レポートするような企画ももっとやった方が良いと思います。

豊:時間を経ることで評価や認識が変わることはありますか?

赤城:後日再び触れ合ったりして、撮り進めるうちに「そういう事をやりたかったのか、君は」みたいな発見をすることはあります。

豊:最近なにか、改めて発見のあったカメラはありますか?

赤城:先日「LUMIX S1」を借りましたが、大きさ重さ以外は本当に素晴らしかった。登場時は大きさに目が回り、もうちょっと何とかならんもんか?と思いましたが、改めて使ってみると私の仕事に必要十分な撮影性能がありますし、持ち歩く頻度の少ない使い方ならコレが良いんじゃないか、とすら思い始めています。

豊:市場価格が熟れ、ライバルの出現やラインアップの拡充などにより性能競争から外れたことで、道具の思想的な部分に注目しやすくなったのでしょうか?

赤城:市場価格が熟れることで良いものがお得に手に入る興奮はあるかも知れません。自分のS5IIを使った後にS1を使ってみると、S1はファインダーは気持ちいいし、撮っていて切れ味が良い。やりたいことの思想が明確だと、仮に出来ないことがあっても許せたり共感できる、というのもあると思います。あと感覚的なものですが、S5系よりもS1やS1Rの方が絵がキレイというか、湿度があるようにも感じられます。

豊:何が? と言われると困りますが、確かにS1Rなどの方がシットリしているように見えることがありますよね。湿度と言えば、フィルム時代から硬い柔らかい以外にも「湿度」という尺度がありますね。ニコンは乾いているけどキヤノンは湿ってる、など。

赤城:ニコンよりオリンパスの方がもっと乾いている、ハッセルだとシットリしているのに、ブロニカはなんでこんなにパサッと写ってるの?なんてこともありました(笑)

豊:そういった何かが違う部分がある、というのは面白いですよね。極論を言えば「カメラなんて写れば良い」みたいなところがありますが、それでも気に入る・気に入らないということがあると思います。写りの印象が良いと途端にカメラが可愛く見えたりしますよね。

赤城:そうですね(笑)。しばらく使ってみて「これは良いぞ」と関心したからこそ買ったのに、本気で使ってみると気に触るところがあるとか。酷いのになると「このカメラだと1枚もいい写真撮れたことない」みたいに、カメラのせいにしちゃったり。アカギカメラではこれからもそういう感情的な部分や、人間と道具の関係みたいな部分にどれだけ焦点をあてることができるか? に注目していきたいですね。

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。日本作例写真家協会(JSPA)会員。