特別企画
「SIGMA 18-35mm DC HSM」リレーレビュー
その4(街スナップ)
切れ味の良い大口径ズームレンズをモノクロで!
Reported by 佐々木啓太(2013/11/25 14:22)
「SIGMA 18-35mm DC HSM」は、ズーム全域で開放F1.8となるAPS-Cセンサー専用の大口径ズームレンズ。今回使用したキヤノン用では、35mm換算で28.8-56mm相当の画角になり、広角から標準までの画角をカバーしています。同じような画角をカバーするレンズだと全域F2.8なら良くありますが、それより1段以上明るいところが魅力。
今回はEOS 70Dとの組み合わせで、街スナップ(街角写真)にでかけました。
明るいF値を活かしたボケ
開放F値が明るいとなると、気になるのはボケ味でしょう。同様のレポートでも必ず開放F値(F1.8)での作例がメインになるはずです。ただし今回は主にF2.5で撮影しました。手持ちスナップのためF1.8の被写界深度ではあまりにも浅く、ピントを合わせて、動かないように気をつけている間にシャッターチャンスを逃すことがあります。そこで、筆者が街角写真でボケ味を見せるときに愛用しているF2.5をメインにしています。
F2.5は、明るい日中屋外でも1/8,000秒の高速シャッターとISO100があれば、ほとんどの条件でそのまま使えます。が、露出がオーバーになるのを防ぐために、NDフィルターがあると便利です。
今回はレンズの切味やボケ味がわかりやすいよう、モノクロで撮影しました。切味やボケ味のほかに諧調再現性も確認してください。諧調はRAWから仕上げるほうが良くなることもありますが、このレンズの懐の深さを感じていただきたいという思いもあって、撮影後の調整をしていないJPEGにしました。
はじめに向かったのは「羽田」。ここはかつては漁業で栄えた町です。今でもその面影を残す場所があり、昔ながらの下町の風情が楽しめる撮影地です。こんな懐かしい雰囲気が漂う町には、絞りを開け気味したモノクロが良く似合います。
「開放F値が明るいとボケる」。良くいわれる話ですが、「より柔らかいボケを得られる」が、近い表現でしょう。ボケは被写界深度と関係があるので被写体間の距離の差が重要になります。望遠端を使っての近接撮影は、被写界深度も狭く大きなボケを得やすい撮影条件です。逆に、広角端でも主要被写体に近づけば、ボケを得やすくなります。F2.5は大きく柔らかいボケを得ながらも、ピント位置の被写界深度が少しかせげる魔法の絞り値です。
タテ位置は被写体間の距離の差もでやすく、ボケを使った画面構成がしやすいはずです。広角端での撮影に比べるとテレ端のほうが背景が大きくボケています。広角端でこれ以上絞りを開けてもこのボケ味はあまり変化しないので、ピント位置の被写界深度をかせぐためにもF2.5のほうがベターです。
暗い場所にも有利
海外では明るいレンズのことを「ハイスピードレンズ」ということがあります。これは同一の撮影条件で、より高速なシャッタースピードが使えることに由来します。ご存知の通りメリットはいくつもありますが、ここでは少し暗い室内での手持ち撮影を試してみました。動きのある被写体が少なく、のんびり撮影できたので、開放F値のF1.8を使っています。
開放F値を使って驚いたのはその切味とボケ味です。ピント位置の切味があるとボケ味の柔らかさが損なわれることがあります。このレンズでは、そのボケ味は柔らかく自然な印象です。切味とボケ味の柔らかさがうまく両立されています。
室内での画像をみていると、このレンズは絞り開放でも十分に楽しめそうです。実は、この撮影はライブビューでマニュアルフォーカスにしています。AFでもよいのでしょうが、よりシビアにピント位置を確認するためにライブビュー拡大とマニュアルフォーカスを選びました。
安定して構えるためにローアングルでの撮影が多くなっていますが、EOS 70Dのバリアングル式背面モニターは自由度が高く、スムーズに撮影できました。このレンズは、ピントが合っている場所と外れている場所の差もわかりやすく、ライブビューでのマニュアルフォーカスでも使いやすい印象でした。
絞っても美しい描写
次は、少し絞りを絞ったときの写りも確認していきます。フィルム時代から「開放絞りから1〜2段程度絞ると、そのレンズの最も高い描写力が得られる」と、いわれることがあります。絞ることで収差が抑えられるためです。レンズによっては、その収差を利用して、絞り開放と絞りを絞ったときでその描写に違いを持たせているレンズもあります。このレンズにはそのような特徴はあまり感じられず、絞り開放から絞り込んだ状態まで非常にシャープでキレのある描写です。
絞りを絞ったときは、広角らしい広がりを感じるアングルで狙ったほうがそのシャープな印象と合いやすいはずです。これは、風景などでよく使われるパンフォーカス撮影の発想です。今回使用したEOS 70Dをはじめ、APS-Cセンサーを搭載したキヤノンのレンズ交換式デジタルカメラの場合、広角端は35mm換算28.8mm相当です。もう少し広がりを出したいと感じたときは、ライブビューを利用したローアングルがオススメです。ライブビューでのAF撮影でもピントの動きは速く、地面すれすれにカメラを構えるような少し無理な体勢でもそれほど苦労せずに撮影できました。
スナップ撮影の醍醐味は出会いにあります。ちょっとした瞬間に気になったものにレンズを向けると撮影のリズムもつかみやすいはずです。うまく撮ろうとか、ちゃんと撮ろうと、考えすぎるとなかなか撮影が進まなくなります。
そういう意味では、今回のレンズとカメラの組み合わせでは、ファインダーを覗いて撮影しているときのAFの速さと静かさな動作音が印象的でした。ファインダーを覗いているときはほぼ無音で動きます。はじめは、AFがちゃんと動いているのか心配になって、わざとピントを外してAFの動きを確認したほどです(笑)。もちろん、デュアルピクセルCMOS AFを採用するEOS 70Dということもあり、ライブビュー撮影でも一眼レフカメラにしては高速でした。キヤノン純正のレンズではないものの、その十分実力を発揮しているといえます。
まとめ
このレンズを手にすると、はじめは重いと感じるかもしれません。F1.8の大口径ズームレンズの割にはそれほど太くないためでしょう。ずしりとした重量感があります。ただし、ピントリングとズームリングの間にある細いローレットが、ちょうど滑り止めのような働きをしてくれます。この効果もあって構えているときには、レンズが少し軽くなったように感じます。
鏡胴の太さはレンズ全域でほぼ同じです。ピントリングとズームリングはどちらも程良い幅で、指がかかりがしやすく、微調整をはじめとして、操作性にはとても良い印象を受けました。
描写はズーム全域で変化も少なく、絞り開放から切味があり、ボケ味も優しく、メーカーサイトの単焦点に匹敵する描写というのも十分うなずける印象でした。複数の単焦点レンズを持ち歩いたり交換するのが難しい場合など、実力を発揮する場面が多いレンズといえます。
制作協力:株式会社シグマ