気になるデジカメ長期リアルタイムレポート
キヤノンEOS 70D【第4回】
ポートレートの設定を考える
Reported by 礒村浩一(2014/3/3 08:10)
EOS 70Dが発売されてはや半年が経とうとしている。筆者も発売と同時に購入し様々な現場で使用しているが、そのなかでも多く撮影している被写体が人物ポートレートだ。そこで今回はEOS 70Dにおけるポートレート撮影についてレポートしたい。
まずはレンズの選択だが、ご存知のようにこのカメラはAPS-Cサイズの撮像素子を搭載したデジタル一眼レフカメラなので、たとえば35mmのレンズであれば1.6倍の56mm相当(35mm判換算)に、50mmレンズであれば80mm相当(同)の画角となる。
一般的にポートレート撮影に扱いやすいレンズは80~135mmといった中望遠レンズとされている。これは35mmフルサイズの画角で撮影した際に、人物のバストアップを適度な撮影距離から収めることができるからだ。
したがって、EOS 70Dでフルサイズの撮像素子を搭載したデジタル一眼レフと同等の画角を得るためには、レンズの焦点距離は1/1.6倍の焦点距離のレンズを選択する必要がある。これはポートレート撮影に限った話ではないが、フルサイズ機と併用する際には、その画角の違いを念頭に入れてレンズをセレクトしなければいけない。
ただし、これはあくまでも同じ画角を得るためのレンズ焦点距離の選び方についてである。人物ポートレートの背景のボケ具合を揃えるとなるとレンズの選び方は変わってくる。
先ほど述べたようにフルサイズ機と同じ画角を得るためにはAPS-C機では1/1.6倍の焦点距離のレンズを使用するする必要があるのだが、この場合は実焦点距離は短くなるため、ボケの大きさも小さくなってしまう。つまりフルサイズ機で撮影した画像と同程度ボケの大きさを得るためには、画角を揃えるのではなく、より長い焦点距離のレンズを使用する必要があるのだ(同じ絞り値で撮影する場合)。この点についてもポートレート撮影では十分に考慮する必要がある。
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キヤノンのデジタル一眼レフカメラには、画像の仕上がり設定となる「ピクチャースタイル」が用意されている。このピクチャースタイルには「スタンダード」、「ポートレート」、「風景」、「ニュートラル」、「忠実設定」、「モノクロ」と、カメラが被写体を判断して設定する「オート」がある。
このうちポートレート撮影の際に使用することが多いと思われる「スタンダード」と「ポートレート」の違いを比較してみた。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します(一部を除く)。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
「スタンダード」は、被写体全般に適する色の鮮やかさとコントラストの仕上げとなるピクチャースタイルとキヤノンは提案している。
それと比較すると、「ポートレート」はすこし明るい印象の仕上がりだ。人肌を明るくすると同時にシャドー部も明るく持ち上げられていることがわかる。また全体に若干赤味を強調しているようだ。女性のポートレートでは肌を白く見せてあげると好印象になりやすいが、このままの設定では少し強調しすぎるようにも感じる。
そこで「ポートレート」の設定を変えて撮影してみた。実はEOS 70Dでは各ピクチャースタイルの4つの設定を「シャープネス」は8段階、「コントラスト」、「色の濃さ」、「色あい」はそれぞれ-4~+4の9段階の好みの設定に変更できる。
この結果を踏まえて「ポートレート」の初期値からコントラスト、色の濃さ、色あい、それぞれを1段階下げてRAW現像してみたのが下の写真だ。
EOS 70Dのカメラ内で生成されるJPEG画像と若干の違いがある可能性もあるが、これなら「ポートレート」の特徴である透き通った肌の明るさを活かしたうえで、全体に乗り気味だった赤味と強めのコントラストを抑えた自然な仕上がりになった。
このようにピクチャースタイルの仕上がり設定は、撮影者の好みにあわせて微調整することが可能。ぜひともいろいろと試してみてほしい。
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EOS 70Dでは、AFの各種設定を細かくカスタマイズすることができる。もちろん初期設定のままでもポートレート撮影は可能だが、筆者なりにいくつか設定を変えて試してみた結果、以下のような設定に落ち着いた。
EOS 70DにはAF測距点が19点用意されている。そしてその19点をそれぞれを独立して好きなAF測距点を選ぶ「1点AF」、5つの測距ゾーンに分けてAFを行なう「ゾーンAF」、19点すべての測距点を使って自動的にAFを行なう「19点自動選択AF」の3つのAFエリア選択モードが選べる。
ポートレート撮影では、主に1点AFで任意のAF測距点を選択することになる。人物撮影では人物の目にピントを合わせるのが基本だからだ。その際は写真の構図にもよるが、画面センターのAF測距点よりも、縦位置バストアップ構図であればセンターから上の位置のAF測距点を選ぶことになる。
また横位置であれば人物の配置次第で目の位置も変わるので、19点より最適なAF測距点を選ぶ必要がある。これらのAF測距点の選択方法だが「AFフレーム選択ボタン」を押したうえでメイン/サブダイヤルを回すかマルチコントローラーでAF測距点の選択を行なう必要がある。(AFフレーム選択ボタンを押さずにマルチコントローラーでAF測距点の選択を行なうことも可能)
このAF測距点の選択だが、ある程度慣れれば即座にAF測距点を選択し直すことも可能だ。しかし縦位置と横位置を頻繁に持ち替えながら撮影する時などは、その都度操作するのも結構面倒だ。
そこで利用したいのがカスタムファンクションの中にある「縦位置/横位置のAFフレーム設定」だ。ここで[1:別々に設定]を選ぶと、縦位置/横位置それぞれで選択したAFエリア選択モードおよびAF測距点を記憶してくれる。これは実際に使用すると非常に便利な機能だ。
ところで、AFをスタートさせるきっかけは初期設定ではシャッターボタンの半押しになっている。ほとんどの人はこの設定のままで問題ないことと思う。ただ、この設定ではシャッターボタンを押す度に毎回AFが反応してしまうので、ポートレート撮影では時折、シャッターが切れるタイミングと合わず煩わしく感じてしまうことがある。
このような場合には、AFスタートとシャッターボタンを切り分けることも可能だ。それによりシャッターボタンを押してもAFは動作せず、「AF-ONボタン」を親指などで押したときにだけAFを動作させることができるようになる。いわゆる“親指AF”と呼ばれる設定だ。
なお、私の場合、ポートレート撮影では人物が止まっているとき、動いているときに関わらず「ワンショットAF」で頻繁にAFを行なって撮影することが多い。被写体の人物が動いていないように思える場合でも、微小な距離の変化は必ず起こるのでこまめにフォーカスを合わせる必要がある。
また人物が歩く程度の移動速度ならば、「AIサーボAF」よりも断続的なAFを「ワンショットAF」で頻繁に行なった方がピントの歩留まりが高いと感じているからだ。
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さて、EOS 70Dではライブビュー時のAF速度が大きく改善されている。これまではAFの反応速度が遅かったためライブビューでの撮影はポートレート撮影には適さなかった。しかし、このEOS 70Dでは人物撮影を行なうことも十分に可能と言える程となった。
また、「顔+追尾優先AF」ならば人物の顔を認識して追尾AFを行なうこともできる。これまでは難しかったハイ&ローアングルでの撮影もバリアングル液晶モニターとライブビュー撮影によって楽に行なう事ができるのだ。これによるポートレート撮影の表現の幅の拡がりはとても嬉しいことだ。
顔+追尾優先AFでは、シャッターボタン半押しでピントが合うと顔の枠は緑色に変わる。ただし不安定な構えとなるので人物との距離が微妙にずれる可能性も高い。一回のシャッターボタンで複数毎撮影できる連写モードで撮影してピントのズレ幅に対処するなど工夫は必要だ。
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ポートレート撮影では縦位置での撮影が自ずと多くなる。EOS 70Dにも縦位置バッテリーグリップ「BG-E14」が用意されている。このグリップは本来カメラボディ内には1個しか収容できないバッテリーを、グリップ内に収納することで2個使用できるようになっている。
これによりカメラの稼働時間または撮影コマ数が2倍になる。またグリップにはカメラを縦位置に構えた際にも、横位置での操作とほぼ同等の操作が行なえる「シャッターボタン」、「メイン電子ダイヤル」、「AF-ONボタン」、「AE/FEロックボタン」、「AFフレーム選択ボタン」、「測光エリア選択モード切り替えボタン」が、カメラ本体とほぼ同じレイアウトで配置されている。
これらを使用することで縦位置撮影においても安定したホールディングが可能となり、構図の安定や手ブレの抑制などに効果的だ。ただしグリップと増設した電池1個分重くなってしまうので、撮影内容や持ち運びの状況に合わせて装着するか否かを選択する必要がある。筆者の場合は通常はバッテリーグリップを装着しておき、機材の大きさや重さを抑える時にはバッテリーグリップを外すというスタンスだ。
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今回はEOS 70Dに6本のレンズを組み合せてポートレート撮影を行なった。各レンズとのマッチングも合わせてご覧いただきたい。
・トキナーAT-X 12-28 PRO DX
APS-C用広角ズームレンズ。EOS 70Dとの組み合せでは、35mm判換算で19.2-44.8mm相当となる。歪みが非常に少ないのが特徴。12mmでの広々とした画角とパースを活かし風景と人物を絡めた撮影に向く。描写はすこし硬め。色収差も見受けられるがRAW現像時に除去できる程度と思われる。
・シグマ18-35mm F1.8 DC HSM
APS-C用標準ズームレンズ。ズーム全域で開放F値が1.8と非常に明るいレンズ。その明るさを活かし光の少ない場所でのナイトポートレート撮影にも最適。また解像力が抜群に高く、単焦点レンズを凌ぐ程。EOS 70Dとの組み合せでは、35mm判換算28.8-56mm相当となり遠近感を強調した広角ポートレートから浅い被写界深度を活かした標準レンズ域でのボケのあるポートレート撮影ができる。
・キヤノンEF 24-105mm F4 L IS USM
フルサイズ対応標準ズームレンズ。EOS 70Dとの組み合せでは35mm判換算38.4-168mm相当。APS-Cサイズのカメラでは少し長めのレンズ画角となるが、フルサイズカメラとの共用には便利。Lレンズだが描写は柔らかめ。最新のレンズと比較すると解像力は若干劣る。
・キヤノンEF 50mm F1.4 USM
フルサイズ対応単焦点レンズ。EOS 70Dとの組み合せでは、80mm相当の画角となり、F1.4という明るさの中望遠レンズとしてポートレート撮影には非常に扱いやすく、かつボケを活かしたバストアップ撮影が可能。発売が2002年と設計が古いために諸収差が目立つ。しかしそれが柔らかい描写の要因として働くことで、作品に独特な雰囲気を醸し出してくれるレンズだ。
・シグマAPO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM
35mm判換算80-240mm相当のAPS-Cサイズ用望遠ズームレンズ。開放F2.8で手ブレ補正機構搭載。ズーム全域で驚く程に高い解像力を持つ。クリアな描写と柔らかなボケのマッチングが最高に良い。EOS 70Dが持つ2,020万画素の解像度を活かした画質を存分に発揮するレンズ。
・キヤノンEF 70-200mm F4 L IS USM
フルサイズ対応の望遠ズームレンズ。EOS 70Dとの組み合せでは35mm判換算112-320mm相当。開放F値をF4に抑えることで、スリムな鏡筒となり携帯性は抜群。背景を大きくボカし人物を浮き上がらせる撮影にも向く。高い解像力と穏やかな描写が共存する、ポートレート以外でも扱いやすい万能望遠ズームといえる。
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EOS 70Dは、約2,020万画素の撮像素子を搭載した非常に高画質なカメラである。またAFの速い反応や最大7コマ/秒の連写能力など、ポートレート撮影においても高いパフォーマンスを発揮してくれる。
35mmフルサイズのカメラと比較すると撮像素子が小さめなため、ボケの大きさなどに差が出るが、的確なレンズと絞り値を選択することで、十分に印象的な撮影が可能だ。ぜひとも自身の撮影スタイルに合ったレンズを選び、積極的にポートレート撮影に取り組んでもらいたい。
(モデル:夏弥)